3 木炭うめぇ
禿げてるわー。これは禿げてるわー。水面で見たときには顔のインパクトが強くて頭に気が生えてるとか気にしてなかったけど、つるっぱげだ。
自分が機械である以上は、毛は生えないだろうからな。カツラか帽子被るかだなぁ。
禿を指摘する人もいないと思うけど、なんとなく気になる。いや、そもそも人を探さなきゃか。そういえば、全裸のままだし服探さなくちゃだなぁ。
もし、他の運動能力が今の跳躍力並みだったら、この部屋じゃ計るのに狭すぎる。とりあえず、運動能力の測定はまた後でしよう。
部屋を離れる前に部屋を調べよう。部屋には机や本棚があるし、なにか見つかるかもしれない。
*****
「ふう…こんなもんかな。」
部屋全体を調べてみて出てきたのは、空の布袋、数十枚の銅貨の詰まった革袋、インクが乾いて使えない筆記具に羊皮紙と植物紙、使い道の分からない薬の詰まった瓶が数本、幾つかの黒い板の入った箱、手のひらより大きなぜんまいねじ、研究道具だと思われる器具と工具、あとは本棚にあった大量の本だけだ。
使い道のありそうなものはほとんどないな。
本はまだ読んでいないけど、どんなものがあるのだろう。
手近な本をいくつか手に取り、埃を払いながら革表紙を見ていくと、『時計仕掛けの人形 絡繰人形』と書いてある本を見つけた。
「絡繰人形…」
僕は、引き付けられるようにしてその表紙をめくり、読み進めた。読んでも理解できないことばかりであったが、おそらくは自分のこの体に関係することだと思うと次々に読むことができた。
自分の体が人間ではなく機械のものになっていた、という事実は自分でも気づかないうちにストレスとなっていたのかもしれない。それを解消しようと情報が欲しかった。
『絡繰人形とは、特殊なゴーレムの一種である。通常のゴーレムと違い、機関を用いることで活動速度を飛躍的に高めたものだ。発条核に蓄えられた魔力を糧に体を動かしている。』
『魔力の供給は、魔力を持つものがぜんまいネジを回すことでなされる。中には、魔力と同時に蒸気機関を併用して動くハイブリッド式のものもある。』
『絡繰人形には多くの機巧部品が用いられており、・・・』
そこからは、ずっと読書だった。『時計仕掛けの人形 絡繰人形』に出てきた理解できない単語を理解するために次の本を読む。またその本に出てきた理解できない説明を理解するために別の本を読む。むさぼるように読むことでどんどんと知識が頭に入っていった。
「ふむ、精霊で世界はできていて…、魔法には魔力が必要で…」
ペラペラ
「ほぉ、魔導金属というものがあるのか。じゃあこの体ももしかして…?」
ペラペラペラペラ
「あれ?霊水蒸気圧の計算式ってなんだっけ?」
ペラペラペラペラペラペラ・・・
「ふぅ。これで最後か。多かったなぁ。」
部屋にあった本棚1つ分と机に置いてあった数冊を読み終えた。おそらく、十数時間はたったのだろうが、昼夜がわからない部屋であることと疲れを感じず眠気も感じなかったためにずっと読み続けることができた。
何冊かの本は、中身がかすれて読めなくなっていたり破られていたりしたために読めないものもあったがおおよその本は完全なままであった。
そして、本を読み切ったことで分かったことがいくつもある。この世界の生物学や地質学、天文学、博物学、考古学、人類学、呪薬学、いくつかの言語と呪文文字の読み書き、精霊工学、機械工学、霊水蒸気機関、錬金術、などなどの様々な知識を手に入れることができた。
まぁ、頭に情報としての知識が入っただけの丸暗記だからどこまで役に立つのかわからないものばかりだけど、ないよりはずっといいだろう。
「僕の体に関することも分かったし」
大量の本の合間に数枚のメモの紙片があった。それらは全て僕の体の絡繰人形の機能が示されていた。走り書き程度であまり詳しくは書かれていないけど、何もないよりいい。
メモに書いてあることを少しづつ試したいところなんだけど、ちょっと問題がある。
