表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/30

過去編、決意。

「あれ、寝る雄、幽霊きえてるじゃん」


 俺が教室へ戻って自分の席につくと、千鶴ちゃんが近付いてきて、細い目を少しばかり見開いて言った。

 うーん、なんて言おうか。取りあえず知らない振りで行こう。


「え! 本当? まじかよ!」


「うん、全部消えてるよ、私もびっくりしたよ」


 すくっと立ち上がって、多少オーバーアクション気味に驚いて見せる。

 しかし、内心複雑だ…… 机の上に置いた手に虚ろな視線を置いたまま、俺は黙っていた。千鶴ちゃんは俺を一周しながら、あらゆる角度から何かを調べている。急に幽霊が全部いなくなって、どうもそれが、不思議で仕方ないといった様子だ。


「まぁ、良くわかんないけど、良かったじゃん!」


 いきなり背中をぱ〜んと乾いた音を立てて軽く叩かれる。


「はは、良かった良かった〜! はは……」


 愛想笑いというか、力ない笑いを搾り出す。おっと、千鶴ちゃんは鋭いから、もう少し元気良く笑わないと、気づかれちまうぞ。腹から声を出せ寝る雄!


「ハーーーーハハハ!」


 ちょっとでか過ぎた。余計不審がってるよ。千鶴ちゃんが顎に指を当てて、覗き込んでるってば……





「The king has the illusion that he is the greatest in the world……」


 英語の授業が始っていた。赤城香先生様だ。

 本もノートも開いているし、意識もはっきりしているけど、何も俺の耳には届かない。

 ただ、さっきの雅ちゃんの言葉がずっと頭の中でぐるぐると回っていた。

 あの子の力は、俺の霊を払った功績から言っても本物に違いない。千鶴ちゃんが俺を見て幽霊が完全に祓われてると言った事で、更にそれは確信へと変わった。

 雅ちゃんは本物だ。その雅ちゃんが俺に間接的にだけど、親密な霊感の強い人、つまり千鶴ちゃんと別れれば、今のややこしい霊感体質は解消されるだろうと言ったんだ。しかし、そんな事できる訳ないんだ。だってこれからだよ? これから〜〜〜〜〜って時に何でそんな事できるんだよ。でも、放って置いたら、また幽霊に支配される時がくる。どうしたらいいんだ。

 幽霊に支配されながらも、彼女と付き合うか? ――それも愛の一つか?

 そうだよな。こんな事でせっかく温まり始めた関係を、無に帰してなるものか…… 俺は幽霊に屈しない! 決めたぞ! 俺はどんな幽霊の妨害も撥ね退け、千鶴ちゃんと生きていく!


「寝る雄君? どうしたの?」


 俺は心の中で意気込んでいるうちに、いつの間にかテーブルに両手をついて立ち尽くしていた。

「あ、すみません、目が悪いもんだからつい」


「ごめんね、もう少し大きめに書くから」


「はい……」


 いや、ノートは真白だった。途端に黒板に書かれている英語を、丸写しし始める。

 そうだ、俺は彼女を愛している。こんな事で俺の大事な女神を絶対に捨てたりするものか!

 シャーペンを握る手に力入りまくりで、ぽきぽき折りながらも、直ぐに連打して書きなぐる。今日の俺は違うぜ! 逆境での愛に俺の心は燃え盛っているんだ。


「はい、今日はこれまで、ちゃんと予習しておいてね」


「きり〜つ、れい、着席〜!」


 俺は授業が終ると、凛とした表情で背筋を伸ばし、千鶴ちゃんの席へと近付いていく。

 間近までくると彼女の前に陣取り、上からきりりとした目つきで見下ろした。

 

「寝る雄どうした?」


「ふ……いや……ちょっと外の涼風に辺りに行かないか?」


「いいけど」


 千鶴ちゃんは俺の普段見せない表情に、困惑気味というか、何か悪いものでも食べたのか?っと言った表情を浮かべている。

 




「気持ちいいね〜」


「うん……」


 俺たちはさっきキスをした場所で、また二人して窓から顔を出して話し込んでいた。

 眼下に見える細い路地、その上のなだらかな斜面に木々や草花が所狭しと生えている。

 この学校は山に隣接して作られている。だからって田舎ってわけでもない。ただ、そういった環境にあるため、外に漂う空気はとても新鮮で、木々の爽やかな香りが心地よく感じられる。この誰も来ない場所で恋人同士として肩を並べて話せる幸せ……至福の時です。


「千鶴ちゃん、可愛いよね」


「何よいきなり!」


 彼女は頬を赤くして、照れてるようにも見える。冷めた細い目がそれを顕著には、感じさせ無いんだけど、声色から彼女の気持ちが分かるようになって来た。進歩だ……着実に俺たちは分かり合えるようになって来ている。

 

「ねね、千鶴ちゃん、家にいる時何してるの?」


「ん? 今はえーっと、呪い返しの研究かな?」


 ははは、可愛い趣味して、――……聞かなきゃ良かった。

 気を取り直して、俺が何かを言おうとした時、どうも俺が聞いたことで、彼女のオカルト熱を刺激してしまったらしい。俺が口を開く前に、話しはじめる。


「そういや、この間実験的に兄貴の髪抜いて、それを藁人形に入れて、五寸釘で部屋の壁に打ち付けたんだよ。普通は丑の刻に神社の裏手の木に打つもんなんだけどさ、案外家でやっても霊感あればいけるらしくってね!」


「うんうん……」


 俺は引きつった笑みで相槌を打つも、身震いする思いだった。兄貴に普通打つか〜……


「寝る間際に心臓がちくちくして〜とか言って、調子悪そうだった!」


 怖い話をしながら無邪気に微笑む千鶴ちゃん。まぁ、彼女の趣味だし、そんなこともあってもいいよな〜とは思いながらも、兄貴に同情してしまう。

 う〜ん、髪の毛は抜かれないようにしないと……と思わず髪を撫でる。

 ――しかし……こんな雰囲気は、嫌だ〜〜〜〜〜! 違うんだ〜! こんな陰気な事を話すために、ここへ来た訳じゃないんだ。もっと穏やかで甘い話をするために来たんだよ! 話題転換を図るぞ。


「ねね、千鶴ちゃん、キスしよ!」


「ん? さっきので足りなかったの? 仕方ないなぁ……」


 熱い熱いオカルト話を切るには、これくらい刺激的な内容じゃなきゃまず無理だ。

 今度ばかりは、さすがに顔を赤らめているのが俺にも分かる。

 唇と唇が接近し始める。千鶴ちゃんの肩に優しく手を回す。さぁ――って時に後ろから声がしたんだ。


「あ、すみません」


 俺は反射的に千鶴ちゃんの肩を掴み、キスを一時的に中断した。

 声のする方へ視線を向けると、

 

「あ、あなたは!」


「へ?」


「や、やぁ……新宮さん……」


 そこには雅ちゃんが立ち尽くしていた。何か重そうな荷物を運んでいる途中らしい。

 し、しかし、なんというバッドタイミング……

 なんて言おう…… 俺の頭の中で様々ないい訳が駆け巡る。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