61.大岩の竜討伐の報酬授与式・乱入
前回までのあらすじ。
大岩の竜討伐の報酬授与式が始まった。
所持金約1億4560万MA(+貯金3億6800万MA)
――――――――――――――――――――――――
「まずは、かの大岩の竜がどれほどの脅威だったのか、僭越ながら私から説明させてもらいたい。
まず、かの竜が見つかったのが今から20年以上前となる。
おそらく地の大陸で生まれ、そして……」
「(ぼそっと)退屈です」
タイフォン王の演説の最中、ルベレットさんが俺の傍にやってきた。
「多分、話は20分は続くでしょう。
私の退屈しのぎに付き合ってもらえませんか?」
「そうだな」
タイフォン王の話は、以前シロガネさんから聞いた話とそれほど変わらないみたいだったので、ルベレットさんとアルラウネについて語ることにした。
◇ ◇ ◇ ◇
「アルラウネは黒髪ショートが至高だと思うのです」
「いや、うちのサーヴィアみたいにピンク髪がいい」
「褐色の肌には黒が似合います。金髪もいいですがあいにく金髪のアルラウネは見たことがないです」
「サーヴィアは図鑑で見たより、色白な肌をしてるみたいだな」
「希少種は全魔獣に存在しますが、私は28種類しかこの目で見たことがありません。
サーヴィア殿の姿を是非、魔導カメラで撮影させて欲しいですね。
出来れば次に出す私の本にも出番をいただければと」
「撮影OKだし、本に出すのはいいが、個人情報は隠してくれよ?
あとは本の印税も分けてもらうからな」
「もちろんですとも。アルラウネ愛好家の月刊誌です。
カラー写真を付けると値段が倍の40万MAくらいにはになりますが、愛好家はきっと買うでしょう」
王様が喋っている間、俺達は無駄話に花を咲かせていた。
他の貴族の多くも退屈なのか、近くの者と雑談していた。
「……以上をもって、大岩の竜の脅威についての私からの話を終了する。
退屈な長話はこれで終わりだ。
続いて報酬授与を行う。名前を呼ばれた者は前へ」
にしても、奴の手先はまだ現れないのか?
俺だったらこのタイミングで現れるぞ?
タイフォン王「「勇者の集い」ギルドマスター、ヒュルトーン!
「神託」ギルドマスター、フォルン!
「転生者」ギルドマスター、村田直樹!
そして佐倉遊角!」
4人の名前が呼ばれ、俺達はタイフォン王の前に出る。
3人が膝をついて敬礼っぽいことをしてるから、俺も真似してみる。
「3大ギルドの長の3人は、竜から多くの人々を避難させることに成功させた!
その栄誉を讃える! そして竜を討伐した佐倉遊角!
貴殿にはタイフォン28世から、この国を救った、いや、全世界を救った栄誉を讃える!」
パチパチパチパチ。
タイフォン王の拍手が、王族、来賓の貴族へと伝播する。
拍手好きだなこの王は。
「報酬として、3大ギルドにはアダマンタイトの剣と10億MAを!
佐倉遊角には旧フォントノの町一帯の領土と、80億MA、そして第9王女を与えることとする!」
パチパチパチパチ。
第9王女ってドルチ様だよな?
ドルチ様はあまり嬉しくなさそうな顔をしている。
俺も別に嬉しくない。妻として王女を迎えたら、異世界ハーレムが作りにくくなるじゃないか。
「王様、失礼だけど王女はいらない。土地とお金だけちょうだい」
「なっ?!」
「貴様! 王に対して無礼だぞ!」
兵士が俺に剣を向ける。転移魔法を応用して剣をぐにゃりと曲げてやった。
「?!」
「まったく。サーヴィアが傷ついたらどうする気だ?」
実際は、俺達に無断で触れた物を転移するように転移魔法バリアを張り巡らせているから、傷なんてつけさせないけどな。
「ぷっ……あはははははは! こいつは愉快!
まさかタイフォン王からの縁談をつっ返す奴がいるとはねぇ!」
女性の大きな笑い声が聞こえた。
いつの間にか、猫耳の茶髪女が会場の入り口に立っていた。
そして、天井から黒いフードを被った者が降りてきて、王様や王族、来賓の貴族の首元に刃物を突き付ける。
「誰も動くんじゃないよ? うちの連中は気が短いからねぇ」
「何者だ!」
おいおい、本気で分からないのか?
大岩の竜が討伐されて風の大陸に大きな脅威がなくなった。
王やお偉い様が集まる報酬授与式などという絶好のアピールの機会が訪れた。
報酬授与式に兵を忍ばせるほど大きなコネを持っている。
これだけの材料が揃っているというのに。
「ベルセリオの配下……の幹部か?」
「へぇ! 君はその辺の脳筋馬鹿の冒険者とは違うみたいねぇ」
俺の前に飛んできて、触ってくる。
――――――――――――――――――――――――
ログ:
遊角に魅了魔法がかけられたが、二次免疫により無効となった。
――――――――――――――――――――――――
「魅了魔法って、詠唱なしで唱えられるんだな」
「やっぱり効かないねぇ」
「タイムストップ! 時よ、凍れ!」
ヒュルトーンが何か魔法を使う。
全員の動きが止まる。
『時を止める魔法バグ』
「そうか? 本当に時が止まったのなら、光も止まるから誰の姿も見えないはずだ。
なのに見えているのは変じゃないか?」
「その通り」
猫耳娘が動く。
「ヒュルトーンはあくまで光よりも遅い速度で高速移動しているにすぎない。
脳の処理速度にも限度があるからねぇ。
体を壊さないように、自分と回りの質量も変化させてるし、大した複合魔法よ」
「貴様……! なぜ時止めが効かぬ……?!」
「種の分かってる手品で騙される人がいるかい?
高速処理の魔法と質量変化の魔法は解除させてもらったからね。
それに私にはビオラって立派な名前があるから、次からそう呼ぶんだよ?」
ヒュルトーンの魔法は解除されていた。
ヒュルトーンの剣が避けられ、ビオラの両手剣がヒュルトーンを切り裂く。
「ヒュルトーン?!」
「フォルンよ、私は問題ない。
それより下手に動くな、王族が人質にとられている……」
「そうそう。こっそり魔法詠唱してるそこの3人も詠唱中断しなよ?」
3人の兵士がびくっとする。
「改めて、私はビオラ。魔王ベルセリオの6大幹部の1人。
よろしくね」
ビオラは髪を上げる。
ビオラの額には、肉球マークが付いていた。




