過去編、嵐の前の静けさ。
AM7:00
ま〜〜〜たまた、朝を迎えました。
でも、今日も学校だけど、花金だよ。
明日は土曜日、うちの高校は休みだ。
あと一日頑張ろう。
さて、さて、昨日は、千鶴ちゃんと心霊会? じゃない、俺の悩みをこと細かく聞いてもらい、取りあえず、様子見をしようと言う事で結論がついたわけだ。
俺には5体の幽霊がついてるってさ。
いつ憑いたんだろう……大体彼女はいつから俺が飼っている幽霊に気がついてたんだろう?
残り4対はいつ出てくるんだ? 謎は深まるばかりだ。
いやそんな軽口叩いてる場合じゃない、俺そのうち精神壊れるよ。
昨日だって、寝れなかったんだから。幽霊とか駄目なんだよ。
あ〜〜〜でも考えても仕方が無い。嫌な事には蓋をして生きていこう。
朝から考える事じゃないしね。
さぁ、起きるべ。
――台所、7時15分
「寝る雄、最近学校うまく行ってるか?」
「うん、ノープロブレムだよ」
俺に珍しく朝の会話を投げかけてきた男がいた。
彼の名前は浩二。俺の父上だ。
短いオールバックの前方部の生え際に、白髪が薄っすら生えそろい、平べったい長方形のメガネをかけたごく普通の萎びたサラリーマン。
管理職で、残業は毎晩のようにあって、帰ってくるのは9時以降がザラのようで、疲れてるご様子。
その隣で慌しく飯を口に掻き込む母桃子、パートで月から土までスーパーのレジとして働いている。
更に俺の隣に雪乃。省略。
珍しく家族4人が朝から食卓を囲んでいた。
「おかーさん、もっとゆっくり食べたら?」
雪乃は眉を潜めて、母が玉子焼きを食べる時に食い散らす、テーブルに落ちた破片を拾いながら怪訝に言った。
「母さんはね、忙しいのよ、お上品になんか食べてられないの!」
パートに行くだけあって、それなりに頭は綺麗に纏まっており、化粧も万全なようだ。
時折、白い仮面にヒビが入ってる事があるが、それは敢て言わない。
殺されるからね。
しかし、なんでそんなに早食いなんだよ。
メタボになるぜ?
「父さん、俺も雪乃も相方いるんだぜ」
「こら! 兄ちゃん余計な事言わないでよ!」
俺は隠し事は嫌いなんで、千鶴ちゃんの事も博の事もついしゃべっちまった。
だが、失敗かな、雪乃が怒っている。
憤怒の形相で箸を止めて、睨んでいます。
「相方ってなんだ? お笑いでもやっとんのか?」
父上はメガネを拭きながら、ボケた返答をしてきた。
面倒臭いなぁ――って思っていたら、母上が、
「馬鹿ね! 寝る雄に彼女、雪乃に彼氏が出来たって言ってんのよ、父さんったら」
母は全く顔色一つ変えず、それについて淡々と語った。
さもありなん、と納得しているようだ。
だが、父上は、
「な、なんだと!! 寝る雄はともかく、雪乃に彼氏!?」
何で俺はともかくなんだよ、俺の事は気にならないのかよ?
ま、いいけど、ちょっと面白そうなので、二人の会話を聞いてみるか。
「あーもうーーお兄のせいだ」
また俺に顔を向けて睨んでくる。
ったく往生際の悪い奴だ。
トドメをさしてやる。
「こいつさ、俺の親友の博と付き合ってるんだよ」
「「なんだって!!」」
母と父が驚愕の声を同時に上げて、雪乃を一斉に見た。
博とは長い付き合いなので、子供の頃から父母はその存在を知っている。
しかし、リアクション大きいな。
「な、何、なんでそんなに驚いてるの?」
雪乃がその反応に少し目をきょどらせて言った。
目を丸くした父母の空間だけ凍っていたが、すぐに火炎放射でも浴びせたように通常の動きに戻ってそれぞれ、柔らかい口調で語り始める。
「ま〜、最初は驚いたけど、いいじゃない〜、博君か、いい子よ、あの子は。うんうん、いい選択したわね」
母は穏やかな表情で、何事もなかったようにご飯をついばむ。
「博君か……あの子は小さい時からしっかりしてたな、あの子なら雪乃を任せて大丈夫だな、母さん」
父も安堵を顔に滲ませ、笑顔で母に会話を振った。
「そうね、結婚はまだ早いけど、いずれね」
おいおい、もうそんな先まで博で納得してしまってるんかい!
