第六十八話 決戦
ジョーとルイは急速に接近してくるニコラスの小型艇へと突き進んだ。
「これで終わりにするぜ、化け物!」
ジョーは再びキャノピーを開いて立ち上がると、ストラッグルを構えた。ルイも同様である。ニコラスの小型艇は回避行動を取る事なく、まっすぐに向かってきた。ジョーとルイのストラッグルが同時に吠えた。また特殊弾薬の巨大な光束が吐き出され、途中で合流してニコラスの小型艇へとうねりながら向かう。
「何!?」
ところが、光束が命中する寸前に小型艇は消えた。光束は目標物を失い、遥か彼方まで伸びて行き、消えた。
「ジャンピング航法? 速過ぎるぞ……」
ジョーは操縦席に戻ると、レーダーを覗いた。付近には、ミハロフの戦艦以外、何も捕捉されていない。
「終わりだ、ジョー・ウルフ」
突然、ジョーの小型艇の目の前にニコラスの小型艇がジャンピングアウトした。ジョーはハッとして回避しようとしたが、それよりも早く、ニコラスの小型艇からビームが発射されていた。
「ジョー・ウルフ!」
近くで見ていたルイが叫んだ。
「くっ!」
右をビームがかすめて、ジョーの小型艇は錐揉み状態で離れていった。
「はずしたか」
ニコラスは舌打ちをして、もう一度ジョーの小型艇に狙いを定めた。
「ニコラス・グレイ!」
そこへアメアの強烈な意識が飛翔してきて、ニコラスの小型艇を貫いた。
「おのれ!」
ニコラスはミハロフの戦艦の射程に入ったのに気づき、その場から離脱した。
「見つけたぞ、ニコラス!」
ミハロフの声が小型艇のスピーカから聞こえた。
「お前が優れたビリオンスヒューマンであればある程、この攻撃は効くぜ」
ミハロフの声が言った時、ニコラスの全身を激痛が走った。
「うがあ!」
ニコラスは白目を剥いて悶絶した。小型艇は姿勢を制御する事ができなくなり、不規則な動きをしながら、ミハロフの戦艦から離れていった。それと同時に、ニコラスの大戦艦から猛攻撃が開始された。
「くそ!」
ミハロフはすぐさま迎撃を開始した。二隻の戦艦の間で激しい火花が飛び散り、ミハロフの戦艦は各所で被害を受けた。
「ミハロフ、もっと接近しろ。白兵戦を仕掛ける」
アメアが席を立った。
「ダメだ。危険過ぎる。それにジョーの消息が掴めていない。今は動くな」
ミハロフはアメアの右の二の腕を掴んで引き止めた。アメアはキッとしてミハロフを睨み、
「ジョー・ウルフは無事だ! それよりも、ニコラス・グレイにとどめを刺せ!」
掴んだ手を振り払おうとしたが、ミハロフは立ち上がってアメアを引き寄せ、
「ダメだって言ってるだろ! ここはジョーとルイに任せろ。あんたがニコラスに一番影響を受け易いんだ。それを自覚しろ、アメア」
顔を近づけて諭すように告げた。アメアは赤面して、
「わ、わかった……」
席に戻った。ミハロフは微笑んで、
「いい子だ」
するとアメアはムッとしてミハロフを見て、
「子供扱いするな!」
怒鳴った。ミハロフは、
「ニコラスにはさっきからずっと対ビリオンスヒューマン兵器で攻撃をしている。奴はまともに動けないはずだ。その間に、あのバカでかい戦艦を黙らせる」
操縦桿を握ると、大戦艦の上に出るために進路を変更した。大戦艦もそれに気づいたのか、ミハロフの戦艦の行く手を阻むように上昇してきた。そして、攻撃が更に激しさを増した。
「ならば!」
ミハロフは進路を逆に下方へ修正し、流れて行くニコラスの小型艇を追いかけた。そこにまた大戦艦が立ちはだかり、行く手を遮ってきた。
「ルイ、このバカでかい戦艦を先に黙らせる。力を貸してくれ」
ミハロフはルイによびかけた。
「了解した」
ルイはジョーの小型艇を探していたが、反転して大戦艦に向かった。ルイの小型艇が向かってくるのを把握した大戦艦は、一部の攻撃をルイの小型艇に振り向けた。
「当たるか!」
ルイはそれをかいくぐり、大戦艦との距離を詰めると、ストラッグルで砲塔の発射口を狙って撃った。光束は発射口に飛び込み、砲塔を破壊し、付近を吹き飛ばした。大戦艦に火災が発生し、煙が噴き出した。
「よし!」
ミハロフはそれをモニターで確認すると、戦艦を大戦艦の上方へと向かわせた。大戦艦は破壊されたパーツを切り離して、再び全戦力をミハロフの戦艦に向けてきた。ルイはそれを阻もうとストラッグルを撃ったが、ルイの小型艇から見える砲塔を格納し、機雷を放出してきた。
「くっ!」
ルイはそれを素早くかわし、別の方向から攻撃を仕掛けようとした。するとハッチが開いて、中から無数の小型艇が出てきた。小型艇は一斉にルイの小型艇を攻撃してきた。
「ちぃ!」
ルイは舌打ちして大戦艦から離れ、小型艇を迎え撃つべく、方向を転換した。
「ルイ、ニコラスが離れ過ぎた。対ビリオンスヒューマン兵器が届かなくなった。奴に警戒してくれ」
ミハロフの声が告げた。
「了解だ。すぐにこいつらを片付ける」
ルイはキャノピーを開いて立ち上がり、特殊弾薬を装填して、群がる小型艇を一発で吹き飛ばした。
「来たか?」
そして、右前方にニコラスのパワーを感じて、眉をひそめた。
