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過去編 眠りの序曲。

「こら、寝る雄君、今の口の聞き方は何なんですか?」


 さぁ、タイプ2の俺、どう弁解するんだ?

 お手並み拝見。


「…………………」


 あれ? どうしたんだ?


「返事しなさい!」


 スコン!


 赤木の本を丸く折りたたんだ強烈な一撃。

 痛ぇ、ふざけるな! お前が何も言わないせいで殴られたじゃないか。

 糞〜、黙ってないで、ここで何か気の利いたこと言えよ

 ん? 起きてるんだろ?

 あれ? 手動かせる? あれあれ? 鼻の穴に指突っ込めるよ。

 まさか、体の支配が解けてるんじゃ? 

 実験的に体を起こしてみる。普通に起こせた。

 右斜め上方に、ちょっとキレ気味の赤城の殺気だった気配を感じる。

 恐る恐る、赤城の怖い顔を下から覗き込んでみる。

 今日も赤渕のメガネでしたか、良くお似合いで――じゃなくって!


「ごめんなさい、すみません、寝ぼけてました! 以後気をつけます!」


 矢継ぎ早に沈静効果を与える言葉を並べ立てる。

 こんな修羅場では、もう一にもニにも平謝り。生きていくコツだね。

 ってそんな余裕ねぇよ。


「もっと気合いれなさいよ」


「すみません!」

 

 机に両手をついて、頭をこすりつけ謝る。

 まるで御奉行様の前に平伏す罪人のような俺。

 この最強の低姿勢を目の辺りにして、怒りを持続できる奴はあまりいないわけで――


「まぁ、いいわ、気をつけてね」

 

 最後には折れて、踵を返して授業に戻る赤城嬢。

 俺が近くで目にした赤城は、やはり美人で優しい先生だった。

 とっても、いい香りが体から立ち込め、大人の女性の香りが鼻を甘美に突いてくる。

 『先生、僕!』、『何も言わなくて良いの……』、『その先は私に任せて』、『先生!』

 『駄目だってそこは――』って! なんの安っぽいアダルト教師物語だよ!

 いや、そんな情欲的な妄想に浸ってる場合じゃないよ!

 タイプ2の野郎、急に俺に修羅場を押し付けやがって、とんでもない奴だ。

 だけど、まぁ、戻ってきたよ〜俺の体〜〜〜〜〜!

 思わず、自分の体を自分で抱きしめてみる。




 ……ギンゴンガンゴーーーーン〜〜



 今日の鐘の音はどこかおかしい。

 放送機器が壊れているのか、学園ホラー映画の鐘の音のようだ。


「はい、授業はこれまで、キリーツ、れ〜い、着席!」


 先生は教室の地面をコツコツ言わせながら、出口へ向いここを後にした。

 さてと、昼飯、ひ・え・?

 立ち上がろうとした瞬間、何か言い知れぬ物が体に重く圧し掛かってくる。

 なんだこれは?

 かつてない眠気、倦怠感、ありえないほどの重力が、俺の体を机へと引きずり落とした。

 何なんだこれは……?

 おかしい、起き上がる気力すら……飯、意識が……と、お、の、あ、千鶴ちゃんとの約束、あ、ぁ…………。





「おい、寝る雄、起きんかい」


「飯いくんだろ?」


 千鶴ちゃん……

 夢現に彷徨う俺の視界に、薄っすら千鶴ちゃんの姿が映し出されていた。

 起き上がりたいんだが、体が言うことを利かない。

 それはタイプ2に支配されているわけでもないのだが、押しつぶされるような眠気が、全てのやる気を宇宙の彼方へと弾き飛ばし、ただ眠る事だけを強制してくる。

 千鶴ちゃんが嘆息を漏らし、どこかへ去っていく。

 あぁ……なんてこっ……った……




#



「寝る雄、寝る雄!、いつまで寝てんだ、帰るぞ!」


 このキビキビした懐かしい声は……博君じゃないか。

 俺はどれくらい寝てたんだろうか……? 帰る時間って事は3時半くらいかな……?

