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第五十一話 ゼモ・ガルイの真意

 ジョーはゼモの言っている事を鵜呑みにはしていなかった。

(俺達が寄ってたかってまともに戦えなかったニコラス・グレイの劣化品を一瞬にして消してしまったこのジイさんが、何を恐れている?)

 十年前とは言え、ブランデンブルグに負けた男が、ゼモより強いとは思えない。

(このジジイ、何を企んでやがる? ミハロフ・カークと俺を戦わせたいのか?)

 ジョーが眉をひそめてゼモを見ていると、ゼモは微笑んだままの顔で、

「そうですねえ、今の貴方では、ミハロフは倒せないでしょう。彼はすでに貴方が戦ったブランデンブルグを上回っていますよ」

「お前は何が目的だ?」

 ルイが口を挟んだ。ゼモはルイに視線を移して、

「裏があるとお思いですか、ルイ様? それは私を買いかぶり過ぎですよ」

 ルイはゼモの心の中を見透かそうとするように目を細め、睨みつけた。

「あんたは自分の事をトリリオンスヒューマンだと言ったな? それ程強いあんたが、何故俺にミハロフ・カークという危険人物の事を教える? ミハロフが勝とうが、俺が勝とうが、あんたには関係ねえだろ?」

 ジョーが鋭い目つきで尋ねた。しかし、ゼモは穏やかな表情のままで、

「確かにその通りです。ですが、貴方は私が想像していたビリオンスヒューマンではありませんでした。ですから、ミハロフの事をお教えしたのです」

「どういう意味だ?」

 ジョーはゼモに詰め寄った。ゼモはジョーを見上げて、

「貴方は、恐らくですが、ニコラス様の実験によって誕生したビリオンスヒューマンの遺伝子を継いでいる方ではないと思われますので」

「何?」

 ジョーばかりではなく、ルイとアレンもゼモを見た。

「そしてまた、貴方とカタリーナ様の遺伝子を受け継ぐアメア・カリング様も、ニコラス様の実験体の一人ではないという事です」

 ゼモはそこまで言うと、アレンを見て、

「貴方が以前から疑問に思っている事にお答えする時が来たようです」

「疑問? まさか、閣下の事か?」

 アレンは目を見開いて尋ねた。ゼモはゆっくりと頷き、

「あのニコラス様のコピーは、ブランデンブルグが復活の椅子を使ったために遺伝子に異常を来たし、子孫を残せない身体になったので、ジョー様の遺伝子を使い、アメア様を生み出したと考えていたようですが、そうではありません」

 ジョーは自分の名前とカタリーナの名前が出たので、ゼモの話に耳を傾けた。

「違うのか?」

 アレンが更に尋ねる。ゼモはアレンとジョーを見て、

「ブランデンブルグはニコラス様の実験の事を知っていました。そして、自分の遺伝子もその流れを汲むものだという事も知っていました。ですから、その呪縛から逃れるために復活の椅子を探し出し、同時にニコラス様の実験体とは違うビリオンスヒューマンを生み出そうとしたのです。だからこそ、ニコラス様の呪縛を受けていないジョー様の遺伝子を使ったのです」

 ジョーは話の壮絶さに唖然としてしまった。それはルイもアレンも同様だった。

「貴方がブランデンブルグに勝てたのも、ブランデンブルグが貴方に執着したのも、全てはニコラス様の実験が関係しているのです。ミハロフが貴方を狙っている理由の一つも、そこなのです」

 ゼモは再びジョーを見て言った。ジョーは苦笑いをして、

「なるほどな。大方合点がいったぜ」

 目を伏せてからゼモを睨み、

「まだ疑問がある」

「何でしょうか?」

 ゼモは笑みを浮かべたままで言った。ルイとアレンもジョーを見た。ジョーは深呼吸をするように両肩を上下させてから、

「あんたはあの傲慢な男の事を『私の失敗作』と言った。さっき、あんたは否定したが、あんたこそやはり、ニコラス・グレイそのものなんじゃないのか?」

 その質問はゼモの笑みを消した。ルイとアレンは今度はゼモを見た。

「その上、あんたはあの男の事を実験体の一つと言った。自分が実験をしていたと言ったのと同じだと思うんだが、俺の勘違いか?」

 ジョーは畳みかけるようにゼモを問い詰めた。ゼモはしばらく無表情な顔でジョーを見ていたが、やがて大笑いを始めた。

「何がおかしい?」

 ジョーは更にゼモに詰め寄った。ゼモは笑うのをやめて、

「失礼しました。貴方も随分と妄想がお得意なようですね、ジョー様。確かに先程まで自分をニコラス様だと思っていた男は、私が作り出した失敗作です。そして、ニコラス様の遠大な実験体の一つである事も間違いありません。しかし、私はニコラス・グレイではありません。協力者ではありますが」

 するとジョーはニヤリとして、

「そういう事か。実はニコラス・グレイという科学者の実験は、彼のものではなく、あんたのものだったっていう事か?」

「ようやくご理解いただけたようで、安心しました。私が銀河系にしばらくぶりに来たのは、実験の結果を探るためでした。ところが、想定していた事と違う事が起こり、あのような失敗作が自分をニコラス・グレイだと名乗り、実験を始めてしまっていたのです。管理不行き届きでした」

