第二のアルク
『ハナ、本当にやるのか?』
『うん、もう決めたことだから。……私の生きざまみててよね、師匠』
短い師匠との会話を終えて、息を吸い込む。
そして
「ダンさん!」
大声。どれくらいの大声かというと、後ろにエクスクラメーションマークが付くくらいの大声を出した。
当然ダンさんは振り返る。
「何だハナ?」
特に私が人間の言葉を話したことに驚いている様子はない。……いや私は人間なんだから当たり前なんだけど、ああもうアルクめ!
「あ、えっと、さっき何でタケシさんに私のこといってくれなかったの?」
クッソまだ緊張する。今の言葉で私の意図は伝わったか?どうだ?
「ああそのことか。……そっちの方が面白そうだからだ」
にやりと笑みを浮かべる。
お前ら揃いも揃って……ダレカタスケテ……
「探索続けるぞ」
そう言ってダンさんは歩き出してしまう。
……まあいい。私は確信した。今後ダンさん……いやダンもアルクと同じ態度で接することができそうだ。
ーーーーーーーーーーーー
ある程度探索を終えた私たちは屋上へと戻る。
「敵の様子はどうだ」
ダンがタケシさんに聞いた。
「ジリジリと近寄ってきているもう間もなく俺たちの目でも確認できるだろう」
いよいよ初戦闘だ、といっても今回私の出番はなさそうだが。っとそういえば。
『はいアルク。これ』
私はアルクに三発の弾を手渡す。
「これでSR十発か」
その様子を見ていたタケシさんが言った。
「合図が出たらいつでも」
アルクが再びスコープを覗き、タケシに言う。
「そうだな。どうせ向こうもコンパスの情報から俺たちの位置のあたりをつけているだろうし、それに敵にSR持ちはいないんだよな?」
タケシの問いにアルクが頷く。
「……あの道路の白線。あそこに敵が来たら戦闘開始だ」
視界のギリギリ届く、ひび割れた十字路の白線を指さしながらタケシが言った。
「ハナとダンは一階から二階の階段を警戒して、万が一の敵の侵入に備えてくれ」
「了解した」
ダンがすぐさま移動を始めたので私も師匠を連れて慌ててついてく。
そうしてダンに指示された位置で待機すること数分。
タァーンという大きな音が聞こえる。すかさずタケシさんから戦闘開始の合図。
アルクがいるからどうにかなるとは思うが、厄介なのは単純な撃ちあいではなく、それぞれ職業によるスキルが使えるということだ。
ダンのギルドメンバーには忍者のように姿を消すスキルを使ってきた人もいたし油断ならない。
唯一の出入り口にはダンさんがワイヤーと手榴弾で作ったブービートラップがあるので過信は禁物だが安心はできる。問題はそれ以外から侵入されることだが、まあ警戒以外にできることはない。
張り詰めた空気の中、ただただ時間だけが流れていく。
どのくらい時間がたったのだろうか。それは急に訪れた。
『敵の殲滅を確認。こちらの勝利だ』
突如タケシさんから通信機にメッセージが入る。
……どうやら勝ったらしい。……緊張した。
なんやかんや私も色々と戦ってきたけど今回の戦闘の気疲れは比べ物にならない。こんなのを連続でこなすのは不可能だ。
「いったん屋上に戻るぞ」
特に疲れた様子もなくダンが言うので私もその後ろに続く。アルクの話によればダンも昔はドンパチと撃ち合いをしていたわけだ……経験を積めば気疲れしなくなるものなのだろうか。
『ハナよ、大丈夫か』
私と同じように集中して周囲の警戒を行っていた師匠にも心配される。
ちょっとこのイベント完走できるか怪しくなってきたぞ?
そもそもこのイベントに参加した一番の理由である人間宣言も微妙な、むしろ第二のアルクが生まれるという結果に終わったし。……なぜ神は我にこうも試練を与えたもうのか。
そもそも人のことをおもちゃにするのって私、良くないと思います。文句の一つ言ってもいいよね?
「……バカ」
「ハナ? 何か言ったか」
ボリューム落としていったのにこういう時だけ拾いやがって……。
『人間に対して暴言か……成長したなぁ。ハナ……』
やめて。師匠。こんなことで目元を潤ませるな。……将来的には城主全員にバカっていうのを目標にしよう。
とりあえず上に戻ったらアルクにもバカっていう。絶対に三回くらい言う。今イベント中何度目かの決意をしてダンの背中を追った。
いつもご覧いただきありがとうございます。
感想やブックマークが本当に支えになって、100話を達成することができました。
まだ終わりません。これからもよろしくお願いします。