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第六十四話 激闘続く

 ジョーはアメアの血を顔に浴びたゼモがそれをローブの袖で拭うのを見ていた。

「てめえ、ふざけやがって!」

 ジョーよりも先にミハロフが動いた。彼は拳を振り上げて、ゼモに突進した。

「銃が使えないから、肉弾戦ですか? 知恵がないですよ、ミハロフ」

 ゼモは難なくミハロフの右ストレートをかわし、逆に彼の左脇腹に強烈な右フックを叩き込んだ。

「ぐはっ……」

 ミハロフはそのまま前に崩れ落ちるように倒れてしまった。

「許さない!」

 口から血を垂らしたままで、アメアが飛び起き、ゼモの背後からサンダーボルトソードを振り下ろした。

「芸がないですね、あなた方は」

 ゼモは蔑むような笑みでアメアの一撃をかわした。

「む?」

 するとかわしたゼモにルイが放ったストラッグルの光束が迫った。

「なかなかいい手でしたが、残念でしたね」

 ゼモは微笑んでローブの袖で光束を跳ね返した。

「何!?」

 ルイは自分が撃った光束が戻ってきたので、横に飛んでそれをかわした。光束は壁に当たって消滅した。

(奴はあのシールドを使っていないのか? さっきも俺の攻撃をかわし切れずに頬を切った)

 ジョーはゼモがストラッグルの光束を無効にしてしまうシールドを使っていない事に気づいた。

「ならば!」

 ジョーは通常の弾薬を使い、ストラッグルを連射した。

「無駄ですよ、ジョー様。私を倒したければ、完全なるトリリオンスヒューマンになってください」

 ゼモは光束を容易くかわすとジョーへ一瞬にして詰め寄り、掌底で彼の腹部を打った。

「ぐう!」

 ジョーはそれに気づいてストラッグルの銃身で防いだが、防ぎ切れずに後ろに飛んで倒れた。

「ジイさん、体力が続かねえようだな」

 ミハロフが口から流れ落ちていた血と涎の混ざったものを拭いながら立ち上がった。アメアがソードを構え直してゼモを睨んだ。ゼモは笑みを封印して、ミハロフを見た。

「あんたはゲノム編集で死を超越して、無限に生きられる身体を得たんだろうが、そのタイミングが悪かった。ある程度年を取ってからだったようだな。今まで、これ程長く戦い続けた事がねえんだろ?」

 ミハロフはニヤリとしてゼモを見た。ジョーはハッとした。

(そういう事か。しかし、では何故、シールドを切っているんだ?)

