最終決戦終
自分でも不思議なくらい落ち着いていた。今までの私だったらこうはいかない。きっと、「お願い死なないでアルク! あんたが今ここで倒れたらタケシさんたちとの会話の仲介や、最終決戦勝利の安定性はどうなっちゃうの? 問題はまだ残ってる。今ここで倒れたらどう考えても私のせいで罪悪感で私が潰れちゃうんだから! 次回『アルク死す』デュエルスタンバイ!」って感じになっていただろう。
少なくともこんな風に冗談を言えるくらいには落ち着いている。いや、もちろん不安はある。罪悪感なんて世界中に無償提供したいくらいある。ダンも確かに強いがこのチームの要はどう考えてもアルクだ。もし私がもっとしっかり者であれば、あるいはそもそもこのチームにいなければ、アルクがあそこでやられることはなかっただろう。
でも終わったことを引きずってもしょうがない。アルクにできる最大のお詫びは何か? それは自暴自棄になってメンタルが潰れることではないのだ。勝利を飾って「てか、アルク居なくてもよゆーだったわwww」と煽ってやることだ。
師匠のおかげで敵の位置と大体の距離は絞れている。敵が乗り物に乗っているような音は聞こえない。師匠も聞こえないと言っているので敵の移動手段は徒歩しかないのだろう。そうなると、この砂丘地帯を素早く動くことはできない。
私たちはとにかく移動した。敵のいるほうを警戒しつつ、砂丘を上ることは極力避けて、なるべく安全地帯の中心に移動する。そして次の安全地帯縮小に備える。
ちょうど中心に来た時、耳障りなブザー音が鳴った。
マップを確認すると、もう一円玉程度の円しか安全地帯は残されていない。私たちは今の安全地帯の縮小でほんの少しだけ安全地帯から外れた。しかし幸運なことに師匠の推測通りであれば敵はかなり安全地帯から外れたことになる。
今までは三十分で安全地帯の縮小が起きていたが、タイマーを確認すると今回は半分の十五分になっている。移動距離はほぼないに等しいので問題ないね。
それから私たちは一分もせずに砂丘の間を歩いて再び安全地帯へ入った。恐らくもっと離れていれば私とダンはステータス的にリタイア確定だっただろう。私はともかく、ダンの素早さに関してはメサリアさんのバフをかけても最低値固定の仕様があるためどうしようもない。
「十五分じゃ敵も周り道をしている余裕はないだろう。そうだな……そこの砂丘で敵を待ち構えよう。ここで決める」
タケシさんの考えた作戦はこうだ。
少し小高い砂丘の頂上にタケシさんとメサリアさんが迷彩服を着て伏せる。敵が見えたら撃破よりも足止めを優先し安全地帯に入れさせない。
私とダンはメサリアさんに透明化の魔法を重ね掛けしてもらって敵を直接キルしに行く。詳しいことは分からないが、メサリアさんは職業の特性で、魔法をかければかけた分だけ効果時間や効果の強さが増していくらしい。
メサリアさんの透明魔法の重ね掛けが終わる。本来であれば私たち二人だけでなく全員にかけるべきだが透明化の魔法自体あまり長続きするものじゃない。爆発時間いっぱいまで透明でいるには二人が限界だったのだ。
そして最後に師匠。師匠は完全自由行動だ。そもそもウサギ状態であれば小さいため見つかりにくい。見つかっても人間よりも的が小さい。全力で自由に走り回って目と耳で敵を探してもらう。
理想は師匠で見つけて敵の位置を完璧に特定。タケシさんとメサリアさんでちょっかいをかけて横から私とダンで倒す。最悪倒せないとしても時間を使わせて安全地帯縮小の爆発で倒す。
ダン曰く、敵のイメージとしては男版アルクみたいな感じらしい。決して油断できない。
「ではそれぞれ移動を開始してくれ」
タケシさんの言葉を最後にそれぞれ散る。私たちはゆっくりと敵がいるであろう方向へ進み、タケシさんたちは砂丘の頂上付近に伏せて、少しだけ頭を出す形で警戒。師匠は敵が別方向に回っていないか確認するためみんなが向いている方向とは逆方向にダッシュ。
爆発まであと五分。未だ動きはない。
私たちは安全地帯から離れてしまい、もう時間内に安全地帯に戻ることは出来ないだろう。まあ、ここで決めるつもりだったので問題はなし。敵も今この辺りにいるようでは爆発に巻き込まれてしまうはずだ。
まさかどこかで入れ違いになったのだろうか。
確かに砂漠は広大で、道なんてあってないようなものだ。しかし目的地になる安全地帯はとても狭い。敵さんが砂丘を乗り越えようとすれば、タケシさんたちが気づくだろう。上ることを避けて、となると道は結構限られてくる。その限られた道を私とダンさんで進んできたのだ。
