過去編、怪しい講義。
「幽霊っていうのは、何も意思を持って動いているわけじゃないんだよ」
千鶴ちゃんの怪しい講義が始まった。
選曲画面を消し去り、僅かに聞こえるのは俺の吐息と千鶴ちゃんの話す声だけだ。
話の途中、間を空けると、千鶴ちゃんが、氷をストローでかき回しグラスを手に取り嚥下する。
「それでさ、幽霊ってのは私が思うには残留思念であって、残りかす? 幽霊本人は既にあっちの世界に行ってしまってるんだけど、生きている間の感情は死んだ後もこの世に残る。そういったものがふわふわ魂と言う形態で残っていると思うわけだ」
更に深く息を吸って言葉を紡ぐ。
熱く熱く語っている。普段から考えられない饒舌ぶり。
こりゃ、嵌ってます。
さすが将来なりたい職業に関わる話だけあって、詳しいよ。
口を挟む暇がないので、俺はしばらく黙って聞いておくよ。
「で〜、たま〜にその残留思念の魂と波長が合う人がいてね。その思念はそういった人に吸い寄せられる傾向があるんだ。ただ横に寄り添うだけのもあるし、体の中に入り憑くものもある。寝る雄についているのは後者」
俺って霊が寄ってきやすいのか?
う〜ん、そう言えば、旅行から帰ると、体が異様に重かったり、肩がこったりするけど、憑かれてたのかな?
そして今回も、取り憑かれてると。
手に鳥肌が立ってきたけど、まぁ続き我慢して聞こう。
解決策を言ってくれるはずだ。
言ってくれないと夜寝れないよ?
「で、そいつらは取り憑くわけだけど、別に本人に意思があるわけじゃない。ただ、自然に吸い寄せられて寝る雄の体に入ってしまった。そういうものが入った場合、まずスポンジと同じ原理なんだけど、彼等は空虚な体の中に取り付いた人間の今まで経験したものや、知識などをそのまま自分の中に吸収してしまい、まるで自分がその本人であるかのように感じ、そして行動してしまう。だけど、性格とかは残留思念に残った生前の性格が優先されて、例えば、寝る雄になりきっているんだけど、性格は別人みたいになるわけだ」
なげぇ……長いけどなんとなく分かってきたよ。
つまり、俺に取り憑く奴等は、寝る雄だと思っているけど、性格がそれぞれ違う訳だ。
ま、理屈は分かったよ。
たださ、問題は俺の意識を無視して、外にしゃしゃり出てきて好き放題することなんだけど。しかもその間全く自由が利かないしさ。
その事について、ここで尋ねてみよう。
「大体分かったよ、千鶴ちゃん。ただ俺が聞きたいのはそんな小難しい原理じゃないよ、こいつらがたまに外に出てきて、俺を端に追いやって無視をきめこんだまま、俺の体をもてあそぶ事にあるんだ、これの解消法について何かある?」
細い目を瞑って、顎に指を当てて、俺の質問に対しての答えを真剣に考えている。
さすがに、プロを目指してるだけあるみたいで、熱心だ。
こんな一面があろうとは、思わなかったな。
「今ね、私も勉強中だから、解消法って言われても困るんだけど、興味はあるので、とことん、解明に手を貸すつもり。でーー、質問あるんだけど、寝る雄が意識を押しやられ、彼に体を乗っ取られる時ってどんな時?」
うーん、どうだっけ、そうだな〜……
過去二件を思い出してみると、一回目は千鶴ちゃんが兄貴に殴られそうになって、やばい! 助けなきゃ!って思った時。
二回目は、神楽にからまれ、やばいーー! って窮地に追いやられた時。
この二つの事件のキーワードは――『やばい』だ。
「やばい時、どうしようーーって時だったと思う」
「なるほど、つまり、寝る雄がやばいって頭が真白になった時に、あいつが入りこんでくるわけだ」
千鶴ちゃんは小さなノートをカバンから取り出すと、つらつらと何かをメモり始めた。
取調べの刑事のおっちゃんみたいだ。
カツ丼でも出てきそうだ。
あぁ、腹減ってきたな〜、今日の晩飯は何だろう?
「と言う事は、私が今言えるのは、そういう事態になる事を避けて通るか、そうなってた時にも頭を真白にせず、自分の意識をしっかりもって、そいつが入る隙間を与えない事だと思う」
意識が晩飯に行きかけると、また現実的な意見を述べる千鶴ちゃん。
確かにそうかもしれないけど、結局追い払えないって事?
「ま、寝る雄、しばらく我慢だよ、それにまだ外に現れたのは5体のうち一人だし、今後の成行きを見ないとね、時間が経てばそのうち、解決方法が分かってくるかも」
そうだった、まだ一人しか出てきていない。
後の4体もいつか出てくるのか?
しかし、しばらく俺このままかよ〜
俺は右手を頭につけ、考える人のポーズを取る。いや、この場合、悩める人だよ。
あ、そんな事はいいんだ、聞いておきたい事があった。
「あ、そそ、体乗っ取られて、しばらくして解放された後、すんごい眠くて眠くてどうしようもなかったんだけど、これってどういう事さ?」
「あぁ、幽霊に取り憑かれると、経験、知識も吸い取られるけど、精神的肉体的なエネルギーも吸い取られるからね、すんごい疲労感と眠気が襲ってくるのは普通。まぁ死なない程度に栄養補給と睡眠とることだね」
エネルギ〜とられる?
怖い事をさくっと語る千鶴ちゃん。
寿命縮んだりしないよね……家帰って飯たらふく食ってよく寝ないとやばいな。
しかし、迷惑なのが憑いてるよな、どっか本物の祈祷師に頼んだ方が早いのかな?
でもああいうの、お金かかる上に胡散臭いよな、本当に祓える奴なんて何分の1だよ。
やっぱり様子見るしかないかな。




