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不思議の国の絡繰人形(オートマタ)  作者: 烏丸 五郎助
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4 広がる世界

 さくさく次の機能に行こう。自分の機能を試していくの、なんだか新しいおもちゃを渡されたみたいで楽しくなった来た。


「〈念話〉!…やっぱりここでは使えないみたいや」


 念話テレパシーは、対象となるものがいないと使えないようだ。一応、照明にたかっていた虫に意識を向けてみたが何も反応がなかった。

 

 とりあえず、だれかと話したいな。一人で遊んでいるのが寂しくなってきた。どんなのでもいいから会話ができるのに会いたい。さっき読んだ本によれば、この世界にはいろんな人種がいるみたいで楽しみだ。


 気を取り直して次の機能を試そう。次が最後の機能だな。


「ええと、なんだっけ?ああ、そう、〈反響定位エコーロケーション〉!」


 すると、喉の奥から蚊の羽音に似た音が発せられ、それと同時に反射した音を拾うことができた。すると、周囲の景色がより詳しくわかるようになった。というのも、視界では影になっているような、本の影にある本の存在や、見えているものの固さや厚さなんかが感覚的に理解できた。聴覚というか、これは視覚の補助になる機能みたいだな。


 〈ライト〉〈ズーム〉〈撮影〉〈集音〉〈録音〉〈反響定位エコーロケーション〉。

 これらがメモに載っていた機能だ。


「ん、なんだろ?」


 〈反響定位〉を使っていたら、壁の一部からの反響が違うことに気が付いた。近づいて見てみるが、おかしなところは目に見えない。しかし、たしかに反響では壁の中になにかあることがわかる。


「なんだろう、これ?」


 違和感を感じる壁の範囲や反響の感じからおそらく本が埋まっているようだけど、これは壁を壊して取り出していいものなのだろうか?あとで人に怒られたりしないだろうか。壁に埋めておくような本だ。なにか人に見られたくないものなんじゃないかな。


「そんなものを勝手に見るのはマズいかな。」


 いやでも、埃まみれで汚れた部屋だぞ?だれももう来ないんじゃないか?とりあえず埋めて後で取り出そうと思ったけど、取りに来られなかったのかもしれない。そうだとしたらここで僕が読んでもいいんじゃないか。ほら、僕ってばここで寝かされていたわけだし。


「うーん。正直、隠された本ってのは見てみたいな。」


 悩みながら本の隠されている壁を指で押しながらなぞっていたら指が壁に沈みバリバリと薄い石が割れる音がした。


「いい!?」


 だれか見ていないかと慌てて周囲を見るが、当然周りに人はいない。ふう、とため息をつきながら壁を見直せば、みごとに指で穴が開いていた。

 壁の直し方なんて、本にも載っていなかったし、どうせ怒られるなら壁の本を読んでしまいたい。


「…失礼します。」


 なんとなく、誰かに謝りつつ、本を手に取る。表紙には『成長する絡繰』と書いてあった。


『現在の絡繰人形オートマタは、ゴーレムの発展形でしかない。しかし、私はさらなる可能性が眠っていると思うのだ。』

『精霊工学によって、魔力による思考力を与える。そして行動によって学習を続けることができれば、人間の手がなくとも更新せずとも優秀な絡繰人形オートマタへとなることが予想される。』

『そのためには、どういった進化をするべきかを選択するある程度の知性が必要となるが、これはどうするべきだろうか。絡繰人形オートマタもゴーレムの一つである以上、魂を持つ存在ではないために自我を持つことはできない。』

『彼がいうには、そういったものを人工知能と呼ぶらしいが、そんなものが作れるのだろうか。』


 本には、そのようなことが書いてあった。ほかにも、難しい仮説と理論が書いてあったが、読んでいても難しくて読み飛ばした。

 本の最後には『私の最後の研究となることだろう。』と綴られていた。


「作者は、トーマス・Kさんか。」


 本棚の本にもいくつか著作があった人だ。

 どうしてこの本を壁に隠してあるのだろうか。これは本棚の本と違って手書きであるから、おそらく壁に隠したのもこの人だろうけど、どうして…。この体の作者も彼なのだろうか。


 わからないことばかりだ。

 もし、なかに書いてある「成長する絡繰人形オートマタ」ってのが僕のことならば、僕はかなり優秀になれるんじゃないか?


