学校へ・・
バス着たな。
俺は混み込みのバスに乗り込む。
は〜やだやだ。
俺はバスの中へ入るなり、周りの白い夏用のカッターシャツを着た男どものなかへ
体を突っ込ませる。
これじゃ寝れるわけない。
お前等汗臭いんだよ、俺に障るんじゃねぇ…。
異様に男比率の高いバスの中で、俺は四方を固められ、もみくちゃにされている。
バスの中は、男臭い。腋臭の匂いが鼻につき、俺を不快にさせる。
バスが揺れるたび、白い背中が俺にとんでもない圧力をかけてきて
右に左へと俺の体を押し曲げる。
俺はこのだるい環境で、時間を長く感じるのが大嫌いなんで
手すりに右手をかけると、右手に頭を擦り付けて、なんとか立ったまま寝ようと試みる。
意識が微妙に眠りの世界に足を踏み入れてるかんじだけど、バスが揺れるたび
俺の手の筋肉をひっぱり、暑苦しい男達の体が俺を押すもんだから
その都度俺はこっちの世界に戻される。
まだか…。
早くつけよ。
俺は眠いんだよ…。
一人二人と、主婦や、リーマン、年寄りがちらほら降りていくが
しかし、この混み込みな環境を代えるほどじゃない。
俺の学校に行くまでにある那須蚊高校(男子校)の奴等が、大半を占めるこのバスは
奴等が排出されないと駄目だ。
「キィ〜〜!」
また止まりやがった。
眠い。
後何回止まれば…?
お…?
那須蚊高校の奴等が、ゾロゾロ降りていく。
奴等が降りた後は、空席がちらほら空くほどバスにゆとりが出来る。
アァ、やっと空いたか。
前の方の席に座るぞ。
空いた右側の運転手の後ろの席に、ターゲットを絞ると
他人に取られまいと、早足で席に駆け込み、ドスっ音を立てて座る。
カバンを置き、右壁に体を委ねると、目を閉じ、意識を微妙に現実世界と繋ぎながらも
浅い眠りに入る。
何分、夢と現実の世界の狭間で浮遊してただろうか…。
なんとなく、バスに設置されている電光板を俺は見た。
げ、飛鳥高校って書いてるじゃん。
降りなきゃ…。
脇に置いているカバンを握り締め、焦りながら立ち上がる俺。
運転手待つんだ!
早まるんじゃない…!
俺は速攻、出口に駆け寄ると、危なくバスを発進させようとした
運転手に向かって、定期券を突きつける。
ギリギリセーフだ…。
発進してたら、こいつは安全のために、俺の訴えを無視して
次の駅まで俺を輸送してたはずだ。
俺は運転手に上辺だけの愛想笑いを浮かべ、会釈すると、バスを降りた。
細い道路の横にある歩道を、学校に向かって、フラフラ歩き始める。
今日は1時限英語か…。
頭に初めの授業を思い浮かべる。その授業を担当する禿げた先生の顔も、同時に頭に入ってくる。
まぁ、あいつなら、余裕かな、じいさんだし…。
俺が寝るにはそれなりに、壁になるものがある。
一つは先生、これにより、授業中で寝るための難易度が増す。
やけに、目ざとい奴。きょろきょろする奴、周りを歩き回らないと気がすまない奴。
問題を出して、すぐに当てたがる奴。
色んな奴がいるから、大変だ。
そして、もう一つ重要なのが席の場所。
目立つ席に寝てると、即、先生に注意され、詰られ起こされるのは目に見えている。
俺はそういうのを計算にいれて、きちっと席順を決める時、念入りにやったよ。
うちは、くじ引で、席を決めるんだが、適当に周りの奴と話し合い
俺の求める席に座る奴と裏取引をして、今の席を獲得した。
俺が求める席とは…?
まず、最前列と最後部列、これは却下。
絶対だめ。
一番左の縦列も、右の列もだめ。そういう席に限って先生は目ざとく見てるからだ。
中途半端な位置がいい。
例えば一番左の列から2番目の列の、後ろから2番目辺りとか。
こういう位置がいい。
そしてできるなら、俺の前に座る奴はデブか、体の大きい奴が理想。
大きな肉壁で、俺を先生の視線から遮ってくれるからな。
はぁ、学校が近付いてきた…。
ゾロゾロ俺の周りを、似たような格好の奴が歩く。
俺は門をくぐると、暑苦しい構内を教室に向かってひたすら歩く。
振り返らない、立ち止まらない。
もう、俺は自分の席へと一直線の道しか頭に描いていない。
教室が密集する廊下を歩いてると、騒がしい男女の声が俺の耳に届くが
そんなものは気にしない。
そんな俺の後ろから、女らしき声が俺の名前を呼んできた。
「よ、寝る雄、おはよ」
ん?誰だ…?俺の名前を容易く呼ぶやつは。
制服姿の女、そいつの名前は水木千鶴。
いつも俺に声を掛けてくる、変な女だ。
髪は肩まで伸ばし、栗色の髪、覚めた細い目、小柄な女。
何か世の中を知り尽くした、冷めたオーラがみたいなものが出ている。
千鶴は俺の顔を見ることなく、平行して歩きながら、俺にごちゃごちゃ言ってくる。
「寝る雄、遅れるぞ」
「わーってるよ」
「そうか」
「じゃあ私は先へ行くぞ」
「さいなら」
軽く挨拶を俺と交わすと、歩くスピードを上げ、先へ先へと歩いていく。
俺より先に教室の中へ、スタスタ入っていくのが見える。
その後姿をぼけ〜っと見つめながら、俺も教室のドアの前までやってきた。




