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第十話 ニューリーダー

 銀河共和国の中枢からジャンピング航法で脱出したジョー・ウルフは、一度カタリーナの待つ大マゼラン雲に戻ろうと思い、強制的に同乗させた近衛隊員達を降ろすため、反政府勢力である「銀河の狼」の残存部隊が辛うじて残っている銀河帝国の首都があったタトゥーク星に進路を採った。

(少しは収穫があるかと思ったが、余計謎が深まりやがった)

 ジョーは総統領アメア・カリングに会えば、様々な事がわかると思っていたが、わかったのは、彼女が大マゼラン雲で出会った驚異的な力を持つ女と同一人物であるという事だけで、何故アメアがカタリーナと瓜二つなのか、何故大マゼラン雲でジョーにとどめを刺さなかったのかは解明できなかった。

(そして、あのアレン・ケイムという男。奴はビリオンスヒューマンなのか? それとも、別の何か……)

 総統領近衛隊長のアレン・ケイムの存在も謎だった。


「ジョー・ウルフが強奪した巡洋艦は、タトゥーク星に向かったようです」

 部下からの報告を受けながら、アレンは惑星アラトスに向かうために専用艦に乗り込んだ。

「監視を続けろ。決して手出しはするな。無駄死にするだけだ」

 アレンは目を細めて部下に厳命した。

「は!」

 部下は敬礼して応じ、部署に戻った。

(ジョー・ウルフめ。奴の存在はやはり閣下にとって害悪以外の何物でもない。抹殺するべきだな)

 アレンはブリッジに到着すると、キャプテンシートの脇の通信機を掴み、

「アラトスの典獄(収容所の最高責任者)につなげ」

 そして、フッと笑った。


 ジョーの乗った巡洋艦がタトゥーク星の衛星軌道に入った時、「銀河の狼」から通信が入った。

「この星は『銀河の狼』の本拠地である。共和国の軍艦はこれより先は進ませない。退去せよ」

 ジョーはその言葉に苦笑いして、

「信じる信じないはそちらに任せるが、俺はジョー・ウルフだ。本艦の着陸許可を願いたい」

「ジョー・ウルフだと? もう少しましな嘘を吐け。誰が信じるか!」

 予想通りの反応にジョーは頭を掻いた。

「ならば、リアルタイム通信をする。こちらのライブ映像を送るから、確認してくれ」

 ジョーは通信システムを切り替え、ブリッジの内部の映像を「銀河の狼」のアジトに送信した。しばらく相手方のざわめきが聞こえてから、

「申し訳ありません! 着陸許可をします。こちらの誘導に従って、降下してください」

 若干震えた声が応じた。

「了解。許可を感謝する」

 ジョーはフッと笑って巡洋艦をタトゥーク星に近づけた。


 アレンの乗る専用艦はジャンピング航法で惑星アラトスの衛星軌道に着き、ゆっくりと降下を開始した。

「アレン様、本当によろしいのですか? あの者は、我が軍が多大な犠牲を払って捕縛し、再教育を施している途上ですが?」

「支障はない。奴には再教育用のチョーカーを装備して出せ。そこから先は私が直接奴に話そう」

 アレンはブリッジのスクリーンに映る身体の大半が筋肉でできていそうな体格の鎧を身にまとった男に告げた。彼が収容所の典獄である。

「チョーカーを装備して、でありますか……」

 いかつい顔を引きつらせて、典獄は言った。アレンは目を細めて典獄を見ると、

「何か都合の悪い事でもあるか?」

 すると典獄はギョッとした顔をして、

「いえ、滅相もありません。仰せの通りに致します」

「頼んだぞ」

 アレンはまだ何かを言おうとしている典獄を無視して、通信を切った。

「こいつなら、時間稼ぎ程度にはなろう」

 アレンは手元にある端末を見た。そこには、血走ったつり目で面長な顔をした男の画像が映っていた。

(そして、格好のバロメーターにもなる。収容所は対ジョー・ウルフの宝庫だ)

