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第四十六話 復活の椅子の行方

「大丈夫かしら?」

 カタリーナは不意に言った。

「何がだ?」

 ジョーはブリッジに入りながらカタリーナを見た。カタリーナは廊下を振り返ってまだアメアが来ていないのを確認してから、

「仮にも、アメアは共和国の総統領なのよ? そのアメアが、共和国を打倒しようとしている『銀河の狼』のアジトがあるタトゥーク星に降りて、何も起こらないかなって思ったの」

 ジョーはフッと笑って、

「それなら大丈夫だ。アメアはカタリーナの娘だから、おかしな事をするなと釘を刺してある」

「ええ!?」

 カタリーナはいつの間にジョーがそんな事を伝えたのか知らなかったので、目を見開いた。

「ちょっと、誤解されるじゃないの! 私、年を誤魔化していると思われてしまうわ」

 カタリーナは頬を膨らませて、ジョーを睨みつけた。ジョーはそれには反応せずにブリッジの奥へと進み、

「考え過ぎだよ。むしろ、アメアの成長速度が早過ぎる事を疑問に思うはずだ」

「そうかも知れないけど……」

 まだ納得がいかないカタリーナは口を尖らせて、ジョーを追いかけるようにブリッジを歩いた。

「アメアの素性を隠してもよかったのかも知れないが、アメアにはそんな芝居は無理だと判断して、何も隠さずにいく事にしたんだ。相談しなくて悪かった」

 ジョーはカタリーナをキャプテンシートに座らせながら謝った。カタリーナはジョーの謝罪に照れ臭くなり、

「私は別にジョーを責めている訳じゃないのよ。共和国に恨みがある人にとって、アメアは憎い存在でしょう? あまりいい感情は持たないと思ったから」

「その点は、俺がきちんと説明する。アメアは恐らく、近衛隊長のアレン・ケイムに誘導されていただけだ。彼女自身が弾圧の指示や戦争の指示をしたのではないと思う。もし仮にアメアが指示したのだとしても、彼女には責任はない」

 ジョーがアメアを思った以上に庇うので、カタリーナは複雑な感情になった。

「それはどういう事?」

 カタリーナは最後の言葉が気になって尋ねた。ジョーはカタリーナから離れて、

「アメアはアレン・ケイムとブランデンブルグの犠牲者だからさ。話してみて、わかるだろう? アメアはあまりにも純真なんだ。染めようと思えば、どんな色にでも染まってしまう」

「そうね」

 カタリーナは自分がもう少しでアメアに嫉妬してしまうところだったのを恥じて、顔を赤らめた。


「閣下のご乗艦はタトゥーク星に向かっていると思われます」

 レーダー係が告げると、アレンはキャプテンシートから身を起こして、

「すぐにタトゥーク星へ向かえ! そこは銀河の狼のアジトがある星だ。ついでに掃討してしまうのだ」

 強い口調で命じた。

「はっ!」

 操縦士が応答して、進路を変更した。アレンは再びシートに身を沈めて、

(ブランデンブルグの呪縛が解けかかっている。やはり、カタリーナ・パンサーと閣下を引き合わせたのは早過ぎたのか?)

 右手を顎に当てて思案した。そしてスッとシートから立ち上がり、

「私はゲルサレムへ向かう。タトゥーク星掃討作戦はお前に任せる」

 後ろに控えていた第一分隊長に告げると、ブリッジを出て行った。

「了解しました!」

 一瞬唖然としてしまった第一分隊長は、慌てて敬礼した。


「おや、まだお発ちではなかったのですか?」

 ゲルサレムの管理長であるゼモ・ガルイは、ロビーでニコラス・グレイに会ったので目を見開いた。

「一つお前に尋ね忘れていた事がある」

 ニコラスは前髪をかき上げて言った。ゼモは首を傾げて、

「はて? どのような事でしょうか?」

 ニコラスはゼモに詰め寄って、

「復活の椅子をお前が持っているという情報がある。それは本当か?」

 ニコラスの剣幕にゼモは唖然としていたが、やがて笑い出した。

「何がおかしい?」

 ニコラスはゼモの黒いローブの襟を捻り上げた。ゼモは笑うのをやめて、

「申し訳ありません。あまりにも想定していなかったお尋ねでしたのでつい……」

 ニコラスはローブから手を放して、

「復活の椅子の事は知らないというのか?」

 ゼモは襟を正して、

「はい。存じ上げません。そもそも、あれはブランデンブルグの城と共に宇宙の藻屑と化したのではないのですか?」

 長いあご髭を撫でながら尋ね返した。ニコラスは目を細めて、

「だが、それは誰も確認していない事だ。復活の椅子がまだ存在しているとなると、脅威はアンドロメダ銀河だけではすまなくなるのだ」

「確かにそうかも知れませんね。わかりました、心に留め置きましょう」

 ゼモは胸に手を当てて頭を下げた。その時、ニコラスが持っているヤコイム・エレスの携帯端末が鳴った。

「どうした?」

 ニコラスが通話を開始すると、ゼモは会釈をしてその場から去った。

「そうか。わかった。監視を続けろ。場合によっては、あの女を先に始末せねばならん」

 ニコラスは端末を軍服のポケットにねじ込むと、立ち去るゼモを一瞥してから、建物の外へと歩き出した。


 反共和国同盟軍の最高司令官となったエレン・ラトキアは、八つ裂きにしても飽き足らない程憎んでいるヤコイム・エレスの動向を探っていたが、なかなか見つけられないでいた。

(ヤコイムは用心深くて、自分の工場も住居もわからないように妨害電波を使っていると聞いた事がある。一筋縄ではいかないのか?)

