63.無力
前回までのあらすじ。
ベルセリオ(偽物)と戦うことになった。
所持金約1億4560万MA(+貯金3億6800万MA)
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暗闇の中、サーヴィアの声が響く。
「今、パパの脳に働きかけて、幻覚を見せてるんだよ♪」
「そんなスキル持ってたか?」
「スキルを使わなくったって、私はそのくらいのことは出来るよパパ♪
それより、ベルセリオ相手にスキルは使わない方がいいよパパ♪」
俺は目の前の巨大ライオンを眺める。
これはあくまでサーヴィアが用意した幻覚だ。
わざわざ俺にこんな物を見せるということは。
「もしかして、本物も近くに来ている?」
「いいや? パパが無謀にもベルセリオに挑んだらどうなるかのシュミレートだよ?」
俺には敵わないだの、無謀だの、言ってくれるじゃないか。
魔王特製の転移魔法が効かないのは、4神4王だけのはず。
ベルセリオには効くはずだ。
偽ベルセリオは静かに俺を睨んでいる。
「始めてくれ」
「じゃ、開戦~♪」
偽ベルセリオが飛びかかってくる。
俺は転移魔法で避ける。
「テレポート!」
いつも通り、相手のエネルギーを全部飛ばすつもりで
転移魔法を使った。
が、
「うっ?!」
俺の中の力がごっそり抜けて、気を失った。
「はい、一乙~♪」
◇ ◇ ◇ ◇
気が付くと、再び偽ベルセリオと向き合っていた。
「……さっきのは?」
「ベルセリオのスキル、【スキルキラー】だよパパ♪」
「俺の転移魔法が反射されたよな?」
「あらゆるスキルを相手に送り返し、さらに相手の使ってきたスキルを消すことが出来る、獣王特製スキルだよパパ♪」
「4王の1人、獣王の特製スキル……マジかよ」
スキルを相手に送り返して、おまけに相手のスキルを消すって、どんだけ初見殺しだよ。
もしスキルに頼り切っている者がベルセリオに挑むなら、それだけで負け確定だ。
「スキルを使ってベルセリオを倒そうとすると、逆に自分のスキルに襲われて、さらにそのスキルを失うよ♪
でもパパの転移魔法は魔王特製だからスキルを失わなくて、せいぜい1日使えなくなるくらいで済むよ♪」
「ベルセリオを倒そうとすれば、スキルに頼らず自分の素の力で戦わなければいけないということか?」
「パパすごーい♪ 正解だよ♪」
要するに、俺の素のステータスではとてもベルセリオには勝てないから、俺にはベルセリオは倒せない、ということか。
「魔道具の攻撃も通じないのか?」
「魔道具は簡易スキルに分類されるから駄目だよ♪」
「だったら……これでどうだ!」
俺は謎空間の地面の一部を転移魔法で削り取る。
削り取った塊を転移魔法で核融合させる。
「食らえ! アトミックフレア!」
ベルセリオに直接、転移魔法を使ったのが駄目なら、間接的に転移魔法を使って倒す!
手作り核爆弾が爆発する。
俺自身は熱量や放射線から守るように転移魔法を使う。
これで……
◇ ◇ ◇ ◇
気が付くと、再び偽ベルセリオと向き合っていた。
「はい、二乙~♪」
「え?!」
「転移魔法を使って起こした現象も効かないよ♪」
「何だそれ! ずるい! チートだチート!」
「3000年も魔王してるのは、伊達じゃないってことだね♪」
むぅ。思ったよりも強いらしい、ベルセリオさん。
「だから本物のベルセリオに一人で挑んで、勝手に返り討ちに遭うのは駄目だよパパ♪
倒す時は、私やローライレ、マニィの誰かに頼んで倒してもらってね♪」
最初からベルセリオに敵対するつもりはなかったが、もし向こうから攻めてきたなら、俺1人じゃ勝てないな、これは。
俺は目の前が真っ白になった。
◇ ◇ ◇ ◇
意識がはっきりすると、王族の間に立っていることが分かった。
あの模擬戦は脳内で見た(サーヴィアが見せてくれた)幻だった。
どうやら現実では一瞬の出来事だったらしい。
「お偉い様方はどうやら、ベルセリオ様に逆らうのがどれほど愚かなのか理解しないみたいねぇ。
でも、もうすぐその偉大さが理解できるよ。ベルセリオ様のサプライズ企画でねぇ!」
パチンとビオラが指を鳴らすと、黒ローブが大きな鏡を取り出す。
鏡に映っているのは、大きなライオンだった。サソリのような尾っぽをしている。
「ベルセリオ様だ! いらっしゃる場所は佐倉遊角の住む浮島!
これから何が起こると思う?!」
『まさか……や、やめろバグ!』
「どうしたバグログ?」
『浮島はマニィのスキルで浮いているバグ!
ベルセリオの【スキルキラー】が使われたら……!』
鏡に映ったライオンが爪を地面に突きたてる。
ゴゴゴゴゴゴと音が鳴り、ライオンの下の地面から崩壊し始めた。
マニィのスキル【大陸浮遊】が消去されたのだ。
そして、マニィの浮島の落下が始まった。




