5 銃と更新
作者は、銃に詳しくありません。
先に言っておきます。すみません、銃に関するツッコミは勘弁してください!
とりあえず、準備だ。まだ見てない部屋もあることだ、なにか便利なものが見つかるかもしれない。
「にひひ」
さっきまで不安でいっぱいだったというのに、フェニックスの声を聴いてからは活力があふれている。さすがは生命力の塊と呼ばれている存在の鳴き声だ。走り出したいような喜びに満ちている。あの鳴き声には、生き物を元気にする魔法が込められているのかもしれない。顔がにやけるのを抑えられない。
そういえば、僕は骸骨の上半分を仮面で覆ったような顔なのに表情が変えられているな。不思議だなあ。
顔だけじゃなく、体を動かせば絶えずカチャカチャと音がするが、どこが動いているのかきちんと意識して聞かないとわからない。本当によくできた体だ。
それはともかく、教会を荒らしてものを探そう。
「よし、がんばるぞ!」
教会中をひっくり返してみればなんか見つかんだろ!!
*****
「しんどい。」
朝日を見てから始めた探索作業は、太陽が傾くまで続けた。夕暮れとはいかないまでも昼とは言いづらい時間だろう。
教会の地下室と、新たに見つけた一階と二階の部屋を探索した。
教会の一階と二階は何人かの人が生活できるような設備があった。まぁ、木製の製品はもれなく朽ち果てていたし、鉄製の製品もほぼ錆び付いていたし、石やレンガや陶器の類も割れていたり欠けていたりして使えなくなっているものが多かった。
やはり、人が住んでいたのはかなり前のことのようだな。蜘蛛の巣が張っていたり、床が抜けていたり、床が朽ちていて僕が落ちたり、大変だった。
地下の僕がいた部屋以外の部屋だが、ほとんどものがなかった。大きな家具は残っていたが、中身はほとんどからでゴミのようなものしか残っていなかった。
「よし、戦利品を整理しよう。」
いくつものゴミの中から見つけた使えそうなものを、教会の舞台に並べていく。
革製の背負い袋、水袋、マント、毛布、ロープ、インクのない筆記具、羊皮紙と植物紙、古くて飲めるかわからないワイン1瓶、布袋、数十枚の銅貨の詰まった小さな革袋、本で得た薬学の知識から活力剤とわかった薬瓶、使えそうな工具、木炭バーがさっき部屋にあったやつに追加で2箱、僕の魔導ぜんまいネジ、壁に隠されていた本、などだ。
劣化しているものも多い中、選別して使えるものを集めた。
ああ、あと服が手に入った。全裸でも隠すべきモノがないから困りはしないのだけど、羞恥心がある僕としては服を着たい。
神官の服なのか、ジャストサイズの白シャツと黒い上着と黒いパンツがいくつもあったのでそれらを着ている。足のサイズに合うブーツも履いてきた。肩から掛ける布は動くたびにずれて邪魔だったので置いてきた。
1つだけ気に入ったネックレスがあったのでそれは身に着けているが、他のアクセサリーはバックの中だ。そのうち換金できるかもしれない。真っ黒だとなんだか趣味が悪いので、焦げ茶色のコートも着ていくことにした。着替えもばっちりバックの中だ。下着はいらないだろうと思い持っていない。だって汗もかかないのに必要か?
そう!うれしいことに黒革のハットを見つけた!これで禿を隠すことができ…いや、気にしてないよ?本当だよ?
そして、見つけたものの中でも異彩を放つのがコレだ。
鋼輪式の拳銃二丁と小銃一丁。
「これ、使えるのかな?」
この三丁は、僕がいた部屋の隣の部屋にガンベルトやホルスターとともに置いてあったもので、不思議なほどに劣化が見られない。それなりの重量があり、精緻な仕組みが見られる。僕が知っている銃とは見た目がかなり変わったものだが、使えるのだろうか。
二丁の拳銃は装飾こそやや違えど同じ銃のようで、思ったより軽い。小銃は重く両手で持つものであることが伺える。
「こう構えたりとかかな?」
二丁拳銃の状態で周囲の索敵をするふりをしてみる。
すると、ガチャリと腕が変形して開き、そこからチューブや歯車が出てきて銃床と繋がった。
[拳銃『トゥイードルダム』と接続。]
[拳銃『トゥイードルディー』と接続。]
中世的な合成音声が脳内に響き、視界に文字列が流れていく。
「え?は?なにこれ、どうなってんの!?」
僕の疑問を無視するように声は流れていく。
[二丁の所有権を更新。管理者を設定。]
[情報を更新。バックアップをダウンロード。]
[重量魔術を起動。成功。]
[結界魔術をダウンロード。成功。]
[〈時計〉〈カレンダー〉〈計算〉を起動。成功。]
[二丁との更新により、一部機能を開放。]
[〈精密射撃〉〈反動制御〉〈精霊結晶弾生成〉]
[〈解析〉〈マッピング〉をダウンロード。成功。]
声と視界での文字列のスクロールが終わると、軽いめまいがした。必死にテストを解いた後のような集中力の途切れる感覚だ。
それと同時に今の時間、季節がわかるようになった。今は、秋の始まりの8の刻らしい。
「これは、〈ライト〉みたいな機能が増えた、ってことなのかな?」