 ヤコイムの行方を探すのに宛てもなく動いても時間の無駄だと考え、ヤコイムの工場と住居を探そうとしたのであるが、どちらも手がかりすらなかったのだ。

(このままでは死神にジャコブのルートを全て盗られてしまう!)

 エレンは焦っていた。その時、

「ヤコイム・エレスの商用艦と思われるものが、ゲルサレムに着陸したとの知らせが入りました」

 インターフォンから天の助けとも思える情報が伝えられた。

「わかりました。すぐに艦隊を派遣して、ヤコイムの艦を拿捕してください」

 エレンは顔を綻ばせて命じた。

「了解です」

 彼女は最高司令官の椅子から立ち上がり、

(仮に間に合わなくても、ゲルサレムの管理長を締め上げれば、必ず何かわかるはず)

 まだ勝機は失われていないと思った。


(一体何が起こっているのだ?)

 銀河を出て、アンドロメダ銀河へ向かおうとしていたルイ・ド・ジャーマンは反転して強大な力を発している源に向かっていた。

(ブランデンブルグ? いや、奴は間違いなくジョー・ウルフが消し飛ばした)

 ルイはニコラス・グレイの存在を知らない。だが、その並外れた力ははっきりと感じていた。

(いずれにしても、明らかな敵意を示しているこの存在は、倒すべき相手という事か)

 ルイはしばらくぶりに感じる高揚にニヤリとして、小型艇を加速させた。


 ジョー達と共に共和国総統領アメア・カリングが来ると聞き、エミーを始めとして、肉親や友人を共和国軍に殺されたメンバーは殺気立っていた。ジョーから頼まれたとしても、それとこれとは別だと内心思っている者が多かった。サンド・バーに指摘されても、尚も感情が昂ぶっていた。しかし、いざ、ジョー達が戦艦を降り、彼らの目の前に現れると、その憎しみは一瞬にして消えてしまった。それ程、アメアとカタリーナはよく似ていたのだ。

「ようこそ、我が銀河の狼の本部へ」

 リーダーは一触即発も考えて、サンド・バーと一緒に一番前に陣取っていたが、それが取り越し苦労に終わったのを知り、ホッとした。それでも、ジョーはアメアの事を説明し、メンバーに理解を求めた。彼らはアメアそのものが自分達の憎しみの対象ではない事を感じ取り、ジョーの言葉を信じる事にした。

「ねえねえ、アメアさんて、いくつなの?」

 エミーが尋ねた。サンド・バーとリーダーがギョッとした。ところがアメアは、

「私は自分の年齢を知らないのだ。共和国の正式発表では、二十歳とされているはずだ」

 全く屈託のない表情で答えた。エミーは今度はカタリーナを見た。

「エミー、お前は歓迎の料理担当だろう? 厨房へ行ってくれ」

 リーダーが他の女性のメンバーと共に嫌がるエミーを無理やり奥へと連れ去った。

「どうしたのかしら?」

 危うく、エミーに年齢を訊かれるところだったとは知るべくもないカタリーナは不思議そうにそれを見送った。

「さてね。今のがアジト最年少のエミーだ」

 ジョーは肩をすくめて言った。

「え?」

 いつの間にか、アメアはアジトのメンバー、特に若い男達に取り囲まれていた。

「男って、若い女の子が好きなのよね」

 カタリーナの呟きを聞き取ったジョーとサンド・バーは顔を見合わせたが、

「おっと、こいつはサンド・バーだ。頼りになる奴だ」

 ジョーがカタリーナに紹介した。カタリーナは目を細めてサンド・バーを見上げると、

「よろしく。貴方はアメアのところに行かなくていいの?」

 サンド・バーは苦笑いをして、

「まあ、この面じゃ、どの道、相手にしてもらえねえからな」

「そうなの」

 カタリーナはサンド・バーが自分に気を遣ったとでも思ったのか、作り笑顔で応じると歩き出した。

「あんたの奥さん、機嫌悪いな? 子供が生まれそうだからか?」

 サンド・バーが小声で尋ねると、ジョーは、

「違うと思うよ」

 肩をすくめて応じた。カタリーナは女性のメンバーに手を貸されて、奥へと歩いて行く。

「後は頼む。俺は先約があるんで、そっちを片付けてから、歓迎式典に参列するよ」

 ジョーはサンド・バーに告げると、アジトを出て行こうとした。

「ジョー・ウルフ」

 すると、それに気づいたアメアが男達の輪から抜け出してきた。ジョーは立ち止まってアメアを見た。

「必ず生きて帰るのだ。そうでなければ、私が許さない」

 心なしか、アメアの目が潤んでいた。ジョーはフッと笑って、

「わかったよ」

 アメアの頭を優しく撫でると、アジトを出て行った。

「ジョー……」

 知らないはずなのだが、アメアがジョーを見る目は、父親に対するそれであった。

(ジョー……)

 不必要な嫉妬をしてしまい、声をかけづらくなってしまったカタリーナは遠くからそれを見ていた。


「出発は延期だ。思った以上に人が集まりつつあるようなのでな」

 ロビーに戻ってきたニコラスがゼモに告げた。ゼモは首を傾げて、

「それはどなたですか?」

 ニコラスは楽しそうに笑って、

「ジョー・ウルフ、ルイ・ド・ジャーマン、アレン・ケイム。もう少し挑発すれば、エレン・ラトキアも参列するかも知れんな」

 やがて高笑いを始めた。それを呆れたような顔で、ゼモは見ていた。

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