43.お買い物
前回までのあらすじ。
転移魔法の実験を浴場で行った。
所持金約5億7650万MA(+貯金6800万MA)
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翌朝。異世界に来て8日目。
王様が報酬をくれるまで、あと9日。
例の施設完成まで、あと998日。
手持ちの金が多すぎる。
落としたら大変なので貯金しにクラムの町へ行こうと思う。
朝食のスライムサンドを食べたことだし、出かけるか。
「町に行くんだが、ついてくる奴はいるか?」
「農具を買いに行くですよ」
「クエストをしに行きますわ」
「遊角について行くのじゃ!」
「私パス。訓練所で体鍛えるわ」
シルフィーン以外は町に用事があるらしい。
「よし。じゃあ出発だ。テレポート」
グノーム、イフリア、ローライレの3人とともに、クラムの町の広場へ転移した。
「昼食はパンを作ってみたですよ」
「おう、ありがと」
俺達はグノームから、昼飯用のパンを受け取る。
「用事が済んだら、各自屋敷へ帰ること。いいな?」
町から屋敷までそう遠くないので、そのくらい自分で歩けるだろう。
全員了承し、俺たちは解散した。
◇ ◇ ◇ ◇
活気あふれる大広間。
冒険者の騒々しい声。
ここはギルド「勇者の集い」だ。
俺は受付の黒髪おかっぱお姉ちゃんに要件を切りだす。
「お金を預けたいんだが」
「はい。ギルドカード拝見します。
……少々お待ち下さい。サブギルドマスターを呼んできます」
「サブギルドマスター?」
「はい。本来ならギルドマスターが相手するはずですが、あいにく王都へ旅立っているのです」
「王都まで用事か。大変だなギルドマスターは」
「何でも、大岩の竜討伐の報酬授与式だそうですよ」
受付嬢と無駄話していると、サブギルドマスターの老人が現れる。
「久しぶりじゃの」
ああ、以前俺を強襲してきたじいさんか。
確か名前はクロードとか言ってたか。
「竜を討つ者たち」のギルドマスターシロガネがひげを伸ばし肉がなく皮っぽい体つきの見た目なのに対し、こちらは筋肉隆々。
歴戦の戦士が老化したらこうなるだろうなという見た目だ。
「情報によると、ウヨックの所で金品を預けているらしいのう。
なぜこのギルドにも預けようとする?」
「俺の個人情報筒抜けかよ。
いや、アイツはどうも信用できないからな」
「そうか。では金庫利用費1000万MAをいただこうかの」
「え、マジ? 預けるのに金とるの? ってか高くね?」
ド「警備費や管理費を考えると、安すぎるくらいに思うがの。
むしろタダで金庫を貸しているウヨックが異常なだけじゃよ。
普通のギルドならこれくらいの利用料をとるはずじゃな」
うーん、金取られるのか。というか「闇の屍」のサービスが良すぎるのか。
アマンサがお勧めしただけのことはあるってことか。
仕方ない、手持ちの金が減るのは嫌だから「闇の屍」に預けるか。
◇ ◇ ◇ ◇
「闇の屍」ギルドは相変わらずバーのような雰囲気だ。
掲示板をちらっと見たが、暗殺やスパイといった活動が多い。
しかし普通の依頼も少々ある。
ギルドによって傾向があるってことか。
俺の所属する「マニィ信者の憩いの場」に傾向があるのかは知らないが。
サイドテールの受付嬢は俺のことを覚えていたので、特に滞りなく3億MAほど貯金することにした。
「では、貯金は合わせて3億6800万MAですね」
「……ん? 以前に預けてたのは1800万MAだったはずだが?」
「そうですか?」
何故か知らないが5000MAほど増えているぞ。
利子で増えたにしては多すぎる。
受付嬢の話では、匿名の誰かが俺の借りた金庫へお金を入れるよう頼んだらしい。
意味が分からない。
俺のファンが投資してくれたってことだろうか。
何とも不気味な話だが。
ま、いいか。
「ご利用ありがとうございました。
税金は年末に自動で払われるので安心してください」
自動引き落としみたいな機能が金庫にあるらしい。
とりあえず用事も済んだことだし。
「ローライレ、今から王都の図書館へ行こうぜ」
とがった犬歯が見られると魔獣扱いされるからとさっきから口を開かず黙っていた吸血鬼の彼女に話しかける。
「了解じゃ」
「王都へテレポート」
転移魔法で王都へ転移する。
ちょうど試したいことがあったしな。
◇ ◇ ◇ ◇
吹雪に囲まれた王都ザドナイエール。
今日も結界が都市を守っている。
何度も訪れた王都。いつも賑わっているが、今日は何やら慌ただしい様子だ。
「ほらそこの少年! ボーッとしてんじゃないよ!
邪魔邪魔!」
「おっと、すみません」
店のおばさんに邪魔者扱いされ、俺は居た場所からどいた。
店員のおばさんは外に商品棚を運び、商品が道から見えるように並べ始める。
「何見てんだい!」
「いや、何でもないです」
「こらこら。子どもに八つ当たりするんじゃないよ」
人の良さそうなおじさんが店から出てきて、おばさんをなだめる。
「もうすぐ大岩の竜討伐の報酬授与式だからね。
王都の商人はみんなこんな感じだよ。
稼ぎ時ってやつさ」
「どこも忙しそうだな。そんなに人が来るのか」
「そりゃ、全国から有名な冒険者ギルドや有力貴族、今回に至っては他所の大陸からも偉い人が来るからね」
「なるほど。そいつらにPRする絶好の機会ってわけだ」
「そういうことだよ」
「ちょっとアンタ! 無駄口叩いてないで手伝いな!」
「分かってるよ。
(ぼそっと)昔はおしとやかなベッピンだったんだけどなぁ」
おじさんが愚痴りながら商品を並べる。
「ところで、その並べてる商品は何だ?」
「ん? うちは使役魔獣屋だよ」
おじさんがちいさな丸い卵っぽいのがたくさん入った箱を並べながら言う。
てっきり卵まんじゅうか何かだと思ったが、どうやら本物の魔獣の卵らしい。
「魔獣の卵なのか? 危なくないか?」
「おや? 君は田舎から来たのかな?
