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エピローグ 後始末

 ジョー達はニコラスの遺産である大戦艦の乗組員達を全員ミハロフの戦艦に移し、武装解除させた。大戦艦はその後、エンジン部分にジョーとルイが特殊弾薬を撃ち込み、爆発させた。こうして、銀河系を揺るがしたニコラス・グレイによる騒動は終焉した。

「さて、後始末をしなくちゃな」

 ジョーはブリッジに戻ると、アメアを見た。

「どういう事だ?」

 アメアは首を傾げた。ミハロフもルイもジョーを見ている。ジョーはニヤリとして、

「銀河共和国をこれからどうするつもりだ、総統領?」

 アメアはハッとなり、

「私は不正をして総統領になったのだ。職を辞し、銀河を離れる」

 チラッとミハロフを見たのを彼は知らない。ところが、ジョーは、

「それはダメだ。不正だろうが何だろうが、アメアは現総統領だ。そして、この混乱の一端の責任がある。後始末をしてから、後継に託すのが筋だろう」

「そ、それはそうなのだが……」

 ジョーの正論にアメアは不満そうに口を尖らせた。

(やっぱり、可愛いよな、アメア)

 ミハロフはにんまりして彼女を見ていた。

「戻るぜ、惑星マティスに」

 ジョーはミハロフを見て言った。

「わかった」

 ミハロフは操縦席に座り、操縦桿を握った。ミハロフの戦艦はゆっくりとマティスへと進み始めた。


 その頃、銀河の狼のアジトには、マティスに潜入しているメンバーから連絡が入り、ジョー達が戻ってきたことが伝えられた。

「よかった」

 改めてエミーからその事を告げられて、カタリーナは涙を流した。エミーも思わずもらい泣きをした。

「さすがだよ、ジョー・ウルフは。そんな凄い奴に一度でも戦いを挑んだ俺は、本当に無茶な奴だったとつくづく思うぜ」

 カタリーナとエミーが泣いているのを見て、サンド・バーは目を潤ませて言った。

「アメアも来るといいね、おじさん」

 エミーは涙を拭いながら、ニッとしてサンド・バーを見上げた。

「な、何の事だよ?」

 サンド・バーはわかり易く顔を赤らめて、精一杯とぼけてみせた。そして、

「それから、俺はおじさんじゃねえ!」

 改めてエミーに突っ込みを入れた。それを見て、エミーとカタリーナはクスクス笑った。


 ジョー達がミハロフの戦艦を降りると、ケント達が待っていた。ジョーはアメアを見た。アメアはケント達に進み出て、

「アレン・ケイムがした事とは言え、私も首謀者の一人には違いない。迷惑をかけて申し訳なかった」

 アメアはケント達に謝罪した。するとケントは、

「貴女も我々同様、被害者なのですよ。だから、謝る必要はありません。これからも共和国をよろしくお願いします」

 握手を求めた。アメアは戸惑ってジョーに救いを求めるように顔を向けた。ジョーは黙って頷いた。

「できる限りの事はする。それがせめてもの償いだから」

 アメアはケントと握手を交わして告げた。

「あんたの一番の目的は、ニコラス・グレイじゃねえだろ?」

 ジョーはミハロフに囁いた。ミハロフはビクッとしてジョーを見た。

「敵わねえな、全くよ。ああ、そうだよ。俺は復活の椅子を掠め取る為に来たのさ。でも、ニコラスに実際に対して、奴の考えている事を聞くうちに、復活の椅子なんてどうでもよくなっちまった」

