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第七話 深き闇

 ジョーは自分に抱きついて涙を流している女性を観察した。

(どこからどう見てもカタリーナだ。眉の形、目の大きさ、耳の形、鼻の高さ……)

 ジョーは酷く困惑していた。

(しかし、絶対にあり得ない! この女がカタリーナのはずがない!)

 ジョーはそう思いながらも、自分の最愛の人に瓜二つのアメア・カリングをゆっくりと押しのけた。

「違う。お前はカタリーナじゃない。誰だ?」

 ジョーに押しやられたせいなのか、悲しそうな目で見ているアメア・カリングに言った。

(そんな目で見ないでくれ……)

 絶対に違うと思うのであるが、あまりにも似ているため、涙に濡れたその瞳を見ていると、えも言われぬ罪悪感がこみ上げてくる。

「酷い……。どうしてそんな事を言うの……? 私はカタリーナ・エルメナール・カークラインハルト。貴方の妻なのよ、ジョー」

 アメアは両の目から涙をポロポロと流しながら言った。

(何を言っているんだ、この女は? どれ程似ていようとも、この女がカタリーナのはずがない)

 涙を流して訴えるアメアにもう少しでほだされてしまいそうになり、ジョーは思わず飛び退いた。

(これもこの女の力なのか? 危うく取り込まれそうになった)

 ジョーは眉をひそめ、警戒心を強め、アメアを睨みつける。するとアメアの気が変質するのがわかった。

「そうだ! その通りだ! お前は我が仇敵! 八つ裂きにし、宇宙の果てまで飛ばしたとしても飽き足らないほどの憎き存在!」

 アメアは涙に濡れたままの目を吊り上げ、ジョーを睨みつけた。その途端、彼女から強力な気が放たれ、ジョーに叩きつけられた。

「ぐう!」

 ジョーの眉間に残っている傷跡から鮮血が飛び散り、流れ落ちた。

(やはり、この女、あの時の女か?)

 ジョーは額から流れ落ちてくる血を枷で不自由な状態の手で拭った。

「俺はお前に仇だと言われる理由に思い当たらない。数多くの敵と戦い、その命を奪ってきたから、その遺族に恨まれて当然なのかも知れないが、少なくとも、カリングという名の男と戦った記憶はない。それとも、お前の姓が変わったのか?」

 ジョーは探るようにアメアを見て尋ねた。しかし、アメアは、

「お前が覚えていようといまいと私には関係ない! 死ね、ジョー・ウルフ!」

 ベルトから剣のつかのみを取り出した。

「それは!?」

 ジョーはその柄に見覚えがあった。

「やっぱりお前が大マゼラン雲で出会った女か?」

 ジョーは手の自由を奪っている光の枷を見て歯ぎしりした。

「はああ!」

 アメアが気合いを入れると、柄から雷光のような光が飛び出して、バチバチと火花を飛ばし始めた。

(サンダーボルトソード……。間違いない)


 ジョーの記憶がフラッシュバックする。彼はカタリーナとの平穏な生活を大マゼラン雲の辺境の惑星で送っていたが、その惑星に凄まじい闘気を放つ者が降り立ったのを感じた。

「ちょっと見てくる」

 心配するカタリーナを振り切って、ジョーはその闘気の主がいる場所へと走った。

(この気、以前に感じた事があるものに似ている……)

 そう思うジョーだったが、それが何だったのかは思い出せなかった。

 ジョーが辿り着いたのは、廃れた宇宙船ドックの一角であった。人影はなく、錆び付いた機械の残骸が並んでいるだけの廃屋である。だが、先程感じた凄まじい気は、確実にその奥から発せられていた。