使役魔獣の卵はね、専用の魔道具を使わないと孵化させられないんだよ。
勝手に孵化しないように改造されているから安心だよ」
「少年! 客じゃないならとっとと帰りな!
邪魔邪魔!」
「まあまあ。ひょっとすると田舎貴族のご子息かもしれないじゃないか。
いや失礼、君はどちらから?」
「クラムの町の近くに住んでるぞ」
「クラムの町……確か「勇者の集い」ギルドがある場所だね。
ひょっとしてそこのギルド員かな?」
「いや、「マニィ信者の憩いの場」ってギルドだ」
「んー、悪いけど知らないなぁ」
「冷やかしなら他所へ行けってんだい! 邪魔邪魔!」
使役魔獣についてもう少し詳しく聞いてみたいんだが、どうやら商売の邪魔になっているらしい。
「ローライレ。先に図書館へ行っててくれ。ちょっと長くなる」
「了解じゃ」
ローライレに13万MA渡す。
現在所持金は約2億7637万MAほど。
その様子を見た店のおじさんが、目を開く。
「へぇ、君は見た目より金持ちなんだね」
「まあな」
「うちの商品に興味があるなら、お客様として歓迎するがね」
「詳しく聞かせてくれよ」
「こっちだよ」
おじさんは店の中へ入る。
俺もついて行く。
不思議な魔道具がたくさん置いてある。
大小の卵もたくさん置いてある。
「これがランクB使役の杖だ。
ランクBの魔獣の卵に、この杖を振りかざすと、魔獣は杖の使用者の言いなりになる」
蒼く怪しく光る杖を見せる。
へぇ、なかなか面白い効果の杖だ。
「もちろん杖は使い切りだ。
3、4回も使うと壊れる」
「ほうほう。それでいくらだ?」
「3000万MAだね」
「高!」
使い捨て商品のくせに、家並みの値段がするのかよ。
「外に飾ってある卵は、Dランク使役魔獣の卵だよ。
これを孵化させる杖は100万MAで、100回ほど使える」
「ほうほう。で、使役魔獣って?」
「卵の頃に魔術をかけ、人間に使役するように改造された魔獣のことだよ」
人間に都合の良いように改造された魔獣。
イメージとしては、遺伝子組み換え動物みたいなものか。
「昔は戦争の道具として重宝されたんだけど、大岩の竜のせいで風の大陸はそれどころじゃなかったからね。
今は魔獣の馬目当ての人と、一部の物好き貴族くらいしか買ってくれないんだよ、ははは」
「笑いごとじゃねーだろ」
魔獣はてっきりペットみたいに使われるのかと思っていたが、どうやら戦争兵器としても使うらしい。
さすがは異世界。
「で、君は何がお望みかな?
これでも品ぞろえには自信があるんだ。たいていの魔獣の卵ならあるよ」
「マジで?! じゃあメスのハーピィとワ―キャットとマーメイドとアルラウネと……」
「……魔獣ハーレムでも作るつもりかい?」
「おう!」
せっかく異世界に来たってのに、それをしないなんてとんでもない!
おじさんが若干引いている気がするが、旅の恥はかき捨てって言うし、気にするだけ損ってもんだ。
「うーむ、卵の段階でオスメスが分かるのは、アルラウネくらいだね。
確か1つだけあったはずだ」
「じゃ、それ1つと対応する杖ください」
「待った、アルラウネはランクAの魔獣だ。
Aランク孵化用の杖は8000万MAで1回しか使用できない。
アルラウネの卵も貴重種で4000万MAは下らない。
……そんなに払えるの?」
「了解、1億2000万MAだな」
貯金したから手持ちは減っているが、それでも2億MA以上持ってる。
「え? 買うの?」
「おう」
「支払い方法は?」
「ちょっと待ってろ。1億2000万MA出てこいっ」
皮袋に唱えると、10万MA金貨が1200枚現れ、カウンター机に積み重なる。
これで所持金は約1億5637万MAになった。
「おおお! これは大変だ!
おい、外に商品並べてる場合じゃないぞ!」
「あ? 何言ってんだい……って金貨の山?!」
おばさんが店に入って、驚く。
「アルラウネの卵をご所望だそうだ。俺は地下倉庫から
取り出してくるから、お客様の対応を頼む」
「はー、まさかこんな少年がねぇ」
おじさんは1分もかからずに卵を持って来てくれた。
その間におばさんはせっせと金貨を回収していた。
「ほら、これだ。大切にしてくれよ」
茶色の卵と赤黒く光る杖を渡される。
「これってどうやって使うんだ? 杖で卵を叩けばいいのか?」
「いや、そんなことしたら卵が割れて中の子が死ぬから。
杖を振って『孵化』と唱えるだけだよ」
「よーし、俺好みの女の子に育てるぞー」
幼女を育てハーレムメンバーにする。
気分はまるで光源氏だ。
『(遊角が異世界でだんだんと歪んでいくバグ……)』
「ありがとうございました!」
「邪魔者扱いして悪かったねぇ! また寄ってくれよ!」
おじさんとおばさんに見送られ、俺は店を後にした。
いやー、良い買い物をした。
異世界に来て、一番値打ちのある買い物じゃなかろうか。
俺は卵と杖を皮袋にしまいこみ、図書館へ行くことにした。




