最終決戦2
約一年ぶりの更新になりました。どの面下げて戻ってきたのか。
とある理由で、妙にすっきりした頭で戦車を運転中。混乱を治す薬はミント系のスッキリする味わいで、ちょっとハマりそう。混乱関係なしにお菓子的な感覚で食べたい。……ところでそうした場合は薬物乱用になるのでしょうか。
キマッた頭でひび割れた道路を走ること約五分、今まで走ってきたアスファルトの道路が綺麗に途切れている。ほんとびっくりするぐらいシームレスに砂漠へと早変わり。
このイベント序盤、廃都市から遊園地に行くとき思ったけどさ、普通もうちょっと段階を経て都市から砂漠へ移っていくものじゃなかろうか? 両脇に廃ビルが立ち並ぶ風景から一気に人工物ゼロの砂漠へと景色が変わるのだ。私は日本生まれ日本育ちのエリート日本人故に砂漠に馴染みはない。ただこの光景がリアリティゼロであることは想像に難くない。
とまあ散々ケチをつけたけど、実際そんなことはどうでもいい。
それはなぜか? ヘイヘーイ、ブラザー、馬鹿なことを聞いてくれるな。私は戦車に乗っているんだぞ? 多少ひび割れているとはいえアスファルトなんてお上品な道を走ってられるかってんだ。
軍神様は次のような言葉を残しておられる。
キューポラから顔出してガタガタ不整地ニッコニコ。
眼前に待ち受けるは砂漠。砂がもりもりデッコボコ。私は操縦手で、車長ではないのが残念だが、むしろ不整地を走る戦車を一番身近に感じているのだ。これはもう私は実質戦車と言っても過言ではない(?)。……ほんとにそうか? そうだな! ヨシッ!
『薬物乱用ダメ絶対』
うん師匠? 急にどうしたの? そうだね、薬物乱用ダメ絶対。
急に薬物の危険性を訴える師匠は置いといて、私は砂漠へと漕ぎ出す。東側は砂丘地帯とでも言おうか、大小様々な砂丘がそこかしこにあるため普通に走るだけでも車が揺れる揺れる。いいねいいね、戦車も車体を揺らして喜んでるね。オーケーまずは目の前の大きな砂丘だ。最高速でぶっちぎって、レッツヘブン! お空に軽くキッスでもしてやろうじゃないの!
「……ナ、ハナ」
HAHAHA! なんだいマイエターナルフレンドアルク! まさかトイレかい? おいおい勘弁してくれよ、今は愉快な週末ピクニックの真っ最中ってわけじゃあないんだぜぇ?
「……ップ! ハナ、ストップ!」
アッ、ハイ。
最高速だのお空にキッスだの、適当言っていたけど、現実は厳しい。エンジン馬力が足りないためか、砂丘をちんたら上っていた私の相棒はアルクの一声でピタリと止まる。まだ砂丘の十分の一も上っていないだろう。私のテンションを上げたところでマシンの性能は上がらない。この61式じゃ砂丘を上るのは無理があるようだ。
「ようやく止まってくれたか……こんなデコボコした地面を走っていたんじゃ身が持たない。それに砂丘を上るだけの力がこの車にあるかも分からないしな。ここからは歩きでいこう」
タケシさんが不安そうな声で言う。車内は沈黙。私も沈黙。ついでにエンジンが沈黙。燃料切れだ。
順々にお仲間の皆さんが車外にでて、最後に私が出るとそれを待っていたかのように61式戦車は斜面を滑り落ちていった。
思えば長い付き合いだった。初めて会った時、一緒に無茶した時、奇跡の再開を果たした時、全部つい先ほどのことのように思い出せる。
『全部先ほどのことだからな』
『うるさい』
今回が間違いなく今生の別れとなる。私たちがこれから向かうのは最終決戦なのだから。
私は滑り落ちて横転してしまった61式戦車に短く敬礼をして、既に砂丘の真ん中ほどまで上っている仲間たちの後を追う。
「ハナ、何してたの?」
「……人生、かな?」
「車酔い?」
「いや全然?」
「ならいいけど」
不思議な生き物を見る目で私を見るアルクを不思議に思いながら、私たちは先に進んでいるタケシさんたちを追いかける。
そうして何とか砂丘の頂上に到達。ここら辺で言えばこの砂丘が一番高い。見晴らしはかなり良くていい感じ。
「マップを確認した感じ、この砂丘を超えて少し歩けば安全範囲に入るくらいだな。時間的には十分間に合う距離だと思う」
タケシさんがそう言いながら私とダンの足遅い組を見る。なんや文句あるのか?
