52.ブレインストーミング
前回までのあらすじ。
特になし。
所持金約1億4657万MA(+貯金3億6800万MA)
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ギルドの広間にハーレムメンバーを集め、ギルドの追加報酬を始めとする運営などを考える会議、通称ギルド運営会議をしていると、
「勝手にお姉ちゃんのギルドを改造するなー」
オレンジ髪の巨乳魔女、ギルド「マニィ信者の憩いの場」ギルドマスターのアマンサが、やる気のなさそうな声で乱入してきた。
「ああギルドマスターか。
お前ら紹介するよ、この人はアマン……」
ズバババババ!
見えない風の刃が俺達に襲いかかってきたらしい。
らしいと言ったのは、俺達のいたテーブルがズタズタに切り裂かれていたことと、エルフ3人とローライレが魔法を放ち、それが見えない刃に対抗していたからだ。
「遊角、鎖!」
「え? え?」
「あの女を捕えるですよ! 早く!」
アマンサの風の攻撃は止まらない。
エルフ3人が魔法で抵抗する。
俺はとっさのことで思考が追いつかないでいた。
その間に、
「つーかまえたっ♪」
サーヴィアの透明な根がアマンサを捕えていた。
「さーちゃん?! ソイツ危ないよ?!」
「魔力は空にしたから大丈夫だよシル♪」
「魔女は魔力なしで風を操ることが出来るですよ。
体力もなるべく奪うですよ」
「おっけーだよグノ♪」
アマンサの体が干からびてゆく。
っと、ボーッとしてる場合じゃない。
「テレポート」
アマンサを魔法使用不可の鎖で縛る。
ついでにテーブルを修復する。
魔法再現を使わない修復くらいなら、今の俺でも出来る。
サーヴィアはアマンサを根から解放した。
「アンチリジェネ! ……これで魔力体力の自然回復はしばらく無効よ」
「にしても、急に襲ってくるとは、どういうことだ?」
「急に襲われるエルフ3人……閃きましたわ!」
イフリアは無視して、バグログの方へ向く。
『さすがの俺様でも、他人の考えなんて分からないバグよ』
「そうか。そういえばイフリアのスキルに【思考読解】ってのがあったな。
あれ使ってもらえないか?」
「あれは禁忌スキルですわ。
使用者が自分を見失って廃人になる恐ろしいスキルですので、使用禁止されていますわ」
「む、そうなのか。ならどうする?」
「突然私達を襲ってきたから、憲兵に突き出せばいいですよ。
事前の画像情報はギルドカードにしっかり保存しておいたですよ」
「……ギルドカードって色々便利機能あるんだな」
ギルド員であるのに、ギルドカードの使い方すら知らない。
説明係の受付嬢がいなかった弊害だ。
「やっぱこのギルドは色々と足りないな」
「お姉ちゃんのギルドを悪く言うなー!」
アマンサが抗議したが、別に悪口を言ったつもりはない。
あるべきものがあるべき場所に無いのだ。
台所に包丁がないようなものだ。
それでは困るというだけだ。
「その女は冷静さを失っているですよ。
憲兵に送りこんで頭を冷やさせるですよ」
「うーん、素直に突き出せば殺人未遂だろ?
