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   完


 あの一件以来、俺の生活は変わって言った。

 とにかく、色んな奴等に乗っ取られ、日増しに酷くなっていった。

 暴力的な霊は所構わず、俺を支配し暴れるもんだから、教室内にも俺の異常さがどんどん浸透していった。


「ノーマル!」


 教壇の前にたって千鶴ちゃんが、ノーマルと生徒達に伝える。

 これは千鶴ちゃんが日々の俺の状態を、生徒達に教える事を約束したからだ。

 まぁ、それまでにクラスの皆に俺の特異体質を洗いざらい話した事により、真相を知った皆が、日々の俺の様子を彼女の千鶴ちゃんに公表する事を頼んだという経緯がある。

 要はもう俺はクラスでは、とても厄介な存在として認知されていた。

 そして――霊に取り付かれまくった後の俺は……とにかく眠いんだ。


「眠い〜」


 クラスのやっかいものだが、霊が取り付いていない俺はつまりノーマルな状態で、机で寝そべってる間は、生徒達に安息がもたらされる。

 俺は押しつぶされるような眠気の中、一人孤独に考えていた。

 今の状態ははっきり言って酷すぎる……これを解消するには、千鶴ちゃんと別れるしかないと雅ちゃんは言った。

 しかし、俺の愛は不変だ。こんな事で――負けてなるもんか。

 意気込んで立ち上がってみると、生徒達がぎょっとした目でこちらを見た。

 俺は廊下の外へすごすご歩いていく。

 部屋を出た後は、突然また騒がしくなったのが分かる。

 それだけ俺を恐怖しているんだ。


「寝る雄さん!」


「ん?」


 猫背で力なく歩いていると、雅ちゃんが明るい顔で俺に話しかけてきた。


「いい方法見つけました!」


「は?」


「千鶴さんと別れなくても、霊体質を直す方法です!」


 俺は立ち止まった。そして彼女の両肩を揺すっていた。失礼なのは承知だが、もう心の衝動が外部へと漏れて止まらなかった。


「ほんとかよ! まじで! どうすんの!」


「こっち来て下さい」


 雅ちゃんに手を引張られ、人気のない廊下まで上がってきた。

 走ったせいで多少息がきれていた。

 だけど、そんな事はどうでもいい、どうしたら……


「いいですか、千鶴さんはとても霊力の強い人です。あなたは彼女と縁という糸で結ばれたために、霊感体質が酷くなりました」


「うんうん、それで?」


「それなら、こうするんです!」


 雅ちゃんが……今俺の唇にキスをしている。到底あってはならない事だ。

 だけど、頭がくらくらする。顔が熱気を伴って火照る。彼女の顔も真っ赤だ。

 熱いキスが交わされ、しばらくした後――


「はい、終わり!」


 彼女はさっと唇を話して快活に言った。

 俺は咄嗟にキスを奪われ、更に混乱気味の頭でどう言って良いか分からなかった。

 これは一体何なんだったんだ……


「これで、あなたの千鶴さんとの縁は、私との縁と衝突し相殺される事により弱まりました」


「ど、どういうこと?」


「つまりですね、私はあなたにキスをすることにより、あなたとの縁を多少なりとも強めました。それにより、霊力が強い私の縁、千鶴さんとの元々の縁が寝る雄さんの体内でぶつかり合い、その相殺効果で霊を呼び寄せる力を失わせたんです」


「なんかよく分からないけど、ひょっとして俺?」


「そうです! 治りました。完治です!」


 俺がそれでも喜びを表さないのは、浮気めいた事をしてしまったせいだ。

 だが彼女はそれも分かっていたとばかりに、


「大丈夫です、このことは私の心の深くにしまって置きます」


 彼女は顔を赤らめ、静かに目を瞑る。俺もそう言われて、はいそうですかとは言えない。

 だって彼女のファーストキスを、好きでもない俺に奪われてしまったようなもんなんだから。

 責任感じちゃうよ。


「気にしないでください。私も寝る雄さんの事嫌いじゃないから……」


「ええ? どういうこと?」


「千鶴さんへの優しさ、一途な愛を見ていて、なんだか私あなたを見る目が変わりました、それに……」


 彼女は一呼吸置いて、また恥ずかしそうに話す。


「あなたの非人間的魅力が気に入りました。霊に好かれるあなたは、きっと人間的にも素晴らしい人なんだと思います。で、でも勘違いしないでください。これは私の奥深くにしまって置きます。片思いとして……」


 ええ〜〜、そんなん言われても〜、なんか告白されてるし。俺は一体……

 雅ちゃんは踵を返すと、


「じゃ〜、千鶴さんと頑張ってくださいね〜影から応援しています〜〜失礼します」


 雅ちゃんは爽やかな笑顔を向けて、お辞儀をして去って行った。

 俺はその場で呆然と――しなかった。教室に走っていた。


「千鶴ちゃん〜! 俺治ったよー!」


 俊敏な動きをする俺に、生徒達は奇異な眼差しを送ってくる。

 しかし、どうでもいいんだ。そんな事は。


「えぇ、確かに幽霊消えてるけど、どうやって?」


 言葉に詰まる。雅ちゃんのことは口が裂けても言えない。

 だけど、それは言葉に出さなくても、時が解決してくれるだろう。


「ちょっとしたお呪いかけてもらったのさ」


「え、誰に?」


「通りすがりの凄腕敏腕霊能力者にね!」


「はぁ? そんな奴どこにいんのよ〜」


「通りすがりだから、もうどっか行っちゃったよ!」


「おしえんかー!」


「いつかね〜!」


 最初は雅ちゃんの事も気になったけど、彼女とはあれ以来、笑顔で挨拶するものの、まともに話す事はしなくなった。

 それは彼女が俺を気遣って、距離を置いてくれているせいかもしれない。

 数ヵ月後には生徒達も俺が変身しなくなり、時が経つに連れて今までの事は風化していった。

 しかし、千鶴ちゃんとの愛はそれに反比例して、これから深く深くお互いを知っていくことになる。あぁ、これで良かったのかな?――まぁいっか。



                   END







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