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第六十三話 覚醒

 ジョー達は何が起こっているのかわからないまま、床を転げ回った。四人の中でも、ミハロフが一番苦しんでいた。

(これは対ビリオンスヒューマン兵器……。抜かったぜ……)

 自分が用意していたもので逆に自分達が追い込まれるとは思っていなかったのだ。トリリオンスヒューマンを自称するゼモ・ガルイであれば、その用意がされていても不思議ではないとミハロフは後悔した。

「まだレベルは1です。これから更に痛みは強くなります。どこまで堪えられるか、見ものですね」

 またゼモの声が聞こえた。

「くそ!」

 ジョーは歯軋りしてその得体の知れない痛みに堪えていたが、何がどうなっているのかわからない事が一番の恐怖だった。

「何が起こっているのだ!?」

 アメアが長い髪を振り乱して立ち上がり、よろけながらも辺りを見渡した。彼女はどこから波動が出ているのか見つけ出そうとしていた。

「おのれ!」

 ルイも頭の中をかき回されているような痛みを堪えて、立ち上がろうとした。

「レベル2です」

 ゼモの非情な声が告げた。

「ぐあああ!」

 立ち上がりかけたルイが倒れ、ミハロフが目から血を流した。アメアは踏みとどまっていたが、鼻から血を流した。

「ふざけやがって!」

 ジョーも口から血を流し、床を強くかきむしったので、爪が剥がれて血が噴き出していた。

「ジョーさん!」

 全く影響がないケント達三人は、苦しんでいる四人を驚いて見ているしかなかった。

(もしかすると、これはストラード・マウエルが使った精神波か?)

 ジョーは以前戦った銀河帝国皇帝のストラードが放った波動と似ていると思った。

(あれと違うのは、連続して襲ってくるところだ)

 気を張り詰めていないと神経をズタズタにされそうな攻撃である。ストラードの精神波は単発的だったが、今放たれている波動は途切れる事がない。

「うおおお!」

 その時、ミハロフが雄叫びをあげて立ち上がり、波動を跳ね返したのがわかった。

「舐めるなよ、ジジイ。俺を誰だと思っているんだ?」

 ミハロフは目から流れ落ちた血を右の袖で拭い、天井を睨んだ。

「さすがですね、ミハロフ。しかし、まだレベル2ですよ」

 ゼモが言い終わると同時に、また波動の強さが変わった。

「ぐううう!」

 ミハロフは立ったままで波動に堪えていたが、

「ぐはあ!」

 耳から血を吹き出して、仰向けに倒れてしまった。

「ふおおお!」

 アメアは鼻から滴り落ちる血をそのままにして、まだ堪えていた。

「アメア様、お綺麗な顔が汚れていますよ。ご無理なさらないように」

 ゼモの声が言うと、アメアは、

「うるさい! お前の心の方が余程汚れている! このままでは絶対にすまさんぞ、ゼモ・ガルイ!」

 真っ赤に染まってとうとう血を流し始めた目で天井を睨んだ。

「強がりも大概にされないと、痛い目を見ますよ」

 ゼモの声が言った。

「うあああ!」

 レベルが更に上がった。アメアも耳から血を流し始めた。ジョーとルイは立ち上がりかけたが、レベルが上がった途端、跳ね飛ばされたかのように床を転がった。

「ジョーさん!」

 ケントがジョーに駆け寄った。

「大丈夫だ。下がってろ。危ないぜ」

 ジョーはフッと笑ってみせた。ケントは黙って頷き、妻のアルミス、妹のカミーラを伴い、部屋の隅へと下がった。

「はああ!」

 ジョーは気合いを入れると勢いよく立ち上がり、ストラッグルを構えた。

「ストラッグルは撃たせませんよ」

 ゼモの声が言った。またレベルが一段上がった。ジョーは目と耳と鼻から血を吹き出した。だが、倒れなかった。

「うおお!」

 ストラッグルのトリガーが引かれ、特殊弾薬の光束が吐き出された。

 

