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第五十五話 真実はいずれにある?

 ジョーは決死の思いでタトゥーク星に向かっていた。ルイはそれを必死に追いかけていた。

「ジョー、聞こえる?」

 カタリーナの声が通信機を通じて流れた時、ジョーは心底ホッとした。

「カタリーナ、無事なのか?」

 ジョーの問いかけにカタリーナの声は、

「何言っているの? 貴方こそ、大丈夫? ゼモ・ガルイとはどうなったの?」

「え? 何を言っているんだ、カタリーナ? そっちこそ、ミハロフ・カークが降り立ったんだろう?」

 ジョーはカタリーナの質問の意味がわからず、反問した。

「私達は無事よ。とにかく、貴方が生きていてよかった。詳しい話は、ミハロフから直接聞いて。その方が納得いくと思うから」

「そ、そうか……」

 ジョーはカタリーナ達がミハロフに殺されていないのを知ってよかったと思ったが、それ以上に不可思議な事が起こっているのに気づいた。

「どうした、ジョー・ウルフ? 何があったのだ?」

 追いかけてきていたルイが通信に割り込んできた。ジョーは苦笑いして、

「いや、何もない。どうやら俺達はあのジイさんに踊らされていたらしいぜ」

「ジイさん? ゼモ・ガルイの事か?」

 ルイの声が低くなった。ジョーは、

「ああ、そうだ。とにかく、ミハロフ・カークの話を聞く事になった。このまま、タトゥーク星に降下する」

「了解した」

 ルイもビリオンスヒューマンである。ジョーが言おうとしている意味をほぼ理解していた。

「ゼモ・ガルイは、あのストラード・マウエルよりも狸だという事か?」

「そういう事だな」

 ジョーはフッと笑って応じると、タトゥーク星へと降下し始めた。


 ゼモは唖然としているアレンを残したままで、管理棟へと歩き出した。

「何をするつもりだ?」 

 アレンは我に返って、ゼモを追って歩き出した。ゼモは振り返らずに、

「思惑が少しずれてしまったようです。アメア・カリングというイレギュラーな存在が、私の長年の計画を狂わせてしまったようでしてね」

「やはり、閣下はお前の策略に気づいたブランデンブルグの切り札だったのだな?」

 アレンがニヤリとして尋ねると、ゼモは立ち止まって振り返った。その顔に笑みはなかった。

「切り札? アメア様は確かに想定外の強さですが、私から見れば、さして影響はありません。只、アメア様とミハロフがわかり合ってしまったようなので、それは少しだけ計画に影響を与えそうです」

「要するに、お前がニコラス・グレイに創らせたかったのは、対アンドロメダ銀河連邦用の殺戮部隊。お前の意のままに動く最強のビリオンスヒューマン集団だったのだな?」

 アレンが目を細めて言った。するとゼモは、

「その計画はニコラス様ご自身がお考えになったものです。私の計画はそれとは別です」

「何だと?」

 アレンは眉をひそめてゼモを斜に見た。ゼモは再び管理棟へ歩き出して、

「私は殺戮は好みません。アンドロメダ銀河を支配するためにビリオンスヒューマンの部隊を創ったとしても、アンドロメダ銀河連邦には、対ビリオンスヒューマン兵器が充実しているのです。例え、ブランデンブルグ以上の力を持っているビリオンスヒューマンが百人いても、アンドロメダ銀河を支配する事はできないのです」

 アレンはまた唖然としてしまった。

「銀河系のビリオンスヒューマン達は、井の中の蛙状態でした。ストラード・マウエルがジョー様達ビリオンスヒューマンを恐れ、駆逐しようとしたのも、その現れです。ブランデンブルグですら、アンドロメダ銀河を銀河系の次に侵略しようと考えていた程、無知だったのです。ルイ様はアンドロメダ銀河で訓練を受けたようですが、所詮は付け焼き刃ですから、ジョー様にも勝てるまでには至りませんでした」

 ゼモはアレンがついて来ていないのを気にする事なく、歩き続けながら、

「ビリオンスヒューマンの研究に関して言えば、アンドロメダと銀河系では、およそ百年の開きがあります。ジャコブ・バイカーはそれにいち早く気づき、アンドロメダ銀河の商人と取引をしていました」

「だから殺させたのか?」 

 アレンがジャコブの名を聞き、声を荒らげた。ゼモはそれには応えず、

「しかし、ミハロフ・カークがジョー様に手を貸すとなると、話は違います。ミハロフはアンドロメダ銀河連邦の基準では、ビリオンスヒューマンですが、私から見れば、すでにトリリオンスヒューマンだと言えます。そして、ジョー様も、ミハロフと接触すれば、その影響で覚醒するでしょう、トリリオンスヒューマンに。あるいは、ルイ様もそうかも知れませんね」

「まさか……」

 アレンは目を見開いた。そしてゼモに駆け寄り、

「それがお前の計画なのか!? トリリオンスヒューマンを覚醒させ、アンドロメダ銀河を侵略させる?」

 ゼモはまた立ち止まって振り返り、

「それは貴方のご想像にお任せしますよ、アレン様」

 微笑んで言うと、管理棟へと入って行った。


「よお、やっと来たな」

 ジョーとルイが「銀河の狼」のアジトの近くに小型艇を着陸させると、大男がアメアと一緒に近づいて来た。

「あんたがミハロフ・カークか?」

 ジョーは訝しそうな目で尋ねた。ミハロフは肩をすくめて、

「まだ疑われているのか、俺は? まあ。いいや。とにかく、話を聞いてくれ」

「父上、彼は嘘を吐いてはいません」

 アメアが真顔で告げたので、ジョーは「父上」に苦笑いしながらも、

「わかった。話してくれ」

 外にあるデッキチェアを顎で示した。ミハロフはルイに気づき、

「見たことがある顔だと思ったら、アンドロメダ銀河のビリオンスヒューマン訓練所にいたよな?」

 ルイはその問いかけにギョッとしたが、

「ああ、確かにいた事がある。ルイ・ド・ジャーマンだ」

「そうか。じゃあ、一緒に話を聞いてくれ。化け物退治には、人数が多い方がいい」

 ミハロフはデッキチェアに腰をかけた。ジョーがその向かいのチェアに腰を下ろし、その右隣にアメアが座った。ルイは左隣に座った。そんな四人を、カタリーナとサンド・バー、その他大勢の者達が見ていた。