「でも相手の位置がまだ把握できてないわ。このままじゃ一方的に撃たれて負けることになるじゃない」
メサリアさんの言う通りだ。安全地帯で死ぬことはなくなったが、廃都市で確認したように敵は既に安全地帯に入って私たちを待ち伏せている可能性が高い。流石に全員が一方的に撃たれてやられることはないと思うけど、先制攻撃は間違いなく敵さんだろう。
「まあ向こうも俺たちを発見できているとは限らない。奴のことだからおおよそ検討はついているかもしれないがな。どのみち見晴らしが良いここは敵からもよく見える。地理の確認をしたら速やかにこの砂丘は下るとしよう」
そういえば残りの敵に関してだけど、どうやらアルクやダンの友達(?)である可能性が高いらしい。恐らくこのゲームをやる前に遊んでいたという銃撃戦のVRゲームで知り合った人だろう。ソロ行動しかしない人だった、という情報が本当であればありがたい話だ。しかし、相手が一人でも安心はできない。ガチ勢ほんと怖いからね。
速やかにお仲間の皆さんが周りにある砂丘の高さや、敵がいる方向から考えて敵が陣取ってそうな、あるいは陣取りそうな砂丘などを確認していく。
そしてあらかた確認を終えて、いよいよ砂丘から下る。
「ハナ、気を付けて。結構滑る。死なないで」
「流石に……多分きっと恐らく大丈夫……だと思う」
『言葉を聞けば聞くほど不安になっていくのはなぜだろう』
師匠とアルクに過保護なくらい気にされながら、慎重に砂丘の斜面を下っていく。階段という最高に整備された斜面で死にかけてるからね。何も言えんわ。
「そう、ゆっくり、ゆっくり」
いつ私が転げ落ちてもいいように、私の前に立って斜面を後ろ向きに下りていくアルク。ちな足を滑らせた私をアルクが支えられるとは思えないので、もし私がこければ二人で仲良く下まで懇ろゴロゴロ間違いなし。アルクと懇ろな関係でいたいのは間違いないが、二人で転がり落ちていくような間違ったコミュニケーションをとるつもりはないので私も慎重に下りる。
師匠は私の後ろにスタンバっているが人化でもしない限りなんの意味もない。そのことに本人は気づいているのかいないのか知らないが、私の服を咥えていざという時の準備は万全だ。とっても心強いね。
それからゆっくり、ゆっくりと、半分ほど下った時のことだ。
アルクが急に私の方へ倒れてきた。
「ちょっとアルク? 私の心配もいいけど自分の……」
言いかけて言葉に詰まる。アルクの崩れ方が、どう見てもバランスを崩したそれではない。言うなれば、バランスをとる能力を失ったというか。月並みな表現で言えば糸が切れた操り人形のように、架空の重力に引かれるままに斜面を転がり落ちていったのだ。
自分の視界の端にある、仲間のHPバーを確認するまでもない。でも、その真実を受け入れがたくて私は恐る恐るアルクのHPバーを確認する。
ゼロだった。名前にはバッテンのマークがついていた。
『ハナ!』
人化した師匠が私を抱きかかえ、体を丸めて斜面を転がり落ちる。そうして落ちてきた私たちをダンがしっかりと受け止めてくれた。
「敵の方向は分かるか? 距離は?」
ダンはそれだけを人化した師匠に尋ねた。師匠を他の人の前で人化させたのは、最初のギルドを作りに行ったときを除けば初めてだ。何なら意図的に隠している能力でもあった。言いたいこと、聞きたいことはたくさんあっただろう。だがダンはそれらの疑問ではなく、師匠へ敵の居場所だけを尋ねた。
すぐに真剣な顔をしたタケシさんとメサリアさんがやってきて、師匠は三人に向かって口頭とマップの両方で敵の方向とおよその位置を伝える。
私は。
私は勝ちのために全力でチームに貢献する。それが恐らくアルクの望むことであるというのは間違いないのだから。
「敵の位置は大体わかった。作戦を伝える」
イベント最後の戦いを告げる一発。流石アルクとダンの知り合い、誰を狙えばいいかよくわかってる。それはあまりに重い一発だった。