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その転移魔法、チートですよ?  作者: 気まぐれ屋さん
2章 屋敷の一日~ギルド移転
53/66

53.悪い夢


前回までのあらすじ。

アマンサが襲いかかって来た。

ギルド運営について会議中。


所持金約1億4657万MA(+貯金3億6800万MA)

――――――――――――――――――――――――



・とある憲兵視点



ここは憲兵詰め所、地下。牢屋が並んでいる場所。


俺が牢屋番をしていると、「闇の屍」ギルドマスターのウヨックさんが現れる。


全身タトゥーで顔に傷だらけの男なので、初見の奴はびっくりしてしまうが、この人かなり良い人なのだ。


例えば、ギルド金庫を無料で貸したり、ギルドの利益を教会に寄付したり、犯罪者逮捕に協力してくれたり、等。

かなり手厚い支援を行ってくれている。



「ウヨックさん、いらっしゃいませ」


「やぁ、ごくろうさま。

アマンサに会いたいんだけどいいかな?」



よほどの重罪人でない限り、牢屋の中の人に面会するのは自由だ。


今回の面会も、特に問題はないため通した。

まあ牢屋の檻越しの面会だが。



「ぐすっ……ごめんなさいお姉ちゃん……

……ギルド……守れなかった……」



「マニィ信者の憩いの場」ギルドマスターのアマンサはオレンジ髪の巨乳魔女だ。


ローブを被り、独り言をつぶやいて泣いている。


酒飲みで捕まる奴に、たまにこういうのがいる。

俺は慣れたものだ。


二日酔い対策に、適当な水と塩を振ったパンを与えてやれば、次の日にケロッとして帰ってくれる。



「やぁ」


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


「ウヨックさん。彼女はずっとこんな調子です。

泣き上戸じょうごってやつですかね?」


「ああ君、アマンサと話すから少し黙っててくれないかい?」



言いつつウヨックさんは、俺の手に10万MA金貨2枚を握らせる。

まったく、この人には敵わないぜ。


黙るだけで半月分以上の金が手に入る。

もちろん怪しい動きをしたら応援を呼ばせてもらうが。



「アマンサ、僕だよ。話をしないか?」


「……」


「おーい」


「無駄ですよ。取り調べの時も」


「憲兵君には黙ってと、言ったよね?」



ぞくりとした。ナイフのような冷たい声。

冷や汗が流れる。


怖ぇ。余計なことは言うまい。

黙っているとしよう。



「僕は3度の飯よりも情報が大好きでね。

ギルド「マニィ信者の憩いの場」についても、たくさんの情報を知っているんだよ。

誰よりも、君よりもね」


「嘘だ! お姉ちゃんのギルドを知ってるのは、私だけだー!!」


岡目八目おかめはちもくという言葉を知ってるかい?

当事者よりも第三者の方が、物事を正しく判断できるんだよ」


「お姉ちゃんのギルドを分かっているのは私だけだーー!!!」



アマンサさんが叫んでいるが問題ない。


牢屋同士の防音は魔法によって完全になっている。

罪人同士が結託して脱獄やはかりごとをしないようにするためだ。



「やれやれ。さっきから『お姉ちゃんのギルド』と言っているが、ギルドとは誰のものでもあり、誰のものでもない。

そう、個人の私物では決してないんだよ」


「うるさい、うるさい、うるさい、うるさいーっ!!」


「僕達は弱い。1人の力はちっぽけなものだ。

互いに助け合い、互いに競い合い、互いに笑い合い……支え合って生きている」


「……」


「だからギルドが生まれた。だから結婚なんて制度がある。

だから村、町、国なんて共同体が出来た。

僕達は独りでは生きていけないんだよ」



ウヨックさん、すげぇ臭いセリフだ!

マフィアのボスみたいな顔して言うセリフじゃねぇ!


なんて言ったら殺されるから言わないけどな!


殺されるってのは社会的にだよ!

この人ならそのくらいしてくるよ!



「だからアマンサ。1人で苦しまないで欲しい。

僕を頼って欲しい。佐倉遊角を頼って欲しい。

君はもっと誰かに甘やかされるべきだ」


「私は……苦しんでたの……?」


「自覚がなかったのかい? それは重症だな」


「……本当は……本当は分かってた……お姉ちゃん達はもう、帰ってこないんだって……」


「うん」


「でも、これは悪い夢なんだって……風邪のせいで、悪夢にうなされているだけなんだって……。

……そう自分に言い聞かせていたんだよ……」


「そっか」



泣きながら話すアマンサさんに、ウヨックさんは、ひたすら相槌あいづちをうっている。



「佐倉遊角が大岩の竜を倒したって……。

それを聞いて……どう接したらいいのか分からなかった……」


「どう接したらいい、というのは?」


「感謝すれば……お姉ちゃんが死んだことを認めるみたいで……怖かった……」


「なるほど」


「それで、今日ギルドに行ったら……私の知らない場所のような気がして……」


「それで不安が爆発して襲ってしまった、ってところかな?」


「うん」




む? 俺達がアマンサさんを捕えたのは、飲酒による暴動をしたと聞いたからだ。


罪状のねつ造?


なんて考えていると、ウヨックさんが「分かっているね?」とでも言いたげにちらりとこちらを見る。

はいはい、誰にも言いませんって。


賄賂を貰うような人間である俺はもちろん、今の話をチクるほど潔癖ではない。


それに、そんなことすればウヨックさんに恨まれるだろうしな!



「迷惑かけてごめんなさい……」


「いいんだ。迷惑なんて誰だってかけるものだよ。

ま、君が謝るべき人間は僕ではないことは確かだ」


「遊角達に、ちゃんと謝るよー……」


「うん。それがいい」


「……ありがとう」



いつの間にかアマンサさんは泣きやみ、ウヨックさんと世間話するようになった。


アマンサさんは大岩の竜の被害者の遺族だったらしい。


彼女の心の傷は、簡単には塞がれないだろう。


だが、時の流れが新たな出会いをもたらしてくれる。

大切な人を失って心に空いた穴は、別の大切な人が現れることで、少しずつ埋められてゆく。


ウヨックさんとアマンサさんの様子を見る限り、彼女の悪い夢はもうすぐめそうだ。


俺はそう思った。




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