プロローグ 共和制の崩壊
銀河系からブランデンブルグの恐怖が去って、数年が経った。
人々は待ち望んでいた共和制を確立し、人民の選挙により、共和国政府の長である総統領を選出した。
初代の総統領に選ばれたのは、銀河系最強と言われた万能光線銃「ストラッグル」の生みの親のマイク・ストラッグルの甥であるケント・ストラッグルであった。ケント自身は、共和制の船出に相応しいのは、ブランデンブルグを倒し、銀河に安寧をもたらしてくれた最強の男であるジョー・ウルフだと考えていたが、ジョー自身は政治には興味はなく、またその器ではないと固辞し、その上、婚約者であるカタリーナ・パンサーと共に銀河系から去ってしまった。
ケント、そしてその妻のアルミス、ケントの妹のカミーラの三人は、ジョーが行方をくらませてしまったのを酷く残念がったが、それでも仲間達を集めて、少しずつではあったが、銀河系を一つにまとめる運動を展開し、それが結実したのだ。
彼らの努力の結果、銀河共和国は次第に銀河系全体にその統治機構を拡大し、帝国軍の残党やブランデンブルグ軍の残党もほぼ制圧し、自由と平等の精神の下、法による支配を打ち立てていった。
しかし、ケント達の思う共和制は長くは続かなかった。四年後に行われた第二回の総統領の選挙と共和国議会の上下両院の選挙により、アメア・カリングという若い女性が率いる銀友会という政党が躍進し、アメアが総統領に当選、上下両院も過半数を獲得した。するとアメアは就任会見で恐るべき事を宣言した。
「本日只今より、銀河共和国全域に戒厳令を無期限に施行する。共和国人民はこれより我が銀友会の僕として仕えよ。そして、私のために戦い、私のために死ね」
アメアが全権を掌握した共和国軍はその銃口を共和国国民に向け、従わない者は容赦なく投獄、あるいは銃殺された。大半の国民はアメアの狂気とも言える政策に戦慄し、息を潜めて暮らす事を余儀なくされた。
それとほぼ同時にケント達の行方も知れなくなった。ある者は暗殺されたと言い、ある者は幽閉されたと言い、そしてある者は怖れをなして銀河系から逃亡したと噂した。
アメアの恐怖政治に対し、抗う者達もいた。しかし、巨像に立ち向かう蟻のようなもので、全く意味をなさなかった。
「帝国の方がずっとマシだった」
そんな事を言う者が多くいた程である。そう言わしめるくらい、アメア・カリング率いる銀友会の統治は苛烈を極めたのである。それでも、彼女に抵抗する者達は地下に潜り、果たす事がほぼ不可能に近い打倒アメア・カリングを掲げ、明日をも知れぬ戦いに挑んでいた。