64.落ちる浮島
前回までのあらすじ。
ベルセリオ(本物)が【スキルキラー】を使ったせいで、マニィの浮島が落下中。
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・遊角の屋敷にて
「む、地面が揺れておるのじゃ」
ローライレは何事かと思い、ふと部屋の窓から外を見る。
雲が上昇している。
違う。落ちているのだ。この島が。
浮島の一大事に気付いた彼女は、慌てて屋敷を飛び出す。
「何事じゃ?!」
「どうやらマニィのスキルが効果を失ったですよ。
地の加護がある私には分かるですよ」
畑の地面からモコモコっとグノームが顔を出し、ローライレの疑問に答えた。
グノームは、モグラのまねごとをして、畑を耕していた最中だった。
「あの金髪の女のスキル?」
「【大陸浮遊】ですよ。この島はマニィのスキルで浮いていたですよ。
それが何らかの理由で阻害され、島は落下中ですよ」
「何らかの理由?」
「魔王ベルセリオの仕業と推測するですよ」
グノームは自分の考えを言う。
魔王ベルセリオのことはローライレから教わっている。
サーヴィアの教育時に、ローライレは色んなことを教えていた。
その内容は王都の希少図書を凌駕する古の知識であったため、エルフ3人も一緒に傾聴していたのだった。
魔王ベルセリオのことも当然語られた。彼の姿、攻撃スタイル、スキル、性格、エトセトラ……。
なので、グノームは今回の騒動をすぐにベルセリオと結び付けることが出来た。
「このままだと、大量の人が、いや、人だけじゃないですよ。
大量の生き物が落下の衝撃で死ぬですよ」
他人事のようにグノームは言う。
「ベルセリオ、何と残忍なのじゃ!
ライレの母上だけでなく、関係ない者まで無差別に殺そうというのじゃな! 許さんのじゃ!」
「許さないというけど、どうするですよ?」
「島が落下し終わるまでに、島をどこかに転移すればいいんじゃないの? アイツの転移魔法で」
訓練所のシルフィーンが訓練を切り上げ、こちらにやってきて会話に加わる。
ちなみにイフリアは温泉施設の番頭をやっているため、外の騒ぎには気付いていない。
マニィは呑気なもので、部屋で惰眠を貪っている。スキルを消されたことなど知らない。
「島全体に【スキルキラー】が働いているですよ。
島を転移させようとすると、その瞬間、転移魔法が使えなくなるですよ」
「うーん、なら、私とイフリアの魔法で飛べるから、
私達だけで島を脱出しよっか?」
「嫌じゃ! これ以上ベルセリオの好きになぞさせんのじゃ!」
ローライレが手を天に掲げる。
空気中のあらゆる水分がローライレに味方し、巨大な水流が空を、中国の竜みたく駆ける。
水の竜は島の下に移動し、島を持ちあげようとする。
そのおかげで、落下スピードが弱まった。
「ぐぬぬぬ……」
「(テレパシー中)イフリア? 聞こえる?
島が落ちそうだからさっさと来なさい」
「まだじゃ! ライレの魔力なら、地面に付くまでに落下を押さえられるのじゃ!」
「そうね。何とかなるかもね。もっとも……」
シルフィーンが言葉を切り、
「妨害がなければ、という条件だけどね」
ローライレの水の竜が消えた。
ベルセリオが気付いて、スキル【水の加護++】ごと消したのだ。
再び浮島の落下が加速する。
もはや誰にも止められない。
皆がそう思った。
「……! あの根は!」
巨大な網状の根が、浮島の下から、島を包むように張られた。
浮島は空中に浮かぶ根の網によってからめとられ、
トランポリンに着地するかのごとく軽く跳ね、やがて停止した。
「サーヴィアの根ですよ!
遊角達が転移魔法で来たですよ!」
空中に根を張るのはスキルではない。
ベルセリオでも、この妨害は無理だったらしい。
グノームは、どこかで戦っているであろうサーヴィアの無事を祈った。




