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第一話 ジョーが帰って来た!

 ブランデンブルグの脅威から解放され、平和的な政治体制が確立されたと思っていた銀河系の人々は、一瞬にして悪夢の中に放り出された。

 アメア・カリング率いる政党の銀友会が議会で過半数を勝ち取り、行政府のトップである総統領にアメアが当選した。その途端、彼女は自身の本性を露わにし、恐怖政治を始めたのだ。

 大半の人々はアメアの統治に絶望し、抵抗する事もなく、絶対服従を誓い、見かけは平穏な生活を送っていた。しかし、その実態は常に監視と密告が支配する息が詰まるような世の中であった。

 アメアのやり方に抵抗する者達は僅かながら存在し、「銀河の狼」を名乗り、銀河系の各星域でレジスタンス活動を展開していた。だが、それも焼け石に水にも遠く及ばないものであった。


 かつて、銀河系を救った英雄と称えられたジョー・ウルフとその婚約者のカタリーナ・パンサーがしばらくの間暮らしていたラルミーク星系第四番惑星には「銀河の狼」の本部がある。本部とは言っても、ジョー達が暮らしていたフレッド・ベルトという銃工の工場跡地の地下に数十人が押し固まるように息を潜めて生活しているに過ぎないものである。しかも、アメアが全権を掌握している共和国軍が数回空爆をし、すでに工場は跡形もなく吹き飛び、地下室への入り口も崩落し、只の洞穴のような所に成り果てていた。

 共和国軍は「銀河の狼」をテロリスト集団に指定し、これに加入した者、これをかくまった者に対しても厳罰で臨む事を公式に宣言した。それにより、協力をしていた者達が次々に離れ、「銀河の狼」は行き場を失い、追い詰められた。


 共和国政府の中枢である総統領府は銀河帝国の皇帝宮があったタトゥーク星ではなく、バンデア星系の第五番惑星マティスにある。「銀河の狼」の一部は、アメアに抵抗する意味を込めて、かつての帝都があったタトゥーク星にアジトを構え、再び抵抗の狼煙のろしを上げようとしていた。それは極秘に行われていたが、共和国政府に新設された総統領近衛隊によって暴かれ、近衛隊の分隊に急襲を受けた。そして幹部級と思われる者達は捕縛されて近衛隊の護衛艦に乗せられ、総統領府のある惑星マティスに連行された。

「お前達には訊きたい事がある」

 護衛艦の中の監禁室の前で、分隊長は幹部の一人を足蹴にしながら囁いた。

「訊きたい事、だと?」

 足蹴にされた幹部は歯軋りしながら分隊長を睨む。分隊長は足に力を込めて幹部の顔を歪ませ、

「そうだ。お前らの心の拠り所であるジョー・ウルフとかいう男の居場所だ」

 しかし、幹部は、

「知らん! ジョーさんがどこにいるのか知っていたら、すぐにでも迎えに行っているよ!」

 分隊長の足を跳ね除けて言い返した。分隊長はすかさず幹部の顎を蹴り上げて倒し、

「それでも構わんさ。いずれにしても、ジョー・ウルフなんぞは時代遅れの男だ。仮にお前らの味方になって、偉大なるアメア・カリング総統領閣下に刃向かったとしても、どうという事はない」

「何だと!?」

 蹴られた幹部は気を失っていたが、他の幹部達がいきり立って分隊長を睨んだ。分隊長はそれを嘲笑い、

「我ら総統領近衛隊がいる限り、アメア・カリング様のご治世は盤石なのだ」

 強力な磁力線による拘束のため、どれ程の怪力の持ち主でも破る事ができないので、幹部達は只々、分隊長の高笑いに唇を噛み締めて堪えるしかなかった。

「ジョー・ウルフの居場所なら、知ってますよ」

 ところが、幹部の一人が突然口を開いた。

「何!?」

 分隊長と他の幹部達は思いは違っていたが、ほぼ同時に同じ言葉を吐いた。皆の視線が一斉に発言した幹部の一人に向けられた。その男は、薄汚れた旧銀河帝国軍の軍服を着ている顔の大半に包帯を巻いていて、鼻の先と口の周り、目の周りだけが見えている状態だった。頭も包帯で隠れており、髪もはみ出しているのが見えるだけで、長髪なのか短いのかもわからない。

「どこだ、どこにいるのだ?」

 分隊長は目の色を変えてその包帯男の襟首をねじ上げた。

(ジョー・ウルフの所在を突き止めた者には金貨百枚が与えられるんだよ!)

 分隊長はジョーに懸けられた様々な懸賞金の事を知っていたのである。だから、彼の手にも力が入った。

「ちょっと、隊長さん、苦しいですよ。そんなに首を締め上げられたら、死んじまいますって」

 包帯男は分隊長の手を掴んでもがいた。分隊長はハッと我に返り、手の力を緩めて、

「いや、これはすまなかったな。早く教えろ」

 そこまで言いかけて、

「あ、いや、ここではダメだ。私の部屋で聞こう」

 賞金を独り占めしたいと考えた彼は、包帯男を連れて自分のプライベートルームへと歩き出した。

「あいつ、ジョーさんの居場所をどうして今まで俺達には内緒にしていたんだろう?」

 残された幹部達は違いに囁き合った。

「ゴチャゴチャ喋るな。お前らはこの中でおとなしくしてろ!」

 隊員達は分隊長に置いてきぼりにされてしまった憂さを晴らすかのように、他の幹部達を無理矢理監禁室に押し込め、施錠した。


「ここなら誰にも聞かれる心配はない。さあ、話せ」

 分隊長はプライベートルームに包帯男と共に入ると、後手にドアをロックし、念には念を入れて音楽を最大ボリュームで流した。

「これで聞き耳を立てられても大丈夫だ。さあ、早く教えろ」

 鼓膜が破れそうな大音量の中、分隊長は包帯男の耳元で怒鳴った。すると包帯男はニヤリとして、

「ここですよ、隊長さん」

 その言葉に分隊長は一瞬キョトンとしたが、

「ふざけるな! ここのはずがないだろう! お前、本当にジョー・ウルフの居場所を知っているのか?」

 すぐにキッとして包帯男の襟首を再びねじ上げた。

「本当ですよ、隊長さん」

 包帯男が襟を掴んでいる分隊長の手を掴んだ。

「グギャ!」

 その握力の凄まじさに分隊長は悲鳴を上げた。

「わからないんですか、ここですよ」

 包帯男は掴んだ分隊長の手を逆にねじ上げて言い添えた。

「ま、ま、まさか!?」

 分隊長の身体中から嫌な汗が噴き出した。包帯男は分隊長を突き飛ばすと、

「こんな格好をしばらく続けていたから、蒸し暑くて仕方なかったぜ」

 愚痴を零しながら、包帯を解き始めた。

「ひ、ひ、ひー!」

 次第にその顔が明らかになるのを見ていた分隊長は歯の根も合わない程震え、部屋の隅へと後退した。

「ほら、よく見てくださいよ、隊長さん。私の言った事は本当だったでしょ? ここにジョー・ウルフがいますよ」

 包帯を解き切ったその顔は、まさにジョー・ウルフのものであった。眉間に深い傷跡があるが、紛れもなく。

「ジョ、ジョ、ジョー・ウルフ!」

 分隊長は恐怖のあまり、涙を流しながら笑うという大混乱に陥っていた。するとジョーは何故かもう一度包帯を顔に巻き、

「しばらくはこの事は私と隊長さんとの二人だけの秘密にしておきましょうね」

 バンと一歩踏み出して告げた。

「あ、は、はい!」

 分隊長は素早く立ち上がると敬礼して応じた。包帯を巻き終えたジョーはニコッとして、

「その方が何かと都合がいいので、そうしてくださいね」

 分隊長の襟首を掴んでねじ上げた。

「仰せの通りに致しますです、はい!」

 分隊長はまた泣き笑いをして応じた。ジョーはフッと笑い、

「なかなか物分かりのいい隊長さんで助かりましたよ」

 分隊長の襟首を放した。すると分隊長は腰が抜けてしまったのか、そのままズルズルと床に崩れ落ちた。

「じゃあ、監禁室に行きましょうか。そうしないと、怪しまれますからね」

 ジョーが不敵な笑みを浮かべたので、分隊長は、

(いっそ殺してくれ!)

 心の中で叫んでいた。

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