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第十五話 激突

 反共和国同盟軍の最高司令官であるブレイク・ドルフは、共和国総統領のアメア・カリングが巡洋艦に乗って現れたのを知り、勝利を確信していた。

(何と愚かな! 護衛艦も付けず、たった一隻で出てくるとは、やはり、アメア・カリングは只の傀儡くぐつか?)

 ブレイクは喜びを隠し切れずにニヤリとして、

「偉大なる総統領閣下にご足労いただき、恐悦至極です。私はブレイク・ドルフ。同盟軍の最高司令官です」

 わざとらしく最敬礼をした。

「そうか。では訊こう。私を引き渡すように我が共和国に通告してきた理由を」

 アメアは全く動じる事なく尋ねた。ブレイクは彼女の様子を見て、

(傀儡だけではなく、いかれているのか? それとも、この状況を理解していないのか、この女は?)

 敬礼を解いて、口を開いた。

「銀河系は、元々、正統なるお血筋が代々統治されてきました。ところが、ブランデンブルグというならず者によって蹂躙され、更にそのブランデンブルグを戦争犯罪人であるジョー・ウルフが倒し、その隙を狙って、ケント・ストラッグルなどというどこの誰とも知れぬ男に何の正当性もなく銀河共和国建国を宣言されて、銀河帝国のお血筋の方々は罪人扱いされて放逐されました」

 ブレイクは陶酔したように語っていたが、モニターの向こうのアメアが欠伸をしたのを見て、言葉を切った。

「お前の愚痴を聞かされるために私は呼び出されたのか?」

 アメアは退屈そうにブレイクを見て言った。ブレイクは激怒しそうになったが、拳を強く握り締めて、

「違います。要するに貴女は何の正統性もなく建国された銀河共和国を更に収奪したのです。ですから、総統領の地位を退き、我らに銀河系をお返しいただきたいのですよ」

 射殺さんばかりにアメアを睨みつけた。するとアメアは、

「わかった。返そう」

 まるで事も無げに言ってのけたので、ブレイクは一瞬呆けたようになった。

「どうした、何か問題でもあるか?」

 反応がないブレイクを見て、アメアは愉快そうに笑みを浮かべて尋ねた。ブレイクは我に返り、

「いえ、ありません。一滴の血も流さずに権力の移譲がなされるのは喜ばしい事です」

 無理に笑顔になって応じた。ところが、アメアは、

「一滴の血も流さずに、だと? 何を寝惚けた事を言っているのだ? 返すとは言ったが、無条件でとは一言も言っていないぞ、愚か者が!」

 美しい顔を狡猾に歪めて怒鳴った。ブレイクはアメアの顔にブランデブルグが重なったような気がして、息を呑んだ。

(この女、一体何者だ? ブランデンブルグと関係があるのか?)

 アメアの迫力に圧倒されながらも、ブレイクは問い返した。

「それはどういう事ですかな、閣下?」

 アメアはフッと笑って、

「この私を殺せたら、という事だ!」

 右手を胸に当てて叫んだ。ブレイクは目を細めて、

「何を仰せになっているのかおわかりなのですか、閣下? 貴女はたった一隻の巡洋艦で、我らの大艦隊の真っ只中にいらっしゃるのですよ?」

 やはりこの女はいかれていると思い、再び勝利を確信した。

「わかっていないのはお前の方だ、ブレイク・ドルフ。私は全能なる総統領のアメア・カリングなのだ。烏合の衆のお前達の艦隊など、たちどころに殲滅してくれよう」

 アメアの身体が強く輝き始めるのを見たブレイクは、さすがに慌てた。

(まさか、この女、ブランデンブルグと同じ力を持っているというのか!?)