 光束は部屋の天井をぶち破り、ゼモとネルム・ザキームがいる部屋へと向かった。

「何……です……と……?」

 ネルムは何が起こったのかわからないまま、光束に焼き尽くされて息絶えた。ゼモはそれより早く部屋を出ていたので、怪我すらしていなかった。

「ジョー様、お見事です。しかし、装置は破壊されていません。あなた方はまだ地獄から抜け出せてはいませんよ」

 ゼモはニヤリとして言った。


「そうみたいだな。だが、てめえの居場所ははっきりわかったぜ!」

 ミハロフが立ち上がり、銃を撃った。光束はジョーが開けた穴を通り、ゼモに向かった。


「ミハロフ、それはダメですよ。貴方は死にます」

 ゼモはミハロフが放った光束を右の掌で受け止めた。光束はゼモを貫く事なく、吸い込まれていくように消えていく。


「何だと!?」

 ミハロフは異変に気づき、銃を撃つのをやめようとしたが、光束は止まらなかった。

「畜生、その手があったのか!?」

 ミハロフは歯軋りして悔しがり、銃を投げ捨てようとした。しかし、銃が手から離れず、ミハロフは光束を放ち続けた。

「ぐううう!」

 彼の顔が見る見るうちにやつれていき、顔色が青くなっていくのを見たジョーが、

「ミハロフ!」

 ミハロフが放っている光束をストラッグルで撃ち切った。

「ぐわ!」

 ようやく解放されたミハロフは仰向けに倒れてしまった。

「何があったのだ?」

 顔を血だらけにしたアメアがジョーに尋ねた。ジョーは痛みに堪えながら、

「ミハロフの銃は、ビリオンスヒューマンエネルギーをそのまま光束に変換する銃だ。だから、ジイさんがそれを強制的に吸い取っていたって事さ」

 ルイはそれを聞いて立ち上がり、

「ならば、普通の光束で攻撃するしかないという事だな!」

 特殊弾薬を装填したストラッグルを撃った。光束が再び穴を通ってゼモへと向かった。

「ダメだ。奴はもういねえよ。逃げやがった」

 ミハロフが半身を起こして言い、口の中の血を吐き出した。

「逃げてなどいませんよ」

 すると、鉄の扉が開いて、ゼモが現れた。波動はそれと同時に停止した。

「ゼモ・ガルイ!」

 アメアがサンダーボルトソードを振り上げて、突進した。ゼモはアメアの大上段からの一太刀を難なくかわすと、彼女の腹部に掌底を叩き込んだ。

「があ!」

 アメアは口から血の塊を吐きながら後ろへ飛ばされて、床に倒れた。

「まさか、レベル5まで堪えるとは予想していませんでした。ですからこうして、直接お相手をしに参ったのです」

 ゼモは微笑んで告げた。

「今まさに処刑の時刻になりました。苦しまずに死んでいただきますので、ご安心ください」

 ゼモがカッと目を見開くと、先程までの波動とは格違いの強烈な波動が襲ってきた。

「うぐあ!」

 ミハロフもルイもジョーも堪え切れずに後ろに飛ばされて倒れ、起き上がりかけていたアメアは床を転がり回った。

「この何百年、精神波は使いませんでした。ですから、アンドロメダ銀河連邦の資料にも、私が精神波を使うとは記されていなかったはずです」

 ゼモはミハロフを蔑むような目で見た。ミハロフは歯軋りしてゼモを睨んだ。

「おや、まだご存命のようですね。ではもっと波動を強くしてみましょうか」

 ゼモの精神波がまるで巨岩を落としてくるような衝撃で四人の脳を襲った。

「ぐおおお!」

 四人は床をのたうち回った。だが、誰一人として息絶えた者はなかった。

「おかしいですね。今度こそ、楽にして差し上げますよ」

 ゼモの精神波が再び四人を襲おうとした時だった。

「む?」