「そこにいるのは誰だ? もしかして、俺に用があるのか? だったら出て来いよ。相手になってやるぜ」

 ジョーはその気が自分に対する敵意と悪意に満ちており、その憎悪と怨嗟の凄まじさに吐き気がする程だった。だから、放っておけなかったのだ。

「待っていたぞ、ジョー・ウルフ。そして、会いたかったぞ、我が仇敵」

 そう言いながら、姿を現したのは、黒の甲冑に身を包んだ髪の長い若い女だった。だが、顔は白い仮面で上半分を隠しており、容貌はほとんどわからなかった。

「我が仇敵だと? お前は誰の身内だ? せめて誰の仇なのか教えろ」

 ジョーはストラッグルのホルスターに手をかけて訊いた。

「問答無用! 死ね、ジョー・ウルフ!」

 女はサンダーボルトソードを大上段に構えると、ジョーに向かって突進してきた。

「答えるつもりはねえのか」

 ジョーは舌打ちしてストラッグルを抜くと、サンダーボルトソードの柄を狙って撃った。

「何!?」

 ところが、女は、まるでそれを見透かしていたかのように構えを下段に変えてかわしてしまった。

「くそ!」

 ジョーはすぐさまストラッグルを撃とうとしたが、

「我が仇敵、死ね!」

 女の踏み込みの方が一瞬早く、サンダーボルトソードが一閃し、ジョーは眉間を切り裂かれた。

「ぐわっ!」

 その衝撃でジョーは脳震盪を起こし、そのまま後ろに仰向けに倒れてしまった。


(あの時、俺は確実に命を奪われていたはず。ところが、目を覚ますと、女の姿はなく、あの闘気も全く感じられなかった)

 今また、その時と同じ状況になっている。

(今回はこの前みたいに無様な姿はさらさねえぞ。あの時、何故俺を殺さなかったのか、聞き出してやる!)

 ジョーにとっては屈辱的な結末だったので、余計に理由が知りたいのだ。

「死ね、我が仇敵!」

 アメアは大マゼラン雲の時と同じように大上段に構えて走ってくる。一つ違うのは、ジョーは今は丸腰だという事だ。サンダーボルトソードは大上段から振り下ろされ、真っ直ぐにジョーの頭に向かってきた。

「待ってたぜ!」

 ジョーはそれを手枷となっている光の輪で受け止めた。

「おのれ!」

 アメアはすぐに剣を引き、飛び退いた。ジョーはサンダーボルトソードの電撃で機能を停止した手枷を外し、手首をさすった。

「さてと。次は小細工なしだ。以前、お前は俺を間違いなく殺せたはずなのに何もせずに立ち去った。その理由を聞かせてもらうぞ」

 ジョーは手を動かせるようにはなったが、未だに丸腰のままでアメアを挑発した。

「何を言っているのだ、ジョー・ウルフ! 私がお前に情けをかける訳がなかろう! 戯言を言うな!」

 アメア・カリングは大マゼラン雲の出来事など記憶にないというような口調で言い返してきた。

「何だと?」

 ジョーはますます意味がわからなくなってきた。

(あの時の女ではないというのか? いや、そんなはずはない。この気、同じものだ。そして、サンダーボルトソードも同じもの。それは間違いない)

 ジョーはどうやってアメアの攻撃を封じ、彼女を取り押さえられるか、必死に考えた。

(二人が会ってしまった以上、ジョー・ウルフにはもうしばらく生き永らえてもらうしかない)

 異変に気づいた総統領近衛隊隊長のアレン・ケイムが戻ってきていた。彼は持っていたストラッグルを見てから、ジョーの足下に放った。

「どういう事だ?」

 右足の踵にストラッグルが当たったので、ジョーはアレンを見た。しかし、アレンはフッと笑っただけで、また退室してしまった。

「どこを見ている、ジョー・ウルフ!」

 再び、アメアがサンダーボルトソードを振り上げて突進してきた。

「今度は外さねえぜ!」

 ジョーはストラッグルを拾い、アメアに狙いを定めた。

「くそ……」

 しかし、その姿がカタリーナに瓜二つのため、ジョーは躊躇ってしまった。

「はああ!」

 アメアの容赦のない斬撃が振り下ろされ、ジョーはストラッグルの銃身でそれを受け止めた。

「死ねええ!」

 アメアは更に力を込め、押し切ろうとして来る。

「チィッ!」

 ジョーは銃身を反らせてサンダーボルトソードを斜めに這わせると、逆にアメアを押し返して離れた。

(今度は躊躇わない!)

 ジョーが撃った女は今までに一人しかいない。マリアンヌ・フレンチ。かつて、銀河系の覇権を目指していたフレンチ侯国のベスドム・フレンチの奥方である。

(何より、この女に果たしてストラッグルが通用するのか、疑問だな)

 ジョーは自嘲気味に笑い、引金トリガーに指をかけた。

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