 ミハロフは苦笑いをして、ケント達と話しているアメアを見た。

「なるほど。もっと気になるものが見つかったのか?」

 ルイが近づいてミハロフに尋ねた。ミハロフはムッとして類を見て、

「何の事だ?」

 詰め寄ろうとしたが、

「アメアのそばにいてやってくれ。あんたが迷惑でなかったら」

 ジョーに背後から言われて、振り返った。

「あんたはどうするつもりだ?」

 ミハロフはジョーの言葉に深い意味を感じ取って訊いた。ジョーは肩をすくめて、

「もう、こんな大騒ぎはごめんなのさ。それにカタリーナが出産したので、しばらくはおとなしくしていたいしな」

 ミハロフは目を見開いてから大笑いをして、

「わかった。父親に許しをもらえたんだから、もうどんどんいくぞ」

「何言ってやがる。アメアの遺伝子上の父親は俺かも知れねえが、親としての感情はねえよ。ただ、アメアは不憫な子なんだ。望んで今の立場にいる訳じゃねえからな」

 ジョーはミハロフの腹部に軽く拳を当てて言った。

「そうだな」

 ジョーとミハロフが見ているのに気づき、

「何だ? 何か用か?」

 アメアが不機嫌そうに顔を向けた。するとジョーが、

「ミハロフが助けてくれるそうだ。だから、力を尽くせよ、アメア」

 ミハロフはそれを聞いて頭を掻いてアメアをもう一度見た。アメアはキョトンとして、

「どういう事だ? ジョーは残ってくれないのか?」

「俺は育児に専念するよ」

 ジョーがニヤリとしたので、

「私も会いに行くぞ! 私の妹なのだからな」

 アメアはジョーに駆け寄ってきた。ジョーはアメアの頭を撫でて、

「もちろんさ。一緒に会いに行こう」

 アメアはその答えにニッコリとした。そのアメアの笑顔を見て、ミハロフはまたにんまりした。

 アメアは近衛隊を招集すると、破壊された首府の復興を各部署と協力して始めるように指示し、ニコラスの大戦艦の乗組員達を事情聴取し、使える者は各部署に採用するように命じた。そして、当面は自分が近衛隊隊長を兼任すると告げた。それを聞き、近衛隊員達は奮い立ち、各部署へと走っていった。

「あんたはどうする?」

 ジョーがルイを見た。ルイはフッと笑って、

「私はアンドロメダ銀河に待たせているマリーがいる。それに、まだまだお前に追いつけていない事もよくわかったので、もう一度鍛え直しをする」

 ジョーは目を見開いて、

「前にも言ったが、あんたと戦う理由はねえぜ?」

「お前になくとも、私にはある。また会う事になるだろう。それまで、死ぬなよ」

 ルイはその場から立ち去っていった。

「あんたこそな」

 ジョーはその背中にそれだけ言った。ルイは一瞬立ち止まったが、振り返らずに去った。

「ジョー、何をしている。早く行くぞ」

 アメアはケント達も誘って、タトゥーク星へ向かう準備をしていた。

「わかったよ」

 ジョーはミハロフと顔を見合わせて応じた。


「ジョー達が来るって!」

 アジトの司令室から走ってきたエミーが、個室で休んでいたカタリーナに告げた。カタリーナは授乳をすませたところで、

「そう」

 また目を潤ませて応じた。するとエミーは、

「カタリーナさん、涙もろくなったね。子供を産むとそうなるの?」

 身を乗り出して尋ねた。カタリーナは苦笑いをして、

「それは多分関係ないと思う。私が涙もろいのは、ジョーが命知らずだからよ」

「そうなの? だったら、私がジョーを説教してあげる。カタリーナさんを泣かせるのはダメだって」

 エミーが大真面目な顔で言ったので、

「そう。ありがとう、エミー」

 カタリーナはクスクス笑いながら応じた。


 しばらくして、ミハロフの戦艦がアジトから数百メートル離れた場所に着陸し、ジョー達が出てきた。アメアもいるのを知り、サンド・バー以下、若い男のメンバー達が駆け寄った。

「母上はどうされている?」

 しかし、アメアはその男達を寄せ付けるような雰囲気ではない表情で言った。

「元気だよ。早く赤ん坊を見に行ってやりなよ」

 サンド・バーはアメアの顔に一歩退きながら応じた。

「そうか。ありがとう」

 アメアは微笑むと、駆け出した。ジョーとミハロフはまた顔を見合わせた。

(考えてみると、アメア・カリングって、ジョーの娘なんだっけ? ちょっと難儀だなあ)