 ひとまず、この本は持っていこう。まだわかることがあるかもしれない。


「ここで分かることはこんなもんかな?」


 機能を活用して隅々まで見てみるが、この部屋にはこれ以上なにもないようだった。

 とりあえず、外に出よう。〈反響定位エコーロケーション〉の結果、ドアの外も部屋みたいだけど。


「なんだ、ここ?」


 固く閉ざしていて、開ける時にギィーという大きな音がするドアを少し開けて覗いてみると、そこは暗い廊下のような場所だった。幅は広く、天井も部屋より高い。人工のものとわかる作りだが、やはりしばらく手入れがされていないようで、埃やチリが待っている。湿気とカビの匂いがうっすらとしていている。


「うわー…出たくないなー…」


 〈ライト〉を使って照らしてみると、床は石のタイル、壁はレンガ、天井は大きな石を組み合わせて作られているようだ。ネズミを照らすと、光を嫌って走り去っていった。

 〈反響定位エコーロケーション〉を使うと、この廊下にはいくつかの扉と上への階段があることがわかった。


「ひとまず、上に行ってみよう。」


 そう思い、廊下を進む。



*****



 廊下には僕がいた部屋のような古びて錆びた鉄の扉がいくつかあった。歩くたびに甲冑を着た兵士のような金属のこすれあう音と空気のシューという音とカタカタという音が体からしてくる。


 石造りの階段を上がり、狭い通路を進むと、そこは古びた教会の中だった。椅子だったと思われる何かが砕けてできただろう石が転がり、神を模した像だっただろうものは原型をとどめておらずに石の塊でしかなくなっている。教会の中央には、錆びて落ちたのだろうシャンデリアがあった。


「なんなんだ、ここ。」


 教会を出ると、雑草が生い茂る場所だった。ちょうど夜が明けたようで山の向こうから朝陽が紫の空が徐々に橙に変わっていく。さっきの地下室とは違い、心地よい風が吹きわたり、強い草の匂いと鳥の鳴き声を運んでくる。木々が風に揺れてざわざわと木の葉を鳴らしている。


「…これから、僕はどうしたらいいんだろう。」


 何もわからない。ここがどこなのか、自分が誰なのか、何ができるのか、これから何をしたらいいのか、どうしてここにいるのか、わからないことばかりだ。


 本棚の本のおかげでいくらかの知識はあるけど、知識を知っているだけではなにも意味がない。僕の指針にはなってくれない。


 この体のことだってそうだ。人間のつもりでいたのに、今ではすっかり機械の体だ。すごく泣きたいような気持なのに、涙は流れない。涙などこの体には必要ないのだろう。僕は、なんなんだ。


 頼りになるものも力も人もなく、ただ世界に放り出されているという心細い想いが胸を締め付ける。


「僕は、生きていけるんだろうか。」


 朝日を見つめながらそんな不安を抱くが、当然ながら誰も答えてはくれない。

 そんなときだった。太陽から小さな太陽が別れたのは。


「え?」


 それは赤い光だった。強く輝きを放ち、この場からは遠い山の上を飛んでいるであろうに強い存在感を感じさせる。


「フェニックスだ…」


 不死鳥フェニックス。図鑑に載っていたが、その輝きは想像以上だった。よく見ると、その美しさがわかる。力強く羽ばたくたびに動く翼の羽、風を受けて流れる尾羽の輝き、赫々と燃え盛る炎を思わせる冠羽。どれもが胸を熱くさせる。


 クウォー、クウォー、クウォー。


 フェニックスが高らかに鳴き声を上げた。山々に響くその鳴き声は、夜の闇を払い、眠っていた者たちの目を覚まさせるような力があった。そのとき、胸に一つの感情が強く沸き上がった。


 生きたい。


 生きたい。とにかく生きたい。なんでもいい。何もわからなくてもいい。


 自分が何かとか、何のために異いているのかとか、そういった疑問が生きることに比べたらどうでもいいもののように思えた。

 とにかく生きていたい。生きて、自分の生命を、人生を誇りに思いたい。そう、思った。


「はは、ははは…。」


 そうだ、図鑑に載っていたものとか実際に見に行きたい。

 あの、フェニックスのような美しいものがまだ見れるかもしれない。僕の知らないものがまだまだある。それを見に行きたい。知識が役に立たないなら、役に立つ知恵になるように経験しに行けばいいじゃないか。なんでこんな簡単なことが思い浮かばなかったんだろう。


「ふふふ、ふはは、あははっははっはっははは!」


 知らないことがあるなら知るために、わからないことがあるならわかるように、まだ見ぬ世界があるなら見に行こう。

 

 僕は何も知らない。だから、何もかもを知るために生きよう。大丈夫、生きていれば何とかなるだろう。

 もう、心細い感情や寂しさや不安はなかった。あるのは好奇心や探求心ばかりだった。僕は、この世界を知るために、自分の出自を知るために、冒険に出ることを決めた。








丁度良いテンポで話を進めるのって難しいですね。

今まで読んできた作品の作者さんのすごさを実感。


もしよろしければ、応援やダメ出しをお願いします。

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