 ゼモは四人の前に壁ができるのを感じた。

「何?」

 ゼモは眉をひそめて、その壁を見た。

「いつまで調子に乗ってるんだよ、ジイさん。そろそろこっちの番にしてもらうぜ」

 ジョーが立ち上がっていた。しかも、ゼモの精神波を跳ね返していたのだ。

「何と!」

 ゼモは目を見開き、ジョーを睨んだ。

「ジイさん、ちょっと遊び過ぎだよ。あれだけ食らっちまうと、こっちも耐性がつくぜ」

 ジョーは口の中に溜まっていた血を吐き出して、ゼモを睨み返した。

「まさか……?」

 ゼモは動揺したように一歩退いた。

「何がまさかだ。いくぞ!」

 ジョーは素早くストラッグルを構えると、連射した。ゼモは一瞬動くのが遅れたが、それでも光束をことごとく交わした。

「ぬお!」

 ところが、最後の一発を交わしたつもりが、顔をかすめられ、右のあご髭の一部を焼き焦がし、頬を切り裂かれて、血が流れた。

「バカな……?」

 ゼモは信じられないという顔で、頬を伝う血を右手で拭った。

「てめえにも赤い血が流れているんだな。ちょっと驚いたぜ」

 ミハロフが立ち上がって言い放った。ゼモはキッとしてミハロフを見た。

「おのれ!」

 ゼモは背後から襲ってきたミハロフの光束をすんでのところでかわした。

「ジョーの言う通りだぜ、ジジイ。俺達にあれだけの猶予を与えたのは大失敗だったな。それに今気づいて、焦ってるんだろ?」

 ミハロフがニヤリとして言うと、

「どういう事だ?」

 ジョーがミハロフを見た。ミハロフはジョーを見て、

「俺とあんたが、ジジイに追いついてきたって事さ」

「何?」

 ジョーは眉をひそめてゼモを見た。ゼモは肩をすくめて、

「追いついてきたというのは、少々大袈裟ですね、ミハロフ。少しだけ距離が縮まった程度ですよ」

「何だと!? 強がりもその辺にしとけ、クソジジイ!」

 ミハロフがズシンと前に踏み出した。

「俺とジョーはトリリオンスヒューマンになったんだろ? だから、あんたの精神波を止められた。違うか?」

 ミハロフの言葉にジョーは驚いて目を見開いた。ルイとアメアも同様である。

「半分正解ですね。しかし、あなた方はまだその力を完全に制御できていない。まだまだ宝の持ち腐れ状態ですよ」

 ゼモは余裕の笑みを浮かべ、あご髭を撫でた。

「何だと!?」

 ミハロフはもう一度銃を撃った。光束が弧を描いてゼモへ向かったが、ゼモはそれをスッとかわし、

「その銃は私には通用しないと教えたはずですよ、ミハロフ」

 急カーブを描いてゼモを追いかけてきた光束を掌で受け止めた。

「くそ!」

 ミハロフは慌てて銃を投げ捨て、先程の二の舞を逃れた。

「ならば!」

 今度はアメアが再びサンダーボルトソードを振り上げて、ゼモへ向かった。

「あなた方には学習能力がないのですか?」

 ゼモはまた肩をすくめ、容易くアメアの斬撃を交わすと、掌底を彼女の腹部へ打ち込もうとした。

「食らうか!」

 しかし、アメアはそれよりも早く横に逃れており、ゼモの掌底は空振りに終わった。

「それも想定ずみですよ」

 ところが、ゼモはアメアが横に逃れるのを見抜いていたかのように回転し、右のローキックで彼女の脚を払って倒すと、腹部に掌底を叩き込んだ。

「がああ!」

 逃れる術がないアメアは絶叫した。口から大量の血が吹き出し、ゼモは返り血を浴びた。

「まだ続けますか、ジョー様?」

 ゼモは微笑んだままでジョーを見た。



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