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第六話 アメア・カリング

 意味ありげな言葉を発して、アレン・ケイムは不敵な笑みを浮かべた。

「その言い方、俺があの艦に乗っているのを知っていたような口ぶりだな?」

 ジョーはアレンを睨みつけ、右手をストラッグルにかけた。するとアレンは、

「確かめてみるか? お前がすでに時代遅れの存在だという事を?」

 両腕を広げてまるで撃ってみろという仕草をした。

「何のつもりだ?」

 ジョーはアレンの不可解な行動をいぶかしんで尋ねた。

「何のつもり? 言葉通りだ。お前はすでに前世紀の遺物だという事を証明してやろうと言っているのだ」

 アレンは更に挑発めいた言葉を発した。ジョーは罠かも知れないと思ったが、

「それなら、確かめてやるよ!」

 一瞬のうちにストラッグルをベルトから抜き、アレンの眉間目がけて撃った。強力な光束が放たれて、真っ直ぐにアレンに向かう。しかし、アレンは微動だにせず、それを待ち構えている。

「何!?」

 ジョーは目を疑った。ストラッグルの光束が、アレンの直前で弾け飛び、消失してしまったのだ。アレンの行動以上に不可解な事が起こり、ジョーは瞬きも忘れる程驚愕していた。

「わかったか? お前自慢のストラッグルは、すでに古ぼけた銃器なのだ。偉大なる総統領閣下、アメア・カリング様のご加護の前では、ゴミ同然」

 アレンはニヤリとして歩き出し、ジョーに近づいた。ジョーはハッと我に返り、もう一度アレンを撃った。

「無駄だ」

 しかし、やはりストラッグルの光束はアレンの直前で弾かれ、消えてしまった。

(何だ? どういう事だ?)

 ジョーはアレンが何かトリックを使ってストラッグルの光束を消したと考えたが、原理が全くわからない。

「これでわかっただろう? 絶対にして最強であるアメア・カリング閣下のご加護の下にある私には、お前の時代遅れの銃など通用しないのだ」

 アレンの辛辣な言い回しに、ジョーは言い返す事なく項垂れていた。

「そして、お前が銀河系に舞い戻り、惑星マティスを目指す事など、アメア様は以前から見抜かれていたのだ」

 アレンはジョーの目の前まで来て、軍服の襟首をねじ上げた。

「それ程のお力をお持ちのアメア様に対して、お前は何をしようとしていたのだ? 愚かしい。お前如きがどれ程足掻こうとも、アメア様にかすり傷一つ付ける事など叶わぬのだ」

 アレンはジョーの耳元で言った。するとジョーは、

「なるほど、そいつは凄いな」

 言うが早いか、ストラッグルをアレンの眉間に押し当てた。

「む?」

 アレンの目が見開かれた瞬間、ストラッグルが吠え、アレンの顔全体がその光束で見えなくなった。

「くっ!」

 ジョーはアレンの手を振り払って、彼から離れた。ストラッグルの零距離射撃を受けたら、例えどんなに頑丈な防備をしていたとしても、無事ではすまない。ジョーは今度こそアレンの頭を吹き飛ばしたと確信した。

さかしいな、ジョー・ウルフ。アメア様のご加護の前では、ストラッグルなど無力だと言ったはずだぞ」

 ところが、ストラッグルの巻き起こした輝きが消えると、そこには無傷のままのアレンが不敵な笑みを浮かべて立っていた。

「何だと?」

 ジョーは目を見開いて硬直した。

「本来であれば、総統領近衛隊の隊長であるこの私に銃を向けただけで、極刑に処するところだが、共和国の最高位であるアメア・カリング総統領閣下が、お前に会いたいとおっしゃっているから、生かしているのだと思い知れ、ジョー・ウルフ」

 アレンが何かを放った。それは光の輪で、ジョーの両手首を拘束した。

「くっ!」

 その光の輪は強力な磁力を出す枷で、近衛隊の分隊が使っていたものとは桁違いの威力で、全く動かす事ができない。

「これから、アメア様がお待ちのマティスに向かう」

 アレンはジョーの右手からストラッグルを奪い取ると、ジョーの後頭部に銃口を押し当てて言った。

「この奥にマティスへのホットラインがある。歩け」

 ストラッグルで頭を小突かれ、ジョーはヨロヨロと歩き出した。

「それ程偉大な総統領閣下が俺に会いたがっているのに、何故ここに誘導して、俺を殺そうとした?」

 ジョーは前を向いたままでアレンに尋ねた。アレンはフッと笑って、

「私はお前をアメア様に会わせたくないのだ。だから、事故死してもらいたかった」

「事故死だと?」

 ジョーがチラッと後ろを見た。アレンはストラッグルでジョーの顔を押して、

「そうだ。事故死なら、アメア様にも言い訳が立つ。だが、お前はここまで来てしまった」

「ここで殺して、事故死したと報告すればいいんじゃねえのか?」

 ジョーは前を向いて更に尋ねた。アレンは目を細めて、

「すでにアメア様はお前をお捉えになっている。今お前を始末すれば、私が只ではすまなくなるのだ」

 ジョーはニヤリとして、

「なるほどな。面倒臭い閣下だな」

「アメア様を愚弄するな!」

 アレンは銃身でジョーの頭頂部を強めに殴った。

「ぐ……」

 戦艦を三発で沈められる光束に耐えられる合金αでできているストラッグルで殴られたので、さすがのジョーも脳震盪を起こしそうになった。


「ジョー・ウルフ……。もうすぐ会える……」

 総統領府の最上階にある執務室で、仮面の女、アメア・カリングはひび割れた窓ガラスの前に立って呟いた。

「早く会いたい、ジョー……」

 アメアの仮面の下を涙が流れ落ちた。

「ううう……」

 彼女は頭を抱え、その場に両膝を着いてしまった。


 ジョーとアレンは、近衛隊総司令部の奥にある吹き抜けの広いフロアに着いていた。その中央には、途中までしかないエレベーターのような建造物があった。

「あれがアラトスとマティスをつなぐホットラインだ」

 アレンがジョーを引き止めて告げた。

「転送機か?」

 ジョーはその建造物を見たままで言った。アレンはジョーを銃口で押して促し、

「そうだ。これが総統領府に唯一無事に辿り着ける装置だ。惑星マティスには衛星軌道に無数の防御システムが張り巡らせてあり、識別信号を発信していない艦船は絶対に大気圏に突入できない」

 ジョーは肩をすくめて、

「そうかい。俺は命拾いしたのか?」

 アレンは転送機の前で立ち止まり、

「そういう事だ」

 そう言ってからジョーを見て、

「それから、お前が護衛艦から脱出させた『銀河の狼』のメンバーと、お前に図らずも加担した近衛隊の分隊の構成員は、全員始末したぞ」

「何だと!?」

 ジョーは楽しそうに笑みを浮かべているアレンを睨みつけた。

「反乱分子は一人残さず処刑するのが我ら近衛隊の使命。そして、それに手を貸した者は、例え自分の肉親であろうとも罰するのが鉄則なのだ」

 アレンは全く悪びれる事なく言ってのけた。

「くそっ!」

 ジョーは自分の見通しの甘さから招いた事なので、歯ぎしりした。

「さあ、入れ。総統領閣下がお待ちなのだ」

 アレンは自分を睨み続けているジョーを開いた扉から転送機の中に押し入れた。

「所要時間は一分だ。私を睨んでいるうちに到着する」

 アレンは右手でパネルを操作し、左手でジョーの後頭部にストラッグルを押し当てて言った。転送機の中は、小型の軍艦並みの機器類がひしめいており、人間だけではなく、装置ごと転送されるらしい事が理解できた。

「転送を開始する。エレベーターに乗っているのとほぼ変わらんから、心配するな」

 周囲を念入りに見渡しているジョーにアレンが言った。二人が乗り込んだ「箱」は一旦フワリと浮き上がる動作の後、その場から消えた。

 そして、アレンの予告通り、一分後に別の転送機の中に到着した。扉がゆっくりと開くと、そこは総統領府の最上階の執務室の一角であった。

「む?」

 窓ガラスのそばにしゃがみ込んでいる漆黒の軍服を着た長い黒髪の女が見えたので、ジョーは眉をひそめた。

「閣下、ジョー・ウルフを連れて参りました」

 アレンがジョーを押し出しながら、その女に言ったので、ジョーはそれがまさしくアメア・カリングなのだとわかった。

(しかし、この感覚、どこかで会った事があるような気がする……)

 ジョーは、以前会った事がある謎の人物がアメア・カリングだと思っていたのだが、目の前にいる女はその人物と明らかに違う感じがした。女はアレンの言葉に反応して立ち上がり、こちらを向いた。白い仮面を着けた若い女。それしかわからない容姿である。

「失礼致します」

 アレンはそのまま下がり、退室してしまった。すると、それが合図だったかのようにアメアが走り出して、ジョーに抱きついてきた。

「な、何だ?」

 思ってもみなかった行動に、ジョーは困惑してしまった。

「ジョー、会いたかった……」

 アメアはまた仮面の下で涙を流したらしく、口の両端にそれらしきものが流れ落ちてきた。

「まさか……」

 ジョーはその声を近くで聞き、仰天した。アメアはスッと身を引くと、着けていた仮面を外し、その素顔を見せた。ジョーの両目が大きく見開かれた。

「カタリーナ……」

 仮面の下から現れた顔は、彼の最愛の女性であるカタリーナ・パンサーのそれだったのである。

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