 ゼモは笑みを浮かべずにジョーに言った。ジョーは、

「て事は、あんたこそ、五百年以上生き続けている化け物って事か?」

「化け物ではありませんが、五百年以上生きているのは事実ですね」

 事も無げに言ってのけたゼモをルイとレンはギョッとして見た。ジョーは溜息を吐いて、

「じゃあ、改めて訊くぜ。あんたの目的は何だ?」

 ゼモは笑みを浮かべて、

「実験の継続です。そして、新たなる実験を始めるつもりです」

「何だと?」

 ジョーが更に問い詰めようとした時、

「管理長、また反共和国同盟軍から入電しました。ヤコイム・エレスを差し出さなければ、星ごと殲滅すると言ってきています」

 管理人の一人が血相を変えて走ってきて告げた。

「ほお、またですか」

 ゼモはジョーを見て、

「取り込んできましたので、お話の続きはしばらくしてからでよろしいですか?」

「ああ」

 ジョーは空を見上げてからゼモを見て言った。ゼモは会釈すると、管理棟へと歩いて行った。

(ヤコイム・エレスはあの偽者のニコラス・グレイだった。どうするつもりだ、ゼモ・ガルイ?)

 ジョーは去っていくゼモの背中を見ながら思った。


 その頃、反共和国同盟軍の艦隊は、ジャンピング航法でゲルサレムの衛星軌道に出た。

(管理長のゼモ・ガルイを消す絶好のチャンスだ)

 キャプテンシートに座った最高司令官であるエレン・ラトキアはフッと笑った。

(この際、ヤコイム・エレスの所在などどうでもいい。隠し立てをしたという理由で、ゲルサレムを跡形もなく消しとばしてやる)

 エレンは、ゲルサレム側からどのような返答が来ても、それをねじ伏せて攻撃するつもりでいた。

「ゲルサレムから返信です」

 通信兵が言い、エレンの席にあるコンピュータに内容を転送した。エレンはそれを開封して、目を見開いた。

(ヤコイム・エレスは当方にはいない。今いるのは、アレン・ケイム共和国総統領近衛隊長、ルイ・ド・ジャーマン、ジョー・ウルフの三名である? えええ!?)

 エレンはジョーがいると知り、驚愕した。

(何故、ジョー様がいらっしゃるの!? アレン・ケイムとルイ・ド・ジャーマンなど、一緒に消してしまうのは構わないけれど、ジョー様は……)

 再建しようとしている銀河帝国の初代皇帝にはジョー・ウルフこそふさわしいと考えているエレンは、目の前が真っ暗になりかけた。

(ジョー様がいらっしゃるのでは、ゲルサレムを消し飛ばせないどころか、攻撃もできない。どうする?)

 ヤコイム・エレスがニコラスの偽者に消され、その偽者もいなくなっている事を知らないエレンは、ヤコイムがジョーをおびき寄せたと考えた。

(どこまでも汚い死神め!)

 エレンは歯軋りをした。そして、

「ならば、ジョー・ウルフを差し出すように言いなさい。さもなければ、ゲルサレムを殲滅すると」

「了解しました!」

 通信兵はすぐに電文を送信した。


 ジョー達三人は、ゼモに取り残されてから、お互いに何も話さずにいたが、ジョーがケント・ストラッグルの傷の状態を確認しようと近づいた時、

「お待たせ致しました」

 ゼモが戻って来たので、一斉に彼を見た。ゼモはジョーに近づき、

「最高司令官であるエレン・ラトキア様からの電文です。貴方が反共和国同盟軍に投降すれば、ゲルサレムは助けるそうです」

「どういう事だ?」

 エレンの恋心を知らないジョーは眉をひそめた。ルイとアレンは思わず顔を見合わせた。

「さあ、私にはわかりません。如何致しましょうか?」

 ゼモは困った表情でジョーを見た。ジョーはケント達を見てから、

「あの三人を頼めるか?」

「承りましょう」

 ゼモは微笑んで応じた。ジョーは小さく頷くと、

「また会えるといいな」

 ルイに言い、アレンをチラッと見てから、自分の小型艇へと歩き出した。

「エレン様に返信を」

 ゼモは一緒に来た管理人に告げた。

「はい」

 その管理人は管理棟へと駆け出した。


「おのれ!」

 アメアが戻って来てくれたので、ホッとしたカタリーナが歩き出した時、アメアが突然叫んだのだ。

「どうしたの、アメア?」

 カタリーナはアメアがその美しい顔を歪めて激怒しているのを見て、不安になった。

「また、あの女がジョー、いえ、父上に近づこうとしています!」

 アメアが怒りの表情のままカタリーナを見たので、カタリーナはギョッとしてしまった。

「あの女?」

 カタリーナは一瞬誰の事かわからなかったが、

「エレン・ラトキア!」

 不意に帝国時代のエレンの顔が浮かんだ。

「おい、どうしたんだ?」

 後からついて来ていたサンド・バーが驚いて駆け寄った。

「許さない!」

 アメアは怒りを増長させ、再び戦艦へと走り出した。

「あ、おい!」

 それをまたサンド・バーが追いかけた。

(ジョー……)

 カタリーナは、ジョーが心配だった。エレンに誑かされるとは思っていなかったが、心配だった。


 他方、エレンは、ジョーが小型艇で発進した事を伝えられ、上機嫌だった。

(これでゲルサレムは心置きなく殲滅できる)

 彼女の顔が狡猾に変わった。

「ジョー・ウルフが投降を完了したら、私の部屋へ連れて来なさい」

 エレンはキャプテンシートから立ち上がると、ブリッジを出て行った。


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