6.大岩の竜討伐
前回までのあらすじ。
クエスト「大岩の竜討伐|(SSSランク)」を受注した。
大岩の竜のいるフォントノの町へ転移魔法で飛んだ。
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『フォントノの町。
風の大陸の南西に位置するその町の付近一帯には、コラーレという珍しい鉱石風が吹き荒れ、周りの土を貴重鉱石へと変化させるバグ』
そこで採取される貴重鉱石は風の大陸のみならず、土、水、火の大陸でも高価な額で取引されるバグ』
「鉱山で栄えた都市ってわけか」
『……栄えていた、と言い変えるべきバグね』
俺は町の、いや、町だったと思われるガレキの山に立ち、あたりを見渡す。
建物一つ残っていない。
人影は見当たらず、魔獣らしき生物が点在し、この町の廃墟っぷりを自覚させられる。
「で、肝心の大岩の竜とやらはどこだ?」
『あそこ、お前の左後ろバグ』
言われた方角へ向く。
すると、俺の200m先くらいに、30mの(ビル9、10階建くらいの?)巨大な黒い岩の塊があった。
岩の塊をよく見れば、頭があり、地面のキラキラしている場所をボリボリと食べていた。
「……おとなしそうに見えるが」
『クエスト受注文の内容と、この町の惨状を見てもそんなことが言えるバグ?』
おそらく、普段は温厚な性格だが、敵対すると気性が荒くなる、といったところか?
「グルルルル……」
あ、こっち向いた。こっち来た。
って、
「速すぎー?!」
3秒足らずで、俺との距離を詰めてきた。
目と鼻の先に大岩の竜。
俺はテレポートと叫ぶ間もなかった。
が、
「転移魔法って、念じるだけでも使えるんだな……」
俺は空中に転移した。とっさに空へ逃げなきゃ! と思っただけなのだが。
もう一度転移し、地上へ降り立つ。
「……グル?」
俺の姿を一瞬見失った竜は、俺に気付くと、その大きな口を開け、
ゴオォォオォオオオ!!!
俺は炎に包まれた。
「ぎゃあぁぁぁ、熱ぅうう……くない?」
大岩の竜の火炎ブレス攻撃。しかし俺は何ともないみたいだ。
俺、炎無効耐性なんて持ってないぞ?
『これが物理衝撃、魔法衝撃の転移バグ。
そして簡易転移魔法による免疫力バグ』
「一人で納得してないで説明しろ!」
『先ほどの火炎ブレスの熱量および風圧は、物理衝撃、魔法衝撃の転移によって、どこかへ転移させられたというわけバグ』
「攻撃を受け流したってことか?」
『まあ、その認識でだいたい合ってるバグ』
「でも俺、転移魔法使おうとはしてなかったぞ?」
『そこで簡易転移魔法による免疫力バグ。
お前の体は、自分が危なくなると勝手に転移魔法で自分を守るみたいバグ』
「なるほど、ってちょっと待て、それって」
つまりそれって、どんな攻撃でも魔法でも受け流すパッシブスキルみたいなものか?!
「それってチートじゃん!」
『だから最初から言ってるバグ。
にしても普通の転移魔法には簡易転移魔法による免疫力なんてモノは存在しないはずバグ。
さすが魔王特製スキルバグ。目の付けどころがクールバグ』
そして、さっきから火炎ブレスを6発ほどくらってるのだが、俺には全くダメージがないっぽい。
火炎ブレスが弱いのではないかと思ったが、足元が吹っ飛んで、ドロドロに溶けているので威力がないわけではないらしい。
「グルルルル……!」
ブレスは効かないと分かったのか、再び俺へ突進してくる大岩。
「好き勝手させるかよ! テレポートっ!」
俺は大岩の竜を地上400mくらいへ転移させた。
そのまま加速度を上げて地上へ落下中だ。
いくらあいつでも、この高さなら地面に衝突したらグチャグチャになるだろう。
「グル……!」
衝突まであと50m、といった所で、ドラゴンは背中から黒い翼を生やした。
「嘘だろあいつ飛べるのかよ?!」
『あの程度の翼では飛ぶことはできないバグ。だが滑空くらいはできそうバグ』
風を味方につけた岩の塊が、俺目がけて高速で飛んでくる。
俺はテレポートで空中に逃げる。
チュドオォオオオオォン!!!
