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第四十七話 ストラッグル一族

 ジョーはアメア・カリングの潤んだ瞳を思い出しながら、タトゥーク星の大気圏を離脱していた。

(アメアの事を案じてしまうのは、彼女がカタリーナと瓜二つだからのはずだ……)

 アメアと同じく、遺伝子で繋がったいるとは夢にも思わないジョーであったが、自分が予想以上にアメアの身の安全を考えてしまう事に不思議な感覚を抱いていた。

(ビリオンスヒューマンはより強く引かれ合うのは、ルイとの因縁以来感じている事だが、アメアとのそれは、ルイとの繋がりの感じ方とは違う。何だ?)

 ジョーの頭の中には、アメアと遺伝子が繋がっている事は想定すらされていない。

「いずれにしても、あの胸糞悪い化け物に問い質すしかねえな」

 ジョーは苦笑いをして、小型艇を加速し、ジャンピング航法に入った。


 ジョーと同じく、惑星ゲルサレムを目指している者がいた。銀河共和国総統領近衛隊長のアレン・ケイムである。彼は自分の専用小型艇に搭乗し、ゲルサレムへと向かっていた。

「ジョー・ウルフ? それにこれは、ルイ・ド・ジャーマンか?」

 アレンは二人が自分と同じようにゲルサレムへ向かっている事を感じていた。

(閣下はタトゥーク星に残られたのか。それならばそれでもよい)

 アレンもまたアメアを気遣う一人である。すると、緊急入電が入った。

「どうした?」

 アレンは通信機に問いかけた。モニターには動揺した近衛隊員が映っている。

「タトゥーク星から、閣下がお一人で戦艦で出撃されました。これ以上近づけば、容赦しないとおっしゃっています」

 隊員は困り果てた様子で告げた。アレンは、

「それならば、引き返せ。そして、マティスの守備を固めろ。もしかすると、ヤコイム・エレスが攻めてくるかも知れん」

「え? それは一体どういう事なのですか?」

 隊員はアレンの言っている意味がわからないらしく、不思議そうな顔で尋ねた。アレンは、

「理由など説明している暇はない。すぐにマティスに連絡を取り、軍と協力して絶対防衛線を衛星軌道上に築け」

「了解しました!」

 隊員は敬礼してモニターから消えた。アレンはシートにもたれかかり、

(閣下はもはや総統領ではなくなってしまわれたと思っていたが、そうではなかったか。だが、我らの総統領閣下ではないのは確実となったな)

 歯軋りをした。

(ブランデンブルグの呪縛が解けてきている。一刻の猶予もない。ゲルサレムに強行着陸してでも、ストラッグル一族を取り返さなければならん)

 アレンはブリッジの窓の向こうに見える天の川を見つめた。


 三人の中で一番ゲルサレムに近いのは、ルイだった。

(惑星ゲルサレム、か。因縁だな)

 銀河系が混迷の時代に突入したのは、ストラード・マウエル、ドミニークス・フランチェスコ三世、ベスドム・フレンチ、ブランドール・トムラーが最初で最後の会談を行った時だった。

(銀河系の混乱を招いた星が、時を隔ててまた混乱を招こうとしているのか? ゼモ・ガルイはどう関わっている?)

 ルイはゲルサレムの管理長であるゼモ・ガルイに不審感を持っている。根拠はないが、胡散臭い男だと思っていた。

「む?」

 ルイは後方から接近してくる覚えのある力に気づいた。

「アレン・ケイムか?」

 一瞬、自分を潰しにきたのかと思ったが、アレンから敵意は感じられない。むしろ、ゲルサレムに対して激しい憎悪を抱いているのを感じた。

「これは?」

 また別の方向から、ジョーを感じた。

「やはり来たか、ジョー・ウルフ」

 ルイはフッと笑った。更に遥か後方に無数の艦隊がジャンピングアウトするのをレーダーが検知した。

「どこの艦隊だ?」

 ルイは眉をひそめた。


 ジョーもまた、アレンとルイの存在に気づき、艦隊の出現も把握していた。

(エレン・ラトキアか?)

 ジョーは艦隊の背後にエレンの悪意を見た。

『ジョー、気をつけろ。ゲルサレムの周囲に悪意が満ちているぞ』

 死んだはずのジャコブ・バイカーの声が聞こえた気がした。

(すまなかったな、ジャコブ。俺に関わったせいで……)

 ジョーが心の中で詫びると、

『気にするな。わしはわしで楽しんでいたよ』

 またジャコブの声が聞こえた。ジョーはフッと笑い、肉眼でも見えて来たゲルサレムを見据えた。

(とっとといなくなっていると思ったが、待ってやがるのか?)

 ニコラス・グレイの挑発的な力を感じ、ジョーは眉間にしわを寄せた。

「む?」

 ニコラスとは違う何者かの声が聞こえた。

「誰だ?」

 しかし、声の主は答えない。ジョーが聞いたのは、ストラッグル一族がゲルサレムの地下に監禁されているという情報だった。

(何故教える? 誰だ?)

 声はやはり答えず、やがてその気配を消してしまった。

(ニコラスの罠か?)

 ジョーはそう思ったが、ニコラスがストラッグル一族の情報を罠として利用するメリットがないとも思った。

(誰なんだ?)

