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第四十四話 ゼモ・ガルイ

 惑星ゲルサレム。その星の存在は特殊だ。そして、管理長のゼモ・ガルイも謎めいた人物である。

「ヤコイム・エレス様がおいでになりました」

 地下五階にある室長室でパソコンのデータに目を通していると、部下からインターフォンを通じて連絡が入った。

「わかりました」

 ゼモは穏やかな口調で応じると、椅子から立ち上がり、室長室を出た。

(予定よりもお早いお着きですね、ニコラス様)

 ゼモは不敵な笑みを浮かべ、廊下をゆっくりとした足取りで歩き出した。

(ヤコイム・エレスではない事をジャコブ・バイカーに見破られたとの事ですが……)

 ゼモは死の商人ヤコイム・エレスが実は人類最初のビリオンスヒューマンのニコラス・グレイである事を知っているのだ。

(面倒事はご勘弁願いますよ、ニコラス様)

 ゼモは廊下の先にあるエレベーターに乗ると、地上へ上がった。

「ヤコイム様は貴賓室でお待ちです」

 一階で待っていた部下が頭を下げて告げる。ゼモはそれに微笑んで応じると、

「お茶を出してくれましたか?」

「はい。ヤコイム様がお好みのアンドロメダ銀河から取り寄せた高級茶をお出ししました」

 部下は会釈をして言った。ゼモはそれにも微笑んで応じ、

「結構。私は何もいらないから、通常の業務に戻ってください」

「かしこまりました」

 部下はスッと踵を返すと、廊下を歩いて行った。ゼモはそれを見届けてから、ニコラスが待つ貴賓室へと歩いた。

「計画が狂った。ゲルサレムの要塞化を急がせろ。ジョー・ウルフとアメア・カリング如きは恐れる事はないが、アンドロメダ銀河の不穏な連中が気づくと厄介だ」

 ゼモが貴賓室に入り、挨拶をしているにも関わらず、ニコラス・グレイは苛立ったように喋り始めた。

「アンドロメダ銀河連邦は未だ政情不安で、外宇宙に乗り出す余裕はありません。ご心配には及ばないかと」

 ゼモは微笑んで応じた。するとニコラスは、

「とにかく、急がせろ。ジャコブ・バイカーはアンドロメダにもパイプがあった。奴の関係者から連中に伝わる可能性がある」

「承知しました」

 ゼモは頭を下げて応じた。そして、

「それよりも、ジャコブを消したのはまずかったのではありませんか? 彼との連絡が取れない事を知った関係者が動き出すかも知れません」

 ニコラスはソファに腰掛け、ゼモの部下が淹れた高級茶の入ったカップを口まで持っていきかけていたが、途中で止めて、

「それは心配ない。ジャコブの工場にあった通信設備は全て運び出した。向こうから連絡があれば、私のところに転送されてくる」

 軍服のポケットから通信端末を取り出して見せた。

「なるほど。そうでしたか」

 ゼモは得心がいった顔で頷いてから、

「では、ストラッグル一族は如何致しますか? 近衛隊長のアレン・ケイム様から頼まれているあのお三方は、この星が要塞化したら、どのように扱えばよろしいですか?」

 ニコラスは一口お茶を飲んでから、カップをテーブルに戻すと、

「まだ生かしていたのか? さっさと始末してしまえと言ったはずだぞ」

 目を細めて言った。するとゼモは苦笑いをして、

「申し訳ありません。只、あのお三方がいらっしゃると、ジョー・ウルフへの牽制にはなるかと思い、私の独断で処刑を延期しました」

 ニコラスはその釈明に不満があるのか、フンと鼻を鳴らしたが、

「まあ、いい。ジョー・ウルフとアメア・カリングは所詮は我が実験体の末裔。恐れる事はない」

「ジョー・ウルフはともかく、アメア・カリングは実験体の末裔ではないかも知れませんが?」 

 ゼモが眉をひそめて異を唱えると、ニコラスはニヤリとして、

「さすがのお前も知らないのか? アメア・カリングはカタリーナ・パンサーの卵細胞を基にブランデンブルグの遺伝子を使って生み出されたという情報があるが、それは違う。つい先程判明した事だが、アメア・カリングはカタリーナ・パンサーの卵細胞を基にジョー・ウルフの遺伝子を使って誕生したビリオンスヒューマンだ」

「そうなのですか?」

 ゼモは目を見開いた。ニコラスはまたカップを手に取り、

「理由はわからんが、間違いない。ヤコイムの艦の廊下に残っていたアメア・カリングとジョー・ウルフの汗を採取した結果、二人は遺伝子的に親子関係に近いと判明したのだ」

 ゼモは目を見開いたままで、

「ブランデンブルグは、カタリーナ・パンサーを自分の妃にすると言っていたようですが、何故自分の遺伝子を使わなかったのでしょうか?」

 ニコラスはお茶を飲み干してテーブルに戻すと、

「そうだな。カタリーナはしばらくブランデンブルグの虜になっていた。その間に、力ずくでカタリーナを自分のものにする事もできたはずであるのに、何故奴はそうしなかったのか? 考えられる理由は一つだ」

「一つ、ですか?」

 ゼモは先を聞きたそうにニコラスを見た。ニコラスはフッと笑い、

「復活の椅子だよ。それを使って自分のビリオンスヒューマン能力をあげようとしたせいで、奴の遺伝子に何か起こったと考えるのが一番合理的だ。だから、カタリーナを強引に自分のものにしなかったし、自分の遺伝子を使う事もなかった」

