最終決戦
大通りを走行中。今のところ特に狙撃されたりはしていない。
残り部隊数は移動中に減って六となっている。
「ハナ、どこか適当な路地に入ってくれ。そしたら戦車を下りる」
どうやら相棒との旅はここまでらしい。二度目の別れはつらいなぁ。
戦車を止めてまずはダンが出る。そして続々と他のメンバーたちが出ていき最後に私。
撃たれることはなかった。
そのまま近くのビルまでダッシュ。仕方がないことだけど私とダンは置いて行かれる。ウタナイデウタナイデウタナイデ……。
他メンバーに遅れ、命からがら屋上到着。さらに遅れて当然無事に屋上にダンが到着。贅沢言わないから私ももっと攻撃力と防御力と速力と金と名誉とネルちゃんとこの世の全てが欲しい……。
「最後まで他がつぶし合ってくれればそれが理想なんだがな……」
タケシさんが思案顔で言う。
高所が確保できて物資も十分。戦いになってもそうそう負けないが、そもそも戦わずして勝てるならそれが一番いいに決まっている。……なんかアルクとダンににらまれたような……?
そうこうしているうちに部隊数が五になる。五部隊以下になるとエリア制限が始まる。タケシさんの持っている地図を覗き込むと、マップの中央に全体の四分の一ほどの大きさをした白い円が現れ、その周りは赤く表示されていた。
「とりあえず一度目は移動しなくても大丈夫そうだな」
視界の端には新たに三十分のタイマーがスタートしており、このタイマーがゼロになった瞬間、白い円の中にいないと即リタイアとなってしまう。
「アルクはこのまま索敵を続けてくれ。敵を見つけたらまず俺に報告……ここまで来たら優勝したいだろ? そのためには極力残りが少なくなるまで戦闘はしない方が確実だ。分かるだろう?」
戦闘狂アルクの撃たせろという殺意すら感じる睨みを受け止めながらタケシさんは作戦を伝える。
メサリアさんは魔法を詠唱し、私の視界に見慣れないアイコンが次々現れる。ありとあらゆるバフをかけまくっているようだ。ナニコレスゴイ……私のステータスが全部二桁を達成している……HPに関しては三桁を達成しているぞ。
MP回復薬も落ちている物資としてしか回収できなかったため、前半は魔法を温存していた。しかし、もう温存する必要はないためガンガン魔法を使っていくようだ。
タイマーが残り十分になったところでアルクが敵を発見と報告してきた。
私も言われた方向を望遠鏡で確認するが誰もいない。
「足跡」
短くアルクがそう言うので地面を注目してみると、確かに一人分の足跡が一歩一歩こちらに伸びていた。どうやら魔法で姿を消しながら進んでいるようだ。装備しているものも一緒に消えてくれる便利な魔法だが、下が砂であるためバッチリと足跡が残ってしまっている。……いや普通これだけ離れてれば気づかないけど、そこは流石のアルクだ。
「……どうする」
アルクの指にかなり力が入っているのが分かる。だが何とか我慢してタケシさんの指示を待つ。よーしえらいぞー。
タケシさんが悩んでいるその時だった。
歩いていた敵の魔法が切れ、その姿を現す。そしてそのまま砂漠に倒れ、光に包まれて消えていった。残り部隊数が四になる。どうやらどこかの部隊最後の生き残りだったらしい。
誰かに撃たれたのは間違いない。だが音がしなかった。
銃のパーツで音を小さくしているのか、それとも魔法で消したのか。音は敵の位置を知るのに重要な手掛かりになるため、コレはかなり面倒な敵だ。……まあうちには師匠がいるんで関係ないけどね。
やはり師匠の耳にはバッチリ聞こえていたようで方向を教えてくれる。……アルクも師匠を見て方向を察したようだ。通じ合ってるの普通に凄いと思う。
それからアルクがタケシさんたちにも伝えて、タケシさんたちは師匠を見て褒めたたえた。
……正直タケシたちは師匠のことを最序盤の雑魚MOBと舐めていただろうし、そうなっても仕方がないと私は思っていたが、師匠がほめられて私もうれしい。
師匠のおかげで敵は東の方にいるということが分かった。
東の方を特に警戒しながら十分ほど過ごし、その間特に何事もなく、そしてタイマーがゼロになる。
ブー!! という耳障りなブザー音が鳴り、突如として遠くの地面が爆発するのが見えた。
そして部隊数が残り二になる。今の爆発で二部隊が消えた。
一気に状況が進み、優勝をかけた戦いが始まった。
タケシさんがマップを確認すると白い円は中央から大きく右側、つまり東に動いている。
そしてその円の大きさは全体の八分の一ほどしかなかった。
既に東側に敵がいることを私たちは把握しているが、敵は私たちの場所を把握していない。有利ではあるが、敵の方が安全地帯に近い。
「まずいな……東側は砂漠だからほとんど身を隠すところがないぞ」
つまりもうすでに敵が監視の目を光らせているかもしれない、見晴らしの良い場所にノコノコ間抜けに侵入しなくてはいけないわけだ。さらにはその敵はアルク並みに鋭い観察眼を持っている。今の爆発でやられてるといいなーなんて、期待するだけ無駄だろう。
「とにかく移動しよう。十分間に合う移動距離だがゆっくりしている暇はない」
お? お? 移動ということはつまり?
「ハナ、運転頼む」
いよっしゃキタコレ!
意気揚々、ルンルンスキップで戦車に乗り込む。
途中テンション上がりすぎた私の脳みそが階段を下りている最中に両脚君への命令をミスるという、取るに足らないない些末で些細でちっぽけな余興もあったが、たいしたことではない。
HPが1になり、踊り場で芋虫のように蠢く涙目な私にアルクがそっと近づいてきて、私の肩を抱いた。
「ハナ。頼むから死なないで。くだらないことで」と懇願してきたけどこれもまた戦車道! 乙女の嗜み! 嗜み!
『ハナ、混乱を治す薬だ』
いや師匠? 別に私は混乱の状態異常にはなっていないが?
まあいい。これから私は戦車に乗る。醜い芋虫から華麗なる蝶へと完全変態を遂げる!
『蛹時代がないなら不完全変態。つまりゴキブリ』
アルクが冷たい言葉と共に混乱を治す薬を私の口に突っ込む。あががががが。