「まずは、ゼモ・ガルイが俺についてどんな事を言ったのか、教えてくれ」

 ジョーはチラッとアメアを見てから、

「あんたはブランデンブルグに惨敗して、そのブランデンブルグを倒した俺を探していると言っていた。そして、今はブランデンブルグ以上に強くなっていると」

 ミハロフはそれを聞くと含み笑いをして、

「なるほど。それはまた、随分と脚色したな。俺がブランデンブルグと戦ったのは事実だが、それはあくまで友情からだぜ」

「友情?」

 意外な言葉を聞き、ジョーとルイは異口同音に驚きの声をあげた。

「奴は、銀河系を侵略する前にアンドロメダ銀河を訪れ、ビリオンスヒューマン研究の最先端を見た。そして、そんな中で俺と出会い、境遇が似ていたので、意気投合した。俺は奴の野心を知って、止めた。しかし、奴の決意は変わらなかった」

 ブランデンブルグとミハロフの出会いと関わり合いを知り、ジョーはミハロフという男がわからなくなった。

「そして、何年か後、アンドロメダ銀河連邦を出た俺は、小マゼラン雲で奴に再会した。そこで、奴は自分の実力を知りたいと言い、俺との対戦を望んだ。俺は断る理由はなかったので、戦った。そして、負けた。だが、惨敗じゃねえぜ。奴も重傷を負い、ほぼ引き分けだったんだ」

 ミハロフはその時できた傷なのか、右の袖を捲って見せた。普通の人間のもも程もある太い腕を深く抉ったと思われるような大きな傷痕だった。

「奴はその時から、ニコラス・グレイという科学者の事を調べていた。自分の出生に関わる人物だと言っていた。俺もニコラス・グレイの名は知っていたので、ブランデンブルグが何を知りたいのか興味が湧いた。だが、奴は教えてくれなかった。後で知ったんだが、ニコラス・グレイは人工的にビリオンスヒューマンを創り出して、ゲノム編集を繰り返し、自分に都合のいいビリオンスヒューマンに変えようとしていたんだってな。ブランデンブルグも自分がその末裔だと知り、それを打ち破るために、この嬢ちゃんを生んだんだろうな」

 ミハロフはアメアを見た。アメアはムッとして、

「嬢ちゃんではない、アメア・カリングだ!」

 立ち上がってミハロフに詰め寄った。

「悪かったよ、アメア」

 ミハロフは詫びながらも、アメアを子供扱いするように頭を撫でた。

「やめろ!」

 アメアはそれを振り払うと、デッキチェアに戻った。

「そろそろ本題に入ってくれ」

 ジョーはニヤニヤしてアメアを見ているミハロフに言った。ミハロフは肩をすくめて、

「わかったよ」

 真顔になってジョーを見ると、

「俺に力を貸してくれ。ゼモ・ガルイはあらゆる悪の元凶だ。奴を野放しにしておくと、宇宙が壊滅する」

「あのいジイさんは、あんたが危険人物だと言っていた。どちらを信じればいいんだ?」

 ジョーは目を細めてミハロフを見た。ルイもジッとミハロフを見た。

「父上、ミハロフは嘘を吐いていません。倒すべきは、ゼモ・ガルイです。現に私はゼモに取り込まれかけたのです」

 アメアが立ち上がり、ジョーにすがりついた。ジョーはアメアを見て、

「取り込まれかけた? どういう事だ?」

 アメアはジョーに更に顔を近づけて、

「妹を通じて、私を操ろうとしていたのです。妹が話していると思ったのは、実はゼモだったのです」

「なるほど」

 ジョーはカタリーナの中で成長を続けている命がゼモに弄ばれたのを知り、怒りが湧いてきた。

「だが、ゼモ・ガルイが悪だとしても、お前が善だとは限らんな」

 不意にルイが口を挟んだ。ミハロフはジロッとルイを見て、

「確かにな。それは理屈だな。だが、もしそうだとしても、ゼモは倒すべき敵だという事には変わりはない」

 ルイはそれには何も言わず、目を細めた。するとジョーが、

「あんたの善悪は別にして、ゼモに勝てるのか? あのジイさんは、俺とルイと近衛隊のアレン・ケイムが束になってかかっても太刀打ちできなかったニコラス・グレイの劣化コピーを一瞬で消しちまったんだぜ?」

 ミハロフはその言葉に少しも動揺を見せず、

「それよりも、ブランデンブルグが使ったっていう復活に椅子の行方は知っているか?」

 突然話題を変えてきた。

「ブランデンブルグの大宮が爆発した時に粉微塵になって消滅したのではないか?」

 ルイが言うと、ミハロフはルイを見て、

「いや、復活の椅子はその程度で消滅するようなものじゃないはずだ。どこかにある、あるいは誰かが隠し持っているはずだ」

 ジョーとルイはハッとして顔を見合わせた。

「もし、それをゼモが持っているとなると、厄介だぜ。あれを使うと、まさにゼモは神に等しい存在になっちまうからな」

 ミハロフの言葉にジョーとルイは目を見開いた。

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