 ジョーはニコラスの攻撃に警戒しながら、ゲルサレムへと降下して行った。


「何をした、ゼモ?」

 ロビーで、ニコラスは目を細めて、しばらく姿を見せなかったゼモを問い質した。ゼモは長いあご髭を撫でながら、

「申し訳ありません。ゲルサレムの要塞化が全く間に合っておりませんので、ジョー・ウルフを足止めするためにストラッグル一族を解放する手配をとっておりました」

 ニコラスはフンと鼻を鳴らして、

「その必要はない。ジョー・ウルフの力は全く私には及んでいないのだ。人質を使うまでもない」

 ゼモはニコッとして、

「そうでしたか。では、監禁室に戻させます」

 背を向けてロビーから立ち去ろうとした。するとニコラスは、

「戻さなくてもいい。ここへ連れてこい。余興の一つとして、ジョー・ウルフの目の前で殺してやろう」

 ニヤリとして言った。ゼモは振り返ると目を見開いて、

「それはまた、凄まじい余興ですね。畏まりました、ここへ連れて参ります」

 会釈をしてから再び背を向けて、ロビーから立ち去った。ニコラスはしばらくゼモの背中を眺めていたが、不意に空を見上げ、

「ジョー・ウルフ、早いな。もう来たのか?」

 不敵な笑みを浮かべた。


 アメアは、アレンの戦艦が引き上げたのを確認すると、タトゥーク星に戻った。

「アメア、危険な真似はしないで。貴女にもしもの事があったら、私は……」

 出迎えたカタリーナが涙で潤んだ目で言ったので、アメアは、

「申し訳ありません、母上。以後気をつけます」

 深々と頭を下げて謝罪した。それを端で見ていたエミーは、

「親子って言うより、姉妹って感じね。本当にカタリーナさんの娘なのかしら?」

 腕組みをして呟いた。

「エミー、持ち場を離れるな」

 リーダーが背後に立ち、エミーの襟首を掴んだ。

「わかったわよ、もう!」

 エミーは口を尖らせたまま、食事の支度に戻った。

「はっ!」

 頭を下げていたアメアが急に顔を上げたので、カタリーナはビクッとして退き、

「どうしたの?」

 アメアは眉をひそめて、

「声が聞こえました。私には意味がわかりませんでしたが、母上はおわかりになりますか?」

「え? どういう事?」

 カタリーナは首を傾げた。するとアメアは、

「ストラッグル一族はゲルサレムの地下にいる、と言っていました」

「何ですって!?」

 衝撃的な内容に、カタリーナは大声を出してしまった。

「どうした?」

 近くにいたサンド・バーが駆けつけた。銀河の狼のメンバーも男達が何人か、慌ててカタリーナのところに駆けて来た。

「ご、ごめんなさい、大声を出してしまって……」

 カタリーナはリーダーとサンド・バーに目配せして、部屋の隅に移動した。

「何があったんですか?」

 リーダーが声を低くして尋ねた。サンド・バーはカタリーナをジッと見ている。アメアは何が起こっているのかわからないようで、キョトンとしていた。

「アメアが聞いた情報です。ゲルサレムの地下にストラッグル一家が監禁されているそうです」

「ええ!?」

 リーダーとサンド・バーが声を揃えて叫んだ。

「ジョーさんはご存じなのでしょうか?」

 リーダーが更に声を低くして言った。カタリーナはチラッとアメアを見てから、

「アメアが聞いたのですから、ジョーも聞いたはずです」

「そうですね」

 リーダーは大きく頷いた。

「でも、良かった。監禁されているという事は、三人共、無事なのね」

 カタリーナはホッとした表情で呟いた。


 ジョーはゲルサレムの管理棟のすぐそばに小型艇を着陸させ、警戒しながら外に出た。しかし、ニコラスの姿は外にはなかった。その直後、ジョーの小型艇から数十メートル離れた場所にアレンの小型艇が着陸し、アレンが降りて来た。更にそこから数十メートル離れた位置にルイの小型艇が着陸し、ルイが降りて来た。

「更に団体が着いたか」

 ジョーが上空を見上げると、反共和国同盟軍の大艦隊がゆっくりと降下してくるのが見えた。

「ようこそ、ゲルサレムへ」

 そこへニコラスが出て来た。彼の後ろにはゼモがおり、ゼモの背後には一人の男と二人の女が立っていた。

「ケント、アルミス、カミーラ」

 ジョーは三人を見て呟いた。

(あの声の話は本当だった。やつれてはいるが、健康状態は悪くなさそうだな)

 三人が思ったより肌の色つやが好いので、ジョーは一安心した。だが、

「ジョー・ウルフ、感動の再会といきたいところだろうが、それは叶わない。この三人は今すぐここで、処刑する」

 ニコラスが三人を見てからジョーを見て、嬉しそうに笑って告げた。

「何だと!?」

 ジョーだけではなく、アレンも叫んだ。ルイは三人の事を名前も知らないので、どういう状況なのか掴みかねていた。

「管理長、反乱軍から入電です」

 そこへ管理人の一人がやって来た。

「何だ?」

 鬱陶しそうにニコラスが尋ねた。管理人はニコラスを見て、

「ヤコイム・エレスを引き渡さなければ、ゲルサレムを全面攻撃すると言って来ています」

 ニコラスはニヤリとして、

「どうぞご随意にと伝えてやれ」

「え?」

 管理人はニコラスの言葉に呆然としてしまった。

「畏まりました、伝えます」

 代わりにゼモが返事をして、管理人と共に管理棟へ戻って行った。

「おっと、動くな」

 隙を突いて近づこうとしたアレンにニコラスがベルトに提げていた銃を撃って警告した。

「思ったより元気そうでホッとしたよ」

 ジョーはケント達に声をかけた。しかし、ケント達は一点を見つめたようにしていて、ジョーの言葉に反応しない。

「何をした?」

 ジョーがストラッグルに手をかけてニコラスに怒鳴った。ニコラスは肩をすくめて、

「さてね。この三人の事は、こいつの方が詳しいのではないかな?」

 アレンを見やった。

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