 早速尻込みしてしまうサンド・バーであった。

「おい、アメア、そんなに慌てなくても、赤ん坊は逃げやしねえよ」

 ミハロフがアメアを追いかけた。ジョーは後から出てきたケント達と共に歩き出した。

「ジョー」

 カタリーナは産着を着せられた赤ん坊を抱いて外に出てきた。アメアがその姿を見つけて、

「母上!」

 嬉しそうに駆け寄り、赤ん坊の顔を覗き込んだ。

「名前はお考えになったのですか?」

 眠っている「妹」の顔を覗き込んで、アメアが訊くと、

「まだよ。ジョーと話して決めたいから」

「ああ、そうですね」

 アメアはジョーを見て、早く来いという顔をした。カタリーナはケント達に気づき、微笑んだ。ケント達も微笑み返した。

「お久しぶりです、カタリーナさん。お子さんを見せてもらいに来ました」

 ケントが言った。

「ありがとうございます」

 カタリーナはむずがって動いた我が子を抱き直して応じた。


 その日は、ジョー達の無事帰還祝い、ケント達の救出祝い、カタリーナの出産祝いを兼ねての祝宴が催された。皆、しばらくぶりに心の底から楽しめる宴となった。ジョーはカタリーナに引かれてこっそりと会場を出て、彼女の個室へ行った。

「名前、考えてくれた?」

 カタリーナは赤ん坊をベッドに寝かせて言った。ジョーはその寝顔を覗き込んで、

「ああ。ジャンヌはどうだ?」

「良いわね」

「カタリーナも考えていたんじゃないのか?」

 ジョーはあっさりと同意したカタリーナに尋ねた。するとカタリーナは、

「同じだったので、驚いているのよ」

 ジョーにキスをした。ジョーはフッと笑って、

「そうか。それは良かった」

 キスをし返した。そして、

「アメアは、ミハロフが支えてくれる。心配はいらない」

「そうなの? そう言えば、アメアは彼の事をチラチラ見ていたわね」

 カタリーナが言った。ジョーは、

「案外、相思相愛かもな」

「私達みたいにね」

 カタリーナがまたジョーにキスをした。

「え、ああ、そうだな」

「ちょっと! 今の、どういう反応? 私達は相思相愛じゃなかったの!?」

 カタリーナが大声を出したので、ジャンヌが目を覚まして泣き出した。

「ああ、ごめんね、ジャンヌ。ママが悪かったわ」

 カタリーナはジャンヌを抱き上げて宥めた。


 そして翌日、まだほとんどの者が寝静まっている中、ジョーとミハロフはいち早く起きて、戦艦に乗り込むとマティスを目指した。

「やっぱり気になっているのか?」

 操縦席でミハロフが言った。ジョーは副操縦席に座り、

「ああ。復活の椅子、もはや誰も欲しがってはいないだろうが、放置してはおけねえからな」

 二人はマティスに降りると、近衛隊員と共に総統領府へと行き、総統領執務室へとエレベーターで上がった。

 中に入ると、復活の椅子はそのままの状態であった。

「おい、どういう事だ?」

 ミハロフが誰にともなく言った。ジョーも、

「ああ、こいつはどうした事だ?」

 二人は、復活の椅子がまさに只の石の椅子になってしまっているのに気づいた。

「む?」

 二人はアレン・ケイムの残留思念を感じ、そちらを見た。アレンはフッと笑うと、そのまま消えてしまった。

「そうか。アレン・ケイムが全部持って行ってくれたんだな」

 ミハロフがニヤリとした。ジョーもニヤリとして、

「そのようだな。これでようやく、この因縁から逃れられそうだぜ」

 ミハロフは抜け殻となった復活の椅子に近づき、

「で、こいつはどうする?」

 ジョーは執務室を出ていきかけて、

「気になるから、粉微塵にでもしてくれ。それは総統領補佐官のあんたに任せるよ」

 そのまま廊下を歩いて行った。

「ああ、そうかい」

 肩をすくめて、ミハロフはジョーを追いかけた。


 そして一年後、すっかり復興したマティスの総統領府には、軍服ではなく、白の礼服を着たアメアがいた。その横には、黒のスーツを着たミハロフがいた。そして、アメアはカークの姓を名乗っていた。二人はめでたく結ばれたのだ。

「ミハロフ、父上と母上はどこにいらしたのか、未だにわからないのか?」

 執務室で苛だたしそうにアメアが尋ねた。

「もう諦めたらどうだ? それより、そろそろ俺達の二代目の事を考えようぜ、アメア」

「うるさい!」

 アメアは近くにあった書類の束をミハロフに投げつけると、執務室を出て行ってしまった。


 ジョーとカタリーナは、ジャンヌを連れ、銀河系を去ってしまった。元いた小マゼランを近衛隊が探したが、そこにはいなかった。そして、一年経った今でも、二人の消息は知れない。


                                           完


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