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第十四話 歴史の歯車の軋み

 ブレイク・ドルフ率いる反共和国同盟軍の大艦隊は銀河系の反対側へと進撃し、先発してきた共和国の国境警備隊の艦隊と遭遇した。本来、国境警備隊は外宇宙からの侵略に対して備えている共和国軍の一部隊であるが、旧帝国の残存兵達の寄せ集めと思われる反共和国同盟軍の動きに合わせ、共和国軍本部が排除命令を出したため、集結したものである。

「本部から送られてきたデータと規模が違い過ぎるぞ」

 一番近くにいた国境警備隊の部隊の隊長はレーダーに探知している無数の戦艦クラスの艦船を確認して、舌打ちした。

「本部は、旧帝国の生き残りが集まったと認識しているようだが、冗談じゃない。この規模は、本軍が展開しなければ、到底太刀打ちできるものではないぞ」

 隊長はすぐさま共和国軍本部への通信を命令したが、すでに遅かった。何の予告もなく、同盟軍の艦隊が一斉射撃を始めたのだ。国境警備隊の巡視艦はなす術もなく、宇宙の藻屑と化した。

「偽りの総統領であるアメア・カリングがいる惑星マティスへ向け、ジャンピング航法に入れ」

 旗艦のブリッジ中央のシートに座っているブレイクが命じた。端から端まで見通す事ができない程の大艦隊が、一斉にジャンピング航法に入り、通常空間から姿を消した。


 ジャンピング航法で銀河系に帰還したアレン・ケイムが登場している戦艦に、近衛隊の総司令部から国境警備隊の一部隊が反共和国同盟軍の大艦隊に殲滅されたと連絡が入った。

「早くも動いたか」

 キャプテンシートに身を沈めていたアレンが呟いた。ブリッジの一同が、アレンの次の言葉を緊張の面持ちで待っている。アレンはシートから起き上がり、

「連中の狙いは我らの全能なる総統領閣下である。何を置いても、閣下をお守りするのが我らの役目だ。一刻も早く、惑星マティスに向かうぞ」

 周囲を見渡して厳命した。戦艦は噴射を最大にし、銀河の海原へと進んでいく。

(ジョー……)

 窓の外の銀河系を見て、カタリーナは涙を流した。


 一方、国境警備隊が殲滅された事が共和国軍本部にもたらされると、直ちに迎撃部隊の編成が行われ、惑星マティスの周辺に以前にも増して厳戒態勢が敷かれた。

(威張り腐った近衛隊をここから叩き出す好い口実ができたな)

 各方面からの通信が次々に入る本部地下に設えられた中央作戦司令室の円卓の議長席に座った巨漢はニヤリとした。

「そのうち、アレン・ケイムの乗艦が来る。航空管制を盾にして、着陸を拒否しろ。この国で一番の権力者が誰なのか、思い知らせてやるのだ」

 巨漢は回転椅子を軋ませて命じた。

「反乱軍討伐部隊の展開がもうすぐ完了致します」

 通信兵が伝えた。巨漢は通信兵をチラッと見て、

「艦隊司令官につなげ」

「はっ!」

 通信兵が急いで機器を操作すると、巨漢の目の前にあるモニターにいくつもの勲章が着けられた軍服を着た男が映った。

「お呼びですか、バーム・スプリング元帥?」

 男が敬礼して言った。バーム・スプリング元帥と呼ばれた巨漢はフッと笑い、

「吉報を待っているぞ」

「はっ! たちどころに撃滅致します」

 司令官は敬礼をし直して応じた。

「うむ。期待している」

 バームも敬礼して応じた。


 ジョーが乗る小型艇は、メインエンジンの修理を進めながら、補助エンジンの推力のみで大マゼラン雲を目指していた。

(間に合うとは思えないが……)

 ジョーは絶望と隣り合わせの思いを抱きながらも、それでも一縷いちるの望みをかけていた。

「何だ?」

 熱探知レーダーが何かを捉えて点滅した。ジョーは作業をやめて操縦席に戻り、レーダーが捉えたものを解析した。

(敷設レーダー? アレン・ケイムの戦艦が俺の動きを探るために外宇宙のあちこちに設置したのか?)

