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第八話 深まる謎

 ジョーは引金にかけた指を躊躇う事なく引いた。ストラッグルから光束が飛び出して、一直線にアメア・カリングの眉間に向かった。

「届かぬ!」

 アメアが叫んだ。その声に気圧された訳ではないのだろうが、光束は彼女の直前で霧散してしまった。

「ちっ!」

 予想していた事とは言え、ジョーは少なからず衝撃を受けた。

「ならば!」

 彼はストラッグルを下げると、ベルトから弾薬を取り出し、素早く装填した。

「むっ?」

 その動きを後ろから見ていた近衛隊長のアレン・ケイムが眉を顰めた。

「こいつはどうだ!」

 ジョーがもう一度引金を引いた。すると先程の倍以上ある太さの光束が飛び出し、アメアに向かった。

「届かぬと言ったのがわからんのか!」

 アメアは目を吊り上げて怒鳴り、微動だにしない。

「何だと!?」

 ジョーは唖然とした。大型戦艦をたった三発で沈めてしまう破壊力の特殊弾薬を使っても、アメアの手前で光束はかき消されてしまった。

「バカな……」

 ジョーは特殊弾薬を使えば貫けると思っていたので、一発目より衝撃が大きかった。

「死ね、ジョー・ウルフ! 我が仇敵!」

 アメアは再びサンダーボルトソードを振り上げて走り出した。

「くそ!」

 ジョーは態勢を立て直す時間を稼ぐために天井を撃ち抜き、崩落させた。

「おのれ!」

 落下してくる瓦礫をかわしながら、アメアが舌打ちした。

(何をするつもりだ、ジョー・ウルフ? ストラッグルは全て封じたぞ)

 アレンはジョーがまだ何か仕掛けるつもりなのがわかり、いぶかしんだ。

「小細工をするな、ジョー・ウルフ!」

 瓦礫が巻き起こす土煙を通り抜け、アメアが現れた。

「こいつはかき消せねえぞ!」

 ジョーが三たびストラッグルを構え、アメアを撃った。

「何!?」

 アレンは仰天した。ジョーが撃ったのは、何世紀も前に使用されていた弾丸だったのだ。ジョーとアメアの間はわずかに数メートル。かわす事は不可能な間合いだった。

「届かぬ!」

 ところが、アメアが弾丸をいとも簡単にかわして、逆に必殺の間合いに飛び込んできた。

「くっ!」

 まさかと思っていた事が起こり、対応が遅れたジョーはアメアが振り下ろすサンダーボルトソードをかわし切れなかった。

「ぐう!」

 サンダーボルトソードの先がジョーの軍服を焼き、彼の右胸から右脇腹を斬り裂いた。鮮血が噴き出し、ジョーは仰向けに倒れた。アレンは思わず前のめりになり、ジョーの生死を確認しようとした。

とどめだ、ジョー・ウルフ!」

 アメアはまた剣を振り上げてジョーを見下ろした。ジョーは電撃と斬撃によって、意識を失っていた。それに気づいた途端、アメアの動きが停止した。

「またか?」

 アレンは動きを止めたアメアを見て呟いた。

「ジョー!」

 アメアは剣を放り出して叫び、ジョーの脇にひざまずいた。

「ジョー、大丈夫?」

 アメアは大粒の涙をポロポロとこぼして血が流れ続けているジョーの身体をさすった。

「誰がこんな酷い事を?」

 アメアは先程までの激闘をすっかり記憶から消し去ってしまったのか、そんな事を呟いた。

「総統領閣下!」

 アレンはアメアに近寄ると、

「閣下、その者は我が共和国の指名手配犯です。すぐに近衛隊を呼び、逮捕致します故、お離れください」

 しかし、アメアはアレンの呼びかけが聞こえないのか、ジョーから離れようとしない。

「全能なるアメア・カリング総統領閣下!」

 アレンが一段と声を張り上げて呼んだ。するとアメアはピクンとして振り返り、

「アレン・ケイム。何用か?」

 突如として総統領としての顔に戻った。アレンは微かに笑ってから、

「その者は共和国政府に仇なす指名手配犯です。即刻拘束致しますので、お離れください」

 深々とお辞儀をして告げた。アメアはスッと立ち上がり、

「わかった。よろしく頼む」

 アレンが呼び寄せた侍女と共に執務室を出て行った。アレンは気を失ったままのジョーを見て、

(閣下のご様子を見る限り、この男はまだ始末はできないようだな)