そう、みたいだな。さっきの更新のおかげか、機能についての説明がわかるようになっている。
〈時計〉:時刻がわかる。ストップウォッチやタイマー、アラームの機能をも持つ。
〈カレンダー〉:日付がわかる。スケジュール管理や日記、TO-DOのメモが可能。
〈計算〉:計算を瞬時に行うことができる。
〈精密射撃〉:偏差射撃や長距離射撃の補助。
〈反動制御〉:銃の反動を抑えるように行動すると同時に腕を変形する。反動の利用も補助する。
〈精霊結晶弾生成〉:結界術を利用した精霊の固定を行い、弾丸を形成する。
〈解析〉:記録容量にある情報と照合しての解析を行う。機能のヘルプを表示する機能がある。
〈マッピング〉:収集した情報から周囲の測量を行う。三次元の地図を記録する。
一度にこんなにも機能が増えた。わからない単語の羅列もあるけど、大体が有用そうだ。たぶん、日記なんかは使わないだろうけど。多いから追々あとで試そう。
「重量魔術と結界魔術ってのは、魔術の本に載っていたものであっているかな。」
重量魔術というのは、ものの重さを広範囲に散らして軽くしたり、逆に集めて重くしたりする魔術だ。魔術の複雑な説明を省くと、雪駄を履くことで雪に沈まないようになったり、ピンヒールを履いて踏んでいただくことで快楽を強くしたりすることと同じだ。重力魔術よりも簡単なので、広く知られているものらしい。なんでも少女から熟女、もとい淑女の皆様に大人気らしい。
で、これを起動したということは、僕の体重のかかり方が変わったということなんだけど。
「あ、軽くなってる!」
前のようにズーンという重いものが動く音がしない。足音も軽やかで僕も動きやすくなっている。スキップだって楽しそうにできてしまう。
「は!違う。スキップしてる場合じゃない。」
結界魔術のほうを考えなきゃ。
結界魔術ってのは、精霊を固める魔術だ。基本的には、他の魔術の範囲を定めるのに用いたり、簡単な防御に使ったりする術らしい。
「といっても、どうやって結界を張ればいいんだろう。」
さっきの重量魔術は勝手に起動したみたいだけど、結界魔術は起動していないみたいだ。どうやって使えばいいんだ。
「うーん・・・。結界よ、出ろ!!」
なんとなく、結界が張れそうな言葉を唱えてみるがなにも起きない。あれか、ダウンロードしたけど使えないのやつか。わからん。
「どうしろってんだ…。」
確か、魔術には媒体となる短杖や長杖が必要なはず。それがないといけないってのか?いや、それだと重量魔術が起動するのがおかしくなってしまう。むむむ。
何かしらの媒体。…もし、重量魔術が僕の体を媒体に発動しているとしたら、結界魔術にはほかの媒体が必要…。
「あ!銃か!」
〈精霊結晶弾生成〉ってのもあるぐらいだし、これだろ!この弾丸を生成してみよう。
片方の拳銃を地面に置いて、手のひらを前に向けてみる。
「精霊結晶弾生成!」
すると、手のひらにぽうっと熱が集まったような気がして、なにかが落ちた。
なにかを拾うと、それは青みがかった曇りガラスのようなもので出来た弾丸だった。
「これが、結晶弾。」
特別なものは感じられないが、光に透かしてみるとなかなかにきれいだ。プリズムのように七色に透けるのがとてもいい。これを作るための結界魔術だったのか。
「これをリロードすればいいのか?」
おそるおそる銃のシリンダーに弾を込めてみる。銃を撃とうとすると、腕と銃をつなぐチューブが動いた。何かと思ったら、シューっという音から判断するに空気を注入しているようだ。銃の大きさの割にずいぶんと込めているから、圧縮しているのだろう。
「空気銃だったのか。これ。」
空気銃というのは、圧縮した空気の力で弾を飛ばすものだ。分かりやすく言えば、出店の射的のコルク銃のすごい奴、ということになる。あれ?でも、空気銃ってそんなに威力が高くないって話を誰かから聞いたことがあるような。
ってか、リボルバー式の空気銃、しかも鋼輪式って。どんな仕組みしてるんだよ。ちゃんと撃てるのかな。
不安に思いながら、銃を教会の柱の一本に向ける。
ダンッと音がして発射された弾丸は、柱の一部を砕いた。
「ええー…。」
空気銃が柱砕いたんですけど…。なぁにこれぇ…。一般的に知られる、火薬を使った銃ならわかるが、空気銃ってこんなに威力があるものなのかな。なにかまだ秘密があるのかもしれない。
「つ、次は小銃を持ってみるか。」
拳銃を離そうとすると、自然とチューブは腕に引っ込んだ。
拳銃を教会の舞台に置き、小銃を拳銃を構えた時のように索敵するふりをしながら構える。
すると、またもや僕の腕から生えたチューブや歯車が銃床、さらに銃身の横に繋がった。
[小銃『バンダースナッチ』と接続。]
またも中世的な声が響き、視界に文字列がスクロールしだした。
「来た来たー!」
今度は、なにが来るんだ!!
ほ、ほら。現実に作れなさそうなものこそロマンってやつですから。
もしどうしても許せないという方は、コメントで優しくご教授ください。