8.襲撃者たち
前回までのあらすじ。
佐倉遊角は一気に有名人になり、何故か巨大ギルド「勇者の集い」に魔王関係者扱いで命を狙われることになる。
(遊角はそのことを知らない)
――――――――――――――――――――――――
転移魔法で「マニィ信者の憩いの場」の大広間に帰ってきた。
「つ、疲れたあぁぁぁ~……」
クエスト「大岩の竜討伐|(SSSランク)』を完了した俺は、気疲れでテーブルにぐたーっ、と倒れた。
隣には、ローブ女の巨乳ギルドマスター、アマンサが相変わらず静かな寝息を立てて眠っている。
俺もこのまま寝てしまおうかな……。
「佐倉遊角ぅー!」
扉をドン! と開け、入ってきたのは、40歳くらいに見えるオッサン。
「お前が、佐倉遊角かぁ!」
このオッサン、どうして俺の名前を知ってんだろう?
どうせなら美少女に名前を呼ばれたいものだが、ままならない。
『クエストの完了報告は、クエストを受注していた者全員に来るバグ。
クエスト参加者の名前や貢献度も分かるバグよ』
「なるほど。つまり俺の功績を讃えに来てくれた冒険者仲間ってことか。
おっす! 俺が佐倉遊角だよ!」
「殺してやるー!」
「何でだよー?!」
いきなり命を狙われてるんですけど?! バグログさん!
説明プリーズ!
『このオッサンが何者か分からないから答えようがないバグ』
「この役立たずが!」
そうして俺に剣を振り下ろすオッサン。
「ドラゴンよりずっと遅ぇよ! テレポート!」
オッサンの剣を町の広場の池に、オッサンを4mくらい上に転移させる。
「なっ?!」
オッサンは自身が空中にいることに驚くが、冷静に着地してきた。
「ヒュルトーン様の情報によれば、お前は俺を転移させるほどのMPを持っていないはず……!」
どういうことだ?
『このオッサンを、普通の転移魔法で転移させようとしたら、オッサンの持つMPの2倍のMPを消費しないとできないバグ。、
MP13の少年がオッサンを転移できるのはおかしい、ってことバグ』
「丁寧な説明どうも。にしても、俺のステータス上がってたのか……」
ギルドカードを見てみる。
――――――――――――――――――――――――
佐倉遊角
種族:人間(15歳)
所属:「マニィ信者の憩いの場」Sランク
Lv:4
職業:初期冒険者
スキル:【転移魔法(魔王特製)】【バグログ】
HP 65 MP13
力5 頑丈さ3 素早さ4 知識2 魔法力3 器用さ2
――――――――――――――――――――――――
ドラゴンを倒したってのに、レベルって3しか上がらないの?
ってか、ステータスほとんど変化なくね?
『一般人の大人がおよそ8~11レベルくらいバグ。
ギルドマスターや賢者と言われている人なども、せいぜい40レベル足らず。
あのドラゴンはレベル30くらい。そんなもんバグ。
むしろたったの1度の戦闘で、人生十数年相当の経験をしているということを考えると多いくらいバグ』
「ふーん」
ま、レベルはコツコツ上げればいいか。
『力などの基礎能力は、レベル関係なく、該当する行動をすればある程度上昇するバグよ』
『(該当する行動?)』
『力なら筋トレ、魔法力なら魔法を使いまくる、みたいなバグ』
『(なるほどなー。ところで、このオッサンどうしよう)』
見ると、オッサンは息切れしてこちらを睨んでいる。
剣を転移させられたので、
拳のみで俺に攻撃してきているのだが、俺にはダメージが入らないのだ。
「クソッ、クソッ、クソがぁぁぁぁぁああああ!」
『(殺すのはさすがにマズイよな)』
『戦闘不能にすればいいバグ』
『(よーし)』
オッサンの生命エネルギーと魔力を空高く転移させる。
先ほどのドラゴンと同じ要領。ただし高度はさらにさらに高く1万km。
転移量はオッサンが疲労で倒れる程度。
オッサンの力が抜け、倒れる。
「ふー。さて、オッサンをどうしよう」
『まだバグ。あと3人、敵意を持つ者が来ているバグ』
「ええ?!」
バグログが言った瞬間、光の鎖が俺の手足を縛る。
「なっ?!」
「うっふ、捕まえたわぁ~」
「見事じゃ! サルベー殿!」
「やっちゃいなさ~い、クロード」
「魔王の者、覚悟ぉおおおお!」
サルベーとか呼ばれたオカマっぽい顔の男に、70歳は下らないであろう老人のクロードが現れた。
で、クロードさんが俺に斬りかかってくる。
『(おいバグログ、動けねーぞ?!
転移魔法は自動防御してくれるんじゃないのか?!)』
『締め付けのダメージは転移してるみたいだし、締め付け自体は命に別条ないってことバグ?』
『(命に別条なくても身動きとれねーよ?!)』
『光の鎖が嫌なら、自分で転移魔法使って外せばいいバグ』
「なるほど、テレポート」
俺は鎖をオカマ野郎に転移させる。
「ぐぇぇぇ?! 死ぬ死ぬ?! 鎖、解除よ!」
どうやらあの鎖、触れているだけでかなりのダメージを与える仕組みだったらしい。
オカマ野郎が傷だらけでフラフラしてるし。
「サルベー?! くそ! 佐倉遊角のMPはとっくに尽きているはず……
一体どこからあれほどの魔法を……」
『(なぁバグログ。魔法ってMPがないと使えないのか?)』
『MP消費なしで魔法使いたい放題なのは、魔王くらいバグ』
『(それは勝てる気がしねぇ)』
この異世界のラスボスが魔王でないことを祈るばかりだ。
そして、クロードなるじいさんを戦闘不能にしようとテレポートを念じると、
「念のため私も遅れて駆けつけたが、どうやら間に合ったようだ。
タイムストップ! 時よ、凍れ!」
音が消えた。クロードじいさんは倒れかけの不安定な姿勢で立ち止まっていた。
オカマ野郎のフラフラが止まった、いや、まるで昆虫標本みたく固定されていた。
「このような卑怯な手段を使いたくはなかったが、魔王を倒すためなら卑怯者の誹りも甘んじて受けよう。
ギルドマスター、ヒュルトーン、いざ参る!」
青い騎士のハゲが現れ、何か独り言をつぶやきつつ俺へと向かってきた。
『(4人目……これで最後か?)』
『そのようだバグ。しかし、この魔法は……?』
「多分、時止めだろ。俺は主人公だから効かないぜハハハ。
そらよ、テレポート」
俺はハゲの生命エネルギーと魔力を空高く転移させる。
ついでにオカマにも同様の処置。
「ぐっ?! 貴様、なぜ動ける……?」
「それは俺も知らん」
「時止めが……効か……ない……? バケモノ……め……」
ハゲのオッサンが倒れると、町の喧騒が再び聞こえ出す。
クロード、サルベーも倒れる。
「ふあ……ああ……」
さっきまで寝てたアマンサがいつの間にか起き、伸びをしつつあくびをしていた。
「何だかギルメンが増えた夢みたー……何してんのハゲ」
床に転がってるハゲ男、ヒュルトーンを見て、アマンサは不快そうな顔をした。