「そうですね。それが一番考えられますね。かつて復活の椅子を手に入れた者は皆、滅んでいますからね」

 ゼモはまた得心がいったという顔をして頷いた。

「それから、行方をくらませていたルイ・ド・ジャーマンもまた銀河に戻ってきた。奴の動きにも注意しろ。ジョー・ウルフに敗北したとは言え、アンドロメダ銀河に行っていた男だ。何かを学んでいる可能性がある」

「かしこまりました」

 ゼモが深々と頭を下げて応じると、ニコラスはソファから立ち上がり、

「ビリオンスヒューマンは互いにいる場所がわかってしまうという特性がある。ここに私が来た事も、ジョー・ウルフ達にはもうすぐ知れるだろう。ゲルサレムを攻撃される訳にはいかんから、ストラッグル一族を盾にして、ジョー・ウルフ共を封じ込めろ」

「承知しました」

 ゼモは頭を下げたまま、続けて応じた。

「頼んだぞ」

 ニコラスは大股でドアに近づくと、貴賓室を出て行った。ゼモは顔を上げると、フッと笑った。


 ラルミーク星系の第四番惑星に着陸したサンド・バーは、ジャコブの工場があった街へと向かった。彼は共和国の調査隊を警戒して、街から外れた岩場にジョーの小型艇を降ろしたので、街まで結構な距離がある。

(もっと近くにすればよかったかな?)

 ジリジリと照りつける日差しを感じて、サンド・バーは思った。

「あれは……?」

 しばらく進むと、反共和国同盟軍と思われる一団が付近を調べているのを見かけた。

(奴らは敵対勢力じゃないが、関わり合いにはなりたくない)

 サンド・バーは同盟軍に見つからないように岩や草むらを使って身を隠しながら、先へと進んだ。

「今度は共和国軍か?」

 更に進むと、共和国の旗を掲げた一団が動いていた。

(こっちは尚の事見つかる訳にはいかねえ)

 サンド・バーは慎重に先を目指した。

「ひでえな……」

 街から外れた辺りが、ほぼ何があったのかわからない程吹き飛んでいるのが見えた。

(ジイさんの工場があった辺だな。こいつはやっぱり……)

 ジャコブの生存が絶望的なのを確信し、サンド・バーは歯軋りした。

(もし、ヤコイム・エレスの仕業だとして、奴はどうしてジャコブを殺したんだ?)

 事情を知らないサンド・バーには、ヤコイムのジャコブ殺害動機がわからなかった。

(ジョーに知らせないとな)

 サンド・バーは小型艇へと急いだ。


 カタリーナはジョーとアメアの無事の帰還を喜んだが、ニコラス・グレイという人知を超えた存在を知り、蒼ざめた。

「不死の遺伝子だなんて……」

 崩れ落ちるようにキャプテンシートに腰を下ろしたカタリーナを、

「母上、大丈夫ですか?」

 アメアが気遣った。カタリーナはアメアを見上げて、

「ありがとう、アメア」

 それからジョーを見て、

「一番切実なのは、ジョーが私より老化が遅いって事よ。すごくショックだわ……」

 項垂れてしまった。ジョーは苦笑いをして、

「老化が遅いとは言っても、それ程ではないよ。実際、俺とカタリーナはどっちが年上かわかるか?」

 アメアに尋ねた。するとアメアは腕組みをして、

「ジョー、そういう事を言うのは、女性に対して失礼だぞ」

 妙に正解に近い事を言ったので、

「やっぱり?」

 カタリーナが涙目でアメアを見つめた。アメアはハッとして、

「いえ、あの、母上が年上に見えるという事ではなくてですね……」

 必死に釈明をしたのだが、カタリーナは、

「いいのよ、気遣ってくれなくても。若い夫と、若い娘に看取られて死ぬのもいいかもね……」

「おい、カタリーナ……」

 ジョーは半ば呆れ気味にカタリーナをたしなめようとしたが、

「ジョー」

 アメアに引っ張られてブリッジの隅へと連れていかれ、

「しばらく母上には何も言わないほうがいい。私達が何を言っても、無駄だ」

「そうだな」

 ジョーは頷き、ブリッジを出て行った。アメアは微笑んでカタリーナに近づき、

「母上、お疲れなのですよ。お休みください」

 手を貸して立ち上がらせた。するとカタリーナは虚ろな目でアメアを見て、

「そうね。年寄りは疲れ易いから、休ませてもらうわね」

 皮肉とも自虐とも受け取れる事を言うと、ブリッジを出て行った。

「母上……」

 アメアは悲しそうに呟き、カタリーナを追いかけた。


 ジャンピング航法を超える空間跳躍法で消えたヤコイムの艦を見て、アレン・ケイムは撤退命令を出し、艦を惑星マティスへと向かわせた。

「閣下の専用艦がどこへ向かっているのか、追跡トレースを続けろ」

 レーダー係に命じるとブリッジを出た。

(ニコラス・グレイ、何が狙いなのだ?)

 アレンはニコラスが動き出した理由が気になっていた。

(ジャコブ・バイカーを殺害したのも、恐らくニコラス・グレイだろう。それも理由がわからない)

 アレンは大股で歩き始めた。

(そして、奴が向かった先は恐らくゲルサレム。ゼモ・ガルイと関係があるのか? ゼモは何を知っている? だとすると、ストラッグル一族がゲルサレムに監禁されているのも、ニコラスは知っているのか?)

 アレンの額を汗が流れ落ちた。

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