「お腹減ってきた…。」
大した空腹感ではないけど、大切なのは空腹感を感じることだ。絡繰人形ってお腹がすくんだな。
「なに食えばいいんだろ。食べ物になりそうなものなんてないし、どうしよう。」
手元にある使い物になりそうにないものばかりなんだけどなぁ。
そのとき、ほのかに食欲を刺激するいい香りがしてきた。
「お?なんの匂いだろ?」
匂いのする方に本を避けながら近寄っていくと、そこには黒い板の入った箱があった。箱からは、甘く香ばしい匂いがしてきている。
「なんだろう、これは。さっきはこんなにいい匂いはしてなかったのだけど。」
箱から一枚の黒い板を取り出す。するといっそうに匂いは強くなり、匂いが黒い板からすることがわかった。
(ごくん…。)
恐る恐る黒い板に顔を近づけて、板を少しかじってみる。
「甘い!うんまっ!!」
黒い板は、ホワイトチョコレートのようなまろやかで強い甘みがあった。食感はバリバリという音を立てていてまるでチョコレートらしくないけど、味は確かにホワイトチョコレートだ。
「なんで甘いんだ?もしかしてコレ、木炭、なのか?」
さっき調べた本とメモによると、僕の体は魔力だけでなく霊水圧縮蒸気機関を用いたハイブリッド式で動くものらしい。魔力で動く絡繰人形は魔力による供給がないと動かないけど、ハイブリッド式の場合はエネルギー源になるものを食べることで自力で動くことができる。
「エネルギー源って、『生き物の食料である必要はなく、体内の蒸気炉の燃料となるなら何でも良い』って書いてあったけど、まさかこんなものがおいしく感じるとは。」
木炭がホワイトチョコレートの味になるってことは、石炭とか油とかの他の燃料はどんな味がするんだろう。ちょっと楽しみだな。ほかにも金属なんかも食べることで体を治すことができるらしいし、それも楽しみだな。
「むぐむぐ…。ん、よし、これくらいにしておこう。」
箱に入っていた木炭バーの四分の一ほど食べたあたりでやめる。まだ食べられるけど、空腹感も収まったし、まだ他の食料も見つかってないし残しておこう。
さて、機能のチェックの続きをしましょうか。
「まずは、〈ライト〉!!」
すると、額のあたりからカシャカシャという音がして懐中電灯が出すような光線が放たれた。光の強弱と光線の太さは変えられるようだった。この部屋にも照明はあるけど、薄暗いし、ドアの外も暗いかもしれないから、この機能は助かる。
でも、額が光るというのは、その、ちょっとなぁ。必ず何か被っておこう。
「次は、そうだな、〈ズーム〉!」
今度の機能は、目をよくするものだ。遠くの景色がよく見えるようになるものだが、この部屋ではあまり意味がないな。倍率を変えて、顕微鏡のように近くの物を拡大してみることもできるみたいだ。手元の本の埃がよく見える。まぁ、意味はないけど。
「次、〈撮影〉」
視界の隅が赤く染まり、今見えているものが鮮明に記憶に残っていくのを感じる。一度機能を切って目を閉じて思い出すと、同じように見ているかのように目の裏に映る。これは便利だ。さっき本を読んでいた時にも視界の隅が赤くなっていたような気がするから、無意識に使っていたのかもしれない。集中することでも起動するのかも。
「じゃあ、これも似た機能かな。〈集音〉〈録音〉!」
聞こえる音がクリアになると同時にネジ耳のあたりがじんわりと温かいような感じがする。聞こえるのは虫の羽音くらいだけなので、あえて歩き回ったり床を蹴ったりして音を立ててみる。そして、機能を切って思い出すと、〈撮影〉のときと同じように今聞こえているかのように聞こえている。ただ、思い返して聞いている間は外の音が聞こえないらしいが、音が重ならないためにだろう。
「すごいな、記憶力は完璧じゃないか」
これがあれば、物忘れなんかの心配もないだろう。今までの記憶は失った僕だけど、これからの記憶はなくさないで済みそうだ。
なんだかgdgdですが許してください。
そのうち修正します。