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第三十六話 圧倒的な力

 アメア・カリングがたった一人で出撃した事を知らされたアレン・ケイムはいつになく焦っていた。

(何をなさるおつもりなのだ? まさか、ジョー・ウルフとルイ・ド・ジャーマンを倒すおつもりか?)

 アメアがその能力を発揮すれば、それも不可能ではないと考えるアレンであったが、

(それはまだ早い。あの二人は利用価値がある。反乱軍は首がすげ変わっただけだ。しかも、ブレイク・ドルフは適当にあしらう事ができたが、エレン・ラトキアはそうはいかない。それにまだ共和国は盤石ではない)

 アレンは軍本部を出ると、エアカーで宇宙港に向かった。

「閣下はどうされたのだ?」

 宇宙港の作業員達はオロオロするばかりで、要領を得ない。パニック状態で説明しているので、詳細は理解できなかったが、アメアはすでに戦艦一隻を自分一人で動かし、マティスを飛び立ってしまったらしい。

「愚か者共が! 重罪だぞ。心して待っていろ!」

 アレンは作業員達に怒鳴り散らすと、すぐに発進できる戦艦を用意させて乗り込んだ。

(何が原因なのだ? 閣下がそこまで暴走されるのは、何か理由があるはずだ)

 アレンはイライラしたままでブリッジに入り、キャプテンシートに座った。


「ぐう……」

 ジョーは眉間に激痛を感じた。そして、アメアのイメージがよぎるのを感じた。

(アメア・カリングが出て来たのか?)

 ジョーはヘルメットを外すと、眉間から噴き出す血を止血剤で固めながら、

「何か近づいてこないか?」

 レーダーを覗き込んでいるサンド・バーに尋ねた。

「いや、何も映っていないぞ。何かあったのか?」

 サンド・バーはジョーがビリオンスヒューマンである事を知っているので、自分には感じられない事があると思っているため、そう尋ね返した。

「アメア・カリングが近づいて来ているようだ。気をつけてくれ」

 ジョーの言葉にサンド・バーは目を見開いた。

「何だって!? アメア・カリングが自ら出て来たっていうのか?」

 ジョーはヘルメットを被り直しながら、

「いや、細かい事はわからねえ。艦隊を率いて出て来たのか、一人で出て来たのかはな」

 するとレーダーが艦影を捉えたので、

「一隻だけ反応があるぞ。艦隊じゃねえぜ。どういう事だ?」

 サンド・バーが顔を上げた。ジョーはキャノピーから前方を見据えて、

「以前、反共和国同盟軍の艦隊が撃退された時も、アメア・カリングが一人で出たって話だ。それくらい、あの女は強いって事さ」

「やばいんじゃねえか?」

 サンド・バーは眉をひそめた。ジョーはニヤリとして、

「そうかも知れないな。アレン・ケイムが出てくると思っていたんだがな」

 実はアメアの単独行動を引き起こしたのが自分に原因があるとはジョーは夢にも思っていなかった。


 その頃、謀略によって勝利したエレン・ラトキアは、反共和国同盟軍の幹部達に歓迎されて、本部に入っていた。

「皆さん、亡き最高司令官のブレイク・ドルフに代わり、私が必ず共和国を滅ぼし、銀河帝国を復活させてみせます。皆さんのお力をどうぞお貸しください」

 エレンはマイクを通じて、本部の中だけではなく、帰還した艦隊にも一斉に呼びかけた。彼女がブレイクを陥れ、バーム・スプリングをそそのかしてミンドナを攻撃させ、その上で彼を暗殺したばかりか、バームが率いていた艦隊を騙し討ちにして全滅させたのを知らないため、エレンがブレイクの跡を継ぐのを誰一人として反対する者はいなかった。

「ジョー・ウルフは我らに敵対する事はありません。最大の脅威は封じました。後は惑星マティスを叩くだけです」

 エレンは熱っぽく語った。自らの演説に酔いしれているかのようである。

「そして、共和国軍と我が軍に武器を供給していた二枚舌のヤコイム・エレスには絶縁を通告しました。これからは、ジャコブ・バイカーが我々の武器弾薬の調達を一手に引き受けてくれます。我が軍は盤石です」

 その言葉により、反共和国同盟軍の者達は高揚し、沸き立った。

(ジョー様はルイ・ド・ジャーマンと共にマティスに向かったという情報が入って来ている。この二人ならば、マティスの防衛網も突破する。我らは止めを刺しに行けばいい)

 エレンはジョーの活躍を期待していた。

(銀河帝国の新たな皇帝にふさわしいのは、貴方です)

 エレンは頬を紅潮させて、戴冠式に臨むジョーを思い描いていた。

(そして、その隣に座るのは私)

 エレンは右の口角を吊り上げた。


「来たぞ」

 ジョーはアメアが戦艦から出て来たのを感じた。

「え? どういう意味だ?」

 それがわからないサンド・バーがキョトンとした。ジョーは操縦をオートパイロットに切り替えると、

「ブースターで出てくれ。そして、できるだけ遠くへ逃げてくれ」

「おいおい、そりゃねえだろ? ここまで付き合ったんだ。今度は一緒に戦うぜ」

 サンド・バーが言い返すと、ジョーは彼を見て、

「アメア・カリングは化け物なんだよ。勝てる自信がねえ。あんたは戦う事はない。退避してくれ」

 サンド・バーの矜持を傷つけないように「逃げてくれ」と言うのは控えた。

「俺から見れば、あんたも十分『化け物』だけど、そのあんたが化け物って言うのなら、俺なんかいても邪魔なだけだな。わかった」

 サンド・バーはブースターを背負うと、

「死ぬなよ」

 それだけ言い置いて、小型艇から脱出し、逆の方向へとブースターで進んだ。

「ありがとう」

 ジョーはサンド・バーの背中に礼を言うと、ブースターを起動して小型艇を飛び出した。

「あれか?」

 ジョーはストラッグルを右手に持ち、前方にかすかに見える光点を確認した。ヘルメットに距離と移動速度が出る。

「何だと?」

 その速さにジョーは目を疑った。

「くっ!」

 一瞬のうちに光点は宇宙服姿のアメアになり、ジョーに突進して来た。

(サンダーボルトソード?)