隕石が落ちたかと錯覚させるような巨大クレーターが出来る。
だが、それでも。
「グルルルル……」
「なあ、あいつ全然弱ってないみたいだぞ……」
『里から離れた出来損ないのドラゴンといえど、飲まず食わず寝ずで3ヶ月くらいは暴れられるって話バグよ』
「つまり、このまま持久戦だと俺が不利ってことか……」
地上へ転移で着陸し、息を整える。
肉体的なダメージが入っていないとはいえ、あの巨体に立ち向かうのは、精神的にキツイ。
「どうすれば……」
『あの竜に、転移魔法を使うバグ』
「使ったよ! 見ただろ!
空から重力で叩きつけようとしても、無駄だっただろ!」
『誰が竜の体まるごと天空に転移させろって言ったバグ?』
「は? いったい何を」
何を言ってるんだ、と言いかけて、気付いた。
そうか、そういうことか。だからか。
あの魔王とやらが攻撃魔法をくれなかったのも、そういうことか。
「グルルルル……!」
俺へ再び突進してくる大岩の竜。そいつに向かって。
「食らえ! 100回連続テレポート!」
俺の転移魔法は、巨大な岩の塊を、100個に分解した。
つまり、体の一部のみをテレポート、それを100回繰り返し、バラバラにした、というわけだ。
「どうだ! この野郎!」
『良い線いってるバグが、それで死ぬのは低級魔獣だけバグ。
よく見るバグ』
100個の肉の塊が集まり、ムクムクと膨れ上がり、再び岩の塊へと変化する。
「うっそぉ復活すんの?! ズルいぞ!」
『物理ダメージは多少あったみたいバグが、魔法ダメージ0だったみたいバグ』
「あんなヤツどうやって倒すってんだよ?!」
体をバラバラにしたのに再生するとか、チートだ! チート!
『転移魔法、しかもMP消費なしのチートスキルも、使用者がウ○コならこんなゴミスキルになるんバグね』
「ああ?! だったらどうしろってんだよ?!」
『物を転移させよう、っていう固定観念を捨てるバグ』
「物を転移させるのが固定観念……」
そういえば、さっき炎ブレスから体を守ったのは、体が勝手に熱量や衝撃を転移させたから、なんだよな。
つまり、エネルギーも転移させられる?
「なぁ、あのドラゴンの持ってる、魔力を転移で空にするってのは可能か?」
『魔力のみならず、蓄えてるエネルギー全部空っぽにだってできるバグ』
「そうしたら、さすがに機能停止するよな?」
『燃料が切れた車は走らないバグ』
俺は大岩の竜に向かう。
そして、エネルギーを空中に転移するイメージで、再び竜へ転移魔法を使う。
「テレポート!」
「グルル……?! グル……ル……ル……………………」
竜の目から光が無くなってゆく。
大岩は動きが止まる。そして。
チュドオオオオォォォォオオオオン!!!
空に打ち上げたエネルギーが暴走し、爆発を生じ、
あたり一面を焼きつくす。竜も、町も、何もかも溶かすほどの熱量。
「た~まや~」
『クエストが完了したバグ。カードを見るバグ』
「どれどれ」
俺は転移魔法に守られながら、ギルドカードを眺める。
クエスト「大岩の竜討伐(SSSランク)」を完了した、と表示されていた。
それを見て、もうこの町に用はないのが分かったので、ギルド「マニィ信者の憩いの場」へ転移した。