第六十六話 真の強者
ジョーの挑発にニコラスはフッと笑い、
「私を怒らせるつもりか? 無駄だ。真の強者はそのような付け焼き刃の手には乗らない」
するとジョーは、
「何だ? 敵わないと思っているから、最初に言い訳か、化け物?」
更に挑発をした。それでもニコラスはジョーを嘲るように笑い、
「無駄だと言っているだろう? 何を言われても動じない。私は無敵だから、焦る必要も足掻く必要もないのだ」
ジョーはスッとストラッグルを構え、
「だったら、こっちからいってやるよ!」
特殊弾薬の光束を放った。
「温いぞ」
ニコラスはそれをいともあっさりとかわした。光束は部屋の壁をぶち抜き、建物全体を振動させた。
「温いのはどっちだよ」
ジョーはニコラスがかわして移動した場所にもストラッグルを撃っていた。
「何!?」
ニコラスはギョッとしたが、それでもかわした。
(バカな……。特殊弾薬はそれ程連続して撃てるものではないはず。奴のストラッグルがトゥルーストラッグルだからなのか?)
ジョーはニコラスが驚いているのに気づいていた。
「どうしてそんなに続けて撃てるんだっていう顔してるな? 撃てるんだよ。マイク・ストラッグルが納得したできのストラッグルにはな。そして、フレッド・ベルトっていう最高のガンスミスにメンテナンスをしてもらっていたしな」
ジョーはストラッグルを構え直して言った。
「だが、当たらなければ何もならない。その程度で図に乗るな、ジョー・ウルフ!」
ニコラスはキッとして怒鳴り、全身からパワーを噴き出させた。
「もちろんだ。今のは手加減しているってわからなかったのか?」
ジョーの言葉にニコラスは更に反応した。
「嘘を吐くな! あれがお前の全力だ。まだまだ私には遠く及ばないのを思い知らせてやる!」
ニコラスは先程よりももっと強力なパワーを放出した。そのせいで、周囲の壁や天井、床に亀裂が走った。
「今のうちに脱出しろ。この建物にはもう誰もいない」
ルイがケント達に近づき、囁いた。ケント達は黙って頷き、半分以上崩壊してしまっている部屋を出て行った。ニコラスもそれに気づいていたが、何もしなかった。
「仮にこの建物を出られたとしても、この星から出る事はできない。無駄な事をさせたな」
ニコラスはケント達が出ていくのを見ながら言った。
「そんな事はねえよ。てめえを消し飛ばして、この星を出る」
ジョーが言った時、彼の隣にアメアが並んで立った。
「そして、お前の攻撃はもうない。ここからはずっと私達の攻撃が続く。お前が消えてなくなるまでな」
アメアはサンダーボルトソードを最大出力にして上段に構えた。
「今までの礼を考えると、そう簡単には殺さねえぞ。たっぷりと思い知らせてやるから、覚悟しろ」
ミハロフ・カークが銃を構えて立ち上がった。
「そうだな」
ルイもケント達を見送ってからストラッグルを構えた。
「ふざけるな!」
動じないと言っていたはずのニコラスであったが、続けざまに法螺を吹いたとしか思えない言動を見聞きして、苛立ってしまっていた。
「貴様らには攻撃などさせぬ! すぐに息の根を止めてやる!」
ニコラスが消えた。彼はルイに向かっていた。この中で一番格下だと判断したのだ。
「舐めるな、化け物!」
ルイはニコラスの突きをかわすと、ストラッグルの銃把でニコラスの右頬を殴った。
「ぐあ!」
意表を突かれたニコラスはかわす事ができずに呻き声と共に身体をくねらせて倒れた。
「そんな、バカな……」
ニコラスは殴られた事が信じられないのか、右頬に右手を当ててしばらく呆然としていた。
「ぐっ……」
口の中の鉄錆のような味を感じ、ペッと吐き出すと、唾に血が混じってた。
「そんなもんじゃ、今までてめえが殺してきた人達の一億分の一の痛みにもならねえぜ」
そのニコラスを容赦なくミハロフが叩きつけるように上から殴りつけた。ニコラスは声も出せずに床に顔から倒れた。
「おのれ!」
顔を真っ赤にして激昂したニコラスはバネのように飛び起きると、その力を利用してミハロフの巨体に回し蹴りを浴びせた。
「どあっ!」
ミハロフは防御もできずにそれを食らってしまい、床に叩きつけられてバウンドし、壁まで転がって激突した。
「終わりだ」
ところが、その回し蹴りの着地点にアメアが待っていた。
「うおっ!」
ニコラスは紙一重でサンダーボルトソードの斬撃をかわして飛び退いた。
「逃がすか!」
アメアは袈裟斬りを仕掛けていたが、すぐに突きを繰り出し、ニコラスを串刺しにしようとした。
「甘い!」
ニコラスはそれを軍服の袖で受け流し、ガラ空きになったアメアのボディに右の突きを入れた。
「ぐはあ!」
アメアはそれを左の脇腹に喰らい、天井近くまで跳ね上げられてから床に叩きつけられた。
「まだだ!」
ルイはニコラスの背後に立ち、ストラッグルを撃った。
「遅い!」
ニコラスはフッと一瞬消えたかのように素早く動くと、逆にルイの背後を取り、彼の背中にトゥーキックを見舞った。
「ぐあ!」
ルイは前のめりに倒れた。ニコラスは次にジョーを探した。しかし、ジョーはどこにもいなかった。
「ジョー・ウルフッ!」
ニコラスがまた爆発的にパワーを放出した時、ジョーは真正面に降り立った。
「終わりだ、ニコラス。ブランデンブルグが待ってるぜ」
ストラッグルが吠え、光束がニコラスに向かった。
「届かぬ!」
ニコラスがパワーを高めてストラッグルの光束を捻じ曲げてしまった。光束は壁に穴を開けて消滅した。
「なかなかの連携プレーだったな。だが、私を倒す程のものではなかった」
ニコラスはジョーを見てニヤリとした。
「それはどうかな?」
ジョーはニコラスを見てフッと笑った。
「何?」
ニコラスは眉をひそめて周囲を見渡した。アメアもミハロフもルイもまだ立ち上がってもいない。
「ぐあああ!」
ニコラスの右脇腹を何かがかすめて抉った。
「ぐうう……」
ニコラスは右膝を突き、右手で出血している脇を押さえた。
「何だ?」
ニコラスはジョーを見た。ジョーはニヤリとして、
「俺が撃ったのは、ミハロフが隠しておいた対ビリオンスヒューマン兵器さ」
「何だと!?」
ニコラスはミハロフを睨みつけた。ミハロフは半身を起こして、
「さっき、隣の部屋まで飛ばされた時、仕込んでおいたのさ。ストラッグルの光束を反射して反撃する武器をな」
ニコラスは歯ぎしりをして、
「おのれええ! この私を愚弄しおって!」
すでに出血が止まった脇から右手を放すと、一足飛びにミハロフへ向かった。
「はああ!」
その跳躍したニコラスをアメアのサンダーボルトソードが一閃した。
「ぬあ!」
ニコラスは避けられずに喰らい、床に落下した。
「どれ程の実力者でも、感情を乱されると思うように防御できない。ましてや、別の相手に攻撃をした瞬間に思ってもみない方向から仕掛けられると防げねえよな」
床からすぐに立ち上がって身構えたニコラスにジョーが言った。白かった軍服のほとんどを血に染めたニコラスは憎しみの目でジョーを睨みつけた。
「おっと、一つ言っておくが、今更降参しても絶対許さねえんで、それだけは承知しておいてくれ」
ミハロフが立ち上がって言った。そして、彼はアメアにウィンクしたが、アメアはプイと顔を背けた。
「さてと。今度こそ終わりだ、ニコラス・グレイ。早く来いって、ブランデンブルグが呼んでるぞ」
ジョーがストラッグルをニコラスに向けた。ニコラスは歯軋りしてジョーを睨んでいたが、
「わかった。悪足掻きはしない。もはやこれまでのようだ」
ニコラスは肩をすくめて目を閉じた。
「何だ?」
ミハロフが眉をひそめた。アメアはまだ警戒心を解かずにソードを正眼に構えている。
「随分と潔いじゃねえか。何の真似だ?」
ジョーが問いかけると、ニコラスは数歩移動してから、
「何の真似も何もない。もはや勝敗は決したので、これ以上戦う必要はないという事だ。私の敗北を認めよう」
ジョー達を見渡した。
「ジョー・ウルフ、信用できない。こいつはまだ何か企んでいる」
アメアはニコラスをにらんだままで言った。ニコラスはアメアを見て、
「アメア・カリング、そこまで私を信用できないのか? 敗北を認めると言っているのだぞ」
「貴様はそんな事を言う人間ではない。きっと何か裏があるはずだ」
アメアはニコラスを射抜かんばかりの鋭い視線を浴びせかけた。
「降参しても許さねえって言ったろうが、化け物め!」
ミハロフが苛立って怒鳴った。ニコラスはミハロフを見て、
「だから、敗北を認めると言ったのだ。許して欲しいとは言っていない」
「屁理屈を言うな!」
ミハロフはますます苛立って叫んだ。ニコラスはまた肩をすくめて、
「わからない連中だ。私は敗北を認めたが、死ぬのはお前達だという事だよ」
「何だと!?」
ジョーとルイとミハロフとアメアがほぼ同時に言った時、部屋の壁に隔壁が降りてきた。そして、ニコラスを防護するかのように特殊ガラスの筒が降りてきて、ニコラスはそれと共に地下へと消えてしまった。
「見事だったよ。私をここまで追い詰めたのだけは褒めてやろう。だが、同時に私をここまで傷つけたのは許しがたい。一分後には骨も残らない程に吹き飛ばしてやるよ」
どこからか、ニコラスの声が聞こえ、やがて高笑いとなって聞こえなくなった。
「くそ!」
ミハロフが銃で壁を撃ったが、反射してしまった。
「ダメだ。これは以前、フレンチ侯国が使っていた軽身隊が着用していたスーツか、フランチェスコ共和国が使っていたロボテクター隊のリフレクトスーツと同じ素材だ。光線銃ではダメだ」
ルイが壁に手を当てて告げた。ミハロフは舌打ちした。
「なら、弾丸ならぶち抜けるな」
ジョーはストラッグルの弾薬を取り出して、大昔の銃に使われていた弾丸を装填した。
「私もやるぞ」
ルイも弾丸を取り出し、光束の弾薬を外すと、装填した。
「やるぞ!」
ジョーとルイは全く同じタイミングで発射しただけではなく、全く同じ箇所を撃ち抜いた。だが、できた穴は手が入る程度だった。
「ダメか」
ルイが呟くと、
「大丈夫だ」
ミハロフが穴の前に行き、両手でそれを掴んで広げ始めた。
「時間がないぞ」
アメアが言った。
脱出したニコラスは、累々と死体が倒れている地下通路を走り抜けて、情報長官公邸から離れた地上に出ていた。
「そろそろだな」
ニコラスが目を細めた時、公邸があった場所が大爆発をし、巨大な黒煙と火柱が上がるのが見えた。ニコラスは満足そうに笑みを浮かべると、走り出した。