 ジョーはアメアが電撃を放っている剣を両手持ちしているのに気づいた。

「チィッ!」

 間髪入れずにストラッグルを放ったが、アメアはまるで予期していたかのようにその光束をかわし、更に接近して来た。

(何て速さだ)

 かわすのが不可能だと判断したジョーは、ストラッグルの銃身でアメアの斬撃を受け止めた。

「ジョー・ウルフゥッ! 断じて許さんぞォッ!」

 アメアの怒りの叫びが通信機ではなく、頭に直接響いて来たような気がして、ジョーは一瞬怯んだ。

「ぐわっ!」

 アメアの勢いに圧倒されて、ジョーは後方へ吹き飛ばされた。

「うう……」

 ブースターの噴射で流れるのを止めたが、すでにアメアが間合いに飛び込んで来ていた。

「はああ!」

 大上段からの斬撃をかろうじて右横にかわしたが、すぐさま次の右薙ぎが襲いかかってくる。

「うわっ!」

 ジョーはそれを再びストラッグルの銃身で受け止めた。

「あのような下賎な女に惑わされおってェッ!」

 アメアがまた凄まじい力でジョーを押し切ろうとして来た。

「何言ってやがる!?」

 アメアの意味不明な叫びにジョーは怒りをぶつけ返してアメアを押し戻した。

「母上を悲しませるなァッ!」

 アメアのその言葉にジョーはついギクッとしてしまい、対処が遅れた。

「うおお!」

 アメアの突きがジョーの胸元へ迫った。

(やられる?)

 ジョーは死を覚悟した。その時、カタリーナが脳裏を過り、更に彼女の身体の中で成長している命の輝きが見えた。

「くっ!」

 呻いたのはアメアだった。アメアにもカタリーナが見えていたのだ。サンダーボルトソードはジョーの宇宙服の寸前で止まっていた。

(どうしたっていうんだ?)

 ジョーにはアメアが何故攻撃を止めたのかわからなかった。だが、

「はあ!」

 アメアの隙を突き、彼女を蹴飛ばすと、距離を取った。

(母上って言ったよな? アメア・カリングはやはり……)

 絶対に認めたくない事だった。アメア・カリングはカタリーナとブランデンブルグの遺伝子を受け継ぐ者。直接的な表現をすれば、二人の子供という事だ。

「ジョー・ウルフ」

 不意にアメアが呼びかけて来た。すでにサンダーボルトソードはベルトにしまわれている。

「何だ?」

 ジョーはストラッグルを下ろして応じた。するとアメアは、

「母上が会いたがっておられる。私と一緒に来い」

 思ってもみない事を告げて来た。

(どういうつもりだ?)

 ジョーが訝しそうにアメアを見ていると、

「どうか私と一緒に来て、ジョー。母上を悲しませないで」

 アメアの口調が変わった。よく見ると、彼女は泣いていた。ジョーは唖然としてしまった。


 一方、ヤコイム・エレスの艦は、ラルミーク星系第四番惑星に接近中だった。

「一体何の用だ?」

 ヤコイムはジャコブと通信中である。ヤコイムはぶっきら棒な物言いのジャコブの声に対して、

「まあそう言うな、ジャコブ。長い付き合いじゃないか。少し、話がしたいと思ってな」

 ジャコブの声は、

「よくもわしに連絡してこられたな、死神。お前の悪行、全部知っているんだぞ。それから、わしの仲間にも相当酷い事をしているのもな」

 更に険悪な雰囲気を醸し出していた。それでもヤコイムはニヤついて、

「相変わらず、きついな、あんたは。真剣な話なんだよ。エレン・ラトキアについてのな」

「エレン・ラトキア? ああ、ジョーに惚れてる嬢ちゃんの事か」

 ジャコブの声はいくらか和らいだ。ヤコイムは薄笑いを浮かべたままで、

「なるほど、そういう事か。あのお嬢さんが強気になったのは、ジョー・ウルフが関係しているのか」

「関係しているも何も、お前もよく知っているだろう?」

 ジャコブの声が嫌味を混ぜてくる。しかし、ヤコイムは平然とした顔で、

「私は何も知らんよ。あのお嬢さんに関して知っているのは、結構な策士だという事くらいさ」

「ほとんど知っとるのと同じ事だろう。まあいい、どんな用件か言ってみろ」

 ジャコブはいささか呆れ気味になっていた。

「直接話したい。共和国や反乱軍に盗聴されたくないのでね」

 ヤコイムは薄ら笑いをやめて真顔で言った。

「まあ、いいだろう。降りて来な」

 ジャコブはつっけんどんに応じると、通信を切った。ヤコイムはまたニヤリとした。


 ジョーは半信半疑のまま、アメアが操縦して来た戦艦に向かった。

「中に入った途端に取り囲まれるっていうのはないだろうな?」

 ジョーが尋ねると、アメアは、

「まだ私を疑っているの? そんな事、しないわ」

 涙を浮かべて応じたので、面食らってしまった。

(何がどうなっているんだ?)

 ジョーはアメアの変貌に混乱していた。

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