 アレンは通信機を持ち直して、

「侍医室につなげ」

 しばらくして、相手が通話に出ると、

「閣下の情緒の不安定さの原因を至急調査せよ。共和国の永遠の繁栄のためにな」

 目を見開いて命じた。


 タトゥーク星の「銀河の狼」のアジトは大騒ぎになっていた。行方不明だった彼らの英雄が突如として現れたからである。

「我ら『銀河の狼』の一同は、貴方の来訪を心より歓迎致します」

 ジョーを出迎えたのは、わずか九人の若者達だった。先日の近衛隊の襲撃で、その多くは命を落としていたからだ。

「身に余る光栄だ」

 ジョーは神妙な面持ちで応じ、

「実は以前にもここにいた事がある」

 その衝撃の告白に九人は仰天して顔を見合わせた。

「顔を包帯で巻いていた奴がいたろう? あれは俺だ」

 ジョーの更なる驚きの言葉に九人は目を見開いた。するとその中の一人の男が、

「では、貴方と一緖に捕縛された仲間はどうなったのですか?」

 ジョーは一番言いづらい事を聞かれ、顔を曇らせた。しばらく沈黙が場を支配した。

「他の者達は、俺が脱出させたのだが、近衛隊の追撃に遭って命を落としたらしい」

 ジョーはやり切れない気持ちで全てを話した。

「俺の判断の甘さが招いたんだ。本当に申し訳ない」

 ジョーは皆に向かって謝罪した。すると質問をした男が、

「それはジョーさんのせいじゃありませんよ。近衛隊がやった事でしょう?」

 他の者達もジョーを責める人間はいなかった。

「貴方がいなかったら、あの人達は惑星アラトスの収容所に監禁されて、死ぬよりつらい目に遭っていたでしょうから」

「ありがとう」

 ジョーは「銀河の狼」のメンバーの優しさに顔をほころばせた。そして、

「これで全員なのか、今は?」

 一同を見渡して尋ねると、

「いえ、一人出かけています。タトゥーク星には、まだ地下深くに旧帝国の残した燃料があるんです。それを調達に出かけています」

 ジョーに質問した男が答えた。するともう一人の男が、

「あいつ、自分ではすっかりリーダー気取りだけどな」

「一番年下なのにね」

 ジョーと同世代くらいの女性のメンバーが苦笑いして応じた。

「ああ、あの子か」

 ジョーもそれが誰なのかわかった。

(そうか。母親を亡くして、塞ぎ込んでいたが、元気になったのか)

 まだどう見積もっても、十代前半くらいの少女と呼ぶのが適当な子である。

「お、戻ってきたみたいだぞ」

 アジトの外に爆音が響き、しばらくしてんだ。

「只今! 思ったより燃料が見つかったよ!」

 余程嬉しかったのか、飛び跳ねながら入ってきた女の子は、フロアの中央に見慣れない男が立っているのに気づき、驚いて飛び跳ねるのをやめた。彼女は怪訝そうな顔で、そばにいる女性に何かを囁いた。女性が小声で応じると、女の子は飛び出しそうなくらい目を見開き、ジョーを見た。

「元気そうでよかったぜ、エミー」

 自分の名を呼ばれ、その子はパニックになりかけた。

「ええ? どうして、ジョー・ウルフさんが、私なんかの名前を知ってるんですか?」

 エミーと呼ばれたその子は、何がどうなっているのか理解できないのか、あちこちを見回しながら、ジョーに尋ねた。

「包帯のおじさんと言えば、わかるか?」

 ジョーは軍服のポケットからその残りを取り出してエミーに見せた。

「ええ!? あの、鈍臭いおじさんが、ジョーさん!?」

 エミーは包帯男に扮していた時のジョーを随分見下していたのを思い出して泣きそうになり、

「ああ、ご、ごめんなさい、ジョーさんだなんて知らなかったから、その、失礼な態度をとってしまって……」

 とうとう涙をポロポロと零し出した。

「気にしてないさ。それより、エミーが元気になって嬉しいよ」

 ジョーの言葉に感激したのか、ワーッと大声を出すと、エミーは一直線に走り、ジョーに抱きついた。

「会いたかったよお、ジョーさん! ずっとずっと、会いたかったんだよお!」

 顔を涙でグチャグチャにしながら、エミーはジョーに訴えた。

「大方の予想はついていたさ。なにしろ、エミー・ウルフって名乗っていたもんな」

 ジョーに指摘され、エミーは顔を真っ赤にした。

「もう、ジョーさんの意地悪! どうして教えてくれなかったのよお!」

 今度はジョーの胸板をポカポカと叩き始めた。

「悪かったよ。こっちもいろいろと事情があったんでな」

 ジョーは泣きながら叩き続けるエミーの頭を優しく撫でた。

「実は頼みたい事がある」

 ジョーは皆の顔を見渡して告げた。


 アレンは専用艦から降りると、そのまま収容所に向かった。

「お疲れ様です」

 収容所の典獄は、一般施設との境界にある大きな鉄の扉の前で敬礼して待っていた。アレンは敬礼を返し、

「準備はできているか?」

 典獄はニヤリとして、

「あのチョーカーを装着したら、効果は覿面てきめんでした。おとなしいものですよ、あの凶悪犯も」

 アレンはフッと笑い、

「共和国軍の兵士を千人も殺した死刑囚でも、自分の命は惜しいのだな」

「はい。天地神明に誓って、共和国の偉大なる総統領閣下には逆らいませんと申しました」

 典獄がてのひらより大きな鍵を差し出した。アレンはそれを受け取り、

「ならば、期待できるな、ジョー・ウルフ抹殺の報告を」

 再び端末でその凶悪犯の画像を眺めた。

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