過去編 博動く!
俺は我が家へ帰ってきた、もちろん博も一緒だ。
玄関に入る前に、櫛で頭の両側面を後ろへ流す博。
気合入ってるな……。
「ただいま〜」
俺が先陣を切って中へ入る。
返事がない、ただの屍……、いや違う、誰もいないようだ。
「博、いないわ」
「まだ学校か、寄り道でもしてそう」
博は一つ息を吐くと、少し小休止といった面持で
顔に笑顔を浮かべ俺に言った。
「まぁ、なんかして時間潰すか」
「お、おう」
取りあえず俺の部屋へ行くことにした。
さて、何をするかな?
「俺、こういうこともあるだろうと思って」
「格闘ゲーム持って来たよ」
「ハードとコントローラーも持ってきた」
俺んちには博のゲームが動くハードが無かったから
その点は準備のいい博。
あのカバンの盛り上がりはそれか。
顔にやる気を滲ませている。
「死ね〜!」
「滅せ、寝る雄」
博が俺の動かすキャラに、流れるようなコンボを当てた後
超必殺技で止めをさして、勝ち台詞を吐き捨てる。
相手になんねーよ。
あんまり一瞬で俺のキャラを亡き者にしたので
何度も奴にリベンジを試みるが……。
「ははは、よえーなおめー」
「無駄無駄無駄ー!」
とても勝てねぇよ。
歯が立たないとはこういう事をいうんだよ。
俺のキャラは最初のパンチ→キックで既に息絶えていたが
それに超必殺技が炸裂したもんだから…
死んでるのにめちゃめちゃ暴行を加えられていた。
可哀相な俺のキャラ。
その様子を見ながら悪魔のような笑みを浮かべる博。
自分の顔、鏡で見たほうがいいよ……。
とても、これから告白するような男の顔じゃないから……。
◆◇◇◆
夕日が西に傾きかける頃、雪乃は帰ってきた。
「ただいま〜」
「お、帰ってきたぞ」
「そうか」
雪乃が帰ってきたのだから、当然ゲームの電源を切って
告白する心の準備をするもんだと思っていた。
しかし、奴はゲームのコントローラーのボタンを連打していた。
なんだ……?
この余裕というか、落ち着き払った態度は……。
博の横顔をそんな疑念を抱きながら見つめていると、突然部屋のドアが開け広げられた。
「ただいまー」
「あれ、やっぱり安田さん、来てるんだ」
「こんちわー!」
博はまだコントローラーを握っていて、雪乃に一瞥をした後
挨拶を投げかけた。
ものすごくナチュラルで、普段どおりの博だ。
「へへ、また勝っちまったぜ」
ゲームの最上級設定のキャラをいとも簡単に倒すと
体を雪乃に向き直り博が言った。
「雪乃さん、またやりますかい?」
いや、それも普段どおりすぎ。
博は良く雪乃に対戦を持ちかけていた。
「むむむ、今日は負けないよ!」
当然のごとく雪乃も博に毎回ボコボコにやられていた。
そして負けず嫌いな彼女は、俺と同じ、いやそれ以上に
博を倒す事に執念を燃やしていた。
「くやし〜〜〜! もういっちょー!」
「よしこい!」
おうおう、盛り上がってる盛り上がってる。
いや〜、しかし……。
後ろから、仲よく並んで対戦してるこの二人の背中見てると
案外、お似合いな気もしないでもない。
「また〜」
「もういっちょ」
「もういっちょ」
…………。
……。
‥。
どこまでやるんだよ、お前達……。
俺は少し後ろで欠伸をしながら、箪笥にもたれかかって
寝かけていた。
「雪乃さん」
「はい?」
ん?俺がなんとなく二人に目をやった時
博の空気が変わってたんだ……。
「次の勝負でもし俺が勝ったら」
「聞いて欲しい話があるんだ」
「へ?」
「ん〜、なんか良く分からないけど、勝てたらね!」
「御意」
博、当等腹を決めたか。
告白するつもりだな。
雪乃は全くその意味は分かってない様子だけど
なぜかさっきより気合が入っていた。
博が珍しく苦戦している。
白熱するバトル、お互いのコントローラーと体が
激しく揺れ動く。
雪乃のキャラが大ジャンプして蹴りを入れようとした時
博の眼鏡が光った。
すかさず、左に回りこみ、着地際を狙っていた。
小キック、小パンチ、大パンチ→超必殺技!!
出た……、博スペシャル!!
「あ、あぁ」
「やられた……」
「ぐやじぃ〜〜」
地面に手を何度も叩きつけて、悔しがる雪乃。
「ふふふ、さてと、聞いてもらいますか」
お、博当等言うつもりだな……。
「何でしょう?」
雪乃は博に顔を向けると、さばさばした表情で博の顔を見つめて言った。
「雪乃さん、俺さぁ、なんての」
「ゲーオタじゃん……」
黙って頷く雪乃。
「でさ、ゲーセン行く度、いつも思うんだよ」
「俺の隣に相棒が欲しいなって」
「その相棒って言うのは、女の子が理想なんだ……」
「それも俺が心底ほれ込んだ女性が良いんだ」
雪乃はまだぽーっとした様子でそれを聞いている。
何が言いたいのか分からないようだ。
うーん、微妙な言い回しだよな……。
「つまり、雪乃さん」
「君が隣にいてほしいんだ」
「え……?」
そんな突然……、無理じゃね?
仮に雪乃が俺でも呆けてしまうよ。
雪乃は当然呆けていて、しばらく押し黙っていた。
一時の沈黙が部屋に流れる。
やがて、雪乃が言葉を口にした。
「なんで私なんですか……?」
今度は博が一呼吸置いたが、すぐに続けた。
眼鏡の奥に光る眼がとても優しい瞳を浮かべている。
「ただ、俺が君に惚れた、それだけだよ」
博はその言葉を言い終えると、視線を下に向け黙っていた。
返事を待ち受けているといった様子だ。
雪乃の返答がどうであれ、奴には本望なんだろ。
短い言葉にありったけの気持ちを、詰めいれて言い放ったんだ……。
俺は雪乃の表情を観察していた。
多少困惑が見えるが、「キモイ〜、なんて言って断ろう」的な表情は
浮かべていない気がした。兄の主観に過ぎないが……。
雪乃が口をもごもごしだした。
何か言うつもりだ。
「あ、あの〜、一つ聞いていいですか?」
「なんなりと……」
同じ姿勢だが、顔だけ雪乃に真直ぐ向ける博。
「学校は離れていますが、毎日会えますか?」
博はその雪乃の質問に即答する。
「無論です。そこが例え、富士山の頂上でも」
「お迎えに上がります」
「あなたのためなら、どこへでも!」
雪乃はその言葉をかみ締めるように聞き終えると
視線を一瞬コントローラーに下ろした後、すぐに博を真直ぐ見つめた。
「分かりました」
「取りあえず付き合ってみますか!」
「ぜひ!」
げ、本気?まじ?カップル誕生!?




