表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物使いの少女  作者: つい
109/129

北城観光案内

 ゲームにログインすると、まずは先日の銃撃戦イベントの報酬を受け取った。ゲーム内通貨と、見たことがないイベントコインって名前のアイテムだ。説明を見ると特別ショップで買い物ができるとかなんとか。よぐわがんね。それが二十枚。


 それはそうと、フレンドからメッセージが一つ入っている。私のフレンドはアルク一人しかいない。いったい何の用だろうか。


 何気なくメッセージを開く。そして、頭を狙撃銃で撃ち抜かれたかのような衝撃を受ける。


 えー……いやいや、でも……流石にか。うん、そうだな。……やった方がいいかこれ? いや、やるべきなんだろうなぁ。


 私は一人でうんうん唸った後に意を決して返信。アルク、というか皆さんのお願いに応えることにした。それから数分後、連絡が来たので迎えに行く。そう、共に銃弾飛び交う戦場で背中を預け合った、お仲間の皆さんを、だ。


 私を背に乗せネルちゃんに目的地は始まりの町だと伝えた。そこまではよかった。ポロっとアルク以外のニンゲンを城へ招待するため迎えに行くと私が言った時、ネルちゃんは衝撃のあまりバランスを崩し墜落しかけた。言葉一つでドラゴンを墜としかけたという、字面だけ見ればかっこいいな。内容はおバカの極みだけどさ。


「ハナさん、無理してないですか? 弱み握られてないですか? 遠慮なく殺りますよ?」


 飛び始めてからずっとこの調子だ。というか、みんなおかしい。


 師匠は感動のあまり足腰の力が抜けてその場にうずくまってしまった。だから今回はお留守番だ。


 ネルちゃんはずっとこの調子。私が悪いニンゲンに悪いことされていると思っているらしい。


 ゴブリンさんは研究道具を放り投げて図書室へ走った。おもてなし料理を作るつもりらしい。絶対やめろ。


 姫ちゃんはニコニコしながら「お友達になれるといいですね」と言った。天使か? かわいい。


 アルクからのお願いはこうだった。



『みんながハナの城に行きたいって言ってる』



 これまでの私だったら即ごめんなさいをしていただろう。でも、私はイベントで変わった。ニンゲンという生き物になれた気がするし、間違いなく慣れた。ほんの少しだけね。


 ただまあ、だからと言って即ホームパーティーとパリピ決め込むのは無理だ。じゃあなんで招くことにしたのか。それは、罪悪感があるからだ。


 アルクには本当に大きな罪悪感がある。世界中の幸せ者に法外な値段で罪悪感を売りつけて、相対的に罪悪感という概念を消したいくらいにはある。……つまりどういうことだ? いったん落ち着こう。


 アルクにはまた別に詫びを入れるとして、他の人たちにも罪悪感はある。それは、私ばかりが情報を得てしまっていることに気づいてしまったのだ。


 ご存じの通り私はニンゲンとの繋がりを極限まで絶ったゲームスタイルを貫いているので情報は全く出回らない。昔の偉い人は敵を知り己を知れば百選危うからずという言葉を残しているので、情報はそれだけ大切だ。


 私は何となくだけど、他の城主のみなさんとアルクのスキルを知っている。これではあまりに不公平だろう。


「ハナさん、成長しましたねぇ……」


 ネルちゃんがしみじみ言う。まあネルちゃんたちにとってみれば、ちょっと見ないうちに私が急にニンゲンと仲良くなっているということになる。うろたえてしまうのも無理はないだろう。……あれ、師匠はずっと私の近くにいたよね? なんで行動不能になるくらいうろたえてんの? なんなら一番うろたえてないか?