それってかなり重罪じゃ?」
「自業自得ですよ」
「よし、罪状をでっちあげるか。テレポート」
アマンサの体にアルコールを適量流し込む。
「というわけで、酔った勢いで暴れたアマンサを憲兵に突き出してくる。
何人か目撃者役をよろしく頼む」
「ライレもついて行くのじゃ」
グノーム「任せるですよ」
「さーちゃんの面倒は私が見るわよ!」
「任せた。くれぐれもあの二人には注意してくれ。
変なこと教えられないように」
イフリアとマニィを指差す。
「分かったわ。さーちゃんは守るわよ」
「酷いですわ! 人を有害図書みたいに!」
「まったくです。ちょっと株とマネーロンダリングを教えるだけじゃないですか」
「お前らな……すぐに帰ってくる」
俺含む3人はアマンサを連れて転移で憲兵詰め所に飛び、アマンサを突き出した。
アマンサが色々言ったが、グノームがギルドカードで録画した情報や、アルコール検査、目撃情報などにより飲酒による狂乱ということにされた。
1日詰め所の牢屋で反省すれば帰してもらえるらしい。
よかった。
◇ ◇ ◇ ◇
俺達が帰ると、受付嬢2人が書類整理から解放されていた。
「つ、疲れたっス……」
「ふふ、我が漆黒の……翼を以てすれば、この通り……何の造作もない……こと……よ……」
黒髪マッスルのお姉さんのナージャと、白髪黒羽少女ルシフェルは広間のソファーでぐったりしている。
聞くと4年分の書類整理を数日で済ませたとか。
……すげぇ、というか優秀すぎるだろ。
マニィには二人に臨時手当を頼んでおくか。
「お帰りパパ~♪」
カボチャ大のサーヴィアが抱きついてくる。
そのまま抱っこに移行する。
ああ、癒されるわー。
「で? どうだったの?」
「アマンサとかいう女は、1日憲兵詰め所の牢屋で過ごすみたいですよ」
「どうして暴れ出したのか分かったの?」
「そこはだんまりですよ。どうせ利己的な理由に違いないですよ」
「まあこのギルドがお姉ちゃんの物、とかいう寝言を言ってたくらいだし、大した理由じゃなさそうだけど」
アマンサが襲いかかって来た理由は結局わからずじまいだ。
大体予想はつくが。
「そんなことより、会議続行です。ほら、そこで伸びてる受付嬢も参加してください」
「鬼だ! 悪魔がここにいる!」
疲労で倒れている彼女たちだったが、雇い主マニィの命令には逆らえない。
起き上がり、ふらふらと、俺達いるのテーブルに着く。
「……疲労がとれる薬を2つ。テレポート」
ポーションビンが2つ現れる。2人に渡す。
2人が飲む。顔につやが戻って来た。
「というわけで、全員に紙を渡しましょう」
「紙?」
俺達はマニィから、A4サイズの紙を4等分した大きさの紙をたくさん渡される。
「議題は、このギルドが独り立ちするのに必要なもの、欲しいものです。
現在のギルドは、追加報酬以前の問題ですから。
各人は紙に1枚につき1つ書いてください。
くだらないもの、途方もないもの、その他なんでも書いて結構です」
「ブレインストーミングか」
ブレインストーミングとは、海外で発案された会議方式の1つだ。
まずアイデアを大量に出す。
それらをカテゴリ別に整理する。
出たアイデアについて検討する。
ただし否定的意見でなく建設的意見を出す。
俺の知っているのはこんな感じだ。
「ブレインストーミング……なるほど!
敵の脳内に嵐を起こし、殺戮する魔法ね!」
「物騒な必殺技の名前じゃないぞ」
俺の知ってることを話した。
「なるほど。それはとても理にかなった方法ですよ。
最初に思いついた人は天才ですよ」
「……この世界って、ちょくちょく
異世界人が来てるんだよな?」
彼らはこの方法を教えてあげなかったのか?
紙が貴重品だから無理だったのか?
『異世界から来た奴らは、たいてい脳筋で早死するか、
魅了魔法で操られて使いつぶされるかの二択だぞバグ』
「酷い末路だな?!」
俺や「異世界から来た人へ」の著者みたいなのは少数派か。
嫌な現実を知ってしまった。
「さて、方法は遊角さんの説明通りです。
5分後に書いた紙を提示してください。何枚でも結構です。
多いほど良いです。奇抜なものの方が楽しいです」
よーし、書くぞ。
文字が書けない奴はこの中にいないらしく、皆が集中して紙に書いていた。




