表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/30

過去編、新たな……。

「ど、どうしたの?」


「……ここじゃ話せない」


「じゃ、移動しよっか」


「うん」


 千鶴ちゃんは立ち上がると、肩をいからせながら、俊敏な動きで生徒達の間を縫って歩く。

 俺は股間に両手を揃えて、猫背気味にその後を追った。

 いや〜、なんかいつもより歩き方に無駄が無いね。

 最短距離を進むあれは、アサシンかスリかとも思える足裁きだ。

 怒ると動きが鋭くなるんだな、とりあえず彼女の癖発見だ〜。

 とか――言ってる場合じゃないよ! 早いよずんずんと!


「待って〜……」


 俺は千鶴ちゃんに追いつくと、3階の理科室を右に曲がった細い廊下に行こうと進言した。

 ここ穴場なんだよ、いつでも人がいないんだ。こういう場所を確保するって事は結構重要でね。ちょっとした内緒話とかする時とかにいいんだよ。

 博が極秘に手に入れたHなDVDの受け渡し場所としても重宝している。


「このへんで話そう」


 俺が場所を指差すと千鶴ちゃんは頷いて、廊下の窓に近付きスライドさせて空けた。

 窓の桟にもたれかかり、顔を少し外に出すと、眼下の校舎裏の細い道に視線を流していた。

 表情見分けるの難しい娘なんだけど、さっきまでの憤怒の形相は幾分、外の空気を吸って、和らいでいるようにも見える気が。

 さて、なんて声をかけよう……取りあえず、


「千鶴ちゃん、何かあったの?」


 俺が気さくに声をかけると、窓から出していた顔を引っ込めて、俺のほうに暗い影を孕んだ顔を向けた。

 まだ和らいでいなかった……彼女はその顔を向けたまま押し黙っている。

 この重い沈黙は……と千鶴ちゃんの威圧感に押され、右足を半歩後ろに引いた時――


「寝る雄君〜、聞いてよ〜ママったら、ママッたら〜」


 失われたあの顔で、俺の胸に顔を擦りつけながら、ぶりぶりモードで話し出した。

 ちょ、めちゃめちゃ可愛いし、この胸に当たる小さな頭がとっても愛らしくて、頭を後ろから柔らかく抱きたくなるんだけど……なぜ今これに変身するの?


「あのね、ママったらね、この洗練された私の演技がね、駄目だって言うの!」


 彼女は俺の胸に内側に柔らかく握った両拳を置いて、顔を上げて言った。

 涙の粒を目尻に溜め、丸顔の愛らしい円らな瞳を真直ぐ俺の目に向けてくる。

 かわいい……な、なんてかわいいんだ、

 その無垢で愛らしい生き物を目の前にして、俺の何かが音を立てて崩れ始める。

 

「千鶴ちゃん〜〜〜」


 もう理性というものが吹っ飛んだね。

 がばっと両手を横に開いて彼女の体を抱きこむと、口を尖らせて可愛らしい唇に突撃させたんだ。

 そしたら――


「ここまで!」


 って聞こえたかと思うと、顎を右手で下から押し上げられた。

 だけど――もう俺の勢いは止まらなくって、その手を顎の力で押し戻し再度キスを迫る。

 しかし、彼女は押し返すことを突然やめると、後ろに体を引いた。当然、勢いがついているから、前のめりに体を倒すけど、それを千鶴ちゃんはさらっと体を横にして避けた。

 俺は勢い余って壁に額を打ち付けると、額を押さえながら顔をしかめていた。

 いててて……なに……今の流れるような体裁きは……合気道の使い手か?


