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第三十三話 エレン・ラトキアの本性

 ジョーはルイが潜んでいる辺りへとブースターで進んだ。

(ルイは何故小型艇を捨てた?)

 ジョーはそれが理解できなかった。確かに装甲は破損したが、乗り捨てる程ではない。

(何か理由があるのか?)

 ルイの考えを推測しつつ、ジョーは宇宙空間を進む。

「む?」

 その時、光点が見え、次の瞬間、小型ミサイルが接近してくるのがヘルメットに内蔵されているレーダーでわかった。

「温いぜ、ルイ!」

 ジョーはそれを難なくストラッグルで破壊し、更にルイへと接近した。

(例えかつては共に戦った男でも、行く手を遮るのであれば、排除する)

 ジョーはストラッグルを構え、ルイがいると思われる方角へ撃った。

「何!?」

 ところが、ストラッグルの光束はまさにルイがいるところまで進んだ時、霧散してしまったのだ。

(まさか……)

 ジョーは以前、近衛隊長のアレン・ケイムと戦った時、ストラッグルの光束がことごとく無効化されたのを思い出した。

(あのシールドを使っているのか?)

 ルイがアレンが使っていた対ストラッグルのシールドを使っているのであれば、いくら撃っても無駄だという事になる。

(小型艇を捨てたのはそういう事か。どうする?)

 ジョーの額を汗が伝わる。

(地上であれば、弾丸を使う方法もあるが、宇宙空間ではそれもあまり有効じゃない)

 ジョーは、ルイが再びミサイルを撃ってきたので、ストラッグルで撃破し、距離を取るためにブースターを操作した。それに合わせるようにルイが加速して追いかけてくる。

(本来であれば、ルイはシールドなど使う男ではない。そうまでして、俺を殺そうとするのは、何故だ?)

 ルイに今までにない執念と焦りを感じたジョーは、それの根源となっている理由を考えた。


 カタリーナは、アメア・カリングに伴われて、総統領府の地下深くにあるシェルターがある階に着いた。

「さあ、母上、この先に安全な場所があります。そこにいらしてください」

 アメアは微笑んでカタリーナの手を取り、先導した。カタリーナは意を決して、

「アメア、今マティスに近づいてくるのは、ジョー・ウルフなの?」

 アメアは足を止めて、真顔でカタリーナを見た。

「そうです。我が仇敵。何度殺しても飽き足らない程の存在です」

 アメアの圧力のようなものがカタリーナにのしかかってきた。しかし、カタリーナは、

「ジョーは私の愛する人。宇宙で一番大事な人なの。そのジョーを貴女がそれ程憎むのは何故?」

 そこまで言ったら、アメアは自分に対しても憎悪を向けてくるかも知れない。カタリーナはそう思ったが、臆せず尋ねた。するとアメアは、

「それは……」

 何故か口籠もり、俯いてしまった。

(もしかして、アメア自身は何故そこまでジョーを憎むのか、わかっていないの?)

 カタリーナは微笑んで、アメアの左肩に右手をかけ、

「本当は貴女は優しい人よ。だから、私に対して向けてくれるその優しさをジョーにも向ける事はできないの?」

「母上……」

 カタリーナの言葉にアメアは目を見開いて顔を上げた。

「私、私……」

 アメアはカタリーナの手を振り払うと、その場にしゃがみ込んだ。

「アメア?」

 カタリーナがアメアの顔を覗き込むと、彼女は涙を流していた。

(もう一息かも知れない)

 カタリーナが更に声をかけようとした時、

「閣下、こちらでしたか。すぐにお戻りください。ジョー・ウルフがルイ・ド・ジャーマンと戦っております。事態は予断を許さない状況です」

 突然アレンが現れ、その場の雰囲気を一変させた。

「わかった。戻るぞ。母上を頼む」

 アメアはまた無感情な顔になり、大股で廊下を歩き出した。

「お前はしばらく、そこにいろ」

 アレンはカタリーナを強引にシェルターに押し込むと、ロックをかけてしまった。

「ちょっと!」

 カタリーナは中にあるボタンやレバーを動かしたが、扉は開かなかった。

「アメア……」

 ジョーとルイの戦いも気になったが、それ以上に気になるのは、アメアがどう動くのかだった。

(ジョーはルイには勝てる。でも、アメアには……)

 カタリーナは、自分と瓜二つのアメアをジョーが撃てるとは思えなかった。


 反共和国同盟軍の最高司令官であったブレイク・ドルフを陰謀により追い落とす事に成功したエレン・ラトキアは、その陰謀に加担したバーム・スプリングの旗艦に接舷し、乗り込んだ。

「さすがです、バーム様。お見事でした」

 ブリッジに入るなり、エレンはバームを称賛した。バームはその言葉に得意そうに胸を張り、

「貴女の助言があったお陰ですよ、ラトキア補佐官」

 エレンの身体を舐め回すように下から上まで見た。

(露骨な奴ね)

 バームを心の中では軽蔑しながらも、

「それ程の事は致しておりませんわ」

 エレンは作り笑顔で応じた。周囲にいるバームの部下達は、突如として現れた反乱軍の幹部であるエレンに驚いたが、その類い稀なる美貌に釘付けになっていた。

「もうすぐ、貴女の元上官が、この艦に命乞いにやってきます。会いますか?」

 バームがニヤリとして尋ねた。するとエレンはフッと笑って、

「いいえ。顔も見たくありません。乗っている艦もろとも、宇宙の藻屑にしてください」

 そのあまりにも冷酷な言葉にバームは驚いて息を呑んだ。自分も、軍内部では恐れられた存在であるが、ここまで非情な事はした事がないからだ。

「あ、いや、そこまでしなくても……」

 思わず口を突いて出たのは、ブレイクに対する温情とも取れる言葉だった。しかし、エレンは、

「相手は、もしかすると、降伏すると見せかけ、この艦を占拠するつもりかも知れないのですよ? 何れにしても命を取るのであれば、こちらに一切害が及ばない段階で決断した方がよろしいかと?」

 ブレイクへの哀れみなど微塵も感じさせない笑みを浮かべて言った。

「そ、そうですな」

 バームはエレンの底知れぬ冷徹さに身震いしそうになりながら応じた。


 側近達の裏切りにより、ブレイク・ドルフは不本意な思いを抱きながら、後頭部に銃口を押し当てられたままで、自分の専用艦である戦艦に乗り込み、惑星ミンドナを発進した。

(エレン、どうしている? まだ近くまで来ていないのか? それとも、どこかで共和国軍に拿捕されてしまったのか?)

 それでもなお、エレンの事は全く疑わずに案じているブレイクは、もはや道化に近かった。

「バーム・スプリング元帥の旗艦の位置が確認できました。座標を修正します」

 操縦士が伝えた。ブレイクはキャプテンシートに座った状態で、今だに銃を後頭部に押し当てられた状態なので、黙って頷いた。

「あれ?」

 通信兵が思わず発した声に、

「何だ?」

 ブレイクを監視している側近の一人が怒鳴った。通信兵はオロオロして、

「申し訳ありません、バーム元帥の旗艦付近から、ラトキア補佐官の巡洋艦の識別信号が発信されているので……」

「何だと!?」

 それには、ブレイクも大声を発した。

(どういう事だ? やはり拿捕されたのか? それとも……)

 考えたくはない推測が頭の中をよぎる。

「高出力の熱源が接近して来ます!」

 レーダー係が悲鳴にも似た声で告げた。ブリッジにいた全員が、窓の外を見た。バームの旗艦の主砲が放った放火がこちらに向かってくるのが見えた次の瞬間、ブレイクの専用艦は爆発炎上した。

「エレン!」

 ブレイクが最後に発した言葉は、怒りなのか、悲しみなのか、彼自身にもわからなかった。


「共和国軍本部に連絡。反乱軍の賊長であったブレイク・ドルフはたった今我が艦隊が葬ったと」

 バームはエレンが横で笑っているのを見ながら、通信兵に命じた。

(この女、油断がならん。俺もいつ寝首を掻かれるか……)

 バームはエレンを愛人にする事を考え直していた。エレンはバームの感情の変化を読み切っていて、

(バームさん、顔に出過ぎよ。やっぱり、消えてもらった方がいいみたいね)

 彼の方に向き直ると、

「私は敗北した賊軍の幹部です。お好きなようになさってください」

 儀礼的なお辞儀をし、ニヤリとした。バームはエレンをまともに見ずに、

「ラトキア補佐官を私の部屋にお通ししろ」

 部下に命じてから、

「軍との話がすんでから、お話をしましょう」

 エレンをチラッと見て告げた。


 アレンは、アメアと共に共和国軍本部地下にある中央作戦司令室にいた。二人がその時注視していたのは、ジョーとルイの戦いであったが、

「バーム・スプリング艦隊が、反乱軍のブレイク・ドルフを殺害したとの報告がありました」

 通信兵がアレンに告げた。アメアはそれには無関心で、壁の巨大なスクリーンに映るジョーとルイの戦いに見入っている。

「それで?」

 アレンもさして興味がない反応をしたので、

「あ、その、投降して来たエレン・ラトキアの処遇をどうすればいいかと質問して来ています」

 通信兵は汗を掻きながら続けた。すると突然アメアが通信兵を睨み、

「その女はこの私が直接殺してやる! すぐに連れてこい!」

 激情して怒鳴ったので、通信兵や他の兵はもちろん、アレンも驚いてしまった。

(どういう事だ? 閣下はエレン・ラトキアとは一度も面識がないばかりか、顔すら見た事がない。何があるのだ?)

 全く理由がわからない怒りを見せたアメアにアレンは困惑してしまった。

「はっ!」

 通信兵は慌てて敬礼したが、

「待て」

 アレンが通信兵を引っ張って、司令室の外へ出た。

「バームには伝えなくていい。閣下の気まぐれだ。応じたふうを装え」

 小声で命じ、中に戻った。

「では、スプリング司令官に連絡致します」

 通信兵はもう一度アメアに敬礼して言ったが、すでにアメアの関心はまたジョーとルイの戦いに移っていた。


 そのジョーとルイの戦いは、膠着状態に陥っていた。ジョーのストラッグルがシールドで封じられたため、決め手にかけているのだ。そのシールドのせいで、ルイもまたストラッグルを使えないのが、ジョーにはわかって来た。

(何があったのか、聞き出すしかねえな)

 ジョーは危険を覚悟で、ルイに接近戦を試みた。ルイはジョーの接近を阻止するために小型ミサイルを乱射して来た。

(小型艇に乗っているならともかく、ブースターだけで弾薬をそれ程抱えられるはずがない)

 ルイの手持ちが尽きるのを見切って、ジョーは構わずに接近した。するとルイは、ベルトに着けていたサンダーボルトソードを抜き、構えた。

(また厄介なものを持ってやがるな)

 ジョーは舌打ちし、ブースターを逆噴射させて止まった。ストラッグルが使えない以上、サンダーボルトソードに太刀打ちできる手段がない。すると、ジョーの迷いを見透かしたかのようにルイが接近して来た。彼はソードを大上段に振りかぶって向かってくる。

「ならば!」

 ジョーはストラッグルを抜いた。

「くっ!」

 銃身でサンダーボルトソードの電撃を受け止めた。

「はああ!」

 ジョーはそのままソードを押し返して、自分のヘルメットをルイのヘルメットにぶつけた。

「何があった?」

 ジョーは通信だと盗聴される恐れがあると思い、直接声が届く方法を取った。しかし、ルイはジョーを睨むだけで、何も答えない。

「うわっ!」

 サンダーボルトソードの出力が上がり、電撃がジョーの宇宙服を焦がした。ジョーは一旦ルイから離れた。

(何だ?)

 いつの間にか、宇宙服の胸の部分に何かが貼り付けられていた。

(メモリーカードか?)

 そこへまたルイがソードを振りかぶって近づいて来た。

「うわあ!」

 ジョーはルイの斬撃を受けたふりをして、身体を漂流させた。

「聞こえるか、サンド? 迎えに来てくれ」

 ジョーは小型艇に乗っているサンド・バーに連絡した。

「了解」

 ジョーの宇宙艇がすぐに来て、ジョーを救出した。それを見届けると、ルイもその場から離脱した。

「何があったんだ?」

 操縦席を代わりながら、サンド・バーが尋ねた。ジョーは前を見据えたままで、

「ルイの土産の中身を見れば、わかる」

 宇宙服に貼り付けられたメモリーカードを見せた。


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