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第三十五話 逆襲

 反共和国同盟軍の本部ビル付近に巡洋艦を着陸させたエレン・ラトキアは、破れた服を隠す事なく、むしろそれを強調するように堂々とタラップに出て、階段を降りた。彼女を出迎えに来た軍の幹部達は、その姿に息を呑んだ。

「何と卑劣な事をするのだ、共和国の連中は……」

 エレンの顔に殴られた痕を見つけて、彼らはたちまち彼女に同情してしまった。一時は亡きブレイク・ドルフに罵られて、補佐官の地位も危ういと見られていたエレンは、ここで一気に形勢を逆転した。

(完璧ね)

 顔では苦しそうにしているが、心の中では狂喜していた。

(遂に私は頂点に立てる。そして、共和国軍を滅ぼして、あの女も葬り、その先に……)

 もう少しで笑みがこぼれそうになったので、エレンは慌てて顔を右手で覆った。

「大丈夫ですか、補佐官?」

 幹部の一人が、車椅子を押してきたが、

「大丈夫です。自分の足で歩けます」

 エレンは如何にも辛そうに応じると、車椅子を避けて進んだ。

「それよりも、銀河系の各星域に出撃している艦隊は、あとどれくらいで戻れますか?」

 エレンは車椅子を押してきた幹部に問いかけた。

「一番早く戻れる艦隊で、今から三十分後です」

「三十分?」

 エレンは驚いてその幹部を見た。これは芝居ではない。

(それ程手間取っていると、本当に共和国軍に逃げられてしまうわ)

 予定が狂ってしまうと考えた彼女は、

「地上から共和国軍に攻撃する事はできますか? このままでは、逃げられてしまいます」

 幹部は車椅子を反転させながら、

「対空兵器は、共和国軍の最初の攻撃で破壊されてしまいました。地上からの攻撃は無理です」

 残念そうに告げた。エレンはしばらく黙っていたが、

「わかりました。私が話をして時間を稼ぎます。その間にできるだけ早く帰還するように連絡を取ってみてください」

「わかりました」

 幹部達は本部ビルへと駆け戻って行った。エレンはそれを見届けると、巡洋艦へと歩き出した。信を置ける人間の多くは、巡洋艦に乗り込ませているのだ。バーム・スプリングの艦隊がミンドナを攻撃して、壊滅的な打撃を与えてしまう事も想定して、動いていたのである。

(急がなければ……)

 エレンは大股で進んだ。


 エレンの言葉を信じて、反共和国同盟軍の艦隊が戻る前にミンドナから離れようと展開を急いでいるバーム・スプリングが率いてきた共和国軍の艦隊は、エレンからの通信を受けた。

「状況が変わりました。帰還すると思われた遠征部隊は、各星域での戦闘から離脱する事ができず、戸惑っているようです。今なら、ミンドナの中枢を完全に制圧できると思います。私が手引きしますので、もう一度連絡があるまでお待ちください」

 周囲を伺いながら通信をしてきたエレンを見て、一瞬訝しく思ったバームの側近達だったが、

「よろしくお願いします」

 エレンが涙ぐんで告げ、ミニターから消えたので、結局信用してしまった。

「全艦に告ぐ。このまま惑星ミンドナを制圧する。エレン・ラトキア補佐官の手引きで、反乱軍殲滅作戦を実行する」

 側近の一人がマイクを握りしめて伝達した。

「軍本部へ連絡。我が艦隊はこれより反乱軍の拠点である惑星ミンドナの制圧作戦を実行すると、バーム・スプリング様の名前で伝えよ」

 側近は官僚らしい発想で命じた。もし何かまずい事があっても、全てバームに責任を押し付けようと考えているのだ。死人に口なしである。そして、制圧作戦が成功したら、バームの死亡を明かす事も考えていた。責任は押し付けて、手柄は自分のものにしようと思っているのだ。それもこれも、バームの普段の行いの悪さから来ている。バームに限って言えば、完全に自業自得である。

 しかし、しばらく経っても、エレンからの連絡はなかった。

「何をしているのだ? 時間がかかり過ぎだ。戻って来てしまうではないか」

 側近がそんな事を考え始めた時だった。

「艦隊周辺にジャンピングアウト反応です!」

 レーダー係が悲鳴にも似た声で叫んだ。

「何!?」

 側近はギョッとしてレーダー係を見た。

「何だ、どういう事だ?」

 彼は慌ててレーダー係に詰め寄り、問い質した。レーダー係はスクリーンいっぱいに映る無数の光点を見たままで、

「反乱軍の艦隊と思われます! その数、千、いえ、三千!」

 涙目になって報告した。

「バカな! どういう事だ!?」

 側近はまだエレンに騙された事に気づいていない。すると、

「ラトキア様から通信です」

 通信兵が告げた。側近はすぐに自分の席のマイクを掴み、

「ラトキア様、これは一体どういう事ですか?」

 非難めいた口調で尋ねた。するとエレンの声が、

「大変申し訳ありません。報告より早く、艦隊が帰還してしまいました。早くその場からお逃げください」

 少しもお詫びの気持ちがこもっていない調子で言った。

「騙したのか!?」

 そこまで来て、ようやく側近はエレンの計略に気づいた。しかし、全てが遅かった。

「おのれえ!」

 それが彼の最後の言葉となった。バームが率いて来た共和国軍の艦隊は、帰還した反共和国同盟軍の艦隊の猛攻を受け、全艦が爆発炎上し、宇宙の藻屑となった。


(ご苦労様。皆さんのお陰で、私は銀河系の支配者への階段を駆け上がれそうですわ)

 エレンは巡洋艦のブリッジの窓から、上空に見える爆雲を眺めて敬礼してみせた。そして、マイクを持ち、

「皆さん、亡きブレイク・ドルフの仇は討てました。ご協力に感謝致します」

 モニターに向かって涙ぐんでみせながら言った。

(後はゲルサレムの管理長と、ヤコイムのジイさんへのお礼ね)

 エレンは、ブリッジの誰にも気づかれないようにニヤリとした。


 バームが率いていた艦隊が全滅したのは、共和国軍本部にも知らされていた。

「別に構わん。バーム・スプリングが率いていた艦隊など、あってもなくても関係なかった」 

 報告を受けた近衛隊の隊長であり、事実上の共和国軍の最高位でもあるアレン・ケイムは無表情に言った。

(ブレイク・ドルフが死に、それを引き継ぐのは恐らくエレン・ラトキア。元銀河帝国の事務方の幹部が、何を企むのか、見させてもらおう)

 アレンは余裕の笑みを浮かべ、

「ルイ元帥はどうされているか?」

 通信兵に尋ねた。通信兵は機器を操作しながら、

「只今、小型艇で発進準備中です」

「そうか」

 アレンはルイがジョーを殺すつもりはないのを知っていた。

(死神から、マリー・クサヴァーの監禁場所が知られたと連絡があった。奴め、どうするつもりだ?)

 アレンは、ヤコイム・エレスがマリー・クサヴァーを気にかけていないのを感じていた。

(ヤコイムが何のために共和国に接近して来たのか、そしてルイを使おうとしたのは何が目的か? やはり、信用できん)

 腹の底が見えないヤコイムをどう始末するか、アレンは考えた。しかし、

(それ以上に気にかかるのは、閣下のエレン・ラトキアに対する反応だ。何だったのだ?)

 エレンに対して、アメア・カリングが激昂したのが、アレンにはどうしても理解できなかった。

(嫉妬のようにも見えたが、面識がない人間に嫉妬するのか?)

 エレンの行動のある部分を遠く離れていながら、アメアは感じ取ったのである。アレンにはそれはわからなかったのだ。


 死の商人の異名を持つヤコイム・エレスも、バーム・スプリングの艦隊が全滅した事を掴んでいた。

(その直前に女狐の艦が離れたというのがわからん。あの女、何をしたのだ?)

 エレンがバームを暗殺した事は誰にも気づかれていないので、ヤコイムも知りようがない。

(共和国と反共和国同盟軍を天秤にかけたという事か)

 決してそうはならないであろうが、エレンとは話が合うかも知れないとヤコイムは思い、ニヤリとした。

(敵対する以上は殺すしかないが、少しばかり惜しい気もするな)

 ヤコイムは、エレンの美貌ではなく、その非情さに惹かれた。

「本社に戻るのは延期だ。その前に行くところができた」

 ヤコイムは操縦士に告げた。

(出鼻をくじかせてもらうぞ)

 ヤコイムは再びニヤリとした。


「さてと。そろそろ元帥様がお出ましになる頃だな」

 一旦、惑星マティスの宙域を離脱したジョーは、再び小型艇を反転させて、ルイとの決戦に戻る事にした。

「ルイにどうやって知らせるんだ?」

 副操縦席のサンド・バーが言ったが、ジョーは、

「知らせなくてもわかるさ。俺が一度引っ込んで出て来た意味を考えればな」

「なるほど」

 サンド・バーはフッと笑った。そして、

「おう、見事なタイミングだな。出て来たぜ」

 レーダーに映る一つだけの光点を見て告げた。

「そうかい」

 ジョーはニヤリとすると、小型艇の速度を上げ、ルイが来る方角へと突き進んだ。それに呼応するようにルイの小型艇も速度を増し、ジョーに向かって来た。

「おっと!」

 ルイがいきなりストラッグルを撃って来たので、ジョーは一瞬面食らったが、素早くそれをかわして、

「そういう事か」

 ルイの意図に気づき、

「ヘルメットを装着してくれ。小型艇が吹っ飛んでもいいようにな」

 サンド・バーに言った。

「え? どういう事だ?」

 サンド・バーは意味がわからなかったが、慌ててヘルメットを被った。ジョーはそれをも届けると、キャノピーを開いて立ち上がった。そしてストラッグルを構え、

「通らせてもらうぜ!」

 真正面に発射した。それは特殊弾薬の光束で、辺りを照らし出すほどの威力を見せつつ、直進した。ルイはそれをかわしたらしく、爆発は起こらない。

「ルイの小型艇が離れて行くぞ。どういう事だ?」

 不思議に思ったサンド・バーが言った。ジョーは操縦席に戻ってキャノピーを閉じると、

「こっちの意図がわかったという事さ。もう共和国の言う事を聞く理由はねえからな」

「ああ、そうか」

 サンド・バーはルイが全てを理解した事に気づいた。

「おや、ルイの小型艇がマティスに向かい始めたぞ」

 サンド・バーが驚いて告げると、ジョーは、

「礼節を重んじる奴だからな。きちんとお礼をするつもりだろうよ」

 そして、速度を更に増して、

「先を越させる訳にはいかねえ! しっかり掴まってろよ!」

「うわ!」

 サンド・バーの返事を待つ事なく、ジョーの小型艇はマティスに向かって驀進した。


 アレンは、ルイとジョーがマティスに向かっている事を知らされた。

「やはりそうなったか。望むところだ」

 軍本部の地下にある中央作戦司令室を出ようとした。すると、

「大変です! 閣下がお一人で出撃されました!」

 通信兵が絶叫した。

「何だと!?」

 アレンは舌打ちをして、すぐに司令室を飛び出した。

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