「ほら、完璧、なにがいけないんだか」


 俺は額を撫でながら振り返ると、千鶴ちゃんが冷めた細い目で平然とそう述べた。


「寝る雄、今の私の演技良かったでしょ?」


「いっつあぱーふぇくと」


 親指を立てて、彼女の演技を褒め称えた。申し分ありません……

 そのままベッドに押し倒してもいいくらい……

 




「何だそんな事か〜、別にいいんじゃない? どうせ占い師になるんだし適当でさ」


「違うよ、霊媒師だよ、それに一応何ヶ月もあの顔を練習してきて、極めてたつもりだったから、悔しくってね」


「でも完璧だったよ、俺から見たら100点満点だよ」


 は〜〜〜、なんていうか長閑で、平和だなぁ。

 さっきまでの怒りがこの程度の理由だなんて。来る前はさ、俺に何か不満でもあるのかと思って冷や冷やしてたよ。

 さぁ、かえんべ、授業も始るし――と、安心しきって教室へ向けて踵を返すと、


「寝る雄君、もう一度良く私の顔みて」


「え? もういいって、何度見ても……」


 千鶴ちゃんが呼び止めてきて、タイプ2の顔を近づけてくる。

 う〜ん、どこがいけないんだろうな〜?

 俺は仕方ないからまじまじと覗き込み、敢て欠点らしい所を探していると――


「ちゅ〜〜〜〜」


 千鶴ちゃんが不意をついて、唇を俺の唇に重ねてきたんだ、というよりは吸い付いているというか。

 俺はまるで抵抗せずに、ただそれを受け入れていた。

 なんて柔らかいんだ……あぁ、生暖かい……幸せ……

 色んな思いが交錯しているが、全く纏まらなくて、そうしているうちにも、彼女の柔らかい唇がゆっくり離れていく。

 もう俺は茫然自失で、頬が少し赤らんだ彼女の顔を見つめていた。


「じゃ、先行くね〜」


 ちょっと俺はそれに反応が出来なかった。放心状態で思考が停止していたからだ。

 しかし――その思考の空白地帯が生まれた時、何者かが俺を侵食し始める。

 またあの猛烈な眠気が急に襲ってきたかと思うと、その重々しさに額を右手で押さえて、意識が遠のきはじめたんだ。

 

「………………」





「授業終ります〜、きり〜つ、れい、着席!」


 授業は終った、古典の授業は終ったんだけど――体は動いているんだけど、俺の意思で動かせないんだ。

 これは、あの現象と同じだ――俺は一度同じ経験をしているので、前よりは冷静にこの状態を、押し込められた場所から眺めていた。

 しかし、こいつ、まだ声を発していない。授業中、真面目にノートを取り、授業を聞いていただけだ。ま、授業中だし仕方無いんだけどね。

 ただ、雰囲気が前のタイプ2の時とは明らかに違う。クラスの女の子をちらちら見ている。

 まるで物色しているかのような目の動き、昔の俺のような飢えた眼差しできょろきょろしていた。

 これは――第2の幽霊が現れたんだろうか? 俺はそう思うと、しばらくこいつの動向を見守ることにした、いやそれしかできないんだけどね!

 椅子を引いて立ち上がるぞ。どこへ行くつもりだ?

 千鶴ちゃんとこか。


「千鶴ちゃん、元気?」


「ん? 元気だけど……」


 彼女も気づいているようで、どこか不審な目で俺を見ている。

 何か見えているのだろうか。


「そうか、それは良かった! じゃちょっとトイレ行ってくるね〜」


「はいな」


 千鶴ちゃんにたぶん笑顔で振り向いて、手を振ったよ。

 教室を出ると、振り返りながら何かに警戒をしているな。良く分からないが……

 あれ、急に走り出した、どこ行くつもりだ?

 ――あ、素早く廊下を右折した。その後、さっと壁際に張り付いて、顔を少し出して走ってきた廊下を探った後、何かに安堵したのか大きく息を吐いた。

 ここは――同じ学年の違うクラスの教室が連なるエリアだ。

 ん? 前から一人メガネをかけた、大人しそうな女子がとぼとぼ歩いてくる。

 その彼女を食い入るように見る『タイプ3』としておこうか。

 美肌、色白、優等生タイプ、三つ編み、メガネ、メガネ取ったらたぶん可愛い。(寝る雄スコープ)

 たまにクラスにいる、大人しくて無口な女の子ってかんじだろうか? 人見知りタイプ?(寝る雄、独断と偏見スコープ)

 そんな彼女に近付いていくぞ……

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