それから、師匠からも連絡はない。ここまで生き残った猛者が位置バレするような大きな音など、そうそう立ててくれるはずもない。そんなことは最初から分かっていた。だからこそ自由に迅速に動ける師匠がその機動力を武器にローラー作戦で索敵をしているのだ。師匠が軽く安全地帯周辺を一周したところどこにも敵はいなかった。
はっきり言って、敵は安全地帯から離れるように動いたとしか思えない。そんなことするだろうか。まさか勝利を諦めたわけではないだろう。いったいどんな作戦があるというのか。
残り二分。ついに戦況が動いた。
銃声が私の耳に届く。メサリアさんのHPが一発で全損する。そして一秒後、また銃声が鳴る。タケシさんのHPが一発で全損する。
私はその場に急いで伏せる。離れた位置にいるダンも銃声の聞こえた方を確認しながら伏せている。
『ハナ、無事か?』
師匠から通信機越しに念話が届く。無事を伝えると安堵して、敵の方角と距離を教えてくれる。
方角に関しては私も銃声が聞こえたので問題はない。ただし距離はマップが手元にないので正直言われてもピンとこない。
『しかし、狙撃銃はどんなに手馴れていてもあんなに連続では撃てないはずだが』
ダンが不思議そうに言う。
確かボトルアクション、いやボルトアクションだっけ? 詳しくは知らんけど。
詳しい話は知らないが、知らなくてもダンの発言で私はピンときた。敵がすぐさま二発目を撃てた理由も、ついでに敵の現在位置までまるっとお見通しだ。
『敵は今、アルクが撃たれた砂丘にいる!』
私の発言を聞いて、師匠とダンは理解した。私がどうしてその結論に至ったのか。そして、もうどうにもならないということを。
敵はアルクの銃を使った。
プレイヤーは最初に設定した種類以外の武器は持てないが、逆に指定した種類であれば両手持ちなんかもできる。イベント開始前にナイフで二刀流とか私が馬鹿言っていたシステムだ。敵は倒れたアルクから装備を回収して砂丘に上った。あの砂丘はここら辺では一番高い。視界は十分だ。
今あそこにいるということは……どういうことだ? マップも方向感覚も持ってないから敵さんの動きがよく分からない。ただ一つ言えるのは、敵さんは安全地帯から離れる動きをしていた。私たちは全員、敵さんは安全地帯に近づいてくるもんだと思って、近場に目を光らせていたから気づけなかった。何なら警戒もしていなかった。敵さんは悠々と砂丘の頂上で二つの狙撃銃を撃てる状態にしてセット。見つけたタケシさんとメサリアさんをそれぞれズドン。
これアルクがいれば本当に勝てたかもね。むしろアルクを排除したからこそ、敵さんはドヤ顔で高所を陣取ったのだろう。
さて、ここから勝てるのか。答えは分からない。
少なくとも撃たれて敗北はない。私たちは姿が消えているし、砂丘の間で伏せている私たちを撃つことは、弾道を空中で曲げるでもしない限り不可能なはずだ。……フラグじゃないよ?
師匠だけ安全地帯に入れても意味はない。というのも使役魔物は基本的に人権がない。プレイヤー扱いされないからチームが生き残ったことにはならない。
ってなるとみんなで仲良死南無三ってことで爆散するしかないわけだけど、引き分けとかになるんだろうか。
耳障りなブザーが鳴る。視界が赤で染まる。
イベントの最後は爆発だ。爆発オチなんてサイテー!
次に目を覚ますとイベント開始前にみんなと合流した、真っ白な待機室的な場所にいた。お仲間の皆さんは勢ぞろいだ。
「ハナ、お疲れ」
ありがとうアルク。やっぱアルクいないときつかったわwww……割とマジで。
「このスクリーンに結果が出るみたいだな」
タケシさんは空中に浮いているスクリーンを指さしたので、みんなで結果発表の時を待つ。
結果は二位だった。
なるほど、最後はキル数勝負か。
今回、生存していた二部隊が同時に爆発でやられたため、勝敗を決める基準は敵を倒した数だった。
結果完敗だった。
私たちのチームで一番キルしたのはアルクなのでアルクと敵さんのキル数が比べられている。
二位なんだからアルクがキル数で負けていたというのは当然として、もう一度言おう。私たちは完敗だった。
驚くことに私たちチームの合計キル数でも届いていない。
流石二人の知り合いというか、ガチ勢ほんと怖い。怖すぎる。
そんなこんなでイベントは終わりを迎えた。二位報酬はまた後日貰えるらしい。あんま興味ないけどね。
私は疲れたのでログアウトを選択する。他の人たちはこれから一般フィールドに戻ってゲームを続けるようだ。体力お化けかこいつら。こわ。
「ハナ、またね」
「うん、お疲れ」
「……今の声、ハナか?」
あ、やべ。
「……あなた普通に……、いやそもそも私は最初からおかしいと思って……!」
メサリアさんの目が私をとらえる。しーらんぺったんご~り~ら!
私は文字通り逃げるようにログアウト。あーイベント楽しかった。