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第六十一話 カウントダウン

 ジョー達は情報部が入っている棟へと連行され、地下の留置所へと収容された。そこはどこからも光が差し込まない密室で、ジョー、アメア、ルイ、ミハロフは各独房へ押し込まれた。分厚い金属製の扉には窓も通気口もなく、四人は一切の連絡手段を奪われた。

「そこは今まで、総統領閣下に逆らった者達が収容され、死刑の日を待った部屋です。感慨も一入ひとしおでしょう、アメア・カリング閣下? いや、すでに閣下ではないですかね」

 僅かな明かりがある独房の天井に取り付けられたスピーカーから、情報部長官のネルム・ザキームの嫌味な声が聞こえた。アメアが猛反論した事は、ジョーにはわかったが、その声も聞こえる事がない程、独房は気密性に優れ、このまま中の空気を抜かれれば、酸欠で死んでしまうと思われた。

「では、共和国標準時の明日の午前十時まで、ほんのひと時をごゆっくりお楽しみください」

 ネルムの声はそれだけ告げると、通信を切ったようだった。

(監視カメラもあるのか)

 ジョーは天井を見渡して、天井の四隅に小さなレンズがあるのに気づいた。不審な行動を取れば、すぐにわかってしまうという事だ。

(どうする?)

 ジョーは独房に入れられる前に軍服を脱がされ、軍靴に仕込んである武器も全て取り上げられてしまった。それはルイもミハロフも同じだった。アメアはサンダーボルトソード以外に武器を携帯していなかったので、そこまで調べられる事はなかった。留置所の係官達は、ネルムの部下のようだったが、アメアの身体検査をした女性の係官はつらそうに見えた。だが、命令に逆らえば、自分がどうなるのかを考えれば、従うしかなかったのだろう。アメアもそれに気づいたのか、

「構わん。お前が悪いのではない」

 小さな声で慰めた。女性の係官は目を潤ませながら、ネルムに身体検査の結果を報告していた。

(圧政で人々を苦しめている総統領というのは、もしかすると反共和国同盟軍の流した偽情報なのかも知れないな)

 アメアの振る舞いを見てきたジョーはそう思った。

(あるいはあの嫌味な情報部長官のネルム・ザキームが流したのか? 奴はゼモと通じていた節があったからな)

 ジョーは壁に寄りかかるようにして冷たい床にしゃがみ込み、

(ここを出る時が一番のチャンスだ。その時を逃したら、俺達は犬死だ)

 目を閉じて、眠る事にした。幸い、部屋の中は薄暗く、睡眠を妨げるような音も発せられていなかった。

(ケント達はどうしているだろう? 用なしだとして消されたか?)

 しかし、ジョー達を死刑にする寸前までおとなしくさせておくために生かされているのではないかとも思えた。

(犬死は俺達だけじゃない。ケント達も、俺達を死刑にした直後に殺されてしまうだろう。そうなったら、何も意味がない)

 何があっても、この窮地をしのがなかればならないとジョーは思った。


「外が騒がしいみたいね。何かあったのかしら?」

 カタリーナはそばにいたエミーに尋ねた。エミーは腕組みをして、

「そうなの。だから、静かにしてって言ったら、おじさんが怖い顔して、『それどころじゃないんだよ』って言ったの。まあ、あのおじさんはいつも顔が怖いけどね」

 カタリーナはエミーの言葉にプッと吹き出したが、

「ねえ、エミー、何があったのか、訊いてきてくれない?」

「うん、わかった」

 エミーは任せなさいとポンと胸を叩くと、病室を出て行った。

(嫌な予感がする……。ジョー、大丈夫なの?)

 カタリーナは不安で震えが止まらなくなった。


「公開処刑ですか。なかなかによい趣味をされていますね」

 ゼモの思惑を長官室で聞かされたネルムはニヤリとした。ゼモはあご髭を撫でながら、

「皆さん、名の知れた有名な方ですからね。少しでも多くの方々にその死を悼んでいただければと思ったまでの事ですよ」

 微笑んで応じた。

「そして何より、ジョー様が処刑されれば、銀河の民の失望は大きなものとなり、厭世感が広まります」

「暴徒を未然に押さえ込んでしまうという事ですか」

 ネルムはゼモにソファを勧めて、その反対側に腰を下ろした。ゼモはゆっくりとソファに落ち着くと、

「いずれにしても、銀河の民にはすぐにジョー様の後を追っていただく事になるのですが」

 笑みを絶やさずに言ったので、ネルムは苦笑いをした。

(私もさすがにそこまで考えてはいませんでしたよ)

 彼はゼモの冷徹さに内心自分の身もいつまで安全かと疑問に思った。その時、長官の机の上のインターフォンが鳴った。

「何ですか?」

 ネルムは面倒臭そうに立ち上がると、ボタンを押して尋ねた。

「反乱軍の残存艦隊が集結しつつあるとの報告が入りました」

 ネルムはチラッとゼモを見たが、ゼモはまるで無関心であるかのように微笑んでいる。

「しばらく監視を続けなさい。軍に迎撃体制を取らせるのも忘れずに」

 ネルムはそれだけ命じると、インターフォンを切った。

「あの方達は、どうしてエレン・ラトキア様が亡くなったのか、ご存じないのでしょうね。心配する必要はありません。我が艦一隻で、殲滅できますよ」

 ゼモは窓の外に視線を移して言った。

(確かに貴方が乗ってきたあの箱舟なら、反乱軍如き、一瞬にして全滅させられるでしょうね)