 まだ体が重いが、なんとか声を出せそうだ……

 そうだ、時間を聞いてみよう……。

 枯れた声を喉から搾り出し、博に辛うじて聞こえるくらいの声を届ける。


「今……何時?」


「もう夕方の5時だぞ」


「なんだって!?」

 

 俺はそれを聞いて弾かれたように顔を上げると、そこには博が腕を組んで、多少いらついた様子で仁王立ちしていた。

 まだ体は重いけど、何とか動けるくらいまでは回復しているようだ。


「お前今日変だぞ?」


「見てたけど、妙にテンション高いかと思ったら、今みたいに無気力で寝てばかりとか」


「人が変わったみたいだぞ」


 いや、人が変わってたんでしょう。

 しかし、あの眠気の説明がつかないな。

 あ、千鶴ちゃんは……

 起きたばかりのぼやけた頭に、色んな思いが錯綜する。

 そんな混沌とした意識の中、俺に天使の声が届く。


「寝る雄、待ちくたびれたぞ、さっさと帰ろう」


 博の後ろから、ひょっこり顔を出した千鶴ちゃん。

 夕日を真っ向から受けて、眩しそうに冷めた細い目に手を翳していた。

 待っててくれたんだ。

 

「一緒に帰ろう、あ、てか、博、今日雪乃は?」


 そうだ、お前雪乃と毎日帰るはずじゃ?


「あぁ、今日は雪乃さんとこの後、ボーリング行くんだよ」


 御二人さんはうまいこといっているようだ。


「じゃ、俺先帰るわ」


 博は俺の様子が変なのと、そんな俺を心配しているであろう千鶴ちゃんを気遣って、ギリギリまで俺が起きるの待っててくれたようだ。

 俺達に手を振った後、左手に巻いた腕時計を見ながら、教室を走り出て行った。

 相変わらず、友達思いというか心底いい奴だよお前は……

 思わず目頭が熱くなったが、泣く訳には行かない。

 すぐ前に千鶴ちゃんがいるんだから。


「千鶴ちゃん、今日ごめんな」


「屋上で一緒に、昼食食べる約束してたのに」


「気にしないよ、寝る雄じゃなかったしね」


 え? どういうこと?

 さりげなく、これは爆弾発言のような、原爆のような、水爆のような、アレ?

 何を言ってるんだ? 

 千鶴ちゃんはあの時声を掛けたのが、タイプ2だと知っていたと言うのか?

 いや、待て待て! 聞き間違いかもしれない、焦るな寝る雄。

 その辺ちゃんと聞いてみよう。


「あのさ、今、俺じゃなかったって言わなかった?」


「言ったよ、あれはお前の中に潜む別人だった」


 え、それって気づいてたの? てか、なんで分かるの? あれ?

 俺は頭の中で?のマークが洗濯機をまわした様に渦を巻いていた。

 

「ま、気にするな」


 いや気になるって!

 その場で口を金魚みたいにパクパクさせて、言葉が出てこない俺。

 千鶴ちゃんは、夕日に遠い目を流しながら、何かを語ろうとしたが、


「面倒くさい、あたしはもうこの薄汚れた学校を一刻も早く出たいんだ」


「どうしても、続きが聞きたいのなら、他の場所へ行こう」


 千鶴ちゃんは、そう言ったかと思うと、スタスタ教室の出口へ向う。


「ちょっと待って〜〜!」


 俺は4時間目から机の上に放ったらかされていた、英語の教科書やノート、筆記用具を即座に

カバンへ押し込むと、千鶴ちゃんの後を、ふらつく足で追った。




#




 俺達は横に並んで歩き、坂道を降りていく途中で、どこへ行こうか思案していた。


「どこ行く?」


「寝る雄カラオケ行かないか?」


 俺は歌がミラクルが付くほど下手なんだ。

 もちろん却下しようと思ったけど、カラオケっていやぁ、カップルの愛を暖める絶好の場所だよな? だって、密室だぜ。

 俺の顔をした誘惑天使が、俺に向って甘い言葉を囁きかけてくる。

 葛藤がしばらく続いていたが、結局、それに抗う悪魔が貧弱なせいで、あっさりと――


「うん、そこいこう」


 決まった。

 まぁ、いいか。

 俺、今まで歌が下手だという理由で、3年くらいカラオケに行ったこと無かったんだけど、なんとかなるよな?

 音楽も興味ないせいで、曲とかあまり知らないけど、そんなものは俺達の愛にかかれば、なんとかなるはずだ、きっと!

 しかし、良く考えると俺って変わってるよな……趣味とかないし。



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