大人の理不尽さを目の当たりにする
私は6歳の女子。
まだ保育園に通う年長組で、すでに背が120cmもある女子だ。
私の記憶には無いが4歳の時に『ピアノが習いたい』と母にせがんだらしい。
私の記憶によると知り合いがピアノを習っていて、その知り合いに誘われて体験レッスンに連れていかれた。
そして体験後にその場で「ピアノをやりたい?」と母に聞かれ、知らない大人の目が沢山あって母の目が目の前にあった私は「やろうかな」と小さく答えた。
週1回のピアノの習い事。
習い事の時間は15時からだったので13時から15時までお昼寝の時間がある保育園では必ず先生が14時半に私を起こしてくれて、母の迎えを待つ。
そして徐々に気づいていく。先生が私を起こすことを嫌がっていることを。
いや、こんな私のことが嫌いなことを。
そんなことはどうでもよい。
私はこの歳で大人の理不尽さに気づいてしまったのだ。
この保育園では鼓笛隊というものが存在する。
年長が鼓笛隊を行うのだが、私はピアノを習っているということで自動的に「電子ピアノ」担当となっていた。
私以外にもお昼寝の時間に起こされてピアノに行く男の子がいたが、その子はドラム担当だった。
先生に「電子ピアノの人は、お昼休みに練習するのでさくら組にくるように」と言われていたのは知っていた。
だけど私は電子ピアノはやりたくなかったし、電子ピアノ担当だけ昼休みを無くされるのは嫌だったから、教室に行くのはやめて園庭で遊んでいた。私なりの抵抗だ。
そしたら昼休みに園内放送で名指しで呼び出された。
静かな教室で私と電子ピアノ担当になった友達に向かってあの女の先生は怒鳴り散らした。
「二人ともやる気が無いのなら教えません!」
元々やる気が無いのだから教えてもらわなくても良い。
鼓笛隊は太鼓か木琴がやりたかったのだ。
私以外の友達はまずはやりたいものを選べたのに、私だけ選べなかったのだ。
ピアノなんて習い事だけで十分なのに保育園でもやるなんてまっぴらだ。
しかし友達と私は
「お願いします!教えてください!」
と口が動いてしまった。
このままだと”良くない”と感じたためだ。
発表する曲はオペラ「カルメン」の「闘牛士の歌」だ。
大手のピアノ教室では簡単な曲しか習っていないのに、まさか保育園でこんなにテンポの早い曲をやらされるなんて思ってもいなかった。
毎日毎日練習をさせられた。
先生が私の隣で手拍子でテンポを取りながら歌って指導している。
「この電子ピアノは一番新しいものなのよ。一番目に使えるんだよ」
と毎日毎日教えてくれた。
鼓笛隊の発表が成功して先生が嬉しそうに泣いていた。