 こちらを攻撃する兵器ではないのを確認すると、ジョーは敷設レーダーから離れ、先へと進んだ。

(カタリーナ、無事でいてくれ)

 ジョーは祈りにも似た感情で思った。


 アレンとカタリーナが乗っている戦艦が、惑星マティスの軌道付近にジャンピングアウトした。

「どうした?」

 通信兵がマティスの管制塔と長く話しているのを怪訝に思ったアレンが尋ねた。通信兵はアレンの方に椅子を回転させて向き、

「着陸は許可できないと言っています」

 アレンはその言葉に右の眉を吊り上げ、

「回線を私のデスクに回せ」

 すぐさま目の前のモニターを注視しながら命じた。

「はっ!」

 通信兵は手馴れた様子で管制塔との通信をアレンのデスクに転送した。

「近衛隊長のアレン・ケイムである。着陸許可ができないとは一体どういう事だ?」

 アレンは低い声でマイクに言った。すると、

「現在、反乱軍の大艦隊がここへ向かっているのです。よって、マティスの全空域は侵入禁止となっております」

 やや緊張しているのか、震える声が応じた。アレンは舌打ちした。

バームか……)

 しかし、アレンは何も抗議する事なく、

「そういう事であれば、仕方がない。衛星軌道上で待機するので、総統領閣下を連れてきてほしい。それなら、できるな?」

 最後の方は脅しをかけるように語気を強めて告げた。

「離陸は問題ありません。すぐに手配を致します」

 声が答えた。アレンはフッと笑い、

「できるだけ早く頼む」

 通信を切った。

(あの大食漢が、何を企んでいるのか知らんが、痛い目を見るのは貴様だぞ)

 アレンは窓の外で明るく輝くマティスを見た。


 アレンの戦艦が抵抗する事なく引き下がり、着陸を諦めた事を報告されたバーム・スプリングは眉をひそめた。

(あの男がそれ程あっさりと自分の主張を引っ込めるとは意外だな。何を考えているのだ?)

 バームがアレンの真意を推理しようとした時であった。

「マティスの衛星軌道上に無数の識別不明の艦船が次々にジャンピングアウトしています!」

 索敵班のメンバー十人が一斉に叫んだ。

「何!?」

 バームは天井の巨大なスクリーンに映し出された監視衛星からの映像を見た。

「数は!?」

 バームは歯軋りしながら索敵班に怒鳴った。

(あり得ない! これ程早く銀河系の反対側からジャンピング航法で辿り着くなど、あり得ない!)

 バームは顔を汗まみれにしてスクリーンに映る無数の反共和国同盟軍の艦隊を睨みつけた。

「敵旗艦より入電です!」

 更に通信兵が叫んだ。バームはその巨体をビクンとさせて通信兵に視線を動かすと、

「何と言ってきているのだ?」

 通信兵はその内容を言っていいものかどうか悩んだが、

「読み上げろ!」

 バームは椅子を倒して立ち上がった。通信兵は怒号に仰天して、

「総統領閣下の引き渡しを要求してきました。もし、応じなければ、マティスは砕け散る事になると」

 震えながら言った。バームは目を見開き、もう一度スクリーンに映る大艦隊を見上げた。


 反共和国同盟軍の要求は、アレンの戦艦も傍受していた。

(バカめ。お前らの要求がもたらす結果がどれ程恐ろしいものか、思い知るがいい)

 アレンは右の口角を吊り上げた。

(この男、何故笑っているの?)

 アレンの様子を見ていたカタリーナは、彼の感情に寒気を催した。


 バームが返答に困っていると、

「たった今、総統領閣下が乗艦されている巡洋艦が離陸しました」

 通信兵が驚愕の事実を伝えた。バームは再び通信兵を見て、

「何だと!? 一体どういう事だ?」

 通信兵はバームの形相に恐れをなしながらも、

「先程、近衛隊長からの要請で、管制塔を通じて閣下を巡洋艦でお送りする手配を取り、それで、その……」

 次第に距離を詰めてくるバームのせいで最後はしどろもどろになってしまった。

「そうか、そうか」

 何故かバームは突然上機嫌になり、倒れた椅子を起こして座った。

(アレンの要請で離陸した巡洋艦がどうなろうと、私には一切責任はない)

 自分の地位にいささかの揺るぎもないのを知ったので、バームは冷静になったのだ。


 艦隊の最後尾の旗艦にいるブレイク・ドルフは、唐突な巡洋艦一隻だけの離陸を報告され、眉間にしわを寄せていた。

(何の真似だ、共和国のクズ共が)

 すると通信兵が、

「敵巡洋艦より入電です。スピーカに切り替えます」

 それと同時に流れたのは、驚愕の内容であった。

「共和国の最高責任者にして、全能なる総統領のアメア・カリングである。そちらの要求通り、出てきた」

 ブレイクは、一瞬唖然としてしまった。まさか、アメア・カリングが出てくるとは思っていなかったのだ。

「ご本人かどうか、確認させていただきたい」

 それでも何とか、ブレイクは言い返した。すると、アメア・カリングを名乗る声は、

「よかろう。これが証拠だ」

 ブレイクの目の前にあるモニターにアメアの美しい顔が映った。ブレイクはまた唖然としてしまったが、すぐに気を取り直し、

(勝ったぞ! 我らの大勝利だ!)

 心の中で祝杯を挙げていた。

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