 ネルムは、ケント達を確保するために乗り込んだので、ゼモの乗艦の規模はよくわかっていた。

「ほう……」

 唐突にゼモが言ったので、ネルムはピクンとして彼を見た。

「如何なさいましたか?」

 するとゼモは高笑いして、

「いえ、何でもありません。お気になさらず」

 あご髭を撫でて応じた。ネルムはゼモの高笑いにギョッとして、

「そうですか」

 何も尋ねずに引き下がった。


 そして、惑星マティスに夜が訪れた。共和国標準時とは、マティスの総統領府の時刻そのものである。ジョー達は十時間程経てば、処刑されるのだ。

 その闇に蠢くものがあった。全滅したと思われていた総統領近衛隊の隊員達だった。彼らは総統領執務室で無残な死を遂げていた隊長のアレン・ケイムの遺体を運び出し、極秘に葬った。その後、ゼモの陰謀の手引きをしたのがネルムだと突き止め、密かに行動していたのだ。そして、アレンの厳命である「総統領閣下を命に代えても守る事」を遂行しようとしていた。

「情報部の連中は、我々が全滅したと思い込んでいる。その隙を突き、総統領閣下をお助けするのだ」

 だが、彼らが助け出そうとしているのは、アメア・カリングだけだった。ジョー達の消息など無関係なのである。彼ら近衛隊は、マティスの全ての建物の配置、内部の構造を把握している。クーデターを何よりも警戒していたアレンが、各部署に手を回して、全て入手していたのだ。

 隊員達は、警戒の手薄なところから情報部棟の内部に潜入し、地下の留置所へと向かった。そして、幾人かいた情報部の係官を素早く始末すると、独房の前まで一気に辿り着いた。ところが、ここに至って、難問が発生した。アメアの閉じ込められている独房が不明なのだ。こればかりは調べようがなかった。扉は気密性が高いので、叫んでも中にいる者には聞こえはしない。

「片端から解放するしかない」

 扉の開閉を制御している管理室へと行き、操作をしようとしてまた難題にぶち当たった。独房の扉は一斉に閉じるか開けるかしかできないのだ。

「仕方がない。他の三人も助けよう」

 ジョー達を味方に付けた方が得策だと判断した部隊の長が結論した。そして、処刑執行の六時間前に、ジョー達は独房から解放された。

「今は味方だ。お前達も救出する」

 部隊長は管理室の奥から見つけ出した銃をジョー達に返して告げた。

「ありがとうと言っておく。だが、何かあった時は、自分の身は自分で守れよ」

 ジョーはストラッグルを受け取りながら言った。

(しかし、妙だな。あっさりし過ぎている)

 呆気ない脱出劇にジョーは眉をひそめた。それはルイやミハロフも同じだった。

「罠じゃねえか?」

 ミハロフが銃をホルスターに差しながら言った。ルイは頷いて、

「警戒した方がいい」

 するとアメアが、

「ストラッグル一族はどこだ?」

 部隊長に尋ねた。部隊長は直立不動になって、

「彼らは長官の公邸に軟禁状態であります」

 ジョーはストラッグルの弾薬を確認して、

「よし、そこへ向かうぞ」

「いや、それは予定外で……」

 部隊長が反対したが、

「行くぞ」

 アメアがジョーと共に走り出したので、仕方なく従った。ルイとミハロフは顔を見合わせてから、ジョー達を追いかけた。


 エミーはアジトの中枢部へと行くと、何があったのか訊こうとしたが、あまりにも騒然としていて、話を聞ける状態ではなかった。

「おじさん、一体何があったのよ!?」

 業を煮やしたエミーは、サンド・バーを強引に引き止めて尋ねた。

「おじさんはやめろって言っただろ!」

 いつものセリフで返したサンド・バーは、一瞬躊躇ったが、

「ジョー達が捕らえられて、共和国標準時の明日の午前十時に処刑されるらしいんだ」

「何ですって!?」

 エミーの大声に一瞬だけ中枢部が静まり返ったが、またすぐにガヤガヤと騒がしくなった。エミーは泣きそうになるのを必死に堪えて、カタリーナが待つ病室へと走った。

(カタリーナさんにそのまま伝えていいのかな?)

 そう思ったエミーだったが、

(伝えないのはもっと悪い!)

 意を決して、病室の扉を開いて中に入った。カタリーナはちょうど授乳しているところだった。

「あ、ごめん、カタリーナさん」

 エミーは顔を赤らめて詫びたが、

「何を謝ってるの、エミー? さっきだって見たでしょ?」

 カタリーナは微笑んで応じると、授乳を終え、また眠ってしまった我が子をベッドに寝かせた。

「何があったか、わかった?」

 カタリーナの問いかけにエミーはビクッとしてしまった。

「どうしたの?」

 カタリーナはエミーの様子が変なので、彼女の顔を覗き込むようにして尋ねた。エミーはまた逡巡しかけたが、

「共和国標準時の明日の午前十時に、ジョー達が処刑されるらしいの」

 消え入りそうな声で告げた。

「え?」

 カタリーナは目を見開いた。

「どういう事、エミー?」

 カタリーナは聞き間違いかと思って、もう一度尋ねた。エミーは涙を流しながら、

「共和国標準時の明日の午前十時に、ジョー達が処刑されちゃうの!」

 大声で言った。カタリーナはそのまま気を失ってしまった。




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