 とりあえずネルちゃんは分かってくれたようで安心した。このままだとメサリアさんとかに攻撃しそうだったし。後はゴブリンさんが変なことしてなければいいな。姫ちゃんは天使だから問題はなし。


 アルクたちに直接来てもらってもよかったし、実際アルクたちは直接来るつもりだったようだ。でもせっかくだから、ネルちゃんの背中に乗って空の旅を楽しんでもらおうと私は考えた。というわけで間もなく始まりの町~始まりの町~。


 ダンは空からでもよく分かる。約束通り勢ぞろいで始まりの町の門の脇に立っている。


 うん? 人だかりができてるな。まあ城主プレイヤー勢ぞろいならそうなるか。アルクも下手したら私より有名人だろうし。


 ネルちゃんが地面に近づくと人々が避けて空間ができる。そこに着地。


「迎えに来てくれてありがとう、ハナ」


 アルクが私にそう話しかける。私は当然頷きで返す。これだけニンゲンがたくさんいるんだ。当然だろう。


「異種間交流……?」

「アルクがハナをテイムした?」


 おやおやー? 私が魔物だとかいうあり得ない話を信じている、愚かなニンゲンが一部見受けられるな? ……言ってやってくださいよアルクさん!


「ハナが乗っていいって」


 違うでしょ! それも言って欲しかったけどさ、ハナは魔物じゃないって早くいってくれないかなアルク?


 それからアルクが何かを言うことはなく、言われた通りに城主メンバー全員がネルちゃんに乗る。


「なにしているのハナ? ほら早く乗って行こう」


 アルクはネルちゃんの首を撫でている、他の城主メンバーはおっかなびっくりネルちゃんの背中の真ん中ら辺に座ってる。


「ドラゴンを使役しているのはアルクか?」

「……やっぱりハナはアルクの使役魔物?」


 そうはならんやろがい! もういい、ネルちゃん!


「ハナさんとお揃い……」


 あーだめだこりゃ。


 私は諦めてアルクのそばに腰を下ろす。……って私は忠犬かよ。無意識だったわ。これだけニンゲンがいるのは流石に不安が過ぎる。ネルちゃんに少し減らしてもらおうかな。


 なんて私が考えている間にネルちゃん飛翔。あっという間にたくさんのニンゲンたちは見えなくなった。


「……なんで言ってくれないの」

「……? 面白いから?」


 すぐこれだ。こっちは大変だってのに。


「じゃあ自分で言う?」


 そんなの無理だワン! 頼むからご主人様の口からお願いしたいワン!


 ……まあ、いいか。いずれじわじわ伝わっていくだろう。別に他の人たちにどう思われていても直接私に何かが起こるわけではないし。


 さて、アルクは私をいじめる余裕を見せているが、他の人たちはそうでもない。


「ハナ、結構長いのか?」


 タケシさんが不安そうに聞いてくる。十数分くらいだろうか。これって長いのかな? とりあえず首を横にふっとこ。


「ここから魔法使えば……」


 メサリアさんは中央寄りにいるけど、三人の中で言えば案外余裕そう? 流石にアルクみたいにリラックスはしてないがブツブツと色々考えている。


「……」


 ダンは身を固くして、一点を見つめてる。意外だ。ワンチャンこの人この高さから落ちても死なないんじゃないか?


「あの飛行船、また飛んでる。……今日は見逃す」


 アルクはネルちゃんの首元で足をのばして回りをきょろきょろ。私には雲しか見えないが、何かがアルクに見つかって、幸運なことに見逃されたらしい。何かは知らんがその見逃された存在は日頃から徳を積んでいたのだろう。良かったね。


 そんなこんなで飛んでいるとダン以外は慣れてきて、状況を楽しむ余裕が生まれてきた。


 タケシさんは下を覗き込んでは「ほー」とか「へー」とか完全に景色を楽しむ観光客だ。


 メサリアさんは実験と言いながら私に許可を取った上で地上に数えきれないほどの魔法を、まさに雨のように発射する。ヤバくない? もしかして、ネルちゃんと相性良すぎか?


 アルクはひたすら虚空に向かって矢を放ち続けている。さっき見逃した存在がやっぱり気になるみたいでずっとこの調子だ。いったい何を見つけたのだろう。何となく空の向こうから憎たらしい声が聞こえてくるような気もする。


 ダンはもう体育座りで動かなくなった。まさかこんなに簡単な攻略法があったとは。


 そんな楽しい楽しい空の旅もまもなく終点。眼下には北城が見えてくる。


 とりあえずゴブリンさん。ゴブリンさんが何もしていないことだけを私は祈る。


 私の祈りは届くのか。答え合わせはしたくないけどここまで来たら後には引けない。私はみんなを連れて北城城下町の入り口門をくぐった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