「おっと、急がないと! 母さん出かけてくるよ!」
「待って! 父さんネクタイが曲がってる、それに一緒に行きましょ」
二人して何か臭い夫婦水入らずごっこやっていますが、敢てスルーして自分は飯を掻き込むと、立ち上がった。
その俺の顔を、雪乃がやっぱりまだ睨んでいて、
「余計な事を……」
と、眉を吊り上げながら低い声で言った。
怒るなよ、そんなに……
空気が淀み始めたので、仕方なく退散退散。
俺は背中に嫌な視線を浴びながらも、階段を上って自室に戻った。
#
「えーっと、全部揃ってるな」
俺は部屋を出るのが怖かった。
雪乃に四の五の説教浴びせられるかもしれないからだ。
あいつはああ見えて、一度根にもつと蛇のようにしつこい所がある。
アイツの干支がは蛇だからか? 関係ないか……
カバンは持った! 学生服は装備した! 後は玄関で靴を履いて外へ出るだけだ。
「3、2、1、GO-!」
俺は部屋のドアを勢い良く開けると、風を撒いて疾風の如く、廊下を駆け抜ける、階段を滑り降りる、あ、雪乃の怖い顔と擦れ違った、だが振り返らない。
玄関についた、靴を吐いた、ドアを開けて、閉めて鍵を閉めた。
「OK!」
脱出成功! 俺の予想通りだ、ゆっくりやってたら、あいつに捕まってたな。
さー学校へ行くぞ〜!
#
教室のドアの前までやって来ました。
さぁ深呼吸して〜吐いて〜開けますか。
いや、俺もう敵いないしな。
何もそんなに緊張する事ないんだよ。
堂々と入ろう。
ガラ〜ササササ!
ドアを横にスライドさせると、すり足、生徒達の間を縫って歩く。
自分の席が視界に入ったが、誰か座っている。
千鶴ちゃんか。
俺の机の上で、昨日の怪しい黒い本を読んでいる。
俯いて本に目をやり、口元が細く割れる様は、机の周りに独自の異空間を創り上げているかのようだ。
声がかけ辛い、まだ俺に気づいていないようだ、真ん前にいるというのに。
それほど彼女はあの本の内容に嵌っている。
思わず生唾を飲んでしまった。
この空間を切り裂く声を発して良いものだろうか?
いや、ここは俺の席だ。
権限は俺にある、行くぞ……
「やぁ、千鶴ちゃん! おはよ!」
気さくに朗らかに挨拶を投げかけた。
「ちっ、来たか……」
なに、その『ちっ』って……
俺に視線を合わせると、珍しくあの失われた笑顔を向けて、
「おはよう、寝る雄君!」
何なんだ! 何を企んでるんだ!
様子がどこかおかしい。その笑顔は封印したはずじゃ?
いや、今の地点で追及は辞めておこう。
「千鶴ちゃん、何か良く分からないけど、今日機嫌良さそうだね!」
追求はしないけど、取りあえず、明るい方向へと舵取りをば。
千鶴ちゃんは表情がみるみる崩れていく。
急変した。怖い、今の発言は失敗か。
その冷めた細い目はともかく、机に置いた右拳が震えているのはなぜ?
「寝る雄、あんたは鈍感だね、私の全てを飲み込むようなこの怒りの波動を見切れないとは、私の彼氏としてはマイナスだよ……」
うぇ、すっげー機嫌悪いじゃん。
何があったんだろう。俺のせい……って事はないよな?
普段さめた細い目は浮かべるけど、怒った所なんかまだ目にしたこと無かった。
だけど、今、目の前にいる千鶴ちゃんは、般若のような顔をして、憤怒を露にしている。
何があったんだろう……




