13 中庭
組合を出た後、ホルヘについてホルヘの部屋に行った。
そこから三日間は、ホルヘの家事の手伝いやご近所さんへの挨拶なんかを行い過ごした。
そして試験を受ける日の朝。
「大丈夫か?忘れ物ないか?」
「ああ大丈夫だよホルヘ。忘れるほどの荷物もないから。」
「そうだけど、こういうのは心配になんだろ。
・・・試験はそう難しいものじゃない。冒険者を目指す奴の中には読み書きのできない奴だっているからな。だから筆記試験の心配はしなくていいんだ。問題は実技。冒険者として活かせる技術があるかないかで決まるからな。」
「わかったって。昨日の夜からなんども聞いたよ。」
「そうか、そうだな。んじゃ、がんばって来いよ!」
「うん!」
活気ある町の人々をかき分けながら組合を目指していく。
この三日間で気づいたが、この町にはいろんな人種の人がいるようだ。
特徴がないことが特徴のようなヒューマン。耳が長くすらっとしているエルフ。背が低くがっしりとしたドワーフ。同じように背が低いが細い体躯で耳の大きいハーフリング。
肌の色、目の色、髪の色。どこを見ても様々でとてもカラフルだ。
「おいおい、オートマタだぞ。」
「お、ほんとだ。珍しいな。」
でも一番珍しいのは絡繰人形の僕なようだ。
注目されてチラチラ見られているのを感じる。
とっとと冒険者組合に行こう。
*****
「こんにちは、ビクトリアさん。」
「いらっしゃいませ、ルイスさん。」
木製の扉を開いて中に入り受付で姿勢よく座っていたビクトリアさんに話しかけた。
組合の中は変わらず賑やかで人の話す声で満ちている。
うう、緊張する。
「徒弟の試験を受けに来たのですが。」
「ええ。分かっています。こちらへどうぞ。」
受付から立って歩きだし建物の奥の扉へと案内されると、扉の向こうは外になっていた。
「ここは?」
「ギルドの中庭です。なかなかの広さでしょう?」
通された庭は、公園かと思うほどの広さがあった。
手入れの行き届いているようではないが、雑草なんかは踏みしめられた茶色い土で生えにくくなっているようで、一部に点々と生えているだけだ。
庭の隅には井戸があり、その脇には木偶がいくつか積み上げられていた。
そんな庭の中に数十人の人がばらばらといた。
さっき組合のなかで見た人々に比べるときれいで真新しい装備を着た人が多い。
「こちらで少しお待ちください。」
そういうとビクトリアさんは来た扉から戻ってしまった。
「さて」
これからどうしようか。ぱらぱらいる人たちが明らかにこっちを見ているし、その目は値踏みするようであまり気持ちのいいものじゃない。
どこに行っても僕はマイナーだなぁ。
「よぉ!お前珍しい奴だな!誰の命令で来たんだ?」
溜息をついたところで前から話しかける声があった。
「えっと、誰の命令でもないですけど。」
「え?ゴーレムなのに命令なしなのか?」
理解できないという顔をして前に立っていたのは、金髪碧眼の小人の少年だった。
金髪は後ろに括って小さな尾をつくっており、碧い眼は好奇心に満ちていた。耳には銀色のピアスをはめている。
弟系のイケメンって感じの印象だな。
「そうですね。保護者はいますけど主人みたいなのはいませんね。」
「ほーん珍しいやつだな。ゴーレムは手の込んだもんになると自立すんのか。」
少年は少し使い込まれた革鎧、指ぬき手袋、編み靴を身に着けていた。
「あ、自己紹介がまだだったな。俺はスナーク。冒険では斥候や野伏を担当するつもりだ。得物はナイフと鞭だけど、あんまり戦いは得意じゃないんでよろしくな。」
「よろしく。僕の名前は、ルイス、です。冒険でのポジションは決めてなくて、武器はこの二丁の拳銃とこの歩兵銃です。」
「ルイスね、覚えたぜ。お近づきのしるしにこれやるよ。食えるか?」
スナークは、ウエストポーチからスモモのような果実を渡してくれた。
「これは?」
「ん?知らないか。ミキルーンって果物だよ。甘酸っぱくてうまいぜ。しかも魔力を回復する効果付きだ。」
「へー、魔力回復するんだ。」
どれどれ〈魔力感知〉起動、っと。
お、確かに魔力が多く感じられるな。
「いいのか、魔力が回復する食べ物なんて譲って。」
「いいのいいの。俺も今朝果物屋のおっちゃんにもらったものだから。」
スナークはそういうと赤紫の果実にかぶりついた。
せっかくの厚意だ。いただいておこう。
もぐっ。
「お、甘くておいしい。」
「そうだろう?うまいんだよこれ。」
〈報告。補給した素材から魔力を感知。蓄積魔力の上限を超えるため放棄します。〉
〈魔力残量100%。〉
あらら。魔力の上限を超えちゃったか。
「うん。美味しかったよ、ありがとう。」
「そいつは良かった。」
僕とスナークがミキルーンの味の感想や干したミキルーンもあることなんて話をしていたら、受付に繋がる扉が開いてメガネをかけた魅力的な若い女性が入ってきた。
「みなさん、集まってください。」




