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魔物使いの少女  作者: つい
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北城観光案内2

 自分の当たり前が、他人にとっても当たり前とは限らない。


 北城城下町をのっしのっしと歩く魔物、魔物、魔物。彼らはNPCなんかではなく、頭上にはフィールドに現れる魔物と同じカーソルがピコピコ動いている。


 魔物とタケシさんたち。お互いに緊張感が走っているのがよくわかる。


 魔物たちは見慣れぬ人間を警戒した様子で伺っていいる。もし私やネルちゃんが近くにいなければ襲い掛かってきたことだろう。


 タケシさんたちは魔物たち以上に警戒している。私がみんなを騙して魔物たちに襲わせようと計画している可能性もあるからだろう。


 いや、そんなことは一切考えてないんだけどね。ただ、タケシさんたちの立場からすれば、得たいの知れないプレイヤーに魔物だらけの場所へ連れ込まれているというのが現状だ。まあ、そこまで思っていないにしても、そもそも敵に囲まれているというのが本能的に落ち着かないのだろう。というか疑われていたらショックだ。結構仲良くなったつもりだったのにな……。


 アルクはあまり緊張した様子を見せず、じろじろと視線を向ける魔物たちをじっと見つめ返している。楽しそうで何より。


 流石に空気が重い。北城は基本的に魔物たちは入ってこないのでそれまでの辛抱だ。たどり着くまでこの緊張感を維持するのも疲れるので、気分転換に私はタケシさんたちに話しかけることにする。盛り上げ役に徹するなんて私ってばコミュ強過ぎか? 流石に自分の成長に感動してしまう。


 よーし、まずはなぜ今回の『秘境の北城観光ツアー』の開催を決定したのか、その旨を伝える。


「……ハナ、なんで念話なんだ?」


 私の誠実さ溢れるツアー目的を黙って聞いているかと思ったらこれだ。まあまあ、タケシさん。気にしちゃいけない。禿げちゃうゾ☆


 私はタケシさんたちにまとめて念話を飛ばしながら、いよいよ解説スタート。まずは私の使役魔物について。


 私の使役する魔物はウサギ、ドラゴン、ゴブリン、幽霊、巨人の五匹。……いや五人? 一応大運動会の時に全員出場しているので、ここはみんな知っている情報だった。


 話を始めたはいいけど、あんまり言うことないんだよね。ゴブリンさんが紅茶臭いとか、そんなの知ったところで有益な情報じゃないだろうし……ああ、そうだゴーレム。


 私はアイテムストレージから軍曹やアビちゃん、アブ君を取りだしてみんなに見せる。みんな若干引きつつも興味津々といった感じで見ていた。だが、メサリアさんだけはなぜかブツブツ言いながら尋常じゃない怖がり方をしていた。何かトラウマでもあるんだろうか? え? 非人道殺戮マシーンってナンダローワタシシラナーイ。


 それからダンからスケルトンについて聞かれて、そういえばそんな能力もあったなと思いだす。確か魔王城の宝物庫で貰った装備だっけ? スケルトン召喚と条件付きの復活能力。スケルトン召喚については話すけど、復活能力については黙っていることにした。一つや二つ隠したっていいだろう、私だってタケシさんたちについて隅から隅まで知っているわけじゃないし。


 とは言っても、ダンは知ってるんだよね。ダンと私がタイマン勝負をした時、目の前で復活能力を披露している。一応、アルクに撃たれた時も披露したかな? そのことについて聞かれたらなんと答えようか思考を巡らせていたけれど、そのことについてアルクもダンも触れてこなかった。


 そんなこんなで歩いていると北城到着。意外と早かった。私についてもそうだけど、この特殊環境すぎる北城城下町とか説明してないことはたくさんある。……まあいいだろう。ゴブリンさんの兵器開発とか見てもらった方が早いし。


 正面入り口から入ると姫ちゃんがお出迎え。頭をひょこんと下げてニコニコ。どうやらアルクを見ているらしい。……この二人何か交流あったっけ?


 とりあえず最初のお出迎えが姫ちゃんでよかった。姫ちゃんはどこに出しても恥ずかしくない子だからね。私が最も恐れているのは、常識の皮を被った緑の狂人が気分上々意気揚々と謎の兵器を引っ提げてパンジャンしてくることだ。


「おうハナ、戻ったか」


 うわ出た。頼む、パンジャンはやだパンジャンはやだパンジャンはやだ……。


 恐る恐る声のする方を向くとゴブリンさんが気さくに片手を上げていた。ぱっと見は何も持ってない。助かった。


「にしてもこれが城主ギルドの連中か。確かに強そうだな」

『ちょっとゴブリンさん? あんまジロジロ見ないで?』

「おい、なんで念話なんだよ、ハナ」


 まあまあ、ゴブリンさん。気にしちゃいけない。禿げ……てたねごめん……。


「これ、もしかしてゴブリンなの?」


 メサリアさんが少し驚いている。まあ、私も何となくゴブリンさんゴブリンさんって呼んでるけど、身長二メートルくらいのマッチョメンを想像していただきたい。進化に進化を重ねてゴブリンさんは今の姿になった。一般的な、腰布姿で粗悪な武器を振り回す、緑のちんちくりんイメージとは程遠い。


 そこからはゴブリンさんの兵器鑑賞会だ。タケシさんとメサリアさんは、興味がないけど無理やり親に博物館に連れてこられた子供みたいになっていた。アルクとダンは少しニヤニヤしていた。特にダンは楽しそうだ。さては貴様、分かり手だな?


 それから図書室に行ったり食堂っぽいところに行ったり、この辺は他のお城と構造が同じらしい。どんな本が貯蔵されているかは聞かなかった。人生は長いんだ、いらない傷を背負う必要はない。


 バルコニー的なところで一回お紅茶を飲みながら、軽くこの北城城下町誕生秘話を話す。


 なんてことはない、ただ魔王軍として功績を上げたらファンがついた。それだけの話だ。


「まて、ということはハナは魔王と交流があるのか?」


 私の話を一通り聞いた後、タケシさんがそう尋ねてきた。


 あえ? あー、あ……あー? あっ、あああああああああああああああ!


 もしやもしやもやし! これはまーずいヤツではござらんか? あんまり言わんほうがよかったヤツでは?


 師匠がいたらきっと『その話はして大丈夫か?』とか言って止めてくれただろう。なんでこんな時に限っていないんだ! これまでのイベントを振り返ると、私のせいで仲間がいなくなっちゃうことは多いけど、けど! 今回の師匠不在に関しては私悪くないからね! なんか師匠が一人で勝手にダメージ受けてるだけだからね!


 師匠がダメならそばに誰かいてくれればよかったな。ネルちゃんは万が一に備えて、城に悪いことを考えて入ってくる魔物がいないか警戒中。ゴブリンさんはいつも通り兵器を研究中。というのも、私が普段通りにしてればいいからと言ったせいだ。姫ちゃんはどうぞごゆっくりの、自分の子供の友達が家に遊びに来た時のお母さんスタイル。ジオさんは基本、北城ではなく巨人たちの集落で生活をしている。


 クソ! やっぱり私一人でニンゲンと関わろうなんて無謀だったのだろうか? 最初はアルクとダンの二人とか、徐々に増やすべきだったのだろうか。


 よっぽど私の様子がおかしかったのか、タケシさんが慌てた様子で言葉を続ける。


「あ、いや、違うんだ! 別に責めようとか、そういう話じゃなくてな……その……なんというか」


 口ごもる。とても言い辛そうだ。


「前のアプデ……銃撃イベントの前に行われたアプデで東西南北に難関ダンジョンが追加されただろ? で、知ってると思うけど北は魔王城だ。それで最近、ついにクエストを終えた奴らが現れた」


 クエスト? 北の難関ダンジョンが魔王城というのは知ってるけど、いまいちタケシさんの言っている意味が分からない。


「ハナは知らないだろうから説明する。難関ダンジョンに行くためには条件がある」


 何やら失礼なことを言いながらアルクが私に説明をしてくれる。失礼だな。まあ知らなかったけどさ。


 アルクの話によると、いくつかある事前クエストってやつをクリアすることで難関ダンジョンへ行くための道が開くらしい。道というのは東の難関ダンジョンで言えば、ギンとゲンを助けに行ったとき通った、あの鬱蒼とした森のことだろうか。たしか間違えた道を選ぶと入り口に戻されるという仕掛けがあった気がする。


 まあつまり、行こうと思えば誰でも行けるわけじゃないし、事前クエストをクリアしても即難関ダンジョンに行けるわけじゃないってことだね。


「で、だ。事前クエストでは難関ダンジョンに関する、噂話が聞けるんだ。まあ、クリア報酬のおまけみたいなもんで、大体はそんな重要じゃないことなんだけどな」


 アルクの説明が終わると同時にタケシが言葉を引き継ぐ。


「どうやら魔王城を攻略するとさらなる深淵への道が開かれる……らしい。これがプレイヤーたちの間では、魔王城が攻略されれば新たなマップが追加されるんじゃないかって解釈されているんだ」


 なるほど? 確かに魔王城と言えば一つのゴール地点というイメージがある。勇者の目的は魔王城に行って魔王を倒すことだ。このゲームで勇者というのは恐らくプレイヤーを指す。


 勇者が魔王を退治した時、物語は終わる。


 流石にサービス終了はないだろうけど一つの区切りとして、何かしらこの世界に変化が起こる可能性は高い。


「それで、着々と魔王討伐の準備が進められている」


 タケシさんの言いたいことは大体わかった。


「別に情報を貰おうとか、そんなことは思ってない。ただ、俺たち……もちろんハナも含めて、城主ギルドには絶対に討伐協力の声がかかるだろう」


 プレイヤーとしては新マップなんて絶対やりたいに決まってる。超楽しみだ。でも、私個人としては魔王様に歯向かって攻め入ってやろうなんて考えは微塵も浮かばない。


 でも、いつか考えなきゃいけないことだとは分かっていた。それこそ、初めて魔王様とあったその日から。


 今日まで考える時間はたくさんあった。私の答えは決まっている。



 

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