 それが疑問だった。ルイは目を細めてゼモを見ている。

「私の体力の心配をしている場合ですか、ミハロフ? 貴方も強がっていられる状態ではないはずですよ」

 ゼモは真顔でミハロフを見て言った。ミハロフは苦笑いをして、

「そうだな。肋骨でまともなのはせいぜい一本か二本だし、脾臓が破裂したようで、内出血も酷いみたいだ」

 胸をさすって見せた。しかし、

「だが、大丈夫だよ。もう治り始めている。治癒能力はトリリオンスヒューマンに達したようだぜ」

 ゼモを見返した。

「それはよかったですね」

 ゼモはまた微笑み、あご髭を撫でた。

「では、すぐに楽にしてあげましょう」

 ゼモの姿が見えなくなった。

「がはっ……」

 ミハロフは口から血を吐き出していた。ゼモの右の手刀が彼の胃の辺りを貫いていたのだ。

「ミハロフ!」

 ジョーとルイがほぼ同時に叫んだ。アメアは目を見開いて、ミハロフの背中から突き出されたゼモの右手の先を見ていた。

「抜かったぜ……」

 ミハロフはニヤリとしてゼモを見た。そして、

「引っかかったな、ジジイ!」

 ゼモの華奢な身体を丸太のような両腕で締め上げた。

「何のつもりですか?」

 ゼモは余裕の笑みを浮かべたままでミハロフに尋ねた。

「ジョー、撃て! ジジイの動きは封じた!」

 ミハロフは血を吐き散らしながら叫んだ。

「わかった」

 ジョーはストラッグルを構えて、ゼモに狙いを定めた。アメアは息を殺してその状況を見守っていた。

「ジイさん、幕を降ろすぜ」

 ジョーのストラッグルが吠え、ゼモに向かった。するとゼモはその華奢な身体から想像もつかないような怪力を発揮して、ミハロフの身体を持ち上げると、それを盾とした。

「残念でしたね、ミハロフ」

 ゼモが微笑んでミハロフを見上げると、

「全然残念なんかじゃねえよ、ジジイ」

 ミハロフはニヤリとした。ゼモが気がついた時は遅かった。アメアのサンダーボルトソードがゼモの左脇腹を貫いていたのだ。

「ぐふあっ!」

 ゼモは口から血を吐き出した。

「おっと、汚ねえな、ジジイ」

 ミハロフはゼモの両肩を掴むと、グイッと押しのけて、腹を貫いていた右手を引き抜くと、ゼモを放り出した。

「ぐうう……」

 ゼモは左脇腹から大量に出血したままで、床に倒れ伏した。

「ミハロフ!」

 アメアが倒れかかったミハロフを支えた。ミハロフはアメアを見て、

「よく気づいてくれたな、嬢ちゃん。さすがだ」

「嬢ちゃんではない! アメア・カリングだ!」

 アメアは目を潤ませてミハロフを睨んだ。

「そりゃあすまなかったな……」

 ミハロフはそれだけ言うと、ドオッと床にうつ伏せに転がった。

「ミハロフ!」

 ジョーとルイが駆け寄り、軍服から止血剤を取り出してスプレーした。

「心配いらねえよ。すぐに血は止まるって……」

 目の焦点が定まっていないミハロフが言った。

「黙ってろ」

 ジョーは一喝して止血を続け、ミハロフの身体を半回転させて、腹にも止血剤をスプレーした。

「ジョーさん!」

 ケント達の甲高い声が部屋に響いた。ジョーはハッとしてゼモの方を見た。予想通り、ゼモは起き上がっていた。しかも、すでに血は止まっていた。

「初めて素晴らしいチームプレイを見せていただきましたよ。しかし、完全に殺さないままで放置してはいけませんね」

 血だらけになったローブをそのままにして、ゼモは立ち上がった。ジョーとルイはミハロフをかばうように立ち上がった。

「バケモノかよ……」

 ミハロフがチラッとゼモを見て呟いた。

「バケモノは貴方ですよ、ミハロフ。アンドロメダ銀河連邦が、私を始末するためだけに作り出した人間なのですからね」

 ゼモは微笑んだ顔でミハロフを見下ろした。ミハロフはチッと舌打ちをした。

「だが、その貴方を以ってしても、私は倒せませんでしたね。そして今また、あなた方は敗北するのです」

 ゼモがまた姿を消した。そして、その標的はアメアだった。ゼモの掌底がアメアの顔に迫った時、

「何!?」

 ゼモの右腕をジョーの右手が掴んでいた。ゼモは驚愕の目をジョーに向けた。

「見えていたのですか、ジョー様?」

 ジョーはフッと笑って、

「ああ、はっきり見えていたよ。それより、その気分が悪くなる人をバカにした喋り方、いい加減やめろ」

 左手でゼモの顎を掴んだ。

「そうですか。気分を害されたのであれば、やめにしましょう」

 ゼモはスッとジョーから離れた。

「それでは、遠慮はしない。次は息の根を止めるぞ、ジョー・ウルフ」

 先程までの柔らかい物腰をやめたゼモは凶悪な顔になり、ジョーとアメアを見た。

「遂に正体を現したな、外道め。今度こそ、殺してやる!」

 アメアがサンダーボルトソードを下段に構えて言った。

「そんな事ができるのは、この宇宙にはいない。貴様らにはすでに死しか残されていないのを知れ」

 ゼモがもう一度姿を消した。

「無駄だ!」

 ジョーは今度はゼモのあご髭を掴んでいた。

「ぬうう!」

 髭を強く引っ張られて、ゼモは顔を苦痛に歪ませた。

「しばらく休んでろ、ジイさん」

 ジョーの右フックがゼモの顔の左をヒットした。ゼモの顔が大きくひしゃげるのをアメアとルイは見た。

「ぬぐあ!」

 ゼモは口から血を吐き、歯を数本吹き出して床に転がった。

「死ね!」

 アメアが間髪入れずにサンダーボルトソードを振り下ろした。

「ぐはあ!」

 ゼモはそれを腹部に受け、口から高々と血飛沫を飛ばした。

「はああ!」

 アメアはソードをそのまま胸へと斬り上げた。斬ったところからも血飛沫が上がった。

「心臓は潰した。もはや復活はない!」

 アメアはソードを引き抜いた。ゼモは目を見開いたままで絶命していた。アメアはソードを引き抜き、電流を切ると、ベルトに差した。

(妙だ。あっさり決まりがついた。何だ?)

 ジョーは呆気ない幕切れに眉をひそめた。

「まだだ。私はその程度で死にはしないよ、アメア・カリング!」

 完全に死んだと思われたゼモが飛び起き、アメアの腹部を背後から手刀で貫いた。アメアは信じられないという顔でゼモに目を向けてから、床に倒れてしまった。

「アメア!」

 少し回復してきたミハロフが半身を起こして叫んだ。

「てめえ!」

 ジョーは自分の失態に歯軋りして、更にアメアに攻撃をしようとするゼモに向かってストラッグルを放った。

「無駄だ、ジョー・ウルフ! 貴様の銃撃はすでに見切っている!」

 ゼモはストラッグルの光束をかいくぐり、ジョーに襲いかかってきた。

「ヤロウ!」

 横からミハロフが銃を撃った。ゼモはそれもかわして、ジョーへと迫る。ミハロフの放った光束はUターンをして再びゼモに迫った。

「しつこい!」

 ゼモはそれをローブの袖で弾き飛ばすと、ジョーに手刀を繰り出した。

「食らうか!」

 ジョーはゼモの手刀をストラッグルの銃身で受け止め、反対に右のストレートでゼモの左の顔面を殴った。

「ぶべっ!」

 ゼモは床に突っ伏すように倒れた。ジョーはアメアに駆け寄り、止血剤をスプレーした。

「アメア!」

 自分の娘と知らされて以降、複雑な思いで彼女を見てきたジョーだったが、今は一人の人間として心配していた。

「大丈夫だ、ジョー・ウルフ。私はアメア・カリングだぞ。この程度で死にはしない」

 痛みに堪えながら、アメアがジョーを見た。

「隙を見せるな、ジョー・ウルフ!」

 ゼモが起き上がり、ローブの袖から銃を取り出して、ジョーを撃った。

「ジョー!」

 アメアが絶叫した。ジョーは右胸を撃ち抜かれ、アメアに寄りかかるように倒れた。

「ジョー・ウルフ!」

 ルイはゼモを狙って撃ちながら、ジョーへと駆け寄る。

「くそ!」

 ミハロフはふらつきながらも立ち上がり、もう一度ジョーに銃を向けるゼモに突進した。

「ジョー・ウルフは心臓が右にある事くらい、情報として得ている。アメア・カリング、ジョー・ウルフは助かりはしない」

 ゼモはそう言って高笑いをし、ルイとミハロフを撃退すると、彼女に向かってきた。


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