 彼は近くにあった通信機を取ると、近衛隊を招集した。そして、ジョーの右手からストラッグルを取り上げるために近づいて腰をかがめた。

「おっと。こいつはもう渡す訳にはいかないぜ」

 いつの間に意識を取り戻したのか、ジョーがストラッグルを構えて告げた。

「貴様、いつから気がついていたのだ?」

 アレンが苦々しそうに訊くと、ジョーはニヤリとして、

「ほんの一瞬気を失っただけさ。お前が気を緩めるのを待っていたんだよ」

 サッと立ち上がった。アレンもニヤリとして、

「ストラッグルは時代遅れのものだと言ったはずだぞ」

 ジョーは引金に指をかけて、

「試してみるかい? 銃口から飛び出すのは光束だけじゃねえぜ」

「ぬ……」

 アレンはアメアが弾丸で撃たれたのを思い出した。

「思った通りか。光束を弾くシールドを開発したんだな。ストラッグルの光束を研究したのか? どれ程強力なものでも、化学的に分解してしまえば、無力だからな」

 ジョーは銃口をアレンの胸に押し当てて続けた。

「だが、研究が足りなかったな。この銃は光束だけじゃなく、大昔の弾丸も撃てるんだよ。だから万能光線銃と呼ばれているのさ。そこまでのものでなけりゃ、生みの親のマイク・ストラッグルが自分の名前を付けたりしねえよ」

「……」

 アレンは歯軋りして悔しそうにジョーを睨んだが、何も言い返さなかった。

「ストラッグルで思い出したぜ。アメア・カリングに驚かされっ放しだったから、忘れかけていたんだが、お前には訊きたい事があったんだ」

 ジョーは銃口をアレンの喉元にずり上げた。

「何だ?」

 アレンはそれでもいささかも怯んだ様子を見せずに応じた。ジョーはフッと笑って、

「銀河共和国第一代総統領のケント・ストラッグル、その妹のカミーラ、妻のアルミスはどこにいる?」

「知らんな」

 アレンは目を細めて言った。ジョーは銃口をアレンの左頬に押し付けて、

「そんな言い訳が通ると思っているのか? 言わねえと顔に大きな穴が開く事になるぞ」

「構わんさ、撃て。だが、これだけは言っておこうか。初代総統領閣下一族の居場所は私しか知らん。私を殺せば、居場所は永久にわからなくなるぞ」

 アレンは勝ち誇った顔でジョーを睨み返した。

「てめえ!」

 右手で銃口を更に強く押し付け、ジョーは左手でアレンの襟首をねじ上げた。

「お前が銀河系に舞い戻った理由は恐らくそれだろうと予測はしていた。だから、以前監禁していた惑星から移送させた。その移送させた連中は私が自分で始末したから、他には誰も移送先は知らんのだ」

 アレンは一瞬の隙を突き、ジョーを押し返した。

「そして、タイムアップだ、ジョー・ウルフ。解答時間は終了だよ」

 ジョーの背後には銃を構えた近衛隊員が十人並んでいた。

「なるほど。こいつは参ったな」

 ジョーはストラッグルを下げ、アレンから離れた。

「拘束しろ」

 アレンが命じると、十人の近衛隊員が一斉に動き、ジョーを取り囲んだ。

「一つだけ教えてくれ!」

 ジョーは隊員達が取り押さえようとするのを手で制しながらアレンに叫んだ。

「何だ?」

 アレンは余裕の笑みを浮かべて尋ね返した。ジョーは目を細めて、

「あの女は何者だ?」

 執務室のドアの方をチラッと見て言った。アレンは呆れた顔になり、

「そのような事を答える必要があるのか? くだらん質問をするな」

 横柄に言い返すと、手を振って拘束を促した。

「その前に銃を取り上げなくていいのか?」

 ジョーはストラッグルの銃身を持ち、グリップの方を差し出した。隊員は言われるままにそれを受け取ろうとしたが、

「ダメだ、やめろ!」

 ジョーの罠だと悟ったアレンが叫んだが、遅かった。隊員がグリップをつかんだ瞬間、ジョーはストラッグルを捻り、その隊員の指を折った。

「ぐわあ!」

 痛みで叫ぶ隊員を突き飛ばすと、その両脇の隊員に掴みかかってなぎ倒し、更に取り押さえようとする背後から迫った隊員三人を前の二人をなぎ倒した勢いを利用して飛び越え、ストラッグルの銃底で殴り倒した。

「撃て!」

 慌てた残りの隊員が一斉に銃を構えて撃とうとするが、それよりも早くジョーは動き、ストラックルでたちどころに四人の銃を弾き飛ばすと、背後にある転送機に飛び込み、扉を閉めた。

「よせ! 総統領府を消滅させるつもりか!?」

 アレンは転送機を撃とうとした隊員を怒鳴りつけた。隊員はハッとして銃を下ろした。

「転送中の装置の中は異次元とつながっているのだ。そこを銃撃すれば、何が起こるかわからんのだぞ」

 アレンは撃とうとした隊員に詰め寄り、襟首をねじ上げた。

「も、申し訳あり…ま…せん……」

 その隊員はそこまでしか言えず、アレンに気道を押し潰されて死んだ。他の隊員達は、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた隊員の遺体を黙って見つめるだけだった。

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