過去編、衝撃の事実?
「あのー」
「は、はい?」
メガネ娘に声掛けたぞ、何言うつもりだ?
両手を胸元でもじもじさせやがって……
女の子、困ってるじゃないか、さっさと何か言えよ。
「あなた!」
「え?」
彼女が目を大きくして突然大きな声を放ち、指をさしてきた。タイプ3もビックリしたようで、鼓動が早鐘のように鳴っているよ。
「ちょっと、あの、こちらへ来てもらえますか?」
「え?」
女の子がタイプ3の手を引っ張り、薄暗い人気のない廊下に連れていくんですが、普通逆じゃない? と思いながらも俺はどうする事もできないし、タイプ3は手を惹かれるまま、付いて行くよ。なんだか俺まで、ドキドキするじゃないか……
「えーっと、祓いますね」
ん? どういう事?
俺には意味が分からないが、タイプ3も分からないようで、女の子の様子をまじまじと見つめていた。女の子はタイプ3に向かい合って、神妙な顔で突然――右人差し指と中指だけ揃えて伸ばし、俺に向って宙に左から右に横線を引いたかと思うと、
「臨!」
と唱えた後、更にその横線の左側に重なるように上から下へ縦線を描いて、
「兵!」
「闘! 者! 皆! 陳! 列! 在! 前!」
更にまた最初の横線のすぐ下に新たな横線、縦線の右横に新たな縦線と、一つ一つ線を引く際に唱えながら、格子が宙に描かれる。最後に彼女が前! といい終えると、気のせいか俺の体が軽くなった気がしたんだ。
そして――
「あなたに取り付いてた霊、全部払いましたよ」
「ええ?」
思わず俺が発した言葉が、そのまま外に漏れる。え? 俺自力でしゃべれてる? あれ? いつの間にか支配が解けてる! ええ……どうなってんだ?
「九字護身法を施しました、一時的ですが、あなたの霊は取り払えました」
ええ!? マジ? 今さっきの訳分からないので、俺に憑いている霊全部払ったの?
霊媒師ですか、あなたは……彼女は手をスカートの辺りでそろえると、にっこり上品な笑みを浮かべた。
俺はタイプ3が話しかけたおかげで、偶然彼女と出くわしたんだけど、その彼女が俺の幽霊を祓ってくれたらしい。とってもミラクルな展開に、どう言ったら良いか分からない。
だけど、なんかとってもこの子の事が気になってしまって、いや……浮気とかじゃないよ? ただ、霊を祓ったって言うんだから、興味普通湧くよね? 詳細聞いてみたくなってしまったんだ。
「あの、少しお話しませんか?」
俺から声を掛けてしまった。すると、彼女は快く笑顔で首を縦に振った。
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「あの、あなたのお名前聞いていいですか?」
「新宮雅と言います」
「僕は寝る雄です、よろしく」
笑顔でお互い自己紹介を交わした。
雅ちゃんか、しかし、よくよく間近で顔を見ると、可愛いよな〜……色白でメガネ娘で笑顔が素敵で――って俺には千鶴ちゃんがいるんだ! そんなんで呼び止めた訳じゃないんだ!
霊の事もっと聞くために声を掛けたんだよ。下心なんか微塵もないよ!
「あの〜、さっき払ったって言いましたよね」
「はい、あなたについていた五体の幽霊を除霊致しました」
「あなたは一体? なぜそんな事ができるんですか?」
「私の家は霊感が強い家系で、今の九字を使えば大抵払えますね、ですが……」
彼女は少し視線を下に逸らし、何か言いにくそうにしている。
ですがっ何? 気になる、早く言って……
「あなたは霊を呼びやすく、そして取り付き易い体質なので、今回祓いましたが、またすぐに近々霊に……」
ええ……そんなの困るよ、せっかく祓ってもらったのに……
「何とかならないですか?」
会ったばかりだけど、もう縋り付ける人はこの人しかいないと思って、無理にでも聞いてみる。だって、俺もうやだよ! こんなの辛いし。
「えーっと、答えになるか分からないですが……私の考えでは……」
彼女はまた言いづらそうに言葉に詰まりながらも、俺の訴えるような眼差しに促されるように、言葉を紡ぎ始める。
「あなたは、元々そんな体質じゃなかったはずです……、あなたの傍に居る、誰か霊感の強い親密な人の影響を受けて、呼び寄せる体質が目覚めてしまったんだと思います。だから、その、あの……」
そこまで言ったんだから、あと少しきっちり語ってくださいよ〜。彼女はまた視線を降ろして口ごもるが、開き直ったのか、俺の目を見て話し始めたんだ。
「だから、その、本当に私的な意見なんで恐縮なんですが、たぶん、親密な人、つまり親族の方……うーん、これは無いかな。あなたを見る限り、最近その力に覚醒された後がありますから。だから、最近、親密になった友達か彼女、どちらか分かりませんが、その方との縁を切ることが最良かと思います……」
友達ってったって、博は最近じゃないよな。ずっと昔っからだし。
てことは――最近、親密になった霊感の強い人って、まさか……千鶴ちゃん?
千鶴ちゃんと別れないと、この霊感体質治らないって事!? そんな事出来るわけ……
俺がその場で呆然としていると、彼女は悲哀に満ちた眼で俺を見つめて、
「辛いのは分かります……あ、また何かあったら私にいつでも相談してくださいね、お力になります。二年C組みにいますから。でわ授業始りますので、失礼致します」
俺の前でにっこり笑みを浮かべて、お辞儀すると少し小走りで教室へ入っていった。
取り残された俺はしばらく、どうしていいか分からず、その場で立ち尽くしていた。