 彼はすぐさまマイクを握りしめて、

「全艦、アメア・カリングの乗艦に全力射撃せよ! 銀河系から葬り去るのだ!」

 喉が潰れるのではないかと思われるくらいの大声で命令した。次の瞬間、数限りない砲撃とミサイルがアメアの乗る巡洋艦に向かった。

「愚か者共が! 全能なる我が力、思い知るがいい!」

 アメアが叫ぶと、巡洋艦が忽然として消えた。

「何!?」

 レーダーでアメア艦の消滅を見ようとしていたブレイクは、アメア艦が砲撃を受けずに消失したのを見て驚愕した。

「何が起こった? あの女の艦はどこへ行ったのだ?」

 混乱したブレイクはレーダー係に詰め寄った。レーダー係は、

「ジャンピング航法をしたようです。三次元空間には敵艦の存在は確認できません」

 ごく冷静に応じた。ブレイクは歯軋りして、

「ジャンピングアウト箇所を検索しろ!」

 大声で命じた。次の瞬間、最前線付近で大爆発が起こった。

「何だ!?」

 ブレイクは額から幾筋もの汗を垂らして誰にともなく尋ねた。

「味方駆逐艦、巡洋艦、それぞれ五隻が撃沈しました」

 通信兵が応じた。ブレイクはギョッとして通信兵を見た。

「どういう事だ?」

 ブレイクは先程までの強気な態度はどこかへやってしまったような怯え切った表情で訊いた。

「わかりません。どこから攻撃されたのか、只今調査中です」

 通信兵は機器を操作しながら答えた。ブレイクは苛つきを隠し切れずに自分のシートに戻った。その時だった。

「イージス艦五隻、撃沈。いずれもどこから攻撃されたのか不明です」

 更に情報が入ってきた。ブレイクはシートから腰を浮かせて、

「何をしているのだ! 敵はたった一隻だぞ! 何故何もわからんのだ!?」

 怒りに任せて捲し立てた。そうしている間にも、続々と撃沈の報告が入ってくる。

「おのれええ!」

 ブレイクはあまりにも不気味な状況にパニック寸前になり、大声を出す事で何とか理性を保とうとした。

「全艦、各個に宙域を離脱!」

 それでもプライドが許さないのか、撤退という言葉を使わずに命令をした。反共和国同盟軍の艦隊は混乱をしながらも、惑星マティスの付近から続々とジャンピング航法で消えて行った。


「一体、何が起こっているのだ?」

 共和国軍の元帥であるバーム・スプリングも、敵艦隊が謎の爆発を連続しているのを知り、顔を引きつらせていた。

(まさか、総統領閣下が?)

 バーム自身、アメアについてほとんど知識がない。だから、もし敵艦隊をわずか数十秒で事実上の撤退に追い込んだのが、アメアの力だとすれば、恐怖以外の何ものでもなかった。

「総統領閣下の巡洋艦との通信が回復しました」

 通信兵の声にバームはビクッとしてしまった。そして、

「すぐに艦隊を編成し、閣下の護衛をするのだ」

 慌てて命令した。

(今は総統領閣下に従っておくしかあるまい。アレン・ケイムを追い落とすのは、しばらく後の話だ)

 それでも、政敵の事は忘れないバームである。


 アメア・カリングは、巡洋艦のブリッジに宇宙服姿で戻っていた。

「ご無事で何よりです、総統領閣下」

 ブリッジにいた乗組員全員が立ち上がって敬礼した。アメアはヘルメットを外すと、

「皆も大儀であった。すぐにマティスに帰還するぞ」

 すると通信兵が、

「只今、共和国軍から護衛艦隊が発進したとの連絡がありましたが?」

「かまわぬ。頼んだ訳ではない。無視しろ」

 アメアはそう言うと、キャプテンシートに座った。

「はっ!」

 ブリッジの一同はすぐに着陸準備に入った。


 アメアの「活躍」を巡洋艦からのメールで知ったアレン・ケイムはニヤリとした。

(これでしばらく、反乱軍も動かない。そして、閣下のお力を目の当たりにしたバームも妙な動きはしないだろう)

 アレンはカタリーナを見た。カタリーナはアレンが目を向けたのを感じ、伏せていた顔を上げてアレンを睨んだ。

「総統領閣下のお力は理解できたろう、カタリーナ。そのお力をより高めるために、お前は閣下と会わねばならぬ」

 アレンはカタリーナの視線に別段反応せず、不敵な笑みを浮かべて告げた。

(ほんの一瞬だけど、ブランデンブルグの気配を感じたわ。アメアはやはり、ブランデンブルグの遺伝子を受け継ぐ者なの?)

 カタリーナの不安は膨らむ一方だった。


 アメアが動いたのは、遠く離れた大マゼラン雲に差し掛かっているジョーも感じていた。

「ブランデンブルグ?」

 ジョーもカタリーナ同様、アメアにブランデンブルグを感じていた。それと同時に、カタリーナがアレンに捕縛されているのも感じた。

「くそう!」

 ジョーは操縦桿を右の拳で殴り、進行方向を百八十度変えた。

(あの野郎、カタリーナをどうするつもりだ?)

 妊娠しているカタリーナが今どんな扱いを受けているのか考えたジョーは、苛立ちを募らせた。

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