「ミハロフ、もうその兵器は私には通用しないぞ!」
ニコラスの怒声がミハロフの戦艦のブリッジに鳴り響いた。
「何?」
ミハロフはニコラスが虚勢を張ったのだと思ったが、対ビリオンスヒューマン兵器が確実にニコラスを捉えているにも関わらず、ニコラスが状態を保っているので、そうではないと理解した。
「精神波だ」
アメアが呟いた。ミハロフはその言葉にハッとした。
「まさか……。こちらの攻撃を精神波をシールドとして防御しているって事か?」
アメアはチラッとミハロフを見てから、
「そういう事だ。奴には物理的な攻撃しか通用しないという事だ。だが、生半可なものでは、奴のビリオンスヒューマン能力で弾き飛ばされてしまう」
ミハロフはニヤリとして、
「そのようだな。だったら、直接ぶん殴るしかねえか」
「お前はバカなのか?」
アメアが目を細めて自分を見ているので、
「冗談だよ」
ミハロフは苦笑いをして応じた。
「だが、お前達は後回しだ。まず最初に、ジョー・ウルフを殺す」
ニコラスの声が言うと、アメアがピクンとした。
「させないぞ!」
今度はミハロフが止める間もなく、アメアはブリッジを飛び出して行ってしまった。ミハロフは舌打ちして、
「ルイ、嬢ちゃんが出て行っちまった。頼んだぜ」
「アメアは私以上に戦える。彼女を子供扱いし過ぎではないのか、ミハロフ?」
ルイの意外な応答にミハロフは頭を掻いて、
「そういうつもりはねえんだけどさ」
アメアが出て行った扉を見やった。そして、レーダーを覗き、
(ニコラスにはジョーの居場所がわかるのか?)
迷う事なく進んでいるニコラスの小型艇の光点を見た。
ニコラスの小型艇を追って、アメアが乗る小型艇が宇宙の闇を突き進んだ。
「アメア、警戒しろ。奴はお前が出てくるのを織り込み済みだ」
ルイが言うと、アメアはフッと笑い、
「私も織り込み済みだ。奴が私を誘っているのであれば、返り討ちにするまで」
ルイはアメアの言葉に何も言い返さなかった。
(ジョー・ウルフ、今はどうしているのだ? 意識がないのか?)
ルイはジョーを感じる事ができないので、不思議に思っていた。
(アメア・カリングはジョー・ウルフの居場所を知っているのか?)
ルイは飛び去っていくアメアの小型艇を見た。
「おのれ!」
またしても、大戦艦の攻撃が始まったので、ルイは回避しながら、大戦艦に向かった。
(やはり出て来たか、アメア・カリング)
ニコラスはアメアの行動を予測して、意図的にジョー抹殺を宣言したのだった。
(お前を餌にして、ジョー・ウルフを仕留めてやる)
ニコラスはニヤリとして、鳴りを潜めたままのジョーに接近して行った。
「む?」
すると、突然ジョーの小型艇が目の前に現れた。
「待ってたよ、化け物。レースは終わりだ」
ジョーはキャノピーを開いて立ち上がっていた。
(何故だ? どうして奴の存在に気がつかなかった?)
ニコラスは目を見開いてジョーを見ていた。
「私がそうしたのだ、ニコラス・グレイ!」
背後でアメアの声が聞こえた。
「何だと!?」
ニコラスが叫んだ時、ジョーのストラッグルの光束がニコラスの小型艇を貫いていた。
「おのれえ! こんな事で、こんな連中のせいで、宇宙最強のこの私が、死ぬものかァッ!」
それはニコラス・グレイの断末魔だった。小型艇はいくつもの光を放ちながら、爆発し、四散していった。
『ジョー・ウルフーッ!』
ニコラスの残留思念であろうか、ジョーに纏わりつこうとして襲いかかって来たが、
「消えろ!」
アメアが振るったサンダーボルトソードがその執念を断ち切り、消し去った。
「五百年も生きたんだ、いい加減、諦めろよ、ニコラス・グレイ」
ジョーは操縦席に座ってキャノピーを閉じると、ニコラスの思念が消えた方角を見た。
「ジョー・ウルフ!」
アメアの声が聞こえたと同時に、彼女が宇宙服を着て、小型艇を飛び出してくるのが見えた。
「アメア!」
その行動に驚き、ジョーはすぐにキャノピーを開いて、飛んできたアメアを抱き止めた。
「よかった、無事で」
アメアは泣いていた。その顔はカタリーナにそっくりだった。ジョーは優しくアメアを抱きしめた。
「そういう事なのかよ」
その光景を感じたミハロフは、不機嫌そうに呟いた。
「やっと終わったな」
その思索を破るようにルイの声が言った。ミハロフは肩をすくめて、
「そうだな。やっと終わったよ。バカでかい戦艦の乗組員も、ニコラスに操られていただけだから、もう戦意はねえようだしな」
攻撃が止んだ大戦艦をブリッジの窓越しに見た。
「終わったのね。ジョー、アメア」
カタリーナは涙を流して呟いた。そして、スヤスヤと眠っている我が子を見て、微笑んだ。
「カタリーナさん、どうしたの?」
病室に戻ってきたエミーが尋ねた。カタリーナは涙を拭って、
「終わったのよ。ジョーが帰ってくるわ」
その言葉にエミーは目を見開いて、
「ほんと? ほんとにほんと?」
「もちろんよ」
カタリーナがニッコリしたので、エミーは、
「わーい! みんなに知らせてくるね!」
病